チュートリアル その1
一旦ログアウトしてきました。
少し調べたところ、どうやら外部のテキストメモやメール類をゲーム中で確認できるようなので、フレンドコードをメモから確認できるようにして再ログイン。これで忘れても大丈夫。
それとは別に、ゲーム中の機能としてフレンドにメッセージを送れるらしいので、フレンド申請した後はこれで連絡を取り合えばいいだろうか。
気を取り直してチュートリアルに進もう。
今度は視界がブラックアウト。少しの浮遊感の後、背中に硬いものが押し付けられる感触と瞼越しに照らす光を感じた。微かな木の匂い、どうやら固いベッドのようなものに寝かされているらしい。
目をゆっくり開くと、ログハウスのような、丸太の天井、丸太の梁が目に入った。天井近くで開け放たれた窓からは十分な光が差し込んでおり、今は梁から吊られたランプに灯は点っていない。上体を起こすと、
「ようこそ新入り君!」
「うひゃあ!?」
横から声がかけられた。ニッと笑った声の主はキラリと光る白い歯と金髪碧眼が眩しい美丈夫。はち切れんばかりの筋肉と、それを包むも隠し切れない厚手の革鎧に目を引かれる一方、それに反するような白磁の素肌と尖った長い耳が彼の存在を謎めかせている。
まだ心臓から驚きが抜けきらなぬまま、土間のような床に立つ。
続く自己紹介に曰く、彼の名前はブレノン。エルフの魔法戦士で、得意武器は片手剣、らしい。
一般的なファンタジー系RPGにおいて、エルフは魔法関係に優れるステータスを持っていて、物理面はそれほど、というのが定番ではあるのだが……
「意外かもしれないだろうが僕は魔法より剣術が得意でね。エルフにしては変わってるってよく言われるんだけどね?」
さもありなん以外の言葉が出てこないよ!なお、一般的なエルフはもっと華奢で、狩人や魔術師になることが多いとのこと。よかった、俺のエルフのイメージは守られた。
さて、チュートリアル最初の項目はメニューウィンドウの開きと言っても、基本的には強く念じるだけ。上手くいかない場合は「メニューオープン!」とでも叫べば確実に手元にポップアップしてくるそうだ。そうして開いたメインメニューから、ステータスや装備品などの個別ウィンドウを開くことができるのだ。
ウィンドウは上下左右、結構自由に動かせるほか、任意の相手プレイヤーに自分のウィンドウの閲覧許可を与えることで、自分のウィンドウを相手に見せられるようだ。
そのほか便利そうな所では、念じ方を工夫すると個別ウィンドウを直に開くことができた。複数のウィンドウを開くことも出来たが……ううむ、開きすぎると邪魔になるか。
以上のことをブレノン氏から教わりつつ、色々メニューウィンドウで遊んでみた。くるくる回してみたり、ドミノ倒しもどきをしてみたり。なかなかの奇行だとは思ったが、あくまで氏はNPCであるようで閲覧許可を与えることが出来なかった。
コホン、と氏の咳払いを挟み、では次はアイテムと装備についてだ、とチュートリアルが進行する。
このゲームでは、システムによる個人アイテムボックスが採用されている。簡潔に言うと、見えないアイテム袋があらかじめ個々人に用意されているといった所か。
容量自体は無制限ではあるものの、所有権が自分に無いアイテムは回収できないとのこと。例を挙げるとすれば、借り物とか盗品、クエストで持ち運ばないといけない届け物などだ。
「まずは、これを君のアイテムボックスに入れてみよう。やり方は簡単。何処でも良いからしっかり掴んで、回収と念じるんだ。」
そう言って用意されたのは、木の机の上に置かれた、折り畳まれた帆布のような物。それを掴ん
……足先でつまみ上げ、回収。
「うむ!無事に回収出来たようだね。ではそれが何なのか、アイテムボックスをメニューから確認してみてくれ。」
メニューからアイテム欄を開く。
まっさらなウィンドウの最上段に、〈手作りの冒険者服〉が収まっていた。詳細をさらに開いてみると、
〈手作りの冒険者服〉
エルフが手縫いで仕上げた厚手の麻の服。
VIT +5 物理防御 +2
手縫い?そうっとアイテム詳細画面をずらすと、ブレノン氏の非情に良い笑顔が見えた。親指を立ててるし。ウインクとかしてるし。
ともかく、次はこれを装備しなければならない。
まずメニューから装備欄を開き、装備追加で冒険者服を選択。もしくは、先程のアイテム詳細画面から装備を選択。
装備してみると、一瞬の光と共に服が着せられた。
長ズボンと半袖シャツのようだ。体形にフィットしているが過度に締め付けられている感覚は無く、着心地は悪くない。
ちなみに装備時にオートフィッティング……つまり、装備品を自動的に体形に合わせてくれる機能がデフォルトでついている。注意しなければならないのは、オートフィッティングの度合いが一定以上になると、装備品の性能に減衰がかかることだとブレノン氏は注釈する。
体をいくらか動かしてみると、着心地は如何かな、と尋ねられた。悪くないです、と返答すると、そうか、と笑顔が咲いた。