魔女の森で少年を拾いました
この世界には、数百万人に一人の割合で「魔力」を持つ者が現れる。
彼らはうまく人に溶け込んで暮らしている者もいれば、迫害から逃れるために鬱蒼とした森や渓谷に身を隠すことも多い。
魔女の森で暮らしをしているアリアハイネも、身を隠しながら暮らす者の一人である。
「今日は焼き栗にしようっと。もう食べごろかしら?」
小鳥やキツネに話しかけると、まるで彼らは言葉がわかるように栗の実る場所まで案内してくれる。師匠がこの地を離れて以来ずっと一人暮らしだが、完全に一人かというとそうでもないとアリアハイネは思っていた。
ところがこの日、栗を拾うつもりが予想外のものを拾ってしまうことになる。
「人間……?」
ふかふかの落ち葉がクッション代わりになったのだろう、どう見ても瀕死状態の少年がかろうじて息をしていた。
この森には魔女討伐に来る愚か者を排除すべく、結界が張り巡らされている。
少年は、それに引っかかってこんな状態になったのだとアリアハイネはすぐに気づいた。
「こんな子どもがどうして」
偶然、紛れ込んでしまって結界に当たったのかと最初は思ったが、胸当てや剣を装備しているところを見るとそうではないらしい。
「またなの?懲りないわねぇ」
近隣にある某国が、魔女討伐に躍起になっていることは知っていた。
しかし、こんなに華奢な少年を討伐隊に駆り出すくらい必死なのかと彼女は呆れてしまった。
アリアハイネは、この森でひっそり暮らしているだけで、彼らが憂うようなことは何一つしていない。正確に言うと、技術的にできないからだ。
魔女と一括りに言ってもその性質は様々で、アリアハイネは攻撃魔法を一切使えない。魅了魔法も、洗脳魔法も、人を害する魔法が使えない彼女にとって、国を亡ぼすことはできないのだ。
ちょっとよく効く薬を作れて、傷が塞がる回復魔法が使えて、身を守るために防御魔法を展開できるだけ。
この森にある結界も、師匠が構築したものでアリアハイネの術ではない。
いわれなき差別を回避するため、ここでひっそりと暮らしているだけであった。
「どうしよう。さすがに見殺しにするのは気が引ける……」
仕方なく、彼のそばに膝をついて回復魔法をかける。
彼女にとってその行動は、怪我をしたキツネやウサギを助けるくらいの慈善であった。人間だから助けなければ、なんていう発想は彼女にはない。
「さ、風邪を引く前に連れて帰らなきゃ」
栗はまた明日取りにこよう。
仰向けになって倒れている少年の両足を雑に持ち上げ、ズルズルと引きずって家まで戻った。