完璧魔法使いが育ちました
魔女の森。
二階建てのログハウスには、1人の魔女と1人の青年が住んでいる。
「えーっと、食物の成長を早めるには、時間魔法と魔力集約を同時に──」
テーブルの上に描かれた魔法陣の中央には、真っ赤なりんごが1つだけ置かれている。
本を見ながら、右手をりんごに向けて翳したアリアハイネは、背後に人の温かさを感じて作業を途中でやめた。
「ちょっと、今忙しいのよ」
彼女を後ろから抱き込むようにした長身の青年は、5年前に森で拾ったラヴァルだ。
18歳に成長した彼は、アリアハイネよりも頭一つ分以上背が高くなり、伸びた銀髪を後ろで一つに結んでいる姿はどこの王子様かと思うほど麗しい。
彼はアリアハイネの右手にそっと自分の手を重ね、りんごに自分の魔力を注入する。その瞬間、林檎が人の頭ほどの大きさに膨らみ、元の5倍ほどの量になって成長を止めた。
「師匠はこういうの苦手でしょう?俺が全部やってあげるから、ゆっくりしていてくださいよ」
この5年間、アリアハイネは彼にすべてを教え込んだ。
元々才能があったとはいえ、その成長は著しく、今では攻撃魔法も生産魔法も、防御魔法もとっくにアリアハイネを超えている。
「ゆっくりって、おばあちゃんじゃないんだから」
ラヴァルは背格好が青年らしくなってきた頃から、アリアハイネに対して過保護になってきた。
でも、師匠と弟子という関係は続いている。
アリアハイネはラヴァルの過保護を受け入れながらも、あくまで自分は師匠なのだから立派であろうとした。「小動物かお年寄りかという扱いを受けるのは嫌だ」と、過保護が発動するたびに思う。
「あのねぇ、苦手だから練習するのよ。人生長いんだから」
後ろからぎゅうっと抱き締められ、まるで親に懐く子どもねと思いながらアリアハイネは苦笑いする。
「人生長いって言っても、不死じゃないでしょう?実験に失敗して死んだらどうするの」
「どうするって、それは土に還るだけよ」
「やだ。そんなの俺が許さない。何もしないで、ずっと長生きして?」
「ラヴァル、だから私をおばあちゃんみたく扱わないで」
幼子に諭すようにそう言うアリアハイネに対し、ラヴァルは不満げな顔で呟いた。
「…………師匠は本当にかわいいよね」
「なんで怒ってるのよ。お腹空いたの?ってゆーか、ちょっと離してくれない?」
「やだ」
「やだ!?」
弟子の反抗期だろうか。
アリアハイネは、困った顔を浮かべていた。