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遠い記憶

緋天山ひてんざん紅狸奴天狗炎焔坊くれないりどてんぐえんえんぼう子守天狗こもりてんぐはいつも大忙おおいそがし〜」



深い深い静かな山の奥深く──

冷たい小川が流れていく大木の下で、複雑に絡み合い地面からボコボコとむき出しになった太い木の根の上に座る一人の男がいた。



男は深紅の着物を着ていて、山鳩色の長い髪を葉っぱの蔓で結い。山猫のような緑色の瞳と、背中に大きな紅の翼。


腕に幼い子供を抱き抱えながら、山林の中に差し込む、朝日の眩しい光に一瞬だけ目を奪われていた。



「キミと最初に出会った日、キミは私の髪を美しいと言ってくれたね? けどごらん 人間たちのいるこの世界の青い空はもっと美しいだろ?」幼い子供はそんな男の横顔を見て言った。



「……はい」男は静かに頷いた。


幼い子供は黄金色の美しい髪と漆黒の瞳。まるで女の子のような真っ白な着物を着た、可愛らしい見た目の男の子。


吹く風は山の草葉を優しく揺らし、山鳥たちのさえずりが聞こえる。


木々と枝葉の隙間から見える夏の青い空と暖かい木漏れ日が、抱き抱えられている幼い男の子の頬を、そっと照らした。


男が大事に抱える。その男の子の胸からは真っ赤な血が滲み、左腕から指先まで大量の赤い血が流れていた。


男の子は腕を伸ばし悲しそうな顔で、傷ついた自分の姿を見つめる男の額に、小さな右手でそっと触れながら言った。


「……この深い傷が癒えるまでさ。私と関わった者たちの記憶は全て搔き消した。残りわずかな私の力も……全てキミに受け取ってほしいから」


「……」男は黙ったまま男の子を見つめた。


「大丈夫。あの二人はキミによく似ている。たとえ姿形が変わったとしても、キミたちは必ず巡り逢うことが出来るよ。私には見えるんだ……キミたちならきっと……私は信じているよ」



だってキミは──



緋奴宮ひめみやさま……」



冷たい小川のせせらぎ。空へと飛び立つ、小さな山鳥たちの羽音と夏の蝉時雨が、男の悲痛な声をかき消すと。


緋奴宮と呼ばれる幼い男の子は、最後に微笑み。瞼をゆっくりと閉じて、男の腕に抱き抱えられながら祈るように息を引き取っていった。





──キミは幾千の闇を射る紅の業火だから。




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