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キャラ作成

 目の前が暗くなると同時に、浮遊感が体を包む。次いでメーカーのロゴと、ゲームプレイ上の注意書きが眼前に表示され、タイトル画面に移った。赤く刺々しい字体のゲーム名の向こう側に、舞台となるレーヴァテラスの風景が流れる。森林、農村、山岳、洞窟、そしてちっぽけな王城。この風景の中に、これから歩を進めるわけである。まあそんな感傷はそこまでにしておいて、ニューゲームを選択。このあたりの選択と決定の操作は意識を向けることで行うが、IBISを使っていれば別にいつも通りの操作である。


 やがて風景がホワイトアウトし、グリッド線の走る白い空間に切り替わった。白い空間の中央には全裸の自分の姿が浮かんでいる。現実で鏡を見たのに比べると大分美形になってはいる感じがするが、これがデフォルトの自キャラの姿、アバターなのだろう。

 さて、ここからがキャラ作成の始まりである。まずはキャラの種族と性別、異形度を設定する。種族にはファンタジーの定番であるエルフやドワーフの他、ゴブリンやオーク、リザードマンなどの敵キャラめいた種族、巨人のジャイアントや下半身が蜘蛛のアラクネまで、二十は軽く超える種類の選択肢が存在するようだ。

 異形度は0から100まで設定できるが、これはキャラの外見に影響するようで、種族と異形度を変える度にアバターの姿が変化した。例えばウェアウルフの場合、異形度10程度だと単なるイヌミミ人間だが、100にすると完全にオオカミの顔になる。なお、異形度が高いと全身の体毛もオオカミのそれになるが、大事な部分は0でも毛で隠れるようだ。

 性別が変更できることは意外だったが、事前情報によれば性的なことは出来ない仕様らしいし、万が一の時の運営への緊急連絡であるGMコールでの対応も迅速と聞いている。逆に言ってしまえば、目の前の女性PCが中身まで女性とは限らないということだから、逆に問題ないのかもしれない。同性間のセクハラだってあるしな。


 熟慮の末、種族はハーピィ、異形度90で女性キャラにすることに決めた。異形度の影響する点は主に腕と脚で、90だと腕は完全に鳥の翼、膝下が5本指の鳥の脚になる。そして太ももが羽毛でなく地肌である点が異形度100と異なる点だ。いいじゃないか女性PC。可愛いは正義って昔の偉い人が言ってた。

 種族の初期選択は開始時のステータスに影響する他、その種族の心・技・体の3つのフィートが得られる。これがどうも今後の成長やプレイスタイルにも影響するらしいが、まあ、やれるようにやるだけだ。


 種族を決定した後は、詳細な容姿の設定である。目や髪の色から筋肉や脂肪のつきかたまで様々パラメータがあったが、デフォルトで割合美化されているのだから、大して弄らなくてもいいだろう。最終的に色だけいじり、緑眼緑髪のショートヘア、そこそこのスレンダー体型に落ち着いた。顔は、少し大人しめの雰囲気があるが、可愛いといって差し支え無いレベルではないか。また、羽の色が個別で設定できたので、表が鶯色、裏を白にした。

 そして最後に、キャラクター名の設定。いくつか候補はあったが、『ロッカ』がかぶり無しで通ったのでそれにしよう。


 最終決定の確認メッセージに答えると、視界が自動的に動き、アバターの目に重なると同時に体に重力が戻る感覚がした。

 首を動かし、足を動かし、大きく伸びをする。足の親指と小指が後ろ向きに付いてる点と、常につま先立ちになっている点が大きな違和感ではあるが、それもじきに慣れるだろう。

 しばらく走ったり、ジャンプしたり、キックの練習をしたりしていると、ポン、と可愛らしい音が聞こえた。音のした方へ振り向くと、薄い煙の中から黒に赤い裏地のマントと、同じく黒のシルクハットを身につけた熊のぬいぐるみが現れていた。


「ようこそ、新しい冒険者さん!」


 少年のような声質で、ぬいぐるみが歓迎の声を上げる。大げさに掲げられた手には黒いステッキが握られており、喜色満面なその声色に反してその毛糸の顔とガラス玉のような瞳には表情が見えない。

 彼はウル君といい、ゲームのマスコットキャラクターである。ついでにどこかの王女様の使い魔という設定もあるが、今は関係ない。


「まず、あなたの名前を教えてくれますか?」

「ロッカです」


 そういえば声の設定項目は無かったと今更気づいたが、自動で女性の声になっていた。セーフ。


「なるほど、可愛い名前ですね。ではロッカさん。あなたはレーヴァテラスの歴史をご存じですか?」


 いかにもウキウキしていますというような声でウル君が語り出す。さらに大仰なお辞儀まで加わり、さながら歌劇の役者のようだ。レーヴァテラスの歴史は攻略サイトなどにも載っていて、ここで改めて聞く必要も無いのだが……


「いいえ」

「ではご説明しましょう!」


 聞いたら何か貰えないかな程度の軽い気持ちを込めた返答に、ウル君が声を一段と弾ませ、身振り手振りもさらに大きくなる。ここまでテンションの高い人形、初めて見たよ。

 次いでウル君がステッキを一振りすると、周囲の景色が遺跡の壁画を思わせるものに変化した。天井にはランタンがいくつも吊り下げられ、地面の感触も踏み固められ乾いた土のそれになっている。


「それは今から遠い昔のことです。このレーヴァテラスの地は魔王様が治めておりました。」


 そしてウル君は低く、迫力のある声で語り始めた、つもりなのだろうが。悲しいかな、ウキウキ感が隠し切れておらず、ただ愛くるしいだけである。

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