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飛び立つ小さな影




ボールについた白砂を手で軽く払い、夏巳は女の子の側まで近づいて行った。

夏巳が近づけば近づくほど、女の子はすごく嬉しそうな顔をした。


女の子の肌は透き通るように白くて、髪は真っ黒なショートヘアをしている、近くで見ると夏巳よりほんの少しだけ背が低かった。


「あのっ、このボール……」


ボールをそっと手渡すと女の子は小さな声で夏巳の耳元に囁くように言った。


「この山の奥に行くと良いモノが見れるよ」


「良いモノ? ……良いモノ? って何?」


「この山の奥に行くと良いモノが見れるよ」


女の子はボールを受け取り、同じ言葉を繰り返した。夏巳は変わった子だなと思ったけど、友達になれるかもしれないと淡い期待をした。


女の子は山奥に一緒に行こうと、しつこく夏巳の腕をグイグイと引っ張った。


「えっと……あの、ちょっと待ってっ」


「……どうして?」


「どうしてって、もう夜だよ? みんな寝てる時間……それにオレ……」


誘いを断られてしまい女の子は一瞬キョトンとした顔をしたけど、夏巳の腕を強く掴んだまま離そうとはしなかった。


夏巳はおしっこがしたくて下半身がうずうずしていたが、なんだか女の子が妙に気になってしまいグッと我慢していた。


「すぐそこ……」


「えっ?」


「──すぐそこまで行けば良いモノが見れるよ!」


「えぇっ!? ちょっ、ちょっと待ってよっ」


「──早く早く」


女の子に、腕を強引に引っ張られながら、夏巳は赤い門を潜り。そのまま山奥の方へと無理矢理連れ出されてしまう。


緋天山の奥深くは、中庭にいた時よりずっと冷んやりしていて、裸足のまま女の子と二人で細い山道を歩き進んで行くと、夏巳はだんだん不安な気持ちになっていった。


山の中から夜の空を見上げると、木々の隙間からみえる丸い月は、二人の歩く道の先を、ほんの少しの月明かりで照らしてくれていた。


「こっちこっち、早く早く……良いモノが見えれるよ」

「う、うん」


女の子に腕を引かれながら、夏巳はどこか遠くの方で犬の遠吠えのような、動物の悲しい鳴き声が聞こえたような気がした。


──うわぁっ。今なんか変な鳴き声が……



草木をかきわけて、どんどん奥の方へと進んで行く夏巳と女の子。

そんな二人の姿を、高い木々の茂みに身を潜めながら遠くからじ〜っと見つめる、一つの小さな人影があった。



「あーあ。こんな時間に赤界門の外に出るなんて、馬鹿な子だなー。この山には妖怪の他に、獰猛な猪や人食い熊も出るのに、これだから人間の子供はイヤなんだ。どうなってもボク知ーらないっと」



小さな影の(ぬし)は冷たくそう吐き捨てると、潜んでいた木々の隙間から瞬く間に一人飛び立って行った。



バシュンッ!


飛び立った後の木々からは、ヒラヒラと緑の葉が地面へと舞い落ちていく。




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