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人喰い




「……」


人喰い妖怪の山祟りは、緋天山を下りて 人間のいる街に向かった。


炎焔坊は空高く飛び上がり、山祟りを探しに街まで飛んで行った。


緋天山に残された夏巳と小天狗の小風丸は、顔を合わせることなく気まずい雰囲気で、炎焔坊の帰りをただ静かに待つ事となった──


「お前……」


長い沈黙に耐えられなくなった小風丸が、夏巳に話しかけた。最初の一言があまりにも怒っているような声だったからか、夏巳は一瞬ビクッとした。



「もう一人の子供はどうした? 一緒にいただろ、それと……何で下駄や靴も履かずに、裸足のまま赤界門をくぐってこんな山奥まで入って来たんだ?」



泥だらけになった夏巳の足元を見ながら、小風丸が呆れたような顔でそう言うと、夏巳は慌てて言った。


「赤界門って……もしかして見てたの? オレがあの赤い門を潜るとこ」


小風丸は黙ったまま頷く。夏巳は少し緊張しながらも、身振り手振りで今までの事を小風丸にすべて話だした。


「あいつは子供なんかじゃなかった。白い毛玉みたいな……妖怪だったんだ! オレも最初は普通の女の子だと思った」


「白い毛玉みたいな妖怪?」


「あいつはオレに、山の奥に行けば良いものが見れるよって言ったんだ」


「それでお前、ついて行ったのか?」


「すぐそこだからって、あいつが言ったから……だからオレ、信じてそのままついて行った。けど──山の奥についたらいきなり襲われたんだ! 女の子はあいつが操ってた 人間の死体だった!」


「人間の死体? なんだ……もうひとりの子供は、山祟りの傀儡だったのか……」


「わからない。オレ怖くて……走ってあいつから逃げて来たんだ、でもどっかで足を踏み外して、そのまま山崖から落ちて……それから」



──炎焔坊に助けられた?



「フン。そうだったのか……山祟りが緋天山を下りたのはお前が原因だったんだな」


「えっ、オレが!? なんで」


「なんでって? ──お前が大人しく喰われていれば、山祟りは緋天山を下りたりしなかった」


──はぁ!?


「緋天山にいる妖怪が人間の子供を襲った。そんな事を、焔の町に住む人間たちが知ったらどうなる?きっと みんな大騒ぎだ」



夏巳の驚いた顔を見た小風丸は、不愉快な顔をして話しを続けた。



「山祟りは掟を破り。炎焔坊さまに背を向けた、あいつはすぐに処刑される。前にも炎焔坊さまが可愛がっていた、子熊を丸呑みにして すごく怒られたんだ。次は絶対に許してもらえない」



「熊を丸呑みって……じゃあ、あいつはただ 腹が減ってるだけ? 人間だけを食べる悪い妖怪じゃないの?」



夏巳は、山の中で自分を追いかけて来た 山祟りの事がなんだか少し気になった。


そんな変な好奇心にかられた夏巳の顔を見た、小風丸はイライラしながら言った。



「お前を喰いそびれた山祟りは、きっと他の人間を襲う……お前のせいでみんな大騒ぎになる。ボクまで炎焔坊さまにこの山を追い出されるんだ……お前なんか緋天山に来なければよかった。ホント最悪だ」



小風丸の姿がまるで子供の妖怪だから、話せば分かり合えるかもしれないと、淡い期待をした夏巳だった。


しかし小風丸のあまりにも冷たい態度に、夏巳は口を開いて会話をする気すら失せてしまった。



──なんなんだよ……オレのせいで追い出される? 何言ってんだよ



黙り込んだ夏巳の顔を見て小風丸は、フンッと言ってそっぽを向いた


夏巳は明るくなっていく朝の空をゆっくりと見上げながら、心の中で


自分を助けに来てくれた炎焔坊が、早くこの場所に帰って来ればいいのになと少しだけそう思った。





_____________________

_____________________





山祟りは各商店の裏に置いてある、大きなゴミ箱を勢いよくひっくり返した。


商店街の裏通り道は、散らかった生ゴミだらけとなり、酷い悪臭を放っていた。


グシャ グシャ……モシャ モシャ……


山祟りは地面にひっくり返った青色のバケツ型ゴミ箱の中に、ふわふわとした毛玉のような丸い体を無理矢理突っ込み、夢中で腐った生ゴミを貪っていた。


背後からゆっくりと自分に近づいて来る、知らない誰かの影に気付きもせずに山祟りは、小さな手で大きな口の中に次々と生ゴミを放り投げていく


──すると。


「うちの店の裏で何をごそごそやってるんだ! この妖怪!」


山祟りは、一人の中年男に背後からいきなり怒鳴られ、硬い棒のような物で強く殴られた。


──ドカッ!


山祟りが青色のバケツ型ゴミ箱をひっくり返した時、外から聞こえる 大きな物音に気がついた店の主人が、外の様子を見に来たのだ。


店の主人に殴られ。ゴミ箱と同時に勢いよく地面に倒れた山祟りは、細い手足をバタバタと揺らしながら立ち上がろうとした。


しかし店の主人は、地面に倒れて必死に起き上がろうとする山祟りを、硬い棒のような物で何度も何度も強くブン殴った。


「二度とうちの店で意地汚いねぇことをするな! このッ、このッ、悪い妖怪め!」


強く殴られた山祟りはピクリとも動かなくなり「死んでしまったのか?」と店の主人が恐る恐る山祟りに顔を近づけた、その瞬間。


山祟りの細い前足が、鋭く尖ったナイフのように素早く変形し、覗き込んで来た店の主人の胸を勢いよく貫いた。


──グサッ!


「──あっ」


店の主人は悲鳴をあげることもなく、ピクリとも動かなくなり。貫かれたその胸からは、ポタポタと赤い血が地面に流れ落ちていった。


山祟りは、自分の鋭くなった前足で串刺しにした店の主人の死体を、大きな口を開けてゆっくりと呑み込んだ。


そんな山祟りの姿を、空の上から見つめる炎焔坊がいた──



「……山祟り、また私に隠れて人間を喰ったか。どうしようもない馬鹿な奴だ」背中の紅の翼をバサバサと羽ばたかせ、炎焔坊は怒りの目つきで吐き捨てるように言った。




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