12.安定の
さわさわと風に揺れる木々の葉の音が、日中とはまた違う存在感を醸し出す。ぽつぽつと灯る、学部ごとの校舎窓から漏れる光と等間隔に並ぶ電灯。時折すれ違う人々はそれぞれ何かに急かされる訳でもなく、今日の余った時間を夜の闇に溶かそうとするかのように歩を進めていた。
「よーし!みんないるなー」
3日前、あみだくじで鬼の役を引いた時は発狂していた眼鏡部長は、当日にはもうランニングが趣味みたいな明るい色のシャツとショートパンツとタイツに身を包み、やる気まんまん状態だった。
「ぶちょーう!鬼がそんな蛍光色着てたら、すぐに近づいてきたことが分かると思いまーす!ありがとございまーす!」
莉子は挙手しながら、早速部長をイジっている。
私も思わず笑っていたが、内心はそれどころではなかった。
それとなく、私はまるで軽い準備体操のような仕草で腰をひねりながら振り返り、後ろの方で安定の涼しい顔をしている江藤さんを盗み見る。
江藤さんのアレは、一体どういう意味だろう。
一緒に逃げるって、何だ。
女の子が一緒にトイレ行くのとは訳が違うぞ???
というか実際問題、一緒に逃げたら逃げにくいじゃん?
賞品も出るのに……、も、もしかして、土壇場になって私をおとりにして逃げるつもりじゃあ……!!!
「よーし!じゃあ、10秒数えるぞー!!!君たちを地獄の果てまで追いかけてやるからなー!」
闘志に燃えている眼鏡部長が1から数字を叫び出した直後、部員たちはバッと散らばり始めた。
私もハッとなり、今度はもう思いっきり江藤さんの方を振り返る。
え……!!!!!
い、いない……!!!!!
私はほとんど泣いているような半笑い状態で、訳も分からずとりあえず走り出す。
え、えっと、私、何か読み間違えてました???
いや、でもあの日、そう言ったよ、そう言ったと思うよ!
じゃあ、アレだ、きっとお得意のアレだ!
『俺、そんなこと言ったっけ?』
ってやつだ!!!!!
ひーん!!!!!
28歳の頃から変わってないじゃーん!
いや、時系列的におかしいか。28歳の頃もそんなのだったんだから、大学生の頃なんて、尚更そうじゃんね。
振り回されてる、振り回されてる、ずっと振り回されてる。
なのになんで、嫌になんないの?私!!!!!




