2.邪魔しないから
「またイチから大学生になれる日が来るなんてなぁ……」
視界には、大学の門を抜けてすぐに広がる緑の芝生と吹雪きながら満ちる桜の木々、それを囲むように荘厳とそびえる歴史のあるキャンパスの数々。
入学式前には漆黒だった髪をモカブラウンに染め、気合いと女子力研究の末にそれを首筋辺りでワンカールに施し、新入生らしくグレーのスーツ姿でたたずむ私の最初にして最大のミッションはひとつだ。
この広大なキャンパスの中から君を見つけること。
君を見つける、どうにかして、些細な情報を手がかりにして。
この私の仮想空間の中で。
「こんにちは〜、入学式お疲れ様〜、ねぇ、興味ない?ヨット部なんだけど」
実際当時通っていた大学は違えど、既視感のある新歓の風景に懐かしみを感じる。
「ヨットではなかったんですよ」
「はい?」
「確かアウトドアサークルだったんですよ」
「何が」
「あの人が入っていたサークルです」
「あの人?」
「アウトドアサークルのブースってどの辺りにあります?」
明らかに何も考えてなさそうな大学生代表みたいなヨット部の学生は、えーどこだろう、と言いながらわざとらしく片手を顎にやり、口を半開きにして心ここにあらずみたいな表情になったので、「このアホっぽい群れに今から私は入っていくのだな」とひしひしと、心は28歳である私は不思議な感覚になるのであった。
ヨット部学生をそのままに、私は先程ゲットした全クラブ&サークル冊子を広げながら歩き出す。
「アウトドアサークルっぽいものっていくつかあるなー、なんか『アウトドアもやります』みたいな何でも屋みたいなのもあるし、こりゃ手当たり次第に行くしかないかー」
顔を上げると、桜が光の粒のように降り注ぐ中で存在するのは、学内のメイン通りを挟んでひしめくブースの連なり、所属する団体のチラシを片手にウェルカムという屈託のない笑みをたたえた上級生とそれに導かれるまだ何も知らない初々しい新入生。
ねぇ、君もこの夢みたいな景色を見てるんだよね?
君が今から楽しむ最後の青春の中に、私を少し混ぜてくれませんか?
君の未来は、邪魔しないから。