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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第33話N 小悪魔のささやきなのじゃ

 ドラゴン肉を食べて驚いた二人だが、過去に仲間達と一緒に下級のドラゴンなら倒したことがあるそうだ。しかし激闘の末の討伐であったため、美味しいとは聞いていたものの食べられそうな部位など残っていなかったという。

 もったいない。


 さて腹も膨れたことだし、久しぶりの風呂を楽しむことにしよう。

 ジルとミーシャや子供達は体を洗って着替えさせる程度にしようと思っていたが、ドラゴン肉のおかげかゆっくり眠ったおかげかわからないが、全員元気な様子であるため問題は無いだろう。


「寝る前に風呂にでも入って体を綺麗にするとよいのじゃ。ジルはアルトとダグに案内してもらうとよい」

「ナナ様そのぉ、申し訳ないのですが、ワタシ男の人に肌を見せるのはちょっとぉ……」

「……はい?」


 恥ずかしげに体をくねくねと動かす巨漢男性というのも、なかなか衝撃的な光景である。


「そのぉ、ワタシ身体は男性ですが、心は乙女ですのよぉ」

「ジルはいつもあたしらと一緒に水浴びもしてたにゃ、にゃかみ(中身)は完全におんにゃ(女)にゃ」


 ジルとミーシャの話を聞くと、どうも生まれつきの性同一障害だったようだ。そのせいで幼少期から酷い虐めを受ける事が多く、負けないために強く生きようとしていたら、今の肉体美が出来上がってしまったという。

 そして魔術の適性が高かったことから筋肉魔術士になったが、本当は戦うことも嫌いだという。


 何処かで聞いた話だ。


「ジル、おぬし気に入ったのじゃ。一緒に風呂へ行くぞ!」

「え、あの、よろしいのですか? ワタシ、最後に一人でも構いませんのよぉ」

「構わん! アメリー、コリンナはどうじゃ? 嫌か? リオ、セレスは後から入っても良いぞ?」


 お風呂ってなあに、と聞く森人姉妹に湯浴みの豪華版だと言うと、元気に「入る!」と返事が返ってきた。リオとセレスも問題ないと言うので、ミーシャも含めた七人でお風呂へ入る。

 ジルは女性達を性的な目で見ることは一切なく、むしろ最もいやらしい目をしているのは自分とセレスであることに気付いてしまい、少しだけ胸が痛い。とはいえアメリーとコリンナを見るセレスの目よりはマシだと思いたい。

 気を取り直してセレスから守るようにアメリーとコリンナの身体を洗ってやり、また二人に洗って貰い、しっかりと股間を隠したジルの髭をスライム体で剃って髪も整えてやる。

 ミーシャは短毛種系の長い尻尾があったため丹念にブラッシングしてやると、ニースのように崩れ落ちるまでは行かなかったものの、相当気持ち良さそうにしていた。


 風呂上りは森人姉妹に自分の下着の予備を着せ、二人を寝かしつけてから食堂へ行く。


 今日は酒を飲みながら、ジルといろいろ話してみたい。旨い酒が飲めそうだ。




「え……ナナ様も同じですのぉ?」

「そうじゃ、わしは病気に負けぬよう、心と体を鍛えるため格闘技を習っておった。そして戦うより、お菓子作りや服やぬいぐるみを作っておる方が好きなのじゃ」

「まあ……そうでしたのぉ」


 ジルとミーシャ、そして四人の側近とともに、木の実と干し肉をつまみに酒を飲む。わっしーで外に出ている時は飲んでいないため、久々の至福のひとときである。


「それとな……わしは以前、男性じゃった」

「「え?」」


 ジルの事が他人事に思えず力になりたいと思っていたのだが、そのせいか自分が以前男性だったことを何の抵抗もなく話してしまった。

 絶句するジルとミーシャに、元人間だったこと、義体という今の体のことを話す。

 しかし義体の元となった二人の復讐のためヴァンを追い、その戦闘中にミーシャに邪魔されたことを話すと、それまで真剣な顔で聞いていた二人の顔が途端に青くなった。


「そ、そんな事とは露知らずぅ、ワタシ達はなんとお詫びすれば……」

「ごめんなさいにゃ、あたしが早とちりしたのが全部悪いにゃ……」

「もう良いと言うておろうに。それよりジルとミーシャの事を聞かせるのじゃ」



 二人が暮らしていたフォルカヌス神皇国は、神皇と呼ばれる王を崇める歴史ある国であった。しかしそれは過去形で、今は四大貴族という者達が幅を利かせているらしい。

 ジル達の所属する傭兵団の団長レーネハイトが、その四大貴族から魔王を倒して魔獣操者の杖を持ち帰るよう命令を受け、仕方なく遠路はるばるジルの転移魔術でちまちまと跳んできたそうだ。

 しかし任務は失敗、ジルが重度の魔力枯渇によって魔術が使えなくなり、しばらく森人族の集落で匿われていたという。

 戦闘不能のジルを森人族の集落に預け、一年かけて皇国との国境都市に到着し、密出国が失敗したためやむを得ず強行突破しようとして、プロセニアの軍と大きな戦闘になってしまう。

 何とかレーネハイトだけは国境の向こうに送り出すことはできたが、その戦いでペトラが左腕を失い、二人の仲間の命が失われ、ミーシャは重症のペトラを担いでかろうじて逃げ延びたそうだ。

 しかし非野人族の二人が潜伏可能な場所はなく、ジルの匿われている集落まで命からがら戻ってきたのだが、間もなく奴隷狩りの襲撃に遭遇して現在に至るという。

 しかしまあ、無茶を幾重も重ねたものだ。特にペトラとやらはよく生き延びたものである。


 他にも、ジルはレーネハイトに『肉体の性別が何であろうと魂が女なら乙女を名乗って何が悪い』という言葉を受け、女性のみで構成された傭兵団『風の乙女』の副団長に就いていたことや、ミーシャは虎獣人族の中でも特に小柄なせいで部族から爪弾きにされていたという話、そして『猫』の存在についても話を聞いた。

 どうやら皇国のあるイルム大陸南部の砂漠に、猫と猫獣人族がいるらしい。もしかしたらスナネコじゃないかな。見に行きたいなー。


 あとはそのままアルトがジル達からいろいろ聞き出しており、おかげでティニオン王国と他国の、貴族の持つ権力の違いについても知ることができた。

 例えば皇国をはじめ一般的な国の土地や地域は、貴族が国家元首から拝領し一族で治めるものらしい。やはりおかしいのはティニオン王国だけか。

 とはいえその皇国は、四大貴族それぞれが治める領地が皇都を囲む位置にあるため、神皇は自分の身を守るため四大貴族の言いなりだそうだ。ティニオンが貴族に領地を与えなかったのは、恐らくこのような事態を避けるためなのだろう。

 あとは領地持ちの貴族は小国家の王様みたいなもので、自身の治める土地で好き勝手なルールを作っては、国の命令に従わないことも多々あるそうだ。


 やっぱり貴族は面倒くさい。プディング魔王国では貴族制度自体無しにしたいものだが、その辺アルトやリューンに丸投げしてるから放っておこう。


 ジルとミーシャの話が皇国に住む種族についての話に差し掛かったとき、ヨーゼフが静かに近付いてきて一礼した。


「マスター・ナナ。ペトラ様がお目覚めになりました。現在マリエルが介助し食事を取らせております」

「わかったのじゃ。ジル、ミーシャ、行ってやるとよい。仲間の顔を見れば安心するじゃろう、少ししたらわしも様子を見に行くでの」


 喜色を浮かべた顔で頭を下げ、ジルとミーシャの二人がヨーゼフに連れられてペトラの部屋へ向かった。その後姿が完全に消えた頃、アルトがこちらへと視線を向けた。


「ナナさん、あの三人は今度どうするおつもりですか? ジルは魔力枯渇の後遺症によって、魔術師としての復帰は無理でしょう。もちろん両腕を失ったペトラも、戦士としての復帰は無理です。皇国へ連れて行って置いてきますか?」

「薄情なことを言うのう、アルト」


 だがそのアルトは、ニコニコと上機嫌な顔をこちらに向けている。どうせプディング魔王国で面倒を見ると自分が言い出すと思っているのだろう。少し癪に障るので、アルトの予想の上を行く回答が無いか考えてみる。

 ……一つ、見つけた。


「道は示してやるつもりじゃ。その上でどの道を歩むかは、あやつら自身が決めることじゃよ」




 ペトラの食事が終わった頃を見計らいリオとセレスを伴って部屋を訪問すると、ペトラはジルの手を借りて慌てて立ち上がり、随分と血色の良くなった顔をこちらに向けてすぐ頭を下げた。


「ナナ様! ボクの命まで救って頂きありがとうございました! それにこんな美味しいもの、食べたことないです!! そして以前の無礼について、本当にごめんなさい!!」

「おお、思ったより元気そうじゃの。じゃが無理するでない、おとなしく座っておれ。過去の件はもう気にせずとも良い、ミーシャを蹴り飛ばしてスッキリしたからのう」


 思ったよりも元気そうで安堵したが、ジルの話によるとマリエルがスープを食べさせ始めて間もなく、どんどん目に見えて元気になっていき、カットステーキを食べる頃には完全にいつもの元気を取り戻していたそうだ。もしかしてドラゴン肉の効能だろうか。ここまで急激に効果が出るとなれば、逆に副作用は無いかと不安になる。

 今は時間も遅いことだしさっさと本題を話し、念のため早めに休ませてやろう。


「傷は痛むかのう? 右腕は回収してあるでのう、望むならくっつけてやることも可能じゃぞ」

「……え? ボクの右腕、治るの?」


 ジルやミーシャ、ペトラの表情を見るに、欠損部位の接続は相当高位な治療魔術なのだろうか。しかし今自分がやろうとしていることはそれじゃない。


「ただくっつけるだけなら簡単じゃよ。しかしの、そこで相談があるのじゃ。ペトラよ、わしの施術の実験台になる気は無いかの? 施術内容は両腕部の強化再生じゃ」

「強化、再生? ……両腕!? 左腕も治せるの!?」

「そうじゃ。両肩から先を魔物の骨と筋肉に入れ替えることで、両腕を手に入れるだけではなく高い腕力も得られるじゃろう。しかしどんな副作用が出るかわからんからの、万全は期するつもりじゃがよく考えて答えを出すのじゃ」


 ペトラはぽかーんと口を開け、真っ黒な瞳が収まる目を大きく見開いて固まっていた。それを放置し、今度はジルの方を見る。


「ジル、おぬしもじゃ。実験台になる気は無いか? おぬしの施術内容は……肉体の性転換じゃ。女性の身体は欲しくないかのう?」

「ワタシの身体を、女性に……ですか? え、ええとそのぉ、とても魅力的な提案ですが……施術とはいったいどのような?」

「そうじゃのう、見せた方が早いじゃろ」


 義体頭上からスライム体を床に降ろし、義体がすっぽり入るくらいまで体積を増加させる。いい機会なのでついでに作っておこうと、今回は中型短毛種の、メスの白猫とオスの黒猫を作り出す。

 猫たちはスライム体から出すと、喉を鳴らしながら足に頭突きをしてきた。ほほう、撫でろということだな、いいだろう。


「白猫はカピ、黒猫はジョーじゃ。おーよしよしいいこじゃのう、いい毛並みじゃのう、肉球柔らかいのう、えへへえへえへへへへ……はっ!?」


 我に返るとジルたちは愕然とした顔をこちらに向けて固まっている。どうやら自分の奇行ではなく、猫のほうに視線が向いているようだ。セーフ。

 こほん、と咳払いして猫を撫でるのやめて立ち上がる。


「この猫はゴーレムじゃ。しかし先日別の個体が妊娠・出産しておるゆえ、生殖機能も問題無いことが判明しておる。経過を見ぬことにはなんとも言えぬが、ゴーレムの子といえど普通の生命体のようじゃった。それとおぬしらの世話をしたマリエルとヨーゼフ、あの二体もわしの作ったゴーレムじゃ。ジルとミーシャには話したが、おぬしらの目の前におるわしの身体もそうじゃ」


 そこに自分のスライム体で取り込んだものを再構築して肉体を作る、自身の能力についても説明を重ねる。三人とも混乱気味な顔で固まっている、それもそうだろう。

 やがて二人のみならずミーシャまで考え込み始めたのを見て頃合かと判断し、リオとセレスに猫を一匹ずつ抱っこさせて部屋の出口へ向かう。


「よいか、どんな副作用や弊害が出るかわからぬからこその人体実験なのじゃ。とはいえ実験を拒んだとしても、明日にはペトラの右肩はくっつけてやるでの、安心すると良い。では今夜一晩、ゆっくり考えると良いのじゃ。」


 苦悩の表情を浮かべるジル達三人を残して部屋を後にする。


 それにしても、もし対価として魂でも要求していれば、完全に悪魔と取り引きでもするような話である。


 さて、二人は何と返事をすることやら。

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