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シスコン勇者とブラコンドラゴン  作者: 神奈 りん
4/5

光を喰らう影の魚

 新宿 9時30分 新宿駅1階


 朝の通勤ラッシュがあるはずの新宿駅は、しんと静まり返りどこか不気味な雰囲気を放っていた。

 コツコツと静まり返る駅内に足音が響く。

「あまり一人で先行するな、井沼」

 静かな空間に新田の怒号が反響する。

『彼の言うとうりよ龍二。これ以上離れると団体で行動している意味がなくなるわ』

 と、獣器状態のシズクが龍二を諭す。

「ああ、そうなんだけど・・・ここ、嫌な感じがするんだ。何かに呼ばれているような、話しかけられているような、そんな違和感を感じる」

「リンカーの特徴の一つだな。リンカーはケモノに近いせいで意識ぜずともケモノの声を聞いてしまうんだ。今までもこんなことがあったはずだ」

 後ろから追いついてきた新田が解説する。実際、龍二はケモノの声を受け取っていなかったわけではないが周りの音にかき消されていたのだ。たとえ聞こえたとしてもそれは耳鳴りと同じ程度で聞き取ることはまず不可能だった。

「でも、今までこんなにビリビリ感じたことなんてなかったんすよ?なんで急に」

「それは、今はケモノがとても近くにいてケモノの声を直に聞いたせいで敏感になっているのさ。時間が経てばなれる。・・・しかし、リンカーが反応すると言うことは、やはりいるようだな」

(ハ〜イ、新田ちゃん)

とそこに、新田の耳につけた通信機に連絡が入る。

(各賞はついたみたいね〜)

「はい。一様リンカーが反応を示しましたので。・・・ですが正確な場所までは」

(ああ、わかってるわ、こちらからも座標しかわからないのよ。面倒だけど階層ごとに潰していってね〜)

「了解です」

プツ

 新田が自分の腕時計を見る。

「9時40分・・・暗いな」

と、新田がつぶやく。

「まあ電気ついてませんからね」

「いや、そういうことではなく・・・いや、勘違いか」

 午前9時の室内は電気がついていないせいか少し薄暗かった。


「ふう、砂波ちゃんたち大丈夫かしら。すこし、おかしいのよねこの反応」

「何がですか?」

「ほらここ。この反応、定期的になんていうのかしら・・・重なって増えているように感じるのよね〜」

「そうでしょうか・・・画面のブレじゃないですか」

「そうだといいのだけど・・・死なないでよね砂波ちゃん・・・」


新宿 9時30分 新宿駅地下1階


「やっぱり、非常灯だけだと暗いな・・・みんな気をつけろよ」

 線路を歩く砂波が後ろの兎市と金次に警告する。

 オレンジ色の非常灯の光が点々と暗い線路を照らしていく。

「あの、ここ嫌な感じがするんですけど・・・」

 金次が冷や汗をかきながら口を開く。

「それはどんな感覚だ?」

「は、はい。なんか、冷たいものが体を這い回る感じですかね」

「ふむ、・・・兎市はどうだ?」

「いえ、私は何も・・・?」

 そうか、と砂波は少し考えた後で口を開いた。

「そいつは、きっとリンカーの得意体質だな。リンカーはケモノにとても近い。だからケモノの声を聞けるんだ」

 その説明に、兎市が反応する。

「それならなぜ私にはその声が聞こえないのですかッ!?私にはリンカーとしての素質があると砂波さんは言ってくれたじゃないですかッ!」

 兎市の荒げた声が地下の広い空間に響き渡る。

「お、落ち着け兎市!リンカーといえどその能力には個体差もあるし、リンカーとしての覚醒にも個人差がある。実際、獣器との対話をこなしたお前にリンカーとしての素質があるのは確定している。心配せずともだな・・・」

 砂波が必死に兎市をなだめる。兎市は我に返り「すみません」と一言つぶやくとうつむいて歩きだした。

「私は強くならきゃいけないんだ・・・ケモノをすべて・・・」

 兎市の独り言は線路の影に吸われて消えた。


宿舎 7時30分 食堂

「君たちは、なぜここに来たんだ国際ケモノ対処化、「wks」に」

 食事の片付けが終わりなんとなく全員が席についたときだった。砂波が低いトーンで龍二たちに聞いた。

 困惑する中で兎市が口を開いた。

「私は、ケモノに両親を殺されました。私の日常を奪った奴らに復習をするためにここに来ました。

 自然災害?天災?・・・いや、あいつらには明確な殺意があった。殺しを楽しんでいた。私はあいつらを許しません。絶対に殺します。」

「・・・そうか」

 兎市がフッと息を吐いて力を抜く。龍二には兎市の顔が少し陰ったように見えた。

 砂波は少し考えて金次にも同じ質問をした。金次は少し悩んで口を開いた。

「そうですね・・・僕は兎市さんほどの強いものは持っていませんが・・・兄の夢だったんです。兄は桜倉さくらの次期社長として生まれました小さいときから英才教育を受けて育った兄は海外の有名大学へと進み、卒業すれば社長に就任するところでした・・・」

「5月のケモノによる自家用期の墜落事故・・・」

 金次が言葉に詰まったところに新田がつぶやいた。

「ええ、そのとおりです。兄はその事故で・・・。兄は生前僕にここのこと「wks」のことを話していました、生まれ変わったら「wks」に入ってケモノについてもっと詳しく知るんだって。兄はケモノが大好きで大学の研究もケモノに関するものでした。・・・だから僕にとってここは兄の形見みたいなものなんですよ」

「そうか、あの桜倉財閥の・・・」

 砂波はなにかに納得したようにうなずいた。そしてその質問は龍二にも回ってきた。

「龍二君はどうなんだ?」

「お、俺っすか・・・まあ小さい頃からずっと一緒だったし家族みたいなもんですかね」

 その言葉にシズクが反応して口を開く

「私は井沼家の養子というか居候だったのよ。ずっと一緒だったわ、あの時までは」

「ケモノの強制収容法の執行だね」

 金次が少し悲しそうにつぶやいた。

「ええ、そのとおり世界は変わってしまった。私と龍二の楽園はそこで凍結してしまったのよ」

「ら、楽園って」

 砂波は、そんな龍二たちのやり取りに微笑んでいたがそっと空気を変えるように口を開いた。それはこの話の題材だった。

「君たちの『ケモノ』への認識は少し食い違っているようだ。まず龍二君のケモノは以前よりこの世界にいたものだ」

 そんな、説明に兎市がいち早く反応して口開いた。

「そ、それじゃ、私の両親を殺したケモノはまるで異世界から来たみたいな言い方じゃないですか」

「そのとおりなんだよ、兎市さん。・・・なぜこの世界のケモノは強制ケモノ収容カリキュラムによって獣器化されていると思う?」

砂波は兎市に問いかける。兎市は少し考えてハッと何かに気がついたように口を開いた。

「か、仮に今起こっているケモノによる事件が異世界から来たケモノによるものだとしたら市民への警告、

 ケモノは危険だという概念の植え付けですか?」

「ああ、それもある、しかし最大はケモノの保護だ。奴ら、仮に我々は「ディファーズ」と呼んでいる。

ディファーズがケモノを喰らいこの世界のケモノと入れ替わったとしたら、それはこの世界への侵略にほかならない。我々wksはそんなことを許さない。私達はディファーズを駆逐するために配備された世界最後の砦なんだ」


 9時55分 新宿 新宿駅1階

「しっかし、遅いっすね」

 人影すらない改札に龍二の声がこだまする。

 龍二たちは新宿駅の1〜3階を、砂波たちは地下のフロアを調査しに行ったのだが落ち合うはずだった中央改札には砂波たちの姿はなかった。

「時間は・・・55分。集合は50分だったはずだが。一体どこで油を売っているんだあの人たちは」

 新田の少し苛ついていることはその声色から鈍感な龍二にもなんとなく受け取れた。龍二はそっと新田のそばを離れて近くにあった支柱似腰をかけようとした、

『龍二ッ!』

「え?」

 刹那、龍二は上下逆さになって向かいの支柱に激突していた。

 ザシュ 先程まで龍二がいたところには黒い何かが新田の手刀によって貫かれていた。

「な、何事?」

『さっき龍二が座ろうとした時あのバケモノが龍二に噛みつこうとしたから・・・』

「吹っ飛ばっした、と?」

『ち、力の加減をミスっただけよ。ふっとばす気なんてなかったの〜。お願い龍二お姉ちゃんを怒らないで』

 シズクが猫なで声で龍二に許しをこおうとする。

「別に起こってなんかないよ、助けてくれたんだもんね」

『龍二!、・・・ちゅき』

 シズクが胸をなでおろすのが感じ取れた。そんな時少し焦ったように新田が龍二とシズクに声をかける。

「いちゃいちゃはあとにしてくれないか、こいつは少しまずいかもしれん」

「まずいって、その黒いケモノのことっすか」

 龍二が黒い塊を指さしていった。黒いケモノはまだピクピクと動いていたが新田が手刀を抜くと同時に黒い霧になって霧散した。

「こいつは『影魚シャドウフィッシュ』。こいつらは周囲の光を餌に活動する。だからここは昼でも薄暗いんだ・・・もっと早くに気付いていれば。とりあえずこいつらが今回のタゲだとすると地下の砂波さんたちが心配だな」

 一人でブツブツつぶやく新田の頬に汗が伝う。龍二にもその状況がかなり危険だということが新田の焦り具合から理解できた。

「一体なにがそんなにやばいんですか?・・・それに光を食うだけなら今回の連続失踪とは関係ないんじゃ」

 新田が立ち上がり地下鉄のホームに視線を向ける。

「そのへんの話は移動しながらする。とにかく今は砂波さんたちと合流するぞ」

「は、はい」


 9時40分 新宿 新宿駅 地下2階

 

 暗い空間に銃声と光が同時に反響する。銃声は響くが銃から出る光は一瞬で闇に飲まれる。

「これは、ちとまずいかもね」

 砂波は顎から滴る汗を拭う。砂波たちは地下フロアの探索中2階に入った時強い鉄臭を感じ取った。足元には紅い水たまり。そこに絶え間なく紅い雫が滴る。

「うっ!?」

 兎市が銃口を床に向け嗚咽する。血の匂いにやられたか、積み上げられた喰いかけの人間の死体を見て吐き気に襲われたのかはわからないが確実に兎市に限界が近づいていた。

「少し下がって兎市さん!」

 金次が歪んだ顔を振り払い兎市の前に出て飛んでくる黒い塊を切り裂く。前方では砂波が日本刀のような刀で黒い塊と対峙していた。

 塊は数秒ごとに収縮と肥大化を繰り返し、収縮のタイミングで金次たちに塊の一部が襲いかかる。

「金次、兎市!少しずつ後退して1階への階段を目指すんだ少しでもここから離れて新田くんたち・・・いや、増援を呼んでくれ」

「で、でも、それでは砂波さんはどうするんですかっ!」

兎市が叫ぶ。

「俺はここで足止めする」

「そんな、・・・私もここに残りますっ!」 

兎市が叫ぶ。

「いいからいけっ!」

砂波の怒号が響き渡る。

「君たちに何ができるっ!ここにいても無駄死にするだけだ。それよりも早く上に知らせるんだこれは命令だ。・・・生きろよ」

「くっ」

「行こう、兎市さん」

金次と兎市は後ろを振り向いて走り出す。

 砂波がそれを見届けると刀を構え直す。

「こんなんになるんだったら、あの子達を連れてきたのは間違いだったかもな・・・俺ここで死ぬかも」

 砂波のそんな呟きも黒い塊の発する不気味な音にかき消される。




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