シスコンルーキー
「それが気に入ったみたいだな。新入りくん」
「はっ!?」
驚く龍二の後ろで笑みを浮かべる男性は、龍二のパイルバンカーに目を向けた。
「珍しいな、そのこにに認められたのかい?・・・ふっ、そうか。見つけたんだな『リンカー』を」
「リンカー?なんすかそれ?」
龍二は、うなずきながら自己完結している男に質問する。
「ん?あ、ああ。リンカーな。・・・リンカーってのは、その、君が手に持っている武器。それはここじゃ『獣器』と呼ばれている。その名の通り獣器は器だそいつらにはそれぞれ核となるケモノの魂が宿っている。いや植え付けられている。そのため獣器にはケモノの性格が色濃く出る。つまり、いくら適正とはいえケモノとの相性によっては使えないこともある。そしてリンカー、それはケモノと使用者の相性抜群てことだよ」
「は、はぁ」
長ったらしい説明に目をぱちくりさせる龍二にパイルバンカーが話しかける。
『つまり、私と龍二は運命でつながってるてことよ』
「ん?・・・今なんか言ったかい」
「姉さん、姉さんの声って他の人にも聞こえるの?」
龍二は小声でパイルバンカーに聴く。
『そうよ、だって私テレパシーみたいなものがつかえるもの』
「テレパシーみたいなものって、ずいぶんとアバウトな能力だね姉さん」
苦笑いを浮かべる龍二に困惑した形相で先程の男性が声を荒げて聞いてきた。
「まさか、その獣器が喋ってるのか?」
『ええ、そうよ。』
「ちょっ!姉さん・・・」
男性は驚きながらも、楽しそうな笑みを浮かべていた。そして男性は腕の時計を確認して「もうそろそろだな」と、言うと手を差し出し、口を開いた。
「俺は、砂波 雄。八番隊の副隊長をやっている。・・・しゃべる獣器は珍しいが事例がないわけではない。しかし、日本じゃ初めてでね、ぜひ研究させてくれ。えーっと・・・」
「龍二です。井沼 龍二」
『私は、龍二の姉の井沼 シズクよ』
そう、この龍二の姉と名乗るケモノの名はシズク。その正体は蒼龍種の一匹である。
「龍二くんに、シズクさんだね。よし覚えた。僕からも八番隊に推薦しておくよ。・・・おっと、もう時間だ。試験が始まるし、会場に戻ろうか」
さっき、おっさんの話を聞いた会場に戻ってくると、そこは椅子が撤去され闘技場のような施設が現れていた。
「ここさっきの会場だよな・・・トランスフォーム?」
「トランスフォームと言うよりこれが本当の姿だよ」
そう説明をくれる砂波は「じゃっ」と手を振り歩いていく。
「ちょっ!今から何するんですかー」
「ちょっとした、戦闘試験さ~」
「さ~、って・・・」
龍二は、ぐるりと周りを見渡してみる。そこには多種多様の武器を身に着けた少年少女たちがいた。物騒だなと龍二は思うも、自分の持つパイルバンカーにそんな思いもかき消されてしまう。
ドガーンッ。大きな爆砕音と共に地面が揺れる。
「な、何事!?」
「「始まったみいだぜ」」「「おお、誰からだ」」「「あいつだよ。あいつ、二丁拳銃の女」」
二丁拳銃の女・・・。朝の辛口ポニーガールのことか?
闘技場の中では腰に刀を下げた男性とポニーガールが睨み合っていた。
「さぁ、撃てっきなッ!」
「では、お言葉に甘えて」
ポニーガールは脇のホルスターから拳銃を抜き出すと前触れなく引き金を引いた。
それを男性は刀を抜き、放たれた弾丸を一瞬で弾き飛ばした。
「なっ!・・・嘘でしょ」
「遅いな、まだ磨ける・・・だが、試験には合格だッ!」
そう言うと男性は刀をさやに収めその場をあとにした。
「嘘だろ。俺、戦闘なんてやったことないぞ・・・」
『安心して龍二』
「姉さん?・・・でも俺喧嘩どころか体育の柔道なんかもだめなんだよ。安心しろって方が無理があるよ」
『大丈夫!私がしっかりアシストするから・・・私が守るから・・・』
「ん〜・・・」
龍二は頭をポリポリと頭を掻きながら、考え込んでしまった。
「俺、別に戦闘員として入社したわけじゃないんだけどな〜。・・・でもこの試験のおかげで姉さんを見つけられたわけだし、でも〜」
「次。井沼龍二!」
と試験監督が手に持っている冊子に目を通しながら龍二の名前を呼ぶ。
『ほらっ!龍二、グチグチ言ってないで呼ばれてるわよ!』
隆二は顔を振り、大きく深呼吸をして、
バチンッ!
両頬を思い切り敲くと右手を握り空に掲げ、大声で叫んだ。
「ガーーーーーーーーーーツッ!」
『が~つっ』
「遅いぞ、井沼龍二!」
「はっ、はいっ!すみませんでした」
龍二は背筋を伸ばし頭を下げた。
「わかればいいのだ。・・・これより行われるのは、貴様の配属先を左右する試験だ。くれぐれも手を抜かず、実力を出し切るように」
「はい!」
『は〜い』
「ん、なにか二人分の声が聞こえた気が・・・?」
「待ってたぞ、新入りッ!」
闘技場の中には先程、辛口ポニーガールを軽くあしらった男性が仁王立ちで立っていた。
男性の体は筋骨隆々で腕や足は細身ではない龍二の2倍は勇に超えていた。そんな巨体が腰に下げる刀は小さく見えてしまう。
「どうしたッ?キョトンとして。構えてみせろッ!」
「構えるって・・・」
『龍二、戦う意志を起こしなさい。そうすれば自動的に構えが取れるわ』
「戦う意志・・・。俺は姉さんを守るッッッッッッッッ!」
刹那。龍二の体が光を帯びる。光がやんだとき会場がざわついた。
「「あいつ、髪が」」「「体つきも・・・まるで女だぜ」」
「ッ!・・・リンカーかッ!」
そう、龍二の体は女体化していた。髪は淡い青の長髪。胸は出て。男の証は消え失せた。
「な、何よこれ〜!てっ、口調も女になってる〜?」
『落ち着きなさい龍二、これはあなたの戦闘フォーム。あなたが深層心理に思い描いた、あなたが一番強いと思う存在よ。まさかそれが私とは思わなかったけど・・・』
「どうしたッ!獣器を使ったときに身なりが変わることなんてザラにある。・・・さっ、来ないならこちらからッ!」
男性は刀を抜き突っ込んでくる。龍二はとっさにその場を離れようと足を踏み出した瞬間、体に浮遊感を感じた。・・・そう、彼は飛んでいた。空高く、5メートルはあろうかという闘技場の壁を超えるほど高く。
「な、なんで〜」
『ごめんなさい、龍二。加減をミスったは』
「ミスるにしても限度があるでしょ〜」
『気道を変えて、奇襲をかけるわ!龍二、パイルバンカーの先を背中に向けて。』
「へ・・・」
龍二が手を背中に向けた瞬間。ドシュンッ、と鈍い音とともに両腕に衝撃が走る。
刹那、龍二の体が地面に急接近する。
『龍二!このまま一発カマスわ。拳を握ってッ!』
「ンッ!」
龍二は飛びそうな意識の中、拳を握る。すると脳裏に一つの言葉がよぎる、気づかぬうちに龍二はその言葉を叫んでいた。
『「バーストッッッッッッッッ!」』
皆さん、作用反作用とはご存知でしょうか。力を加えるとき力を加える側にも力が加わる法則。
そう、龍二はパイルバンカーの起こす力に耐えられず押し返され壁にめり込んだのだった。
「素晴らしいッ!私をこのフォームにするとはッ!合格だッ!」
「今季の新人は逸材だらけだね〜」
「ええ、とても興味深いですね。特にあのリンカーの少年。名前は確か・・・」
「井沼龍二ッ!素晴らしい逸材だッ。この私を第二形態にした新人は彼が二人目だッ!」
「第二形態って。ただ裸になっただけじゃないっ、お下劣だわぁ」
「にしし。で、誰が彼を貰い受けるんだい」
「俺が、貰い受けよう。彼はこの世界の救世主やもしれん、いいですよね」
「砂波さんがそう言うなら我々に反論の余地なんてありませんね」
「にっし、砂波ニイのゆうことなら仕方ないね」
「われも同意だッ!」
「かまわないわぁ」