16.頭に花が咲いている
「だって莉子、今彼氏いないですもん!」
先日行われた『追Q!恒例おにごっこ』の賞品の行方について、今日もまた騒がしい部室内。
「だからって即売るとか夢がなくなーい?」
「とゆうか、小寺くん、君、自分が行きたかったからそんな賞品にしたんだね」
最後まで鬼につかまらなかった部員に与えられた賞品は、3年生でありサークル随一の美女、小寺さんが用意したものだったらしい。内容を聞かされてなかった眼鏡部長はなんだか不服そうだ。
「そりゃ私の特技のひとつは職権乱用だからね!ねぇ、江藤くーん」
そう言って江藤さんの後ろに回り込んで、両肩に手を置く小寺さん。
なんとなくその様子をじっと見てしまったら、バチッと目が合った江藤さんは、私に対して『これどうにかしてくれ』みたいな呆れた笑顔を見せた。
ん、そ、その表情を、私に向ける……!
「小寺くん、君、江藤くんと行こうとしてたんだなー」
「だって私のお気に入りだもーん」
「いや俺、小寺さんと備品の買い物は一緒に行っても、ディーランドは一緒に行きませんよ」
「えー!冷たーい」
何を言われてもお構いなしでウケている小寺さんが選んだ賞品は、ロマンチックな雰囲気がウリの遊園地、ディーランドのペアチケットだった。
「じゃあこのサークル内で、この賞品を換金せずに有効活用できる人が一体どれだけいるんですかぁ」
今回誰一人として予想していなかったが、あまりの要領の良さにおにごっこ唯一の生き残り者となった莉子が、持っていたハート形チョコクッキーを勢いで天井に向けて掲げた。
「そうね!いないわね!」
「いないな!」
何が面白いんだか分からないが笑っている3年生に囲まれながら、透明の容器に入ったアイスコーヒーを無言で飲んでいる江藤さんを見て、私はあの日のことをぼんやり思い出していた。
江藤さんからの団子チャージにより目がハートになってしまった私は、江藤さんの「誰か来たぞ」に咄嗟に反応出来ず。そんな私の目を覚まさせようと、江藤さんが半笑いになりながら軽く私の肩を揺さぶっている間に、あろうことか2人とも勝平につかまってしまったという流れであった。
あぁ……、へんてこな終わり方だったけど、かっこよかったなぁ……江藤さん。
でも、もし、もし二人で生き残ることが出来てたなら、二人で、ディ、ディーランドに……!!!
「おーい、なんか頭に花咲いてるぞー」
眼鏡部長のいらぬツッコミに、夢の世界で二人、メリーゴーランドに乗っていた私は現実世界に戻された。
「も、もう花ぐらい咲かさせてくださいよ」
「何を妄想していたのかは知らないが、こっちの世界に戻って来れなくなったら困るだろう」
こっちの世界がすでにもう仮想空間なんだよ……。
「まぁでも何はともあれ、次は追Qらしいイベントですね!」
勝平がおやつのたこ焼きを食べ終え、満足そうに言った。
「そうだな、我らは自然を追求するサークルなのだから!」
眼鏡部長が意気揚々と答える。
そう、次のイベントは。
「わーい!ピクニック!」
莉子がまるで無邪気に跳ねるかのような勢いで言った。
そう、そこに在るのは、自然と、美味しい空気と、持ち寄ったご飯と、みんなと、大好きな江藤さんだ。




