シスコンとブラコンの新たな日常
「ねえ、聞いた」
「何を・・・?」
「何って、例の噂だよ」
「噂?」
「そうそう、このあたりの駅のホームで影の中を泳ぐ魚が出るんだって。そして、人が多くなって来ると・・・わぁーーーーっ!!」
「きゃっ!?・・・てっ、驚かさないでよ」
「ごめんごめん、でも本当に人が消える事件も起きてるみたいだから気をつけなよ。それじゃね」
「うん、またね」
路地裏、それは昼間でも太陽の光が刺さないことで不気味に映る、それが夜になると路地裏の闇はその不気味さをより一層増してゆく。
そんな暗闇に少女が一人?・・・カクカクと上下に揺れる首、その体に生気はない。ぼとり、少女の体からぐちゃぐちゃになった肉片が落ちる。いき渡る紅色と血の匂いが路地裏の闇をより一層深く濃くしていく。
井沼 龍二は生まれてこの方、味わったことのないカオスに飲み込まれそうになっていた。
今朝まで自分が寝ていた布団。どこか懐かしい匂い。味わったたことのない至福の感触。
当然、龍二に人をだめにするクッションを買う趣味などはないので、なんとなく目を開けるに開けられな龍二は「う〜ん」と唸ることしかできなかった。
「んん、おはよう、龍二」
龍二の耳元でそうささやく声には聞き覚えがあった。昨日、脳内で聞いた声だった。
「ね、姉さん・・・おはよう。・・・ッ!?こ、ここここれは一体どんな状況なにょ?」
「『なにょ』って龍二ったら可愛い」
龍二は顔を乳房で挟まれた形でホールドされていたのだが、シズクはクスクス笑いながら龍二をより一層強く抱きしめた。
「く、くるぢい」
その、龍二の震えた声を聞いて、パッと、拘束を解いたシズクは一つあくびをしながら体を起こした。
「姉さん・・・その体!?」
龍二は、起き上がったシズクの体を見て思わず疑問符を口にした。
「ん、ああこれ。私達、ドラゴンは自らの表皮を自由に伸縮や硬化をできるの。獣器化されるときに削られて、もとの大きさには戻れないけど。人間の体になら戻れるのよ。・・・もちろん。獣器にも戻れるわよ」
と、シズクはネグリジェの胸元に手を当てて、ぐいっと・・・
「ちょ、ちょちょちょっ!?姉さんっ!」
「なによ?・・・そんな変なものを見るような目をして」
シズクはきょとんとした顔で首元に手をやって胸元の紋章を見せた。機械的な紋章は龍二の知るシズクの体にはなかったものだ。困惑する龍二にシズクは言った
「これはね、獣器化されるときにつけられるものなの、獣の本来の力を封じ込める物らしいのよ」
シズクは紋章を隠すようにしまうと、「さてと」と立ち上がると
「朝ごはんにしましょ」
「う、うん・・・」
龍二は朝から、久しぶりにあったはずの姉の勢いの凄さに困惑しなが、ハンガーにかけられた制服を眺めて自分の目的に疑問を持っていた。
『俺の目的、俺は姉さんを取り戻しに来た。でも・・・姉さんを取り戻した今の俺になにがあるんだ・・・』
「いやいや、これは仕事だ。俺だって今日から社会人の一人!社会のため人のためしっかり働きますよ」
龍二は首を振り、そんな邪念を振り払い。制服の袖に腕を通した。
ガチャ・・・
「ここ、どこ・・・?」
ガチャ・・・
「げ!・・・気絶男。あ〜知らないふり、見ないふり〜」
龍二は自室から外に出ると見慣れない廊下に出た。直後、隣の部屋から出できた少女が罵倒を飛ばし去ってゆく。
「辛口ポニー・・・?なんでここに?」
ガチャ・・・
「やあ、おはよう」
去っていく少女を見ていると、反対の部屋から金髪の少年が爽やかな朝の挨拶を飛ばしてくる。
「あ、ああ。おはよう」
ニコ。その爽やかな笑顔で笑いかけられた龍二は苦笑いで返した。そうすると少年は廊下の壁にかかる時計を見て、口を開く。
「ささ、早くしないと朝食始まっちゃうよ」
「お、おう。」
爽やかな少年と並んで階段を降りてゆく。壁には至るところに『時間厳守』『節電節水』などの今どきの四字熟語が、力強い字で書かれはられていた。
「この間はごめんね、あんなことしちゃって」
「あ、なんのことっすか」
「あ〜そうか、あのときはこうだったかな・・・」
そういうと少年は前髪をかきあげて、声を低くしていった。
「邪魔だぞ平民・・・みたいな」
「お、おおお!お前、昨日俺のことを蹴り飛ばしたやつか!?・・・でも、だいぶ雰囲気違うな」
龍二が驚くと、少年は苦笑いで口を開いた。
「あのときは、お父さんのお付きの人がいたし・・・家ではああいう感じで通しているから。ホントはあんなことするつもりはなかったんだ。・・・本当にごめん」
「あ〜、あやまんなよ。人には人の事情があるからな。そうやって本当こと話してくれたからもういいよ。
んで、お前名前は」
「な、なんで」
「なんでって・・・いつまでもお前じゃ面倒だろ。俺は井沼 龍二」
龍二は少年に手を差し出した。
「ば、僕は桜倉 金次。よろしく」
「ああ、よろしくな。金次」
「おっそーーーーい!」
龍二と金次は一階の厨房につくなりメガネで銀髪の男性に怒鳴られていた。
「あれほど、時間厳守といったのにッ!昨日顔を合わせていない井沼 龍二はともかく桜倉 金次きさま
はッ!」
グチグチと文句を垂れる男性は、「これだか最近の人間は」だの「規律がー」だの言っているが、龍二の耳には一切入ってなどいない。
「やあやあ、おはよう諸君」
そこに男性の罵声をかいくぐるようにように一人の男性が入ってくる。
「おはようございます。砂波さん」
「ああ、おはよう」
と先に、席についていた辛口ポニーが挨拶をする。
「なんだい、また新田くんは新人をいびっているのかい?」
「あいつらが悪いんですよ。食事に遅れてくるから。」
ははは、と笑う砂波は手をパンパンとたたき口を開いた。
「さあさあ、お話はそのくらいにして食事にしょうじゃないか。せっかくの料理が冷めてしまうよ?そうだろう、シズクちゃん」
「そうね。せっかく救った料理を最適なタイミングで食べないのは罪なことよ」
と鍋を持ったエプロン姿のシズクが顔を出した。
「は〜」とため息を付きバツが悪そうな顔で新田が席についた。続いて、龍二と金次も席につく。
「いや〜、今日の食事当番は僕だったんだけど、昨夜どうしてもってしずくちゃんに言われてさ。」
「聞いてませんよ・・・」
頭をかきながら遅刻の弁解を図ろうとする砂波の言葉を、新田が冷たくあしらう。ハハハと笑う砂波がぽんと手を叩き
「ささ、せっかくシズクちゃんが作ってくれたんだし、早く食べようか」
と手を合わせるように砂波は支持を出す。
「「「「「「いただきま〜す」」」」」」
龍二は感動した、もう何年ぶりだろうか?懐かしい姉の料理の味に涙をこぼした。シズクはあまり家では料理はしなかったという思い出がある。なので時々両親が外出する日のシズクの料理は貴重で嬉しかった。
金次を含めたその場の井沼家以外のものは一斉に箸を落とした。・・・目の前に置かれた料理は至って普通である、朝食としては申し分ない、白米に味噌汁 焼き魚とだし巻き卵と言った普通のメニューなのだ。
なのだが・・・
「な、なんなんですこの白米は!?・・・酸っぱいんですがっ」
「酢飯なんて、比にならないはっ」
「この魚なんで甘いんだ!?・・・綿飴レベルだぞ!?」
「味付け上のアクセントなんてレベルをこえてるはっ」
「極めつけは、この味噌汁だね・・・魚貝風の独特ななまぐささを表面に押し出した大胆な仕上がりだ」
「てか、単純に不味すぎ!」
怒涛の料理への批評に目をぱちくりさせるシズクは泣きそうな目で龍二を見つめる。
「りゅ〜う〜じ〜・・・うぅ」
「姉さんの料理は昔から万人受けしないんっすよね〜・・・おかげで両親からも料理禁止令を出されました。こんなに美味しいのに・・・」
「あんた、よくこれを平然と食べれるわね・・・」
と、辛口ポニーテールが龍二に冷たい目を向ける。
「失礼な、そうだな・・・この卵焼き、これなら口に合うと思いますよ」
そう言うと、龍二はだし巻き卵を差し出した。
「そ、そう!卵焼きは私の得意料理なんだからっ!」
元気になったシズクが胸を張る。
「この流れだときっととんでもない味なんだろうけど」
「卵焼きなんて材料的にしょっぱいか、甘いかの二択ですしね」
「これ以上は、さすがに・・・」
「「「「ぱくっ・・・」」」」
・・・
「「「「これは普通なのかよッ!!!!!!」」」」
そう、シズクの卵焼きは普通なのだ、不味くも美味くもないただ普通なのだ・・・。
朝食のひと悶着を終え、食器を流しに片付ける。もちろん龍二以外の皿には卵焼き以外はそのまま残っている。
「さて、食事も済んだとこで、自己紹介と初説明と行こうか」
そう砂波がいうと新田がホワイトボードを部屋の端から引っぱてきた。
「まずは、自己紹介からにしようか。・・・俺の名前は砂波 雄だよろしく。俺は一応ここ八番隊の福隊長をやっている」
次と支持を新田にだす
「新田 徹だ、よろしく。規則を守らない者は悪だ俺は悪を裁くためにここにいる!裁かれたくなけりゃ規則を守れ」
「まあまあ、新田くんはこんなんだけど初めて後輩が入ってきてちょっと緊張してるだけだから」
砂波は新田の前に割り込み場を和ませる。
「ホントは隊長ともう一人いるんだけど今はちょっと出払っててね。帰って来たら紹介するよ。・・・それじゃ新人くんたちの自己紹介をお願いしようかな。じゃあ、まずは君から」
砂波は金次の指名した。
「は、はい!僕は桜倉 金次です。よ、よろしくお願いします」
「よろしく〜。はい次」
そう言われ、辛口ポニーが立ち上がる
「私は、魔島 兎市です。よろしくお願いします」
「は〜い、よろしく〜。それじゃラストの二人」
龍二とシズクは立ち上がり体を砂波たちの方に向けた。
「井沼 龍二っす」
「井沼 シズクよ」
「よろしくお願いします」
「はい、よろしく。ということで質問タ〜イムッ!でも時間ないから一人一つまでね」
そう高らかに、砂波は宣言する。砂波は楽しそうにさあさあと、質問するように促す。
「は、はい」
「はいっ!金次くん」
「二人は姉弟なんですか?」
「そ、そうすっね」「相思相愛です」
「えっ!?」
驚きの声が金次の口から溢れる
「はい」
「はいっ!兎市ちゃん」
「二人の関係は?」
「関係・・・?」「私は龍二の獣器よ」
「えっ!?・・・人形の獣器?」
「獣器は獣器でも私はドラゴンだから人間の姿にもなれるのよ」
「えっ!?・・・ド、ドラゴン!?・・・そんなアレは絶滅したはず」
困惑する、兎市の思考を砂波が制止する。
「まあまあ、質問攻めにするのも可愛そうだし。そのくらいにね」
砂波はそう言うと真剣な顔つきで声色を変えて話し始めた。
「君たちにはこの世界の真実を知ってもらう・・・」