1.決意表明
「一度でいいから付き合ってみたかったな」
君があのお姫様とより一層幸せな道を歩み始める前夜に、ふとそう思ったの。
真っ赤なバージンロードを歩くであろう、タキシード姿の君と色白の肌がそのまま溶け込んでいるかのようなウェディングドレスをまとったお姫様。
お似合い、憧れ、雲の上の住人。
そんな遠い存在である君が、実は私を少しでも女として見てくれていた事実があったのなら。
一度でいいから……。
君と付き合ってみたかった。
「え?志望校を変える?!」
バタバタと慌ただしく、長いカーディガンから揺れる制服スカートの群れが私の後方を通り過ぎて行った。いつも大袈裟なリアクションで受験生を鼓舞する塾長が、普段とは違う素の反応で驚きを隠せずにいる。
「はい!国立やめます!」
塾一階の一角に設けられた事務スペースの受付には、用事もない生徒がふらふらと来て塾長と雑談をしていることがある。でも今日の私は違う。一大決心を伝えに来たのだ。
「なんで?斉藤ならこのままいけば……」
「会いたい人がいるからです」
着崩していないブレザーの制服姿で両拳を握りしめながら、理解されないであろう意向を真剣な眼差しで告げる。
18歳の私は、志望校を変更して君が通う予定の大学を目指すことにした。
「じゃっ!そおゆうことで!」
「あっ、おぉい、どこ行く?!」
決意表明をしたらなんだかスッキリして、私は一目散に塾の外に駆け出した。
『君と出会いたい。君と出会いたい』
ここは、本当はすでに28歳の私が作り出した架空の世界なのだろうか。
『お姫様よりも先に。お姫様よりも先に』
あまりにも強く強く妄想していたら、神さまが仮想体験できるチャンスを与えてくれたらしい。
『そして、一度でいいから付き合ってみたい』
ねぇ、神さま。
こんなことにしか一生懸命になれない私を。
笑ってくれますか?