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人間の子と妖怪の子



……ゴポゴポッ。 ……ゴポゴポオォッ。



夜の冷たい川の中を泳ぐ、一人の男。


その男は、凍るように冷たい水色の長い髪を、まるで海の中を泳ぐ魚の尾ひれのように、ゆらゆらと優雅に揺らしながら、暗い川の底まで一人で泳いでいた。



男の肌は透き通るように白く。スラリと伸びた長い手足と、笑みを浮かべたような細い糸目をしていて、口の中の色は青紫のような変わった色をしている。


男は不敵な笑みを浮かべながら、暗い暗い川底まで泳いで行くと、大きな氷の塊が無数に沈められた場所まで、ゆっくりと近づいて行った。



男はその場で立ち止まり、真っ白な右手で大きな氷の塊にそっと触れながら言った。



「そろそろ時間だ。君たちも早く彼女に会いたいだろ? 彼女が帰って来たら四人で一緒に食事をしよう。キミたちがまだ、生きていたらの話しだけどね……フフフッ」




……ゴポゴポ。 ……ゴポゴポォッ。





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カツカツカツーーカツッ。



賑やかな出店の通路を高下駄で音を鳴らしながら歩く炎焔坊は、小風丸と夏巳の二人を連れて夜市場にやって来た。



「さぁ、さぁ よってらっしゃい見てらっしゃい!魔界で手に入れた珍しい果物が沢山あるよー」


「炎焔坊さま、よかったらウチの店にも寄って行って下さいな」


「炎焔坊さま〜さっき取れたばかりの新鮮な海魚が、今夜はいっぱいありますよ〜!」


体格の良い出店の店主や太った若い女主人、ガリガリに痩せた老夫婦の店もみんな、道を歩いて行く炎焔坊たちに元気よく声をかけた。



「ああ、そうかい。それは良いな」炎焔坊は声をかけて来た出店の主人たちにそう言って手を振った。



夜市は夜の九時を過ぎても出店や買い物客で賑わい。焔の町に住む妖怪や人間たちは、楽しそうに売り買いしている。



夏巳と小風丸は炎焔坊が寺に戻ってから三人で夜市に出かけた。


炎焔坊が仕事を終えて寺に戻っても、買い物に出た夏巳の母、夏夜子はまだ帰っていなかった。


炎焔坊は夏夜子がいない事をかなり心配していたが、夏巳は相変わらず、自分の母親の事をあまり心配していないようだ。


炎焔坊は、夏巳の祖父 善宗に夏夜子を迎えに行くと言って夏巳と小風丸も一緒に連れて出かけた。


陽焔寺に引越して来て、夏巳は初めて寺の僧侶たち以外の人間を沢山見た気がした。


夏巳は、妖怪の主人がいる出店の前を通り過ぎると、山奥で自分が人喰い妖怪の山祟りに襲われた時の事を思い出した。


「ヒヒヒッ。そこの人間の可愛い坊っちゃんウチの店 ちょっと見ていかないかい?」


「えぇ……オレ、今?」角が二本生えた全身緑色の妖怪に横からいきなり声をかけられ、夏巳は少し動揺した。


「わぁいっ! 肉の串焼きだ!炎焔坊さま ボク串焼き食べたいです、買って下さい!」


小風丸が夏巳の背後からひょこっと顔を出して、炎焔坊の着物の袖をグイグイ引っ張ると、仕方ないなというような顔をして炎焔坊は懐から自分の黒い財布を取り出した。



「夏巳くんも肉の串焼き食べるかい?」炎焔坊はにっこりしなが夏巳に聞いた。


「いや、オレはいいかな……」


夏巳は、全身緑色の角が二本生えた妖怪の店主が作る肉の串焼きが、何の肉かわからないので、今回は遠慮することにした。


けど、自分の隣で美味しそうに肉の串焼きを食べながら歩く小風丸を見ていると、一口くらい味見してから断っても、よかったような気にもなった。



「夏巳くん、お母さんが心配かい?」俯きながら歩く夏巳の姿を見て、炎焔坊が話しかけた。



「いや、別に……」夏巳が小さな声でそう言うと、炎焔坊は困ったような顔をして笑った。



「ああっ! お嬢さんいた! 炎焔坊さま、お嬢さんがいましたよー! 」



小風丸は、夏夜子を見つけた事を炎焔坊に知らせると、背中の白い翼を羽ばたかせながら、人混みの中に飛び込んで行った。


「おい、小風丸待ちなさい!」


炎焔坊は小風丸を呼び止めようとした。けど小さな体で人混みを上手く避けて、小風丸は夏夜子の所まで一気に飛んで行った。


「え?何ーーうわあっ!?」


炎焔坊は、自分の隣にいる夏巳をいきなり抱き抱え、人混みの中に入った小風丸の後を追った。


「ちょ、ちょっとーー!?」



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「お嬢さーん!」小風丸は夏夜子を見つけると、すぐに彼女の側まで飛んで行った。


「あら、小風丸ちゃん!? わたしを迎えに来てくれたの?」


「はい。炎焔坊さまと坊っちゃまも一緒に三人で迎えに来ましたー」小風丸はそう言いながら、夏夜子のやわらかい胸に飛び込んだ。


夏夜子は両手に買い物袋を持ちながら、出店の主人と何かを話していたようだった。


「小風丸!」


炎焔坊が小風丸の名を呼ぶと小風丸は、高く飛び跳ねながら、人混みからひょこっと顔を出して炎焔坊と夏巳に、自分と夏夜子がいる場所を知らせた。



「炎焔坊さまー。お嬢さんはこっちですよーこっち!」


「夏夜子さん!」「母さん!」


小風丸の声がする方に炎焔坊は、夏巳を抱き抱えながら早足で歩いて行くと、夏夜子に抱きついて甘える小風丸の間抜けな姿を見て、なんだか少しホッとした。



「炎ちゃん……夏巳」夏夜子が、炎焔坊と夏巳の名を呼ぶと二人は、小風丸と夏夜子がいる場所まで走って行った。



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人通りの多い、焔の町商店街から少し離れた路地裏にある。深夜まで営業する、静かなカフェバー【アリエル】


夜に子ども連れで来る客は珍しいが、炎焔坊と夏夜子は結局、カフェバーで夜ご飯を食べる事にした。



「それで、その人間の女の子を追って夏夜子さんは、また商店街に戻ったと……」


熱いブラックコーヒーを一口飲むと炎焔坊は、コーヒーカップをソーサーの上に静かに置いた。



「そう、でも途中で見失っちゃったみたいなの、あの女の子……服がビショ濡れだった、だからわたし心配になって……」



夏夜子は買い物帰りに起きた、出来事を炎焔坊に話した。炎焔坊は最後まで彼女の話を真剣に聞いていた。


トマトとチーズの魚介パスタをお腹いっぱい食べ終えた小風丸は、自分の友達を夏巳に紹介したいと炎焔坊と夏夜子に言った。


小風丸の友達はみんな夜市に集まる約束をしていて、また夏巳と一緒に夜市に行きたいと言い出した。


炎焔坊は、今日はもう遅いから明日にしなさいと小風丸に言ったが夏夜子は、妖怪の小風丸と一緒に行くなら安心だと言って許した。



夏巳と小風丸は、炎焔坊と夏夜子にすぐ戻るからと言って、嬉しそうに夜市が開かれている商店街の方に二人で走って行った。



「夏夜子さん……」炎焔坊は夏夜子の甘やかしに少し呆れた顔をしたが、夏夜子は夏巳と小風丸が年も近いからか、二人に仲良くなってほしいなと心の中でずっと思っていた。


「いいの、夏巳に新しいお友達がいっぱい出来たら、わたしはすごく嬉しいから……」



そう言って夏夜子はニッコリ微笑んだ。炎焔坊はそんな彼女の笑顔を見て、なんだか少し照れている自分を隠すように、コーヒーカップを静かに手に取り、熱いブラックコーヒーを飲んで誤魔化した。




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夜市に戻った夏巳と小風丸は、商店街にある小さなスーパー【イナズマート】の前にいた。


「夜市があるといつも、みんなこの店の前に集まるんだ」小風丸はそう言いながら、店で買ったアイスクリームを一つ夏巳に渡した。炎焔坊にもらった600円のお小遣いで買ったものだ。


二人でアイスクリームを食べていると空から「おーい、おい」と二人を呼ぶ声がした。


「あっ! 来たな」


空から翼を羽ばたかせながら、二人の男の子が地面に降り立つと、小風丸は夏巳を連れてその二人の男の子の方に近づいて行った。


「紹介するよ、この太っちょが甲牙丸。それでこっちのチビか小竜胆だ」小風丸が夏巳に自分の友達二人を元気よく紹介すると


「よ、よろしく〜っ!」「よろしくね!」と二人が顔を赤らめながら恥ずかしそうに挨拶した。


「こいつは和尚さまの愛娘さまの息子だ。しばらく緋天山の陽焔寺で炎焔坊さまと一緒に暮らす事になった。ボクともな」


「オレ、源夏巳……よろしく」夏巳は、緊張して自分の口から心臓が飛び出すのではないかと思った。


けど妖怪とはいえ、子ども達だけで夜に集まるのはなんだかすごく楽しい。


夏巳と小風丸は、炎焔坊と夏夜子にすぐ戻ると言った事すら忘れてしまい。一人の人間と妖怪三人の男の子達だけで、楽しく遊んでいたーーその時。


「おい!!なにやってるんだ、このガキ!!」怒って怒鳴りつける男の声が聞こえた。



ガッターンっ!!



大きな音を立てて、果物が大量に入った籠が地面に落ちると、夜市に来た人間や妖怪、店の主人たちが一斉にその怒鳴りつけた男の方を向いた。


「は、放せよ!! あたしの体にさわるな!!」


夏巳と小風丸、小竜胆と甲牙丸の目に映ったのはピンク色のジャージを着た、レモン色の明るい髪をしたボーイッシュな一人の女の子だった。



「放せ!! このっクソ野郎ー!!」女の子は、怒鳴りつけて来た男に、負けないくらいの剣幕で怒鳴り返していた。


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