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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
12/70

1-8 人殺しの魔術

よろしくお願いします

 魔術の授業を行うのは、校舎の3階部分のほとんどをくり抜いて作った訓練室である。


 壁、床、天井、室内の備品にまで全てに念入りに魔術に対する防護を施し、かつ毎週かけ直しているため、生半可な威力では部屋が壊れることも無い。


 その部屋に備え付けられているベンチで、フェルは煙草を吸っていた。


 ここ数年殺伐とした仕事しかしてこなかった自分が、平和な学院で子供相手に魔術を教える。


 つい先月本気の魔術師同士の殺し合いをしたばかりの自分がすることなのかと、今日学生に授業をするまでは思っていた。


 自分で言うのもなんだが魔術師としてはかなり優秀であり、シャルル卿自慢の弟子である自負もある。


 まだ子供な学生から見れば、自分は人を殺す魔術師ではなく、子供に夢、目標を与えることができる魔術師なのだと、学生からの羨望の眼差しで実感していた。


 ただ、自分がこの仕事をしているのはあくまで学院内の6賢人親族の護衛のため。


 特に、前回一通り先代が殺された際に、唯一現場で生き残ったアラン、シャルル卿は現状狙われているのは彼だけだろうとしている。


 先代達が殺された事件、あれとは関係なく、魔眼の移植は困難ではあるが可能であるために、アランの持つ目を欲しての事件だった。だから先代達だけが殺されていく中で何故かクルール夫妻が殺されたのは、両親がアランを守ったから。シャルル卿はそう考えているということをフェルにだけ伝えていた。


 現状犯人の姿を見ているのはアランを間一髪で助けたシャルル卿と、直接戦ったフェルだけ。その姿も影でシルエットしか分からない。


 フェルからすれば初手は受け身になることしかできない不利すぎる状況での護衛である。学生と触れ合うことで勘が鈍るのを避けるために、殺し合いをした後に必ず吸っていた煙草を、普段から吸うように変えたのである。


「ちなみに、子供に悪影響を及ぼす可能性と蔵書が燃える可能性を考慮して食堂か教員控室の特定の場所でしか喫煙は許可されてないんですが、ご存知ですよね、フェル先生?」


 深く考え事をしながら今日5本目の煙草に火をつけようとしていたフェルは、聞きなれた声にため息をついた。


「別にこの部屋はどこも燃えないし、まだ子供も入ってきてないんだからいいだろう、サミー先生」


「もう鐘はなっています。それと学生達は扉の前で待機させてます。部屋の説明はあなたにしてもらおうと思って」


「ああそうかい、わかったよ。すぐ行くよ」


 フェルは、取り出した煙草を惜しむように収め、ベンチに置いていた吸殻入れを胸ポケットにしまい立ち上がった。


 フェルとサミーは同期である。お互い方向性は違うが有名な問題児であったがために、仲は悪くなかった。


「あなたが講師として来るって聞いて、自分の目と耳を疑ったわ。よく来ようと思えたわねって。まあ、推薦枠の欄を見てある程度は察したけど」


「それくらいの仕事でないと、こんな肩身が狭いとこなんか来ようとも思わないよ」


「ハッハッハ、学生達はみんな大喜びみたいだけどね」


 アランたち1年生は扉の前で待機していた。中の先生に部屋の説明をしてもらうと言ってサミーが部屋に入ってから数分、各々がグループで話をしたりしている中で、アランは少し不機嫌なリンをなだめていた。


 すると扉が開き、サミーとフェルが出てきた。


「はい注目ー。さあみんな、あの、フェル・デュラン先生よ。お話を聞きましょうね」


「えーと、知ってる人の方が多いと思うので簡潔に。フェル・デュランです。位階は師司マスター。属性適性は火と天。1年生の皆さんには、魔術の基礎と近接格闘術の指導をします。よろしくお願いします」


「はい、ありがとうございます。それじゃあ今から部屋に入って行くのでフェル先生について行ってください」


 1年生全員がフェルの後ろについて部屋に入っていった。皆その部屋の広さに驚いていたがフェルの声で我に返った。


「まず、全員が部屋に入ったら扉が確実にしまっているかを確認すること。まずないとは思うが廊下に魔術が出てしまうと大事故になってしまうかもしれないからね」


 話しながら部屋の真ん中辺りまで歩いて行くとフェルは立ち止まり振り返って話し始めた。


「これから更衣室に案内します。女子はサミー先生、お願いします」


「分かりました」


 大部屋の両サイドの真ん中辺りに扉があり、そこが更衣室になっている。


 ロッカーが生徒の数だけ用意され、中には壁等と同様の防護が施されている、訓練服が入っている。見た目は装飾の一切ない制服のよう、で男女問わず長袖長ズボンである。


 最初のサイズはかなり大きめなのだが、着ると体格に合わせて自動で調整されるという、魔術の粋を極めた1品である。


「そのロッカーの中身は常に清潔に保たれるように設計されている。制服も入れておけば綺麗になるからな。さっさと着替えてさっきの場所に集合だ」


 皆着替え終わり、中央に集合し直した。何故かサミーも着替えている。男子学生が皆、頭に?を浮かべていると、


「早速だが、基礎の修練を始める前に、魔術の危険性についての授業をする。法で禁じられている魔術ではなく、皆が使える魔術の危険性についてだ。

 そもそも魔術は、人を殺す度に進化してきたと言われている。座学でもそのうち習うと思うが、先に頭に入れておけ」


 一部の学生はそんなこと初めて聞いたとばかりに目を見開いていた。


「これは事実だ。こんな人を殺すのに適したものはないだろうってぐらいにはな」


 フェルは腕を前にだし、手のひらを上に向けそこに炎の玉を出し、すぐに消した。


「そりゃあ、生活をよりよくするために魔術を発展させていった一族もいる。今人を殺す度になんてって顔をしたやつらはそういう一族なんだろう。間違ってはないよ」


 フェルはただしと付け加えながら


「私が教えるのは人を殺すことができる魔術だ。基礎からそういう風に教えていく。願わくば、君達が人殺しにならないようにね」


 そう言うと、フェルとサミーが部屋の奥に向けて歩いて行った。


「少しばかり、サミー先生と魔術の撃ち合いをするからそこで見ておきなさい」


 それは唐突に始まった。サミーがフェルに向けて弓を射るかのような姿勢をとるとそこには水でできた半透明な弓矢が。


 対するフェルは、一切構えていない。


 そこに水の矢が飛んできた、アラン達には視認できない速度で。


 アラン達が見えたのは、矢を放った体勢のサミーと、途端に上がった蒸気、それに包まれたフェルだけであった。


 蒸気の中、フェルのいるであろう場所から炎でできた巨大な右腕が伸びてきた。それは真っ直ぐにサミーへと向かっていく。


 サミーはそれに対して弓を向け、先程よりも力を込め矢を放ち、それはぶつかりあった。


 アラン達のいる場所までかなりの温度の蒸気が飛んできていたが、すぐ手前で壁があるかのように上に上っていった。


「ただ学生に見せるだけの撃ち合いなのに固有魔術オリジナルを使うバカがいるか!死ぬかと思ったわ!」


「これくらいの出力なら止められるだろうと思ってのことだよサミー先生」


「私が風で蒸気を上に逃がしてなかったら学生達やけどしてましたからね?」


「ほら、やってくれるって信じてたから」


 蒸気が薄まり、フェルとサミーが言い合いをしながらこちらに向けて歩いて来ていた。


「さて諸君、魔術の危険性を理解して貰えただろうか。私に準ずる実力を持つ魔術師はそこそこいる。サミー先生もその1人だな。

 こうして人を簡単に殺しうる威力を持っていることをしっかり認識した上で授業を受けてもらう」


 アラン達の目の前で起きたことは時間にすれば1分にも満たない、たった2回の魔術のやり取りであったが、魔術に対する印象を変えるのには十分であった。

ありがとうございました

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