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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第29話N 蹴り飛ばしに行くのじゃ

 旧小都市国家郡の瘴気の浄化を開始してから一ヶ月以上の時が流れた頃、あとは小都市国家郡の中で最も北西にあった、バイアロンという都市跡周辺の浄化を残すのみとなっていた。

 この間特に問題なども無く、ダグが魔物を狩りに地上に降りたり、アルトがちょくちょくゲートゴーレムを使って席を外す以外は、ほぼ四人だけでの行動であった。


 瘴気の濃度は世界樹から離れるほどに濃くなっていき、どうやら世界樹による浄化が追いついていないようで、外側から徐々に瘴気が侵食している状況であった。これではいつか浄化能力の限界を超え、この大陸全土が瘴気に飲み込まれていたかもしれない。

 またわっしーでの移動では、周囲に光魔術と空間魔術を組み合わせて作った光迷彩魔術を張り、念のために飛んでいても目立たないようにしていた。

 これは周辺の光を空間魔術で屈折させ、術で包んだ対象が透けて見えるように錯覚させる魔術で、アルトが必死に覚えようとしていた。覗きに使ったら体の一部をピンポイントで潰すことを示唆しておくと、顔を真っ青にして何度も首を横に振っていた。


 この一ヶ月と少しの間、移動しながら瘴気の吸収を行いつつ、通信魔道具による会議に参加して法律関係と軍の編成関係に多少口を出しすと、あとはアルトに丸投げした。

 旧小都市国家群の北方まで行くと、そこは五月になっても雪の多く残る地域で、向こうの世界でも見られたペンギンや白熊やアザラシに酷似した、見た目は可愛い外見の生物達が生息していた。

 ただ、その巨大ペンギンは人より大きくて鋭いくちばしを使って氷を易々と砕いていたし、巨大な白熊は鋭い爪で巨大ペンギンを切り裂いていたし、手足の短いアザラシは目を疑うほどの巨体で白熊を押しつぶしていたため、癒されたかどうかは微妙なところである。


 また、バイアロンまでの大半の瘴気を吸収し終わった現在、12センチ球融合魔石が3つも使えるようになっていた。小振りな魔石をキューに融合させて一まとめにした融合魔石だが、一度外部から魔素を充填させないと使用可能な状態にならないのだ。

 そのうち何かに使うだろうと空間庫にしまい、最後となるバイアロン周辺の瘴気浄化を終えると、休憩がてらバイアロン近郊の平原にわっしーを降ろした。


 側近の四人と違ってトイレの必要が無いため、地面に降りたのは久しぶりである。



「人の気配も無いことじゃし、ついでにドラゴンの吸収もしておこうかのう。もうしばらく待って欲しいのじゃ」


 そう言って四人の承諾を得て、バイアロンの崩れた防壁前の平原にわっしーを降ろす。

 そこで空間庫から中級ドラゴン、下級ドラゴン一体、鋭い角の鹿、巨大カマキリや巨大イノシシ等々を取り出し、いい機会だからとスライム体も一度全て出してみることにする。


 しかしこのスライム体、我ながらでたらめな量が出てきてしまい、徐々に頬が引き攣っていくのがわかる。


「これ、もう少しがんばりゃ小さな集落くらい飲み込めるんじゃねぇか?」

「……その方向にがんばる気は無いのじゃ」


「これが全部、ナナさん……」

「今飛び込んだらドラゴンと一緒に吸収してやるでのう、それでも良いなら止めぬのじゃ」


 現ナナ邸が二十軒くらい余裕で飲み込めるほどもあったスライム体を眺めつつ、呆れるダグとそわそわするアルトをあしらい、いつものように目を輝かせているリオと、なぜか顔を赤らめる変態を見て目を逸らす。エリー達と入って以来スライム浴は禁止しているため、久しぶりに見た大量のスライム体によって当時のことを思い出したと思われる。これは触れてはいけない。


 それにしてもドラゴンの吸収中、キューから知らされた情報の中に気になるものが二つあったのだが、何やら嫌な感じがする。それをキューに再構築してもらって目の前に転がすと、片方に見覚えがあり、同時に嫌な記憶も蘇ってきた。


「あら~、ナナちゃんその杖はなあに~? あとこれは、ガラス片? 眼鏡のレンズというやつかしら~?」

「中級ドラゴンの腹の中にあったらしいのじゃ。どちらも魔道具のようじゃのう、これを持っておった者が食われたのじゃろうかの、人の装備品の残骸も腹の中にあったのじゃ」

「この杖の術式は……他者を操る、精神操作系でしょうか。眼鏡のレンズも同じですね。ふうむ……これは面白いですね、獣や魔物など知能の低い対象に限定することで、少ない魔力で発動することができるようにした魔道具です。これは使えますねぇ、いい術式を見せてもらいました。……おや? ナナさんどうかしたのですか?」


 深くため息をついて、杖を調べていたアルトから受け取ってまじまじと見る。キューにも確認させたが、前に見た物とほぼ同機能という事だった。


「魔獣操者の杖、じゃな。昔ヴァンが光人族の集落から奪い、持っておった物と同じ魔道具じゃ」


 なにやらきな臭くなってきたものである。仮にそうだとしても意図が読めないし、ヴァンとの繋がりもわからない。たまたま同じ魔道具を持っていただけで、無関係の可能性だってあるのだ。


「じゃあ誰かがドラゴンを操ろうとして、失敗して食べられちゃったのかな? 間抜けだね!」

「だとしても、疑問点が二つあるのじゃ。まずわしらが国を作る半島じゃが、ティニオン王国にとって未踏の地であったはずじゃ。何者かによる転移術か、もしかしたら山脈を越えるルートがあるやもしれん。もう一つは、その意図じゃ。ドラゴンが北東の巣穴から出て、遠く離れた山脈を越えた理由は何じゃ? 操られていた、または命令を受けていたとするならばつじつまが合うのじゃが、何故そのようなことをしたのじゃろうのう。もちろん事故や偶然も否定できぬのじゃがのう」

「意図についてはともかく、山脈のほうへは調査隊を派遣させます。隠密行動と調査に長けた者達がいますので、任せてください」


 そういった調査の類なら、自分が行っても役に立たない自覚はある。アルトに任せる、と言って魔獣操者の杖に再度目をやると、ヴァンと地上で戦ったときの事が思い出された。

 あの時は勘違いで邪魔をした馬鹿猫に対するはらいせに、ヴァンが持っていた魔獣操者の杖を粉々に破壊したのだ。


「そうじゃ、一つやりたい事を思い出したのじゃ。このままプロセニア王国の上空を通り、顔見知りに会いにフォルカヌス神皇国へ行こうと思うのじゃ」


 確かミーシャとか言ったか、あの馬鹿猫をもう一度蹴り飛ばすのを忘れていた。ついでに他国の様子を見ておくのもいいだろう、隣の大陸はまだ地図もないしちょうど良い。

 四人の賛同も受けられたのでわっしーを東に向けると、アルトから「プロセニアには降りないのですか?」と聞かれた。非野人族に対する差別が激しいと聞いており、間違いなく気分を害するとわかっている以上、わざわざ降りる理由は無い。




 移動中わっしーの中へ、大き目の机を二つ作って設置した。いつも空間障壁を机代わりに羊皮紙を広げていたアルトは、自分のために作ってくれたと感激していたが、残念この机は自分が魔道具を作るための作業台である。しかし当分は一つあれば良いので、それまでもう一つの机を好きに使って良いと言うと、にやにやしながら机に資料を広げ始めた。その顔に少しイラつきつつ、紙も大量に使って預けておく。


「ついでに紙類の使い勝手を確かめておいて欲しいのじゃ。製法は植物の繊維を水に溶かして薄く伸ばして乾燥させるんじゃが、正直キューちゃんがおらなんだらわしも作る自信が無いのじゃ。問題なければ誰ぞに渡して研究させ、量産体制が整うよう頑張って欲しいのじゃ」


 いつもの丸投げである。しかしアルトは嬉しそうに返事をしながら受け取ると、一番最初の一枚を抜き取って自分のアイテムバッグへとしまい込んだ。何か不具合でもあっただろうか。とにかく、わざわざ自分の我侭な旅程に着いて来てまで仕事をしているのだ、せめて何か役立つものくらい用意してやらないと。そう思い、設置した作業台を使って、アルト配下の斥候部隊用に小型通信魔道具を作ってやることにする。

 斥候用の通信魔道具は、据え置き型の親機一台と携帯型の子機五十個を一セットとしたもので、子機同士の通信はできない代わりに小型化してあり、見た目もただの板にしか見えないようにしてある。それと行き先を都市予定地近郊に指定した転移魔方陣も、五十枚ほど作って一緒に渡しておく。


 また、時間のあるうちに吸収した魔物の能力についても確認する。カマキリの鎌は前と大差無し、鹿の角は槍の穂先に良さそうだが、ドラゴンの牙の方が硬いため使うことは無さそうだ。

 そのドラゴンだが、骨や筋肉は銀猿の完全上位互換であり、魔力を通すと銀猿の骨より硬く、銀猿の筋肉よりも強い力を発揮できた。とはいえ中級種で一割ほど能力が上がる程度であり、ヴァルキリーの肉体やぶぞー・とーごーらの肉体全て交換する手間を考え、今すぐでなくてもいいかなーと保留にする。



 なお、わっしー内での作業の大半は、リオとセレスの膝の上に座りながら行っている。というか旧小都市国家郡の浄化を始めてからのほとんどの時間を、義体はセレスの膝の上、スライム体はリオの膝の上で過ごしている。

 自発的に乗ったわけではなく、ぼーっとしているうちに捕まっていたのだ。

 たまにセレスの手が義体の胸や太ももに触れたり、リオが胸や太ももの付け根でスライム体を挟み込んだりしていたが、多少のことには目を瞑っていた。


 しかし好きにやらせていると義体の貞操に危機が迫るし、スライム体を操る理性が崩壊しそうになるしで、ぼーっとする間がほとんど無かった。おかげであまりヒデオのことを考えずに済んだのだが、多分セレスはわかっていてやっているんだろうな、と思う。義体の小さな身体に触れる大義名分を手に入れて、喜んで触っているのだろう。


 一方スライム体の扱いがいやらしくなりつつあるリオは、きっと何も考えていないと思う。

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