表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋仮想  作者: 小春 佳代
2/16

2.邪魔しないから

「またイチから大学生になれる日が来るなんてなぁ……」


 視界には、大学の門を抜けてすぐに広がる緑の芝生と吹雪きながら満ちる桜の木々、それを囲むように荘厳とそびえる歴史のあるキャンパスの数々。

 入学式前には漆黒だった髪をモカブラウンに染め、気合いと女子力研究の末にそれを首筋辺りでワンカールに施し、新入生らしくグレーのスーツ姿でたたずむ私の最初にして最大のミッションはひとつだ。


 この広大なキャンパスの中から君を見つけること。


 君を見つける、どうにかして、些細な情報を手がかりにして。


 この私の仮想空間の中で。






「こんにちは〜、入学式お疲れ様〜、ねぇ、興味ない?ヨット部なんだけど」


 実際当時通っていた大学は違えど、既視感のある新歓の風景に懐かしみを感じる。


「ヨットではなかったんですよ」

「はい?」

「確かアウトドアサークルだったんですよ」

「何が」

「あの人が入っていたサークルです」

「あの人?」

「アウトドアサークルのブースってどの辺りにあります?」


 明らかに何も考えてなさそうな大学生代表みたいなヨット部の学生は、えーどこだろう、と言いながらわざとらしく片手を顎にやり、口を半開きにして心ここにあらずみたいな表情になったので、「このアホっぽい群れに今から私は入っていくのだな」とひしひしと、心は28歳である私は不思議な感覚になるのであった。


 ヨット部学生をそのままに、私は先程ゲットした全クラブ&サークル冊子を広げながら歩き出す。


「アウトドアサークルっぽいものっていくつかあるなー、なんか『アウトドアもやります』みたいな何でも屋みたいなのもあるし、こりゃ手当たり次第に行くしかないかー」


 顔を上げると、桜が光の粒のように降り注ぐ中で存在するのは、学内のメイン通りを挟んでひしめくブースの連なり、所属する団体のチラシを片手にウェルカムという屈託のない笑みをたたえた上級生とそれに導かれるまだ何も知らない初々しい新入生。


 ねぇ、君もこの夢みたいな景色を見てるんだよね?


 君が今から楽しむ最後の青春の中に、私を少し混ぜてくれませんか?


 君の未来は、邪魔しないから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ