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風鈴の音



夏夜子は慌てて車でトンネルを突っ走り抜けた。

トンネルを抜けた先に見えるのは、広い青空と夏の暑い日差しに照らされた、一面緑色の田園の風景だ。


田畑に案山子。数本の細い電柱と今にも潰れてしまいそうな古い駄菓子店。その駄菓子店の隣には、赤い自動販売機が田舎道へ進む為の目印のように、ポツリと立っていた


夏夜子は自販機のすぐ側に車を停車させ、自分の鞄に入れておいたエチケット袋をすぐに夏巳に渡すと、夏巳は今朝食べた玉子のサンドイッチを全部袋の中に吐き出した。



ガコン(自販機からペットボトルが落ちる音)


「夏巳?……はい! お水、これでうがいして?」


夏夜子は自販機で買ったミネラルウォーターのキャップを空けて、冷たい水の入ったペットボトルを渡すと、夏巳はすぐに受け取り、水でガラガラと口を濯いだ。


夏夜子は夏巳が口を拭くためにハンカチを手渡すと、夏巳の顔を覗き込んだ。


「夏巳?…… 大丈夫なの?」


「うーん……」


「もう、具合が悪いなら言ってくれればいいのに…… 」

「だって……」


「どうしよう……お父さんの家まで、まだちょっと距離あるんだけどなぁ……」


「だ、大丈夫だよっ!さっきよりはちょっとは……すっきりしたからっ!」


夏夜子に渡されたハンカチで口を拭き、夏巳はイライラしながらそう言うと、夏夜子は溜め息をついた。


「おやおや、お客さんかい?」


駄菓子店の中から背の低いお婆さんが夏巳の背後に現れ、いきなり話しかけてきた!


「うっわぁっ!? 」


夏巳は背後から現れたお婆さんに驚いて、ペットボトルを地面に落としてしまう。


「あのっ! すみませんっ! 子供が車酔いしちゃって少し休んでました……すぐ車を退かしますね!」

「いいんだよ、いいんだよ……具合が悪くなっちゃったんだねぇ〜可哀想に」


「……婆さん、いきなり後ろから出てきて驚かすなよ! さっき買ったばかりの水なのに落としっちゃっただろ!」


「ちょっ……ちょっと夏巳!」


初対面のお婆さんにキレる自分の息子の姿を見て、夏夜子は恥ずかしくなり慌てて夏巳の口を止めた。


「あっははは、ごめんねぇ〜いきなり出て来てビックリさせちゃったかねぇ?」


お婆さんは、夏巳の頭を軽くポンポン優しく撫でるとニッコリと笑い、あまり気にしていないみたいだ。


「うぅ……」


夏巳は水の入ったペットボトルを落としただけで、初対面の人間にブチギレた自分が、だんだん恥ずかしくなった。


「ごめんねぇ……ちょっと待っててねぇ」


お婆さんは小さな声で、優しくそう言うと屈んで夏巳が地面に落としたペットボトルを拾い、店の奥へ入って行った。


真昼の生暖かい風が、駄菓子店の窓に吊るされた小さな風鈴を、──チリリーンと揺らした。


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