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恋仮想  作者: 小春 佳代
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5.追求

 ダメ元で学生課で聞いてみたら?


 莉子(りこ)にそう言われたことがあった。


 でも、ダメなの。


『出会い』ぐらいは。


 運命を感じてみたかったから。






「うわっ」


 午後の講義と講義の一コマ分の空き時間、私はいつものように莉子と学内のメイン通りを歩いていた。


 真正面には、眼鏡の中の目を丸くしたあの慣れ慣れしい先輩の姿が。


「いちいちうるさいんですよ、ちょっと偶然会っただけで」

「いや、だって、髪とか服とかめちゃくちゃ変わって……」


 眼鏡先輩が思わず指差している先には、無理して女子大生を気取ることをやめた私がいた。

 ワンカールヘアからショートヘアに、花柄のワンピースから白シャツにジーンズという装い。

 でも少しだけ自分にプラスアルファしたままでいたかったから、髪色はモカブラウンを維持していた。

 そして、こだわりの復刻版のスニーカー。


「思い直したんです、いろいろ」

「うん、そっちの方が……、ってそういえばアレだ!アレ!アレはどうなった?!」

「アレって何です?!」


 私と眼鏡先輩がギャーギャー言い合ってるところに、莉子がサラリと。


「『(つい)Q』が何を目指しているかっていう、先輩が去り際に発した呪いでしょ?」


 はたとなり、口を動かすことを止めた私たち。


「知らないよ、どうでもいいよ」

「なんだと?!こんなによく会うのに少しも気にならないのか?!」

「ほんと!なんで眼鏡ばっかりとよく会うんでしょーか!どうせクイズ研究会かなんかでしょ!」

「眼鏡って何だ!しかも、違うぞ!我ら『追Q』は偉大なる……」

「って、あー!!!!!」


 信じられない気持ちだった。


「そ、その和菓子の袋……」


 眼鏡先輩が片手に持つ、何の変哲もない白い和菓子屋の紙袋。


「ん……?これか?一年生が実家から届いたからとかで」


 私の出身県にある個人経営店。


「一年生……、今年入った……?『追Q』の……?」


 離れた県外で、しかも何学部も集まるこんなに巨大な学内でそれを目にする奇跡。


「そうだけど」


 28歳の私が、現実世界であの人に本を貸したことがあった。


 その時にね、あの人は代わりにこの紙袋を差し出してこう言ったんだよ。


『俺が一番大好きな、近所の和菓子屋』って。


 ごくりと唾を飲み込んだ。


「『追Q』は何を目指しているんですか?」


 眼鏡先輩は、変化した空気に戸惑いながら。


「偉大な自然との融合……」


 自然。


 私は新歓当時、あの人が見つからないことへの焦りと眼鏡先輩のウザさに、クラブ&サークル冊子の『追Q』のページをろくに見ることもせず破り、ぐちゃぐちゃにして捨てたことを思い出した。


「今すぐに見学させてくださいっ!」


 違うかもしれない。


「い、いいけど、何その変わりよう」


 まだ喜んではいけない。


「とにかく早くっ!早く部室に連れて行ってください!」


 居ても立ってもいられず、眼鏡先輩の背中を押しかけていた。


「何、何、莉子も行く〜!」

「分かった、分かった、こっちだから」


 神さま、どうか。


「莉子もサークル決めてないんですよ〜!」

「お、お友達くんよ、自然とは無縁っぽいけど、融合する気ある?!」


 こちらから見つけられないなら、向こうから私に目が止まることはないだろうか、とも考え始めていたところだった。


「そもそも融合って何なんですか〜?」

「いや、だから、言ってしまえば、アウトドアなんだけど」


 入学当初は、あの人に出会えたら最初から女扱いして欲しくて無理に女っぽくしてたけど、よくよく思い返してみたら違うんじゃないかって。


「なーんだ、って、え、かえやんが探してたやーつ!」

「え、アウトドアサークルを?」


 あの人の好みはショートヘア、好きな女性の服装はジーンズ、そして。


「めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、探してましたっ!!!!!」


 思わず声を張り上げた私は、あの人が好きだと言っていたスニーカー、エイマックスで軽快に希望の一室に向かう。


「見学二名〜!」


 そう呼びかけた眼鏡先輩の手から開け放たれた部室のドア。


 正面にある大きな窓から差し込む日に逆光するように、数名の部員がそこに存在していた。


 一人の長身。


 あぁ。


「私、入部します」


 好きな人が、ここにいた。

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