14.タイムリミット
このゲームのタイムリミットは午後9時。私たちは仲間が鬼と化していく中で、各々が逃げ惑う。そう、これは鬼につかまった者も鬼となり、残された者をどんどん追い詰めてゆく『増え鬼』なのだ。
「だからね、もし鬼を挑発して楽しむ人が現れるとしても、鬼が部長だけの段階までだと思うのー」
たまたま文学部校舎裏で鉢合わせた莉子と私は、茂みに身を隠して雑談していた。
鬼につかまった印に、右肩に黄色のマスキングテープを張るルールになっているので、誰が味方か敵かは分かるようになっていた。
「なるほどね、莉子はいつも部長イジってるけど今回はいいの?」
「莉子、あんまり疲れたくないんだー」
なんとなく苦笑いをしてしまったところで、本当に聞きたかったことも聞いてしまった。
「あの、さ、江藤さん、見た?」
「え?見てないけど……、かえやん、また探してんの?!入学当初から探し続けて、それでおにごっこ中も探してんの?」
「ぎゃぁぁぁぁ、もういいです、すみませんすみません」
思わず両手で顔を覆い隠す私を前に、次に苦笑いするのは莉子の方だった。
「江藤さんかー……江藤さん……」
すると突然、莉子がぶつぶつ言っている言葉を遮るかのように、高らかな笑い声が聞こえてきた。
「おーっほっほ、このままじゃ全員つかまらなくて賞品で部費がなくなってしまうわよーっ」
「小寺くん、待ちたまえーっ!!!!!」
黒ストレートロングヘアをなびかせ長い腕と脚を優雅に使いながら颯爽に駆ける美女と眼鏡のなんちゃってマラソンランナー。
「そういえば小寺さん、高校、陸上部って言ってたや……」
「やっぱ血が騒ぐってやつなのかなんっ」
そうこうしている間にも、タイムリミットが刻一刻と迫ってくる。
一緒に逃げるなんて、贅沢極まりないのかな。
「ねぇっ、かえやん」
「ん?」
「経済学部の方には行ってみたのん?」
心細げに灯る電灯は一体何を浮かび上がらせるために。
「江藤さん、経済学部じゃん。抜け道とか知ってる分、そっちに行ってるかもよ?」
この仮想空間で初めて江藤さんと言葉を交わすきっかけになった、復刻版のスニーカーが私の足元で鈍く白色を放つ。
「り、莉子ぉぉぉぉ」
「はいはい、意中の人を頑張ってつかまえてきてね」
今この時に、江藤さんをつかまえられてもつかまえられなくても、本当はそんなのどっちでもいいってことも分かってるんだけど。
江藤さんとの時間の全てが大切で愛おしくて、たまらない。




