5 急転
僕は項垂れていた。
実質魔法が使えないのと同じとはなかなかショックだ。
たいてい事はなんとかなるんじゃないのかよ女神様よ。
「ま、まぁ気を落とさないでくださいリョウジ様
あ! ほら焼き菓子が売ってますよ!」
お嬢様の指差す先には露天でクッキーのようなものが売っていた。
「はい、どうぞ」
焼き菓子を受け取りパクリと食べる。
クッキーとはやはり違う味だが美味いには美味い。
お嬢様ももしゃもしゃと焼き菓子を食べる
そして何かに気づいたように
「リョウジ様、ほっぺについてますよっ」
僕の頬から焼き菓子のかけらを取りパクリと食べるお嬢様。
しかし次の瞬間顔が一気に赤くなる。
「はわ。はわわわわわ」
うーんかわいい。やっぱり僕はロリコンでいいや。
「おうおうおうねぇちゃん人にぶつかっといてその態度は何だこらぁ!」
僕が悦に浸っていると通りから大きな声が聞こえる。
「何言うとんねん! あんたからぶつかってきたんやないか!
あんたが謝るんが筋ちゃうんか!」
おお、巨漢の男に向かって一歩も引かないぞあの子。
茶髪のショートカットを揺らし声を張り上げる。
服装を見るに商人だろうか。
「このアマぁ!」
「ぎゃあああああああ! おーそーわーれーるー!
みなさーん! 暴漢が女の子を襲ってますよー! たーすーけーてー!」
いい度胸だあの子。
お嬢様も心配そうに見てるし助けに行きますか。
「あのー女の子にそんなことしちゃダメですよー」
「なんだてめぇ関係ぇねぇだろうが!」
いきなりパンチをしてくる男。僕の腹を直撃し僕はうずくまる。
「けっ、雑魚はすっこんでな」
スキル発動 回復 剛力
僕は立ち上がりニコっと笑う。
「正当防衛成立ぅ!」
顎に一発きついのをお見舞いする。男はフラフラと倒れ動かなくなった。
……死んでないよな?
女の子がパチパチと手をたたきながら近づいてきた。
「いやー兄ちゃん強いなぁ。ほんま助かったで」
僕の手を掴みブンブンと握手をする。
言葉が関西弁に翻訳されるということは別の地方の人なのだろうか。
こちらの人より少し浅黒い肌の色をしている。
「ウチはアイシャ。商人をやっとるんやで。
まったくちょーっと出張すればこれや、これだからこっちの地方は嫌なんや」
手を組み顔をしかめるアイシャ。
それを見ているとお嬢様が僕の体を抱きしめた。
「リョウジ様! 大丈夫ですか!? すぐに私の魔法で治してあげますからね」
「なんや妹さん……ちゅうわけやないな。え、もしかして兄ちゃんロリコンかいな」
否定したいがお嬢様を見ていると否定できない。
うむ、動揺している顔もかわいい。
「し、失礼な! リョウジ様は私の……そ、その」
「雇い主だよ」
そう言うとお嬢様はなぜか不機嫌そうな顔になった。
んん? なんでだ?
「さて、ほんじゃウチはそろそろ行くわ。
これお礼に受け取ってや」
ポンと小さなものを手渡される。
「これは……ロケットペンダントか」
「せや、兄ちゃんが気になる子ができたら渡すとええで。
ほな!」
アイシャはそうして立ち去っていった。
嵐のような子だったな。
ん?
お嬢様が服を引っ張り笑顔で僕のことを見る。
僕は意味もわからず笑い返すがいずれぷいっとそっぽを向いてしまった。
むぅ、今日のお嬢様はなにかおかしい。
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夕方になり僕らは帰路についた。
アイシャとの1件のあとお嬢様はご機嫌斜めだったようだが、しばらく街を回っているとそれも解消されたようだ。
僕らは馬車に揺られ道をゆく。
「リョウジ様。今日はありがとうございました」
「僕の方こそありがとうございました。おかげで魔力適性が一応あるってことがわかりましたから」
指先からぽっと火を出す。適正レベルが低すぎるせいか道具を使わなくても魔法を使えるようになってしまった。
「うふふ、かわいい炎……きゃっ!?」
馬車が急停止した。僕はお嬢様を抱きとめると急いで外に出る。
「……」
三人の男が馬に乗って道を塞いでいた。
明らかに敵意を持ってこちらを見ている。
戦うか? だが下手に動くとお嬢様と行者さんが危ない。
「ガキ以外は殺しちまえ」
目的はお嬢様か!
短剣を取り出し迫ってくる男たち。
「行者さん! お嬢様を連れて街に戻って!」
馬車が急発進する。
男たちは僕を無視して馬車を追う。
ああそうかい。僕なんぞ相手にしてる暇はないってか。
スキル発動 疾走
僕は男たちを追い疾走りだした。
くそっ……差が縮まらない! このままじゃ馬車に追いつかれる!
なにか他に使えるスキルは……これだ!
スキル発動 跳躍
足に力を込めて僕は跳ぶ。疾走と組み合わせたそれは馬のスピードを超え一気に男たちに追いついた。
「お嬢様には近づかせない。誰だか知らんが後悔しろ」
スキル発動 剛力
最後尾の男の頭を掴み馬から引きずり下ろす。男は叫び声とともに後方へと落ちていった。
全身の骨が砕けたかもしれないが自業自得だ。
その様子を見て男たちが止まった。
どうやら僕に敵意を向けてくれたようだ。
「まずこいつだ。ガキは焦るこたぁねぇ」
どういうことだ?
普通なら一人を足止めに、もうひとりはお嬢様たちを追うはず……
「まだ仲間がいるのか!」
僕は気づくと同時に男たちを仕留めようとスキルを発動しようとした。
その瞬間
「スペル発動 呪縛」
地面から黒い鎖が何本も飛び出し僕の体を拘束する。
魔法か!
「こいつは力じゃどうにもならんぜ兄ちゃん」
男たちは馬から降り短剣をちらつかせ僕に迫ってくる。
「邪魔してくれた礼はきっちりしてやるからなぁ」