3章 第19話N 勝負パンツではないのじゃ
ナナがこの世界に来て十八年目の春、ナナは魔王邸の庭で、イライザを除く六人の側近達を前にドヤ顔をしていた。
「ふふふふふ、ついにできたのじゃ! 見よ、これがわしの作った転移門じゃ!!」
ドヤ顔を崩さぬまま、以前『どこで門』という名をつけて使用していた転移術の機能を持った、赤と青の二体のゴーレムを空間庫から取り出して一同に披露する。
そのゴーレムは二対の腕を持ち、一対の腕には全身を覆い隠せるほどの金属扉を一枚ずつ、体の両側に盾のように展開し、もう一対の腕には槍を持った、身長2メートルを超える全身鎧ゴーレムであった。
「門って、どう見てもゴーレムじゃねぇか。遊びすぎてボケたのか?」
呆れたように話すダグに少しムカッとし、今に見ていろと怒りを抑える。
「これが転移門になるのですか?」
「うむ。ダグよ、青いゴーレムの前に立つのじゃ」
「おう、これでいいか?」
ダグが青ゴーレムの正面に立ったのを確認し、隣の赤いゴーレムの正面に立つ。
「赤よ、青へと繋がる門を開くのじゃ!」
ナナの命令を聞き、赤いゴーレムが左右に持った金属扉を体の正面で合わせると、そこには両開きの扉が現れた。次いで青いゴーレムも左右の金属扉を合わせ、両開きの扉を出現させる。そして赤の扉が手前に向かって自動で開くが、その先にはただの金属板しか存在しなかった。しかし僅かに間を置いて青の扉も解放されると、その金属板が突然真っ黒に染まる。青の扉の先も同様に、金属板だった扉の先が真っ黒に染まっている。
その変化見て頭上のスライム体をおもむろに握ると――
「そおいっ!」
「ぐっはあ!!」
赤の扉の先へと全力で投げつけた。赤の扉に吸い込まれ消えたスライムは、直後に青の扉から飛び出してダグの腹部へと直撃し、大きく吹き飛ばすことに成功する。これで少し気が晴れた。ふふん。
ダグを吹き飛ばしぴよーんぴよーんと満足気に跳ねるスライムは、最近の定位置である義体の頭部へと戻しておく。
「ナ、ナナてめえ、いきなり何しやがる……」
「百聞は一見にしかずと言ってのう、実際に見せたほうが早いかと思ったのじゃ」
ダグの抗議を無視して赤から青、青から赤と実際に扉をくぐって、転移されているのを一同に見せる。するとダグを除く一同から歓声があがり、口々に祝福と慰労の言葉をかけてきた。
この転移門ゴーレムの完成に二年以上の月日がかかってしまったが、その最大の理由は気分転換に蜜蜂に会いに行ったり、お菓子を作ったり、巨大なぬいぐるみゴーレムを大量に作って遊んだり、ジェヴォーダンやコナンら動物たちと遊んでいたせいであることは明白である。
それにしても政治的なことを全て丸投げしているにも関わらず、遊びながら転移門を作れたのだ。逆に感謝すべきなのはこちらの方かもしれない。
「姉御お疲れ様! これで地上へ行けるね!」
「ナナちゃんやったわね~、ところでどうしてただの門じゃなくて、ゴーレムなのかしら~?」
「ゴーレムでなければいけない理由があるのじゃ」
対にしてゴーレムに扉を持たせた理由だが、単に何もないところにいきなり門を出すことができなかったことが、最大の理由である。それに扉型の魔道具とした場合、転移先の状況が見えないまま扉を開けることの危険性や、扉が持ち去られる可能性等を考慮した結果、門ごとゴーレムにすることで全て強引に解決させただけである。さらに魔道具化するよりも、ゴーレムに転移魔術を使わせる方が効率も安全性も高かったことも理由の一つである。
それらをドヤ顔で説明していると、リューンがそわそわしているのに気付いた。そんなに会いたいか、仕方のない奴だと思いながらも、さっさと魔導都市とつなぐことにする。
「では今度は長距離転移の試験を行うのじゃ。転移門の閉鎖。青よ、魔導都市近郊へ転移し待機するのじゃ」
ナナの命令で二体のゴーレムは扉を閉め、再度両手に一枚ずつ盾のように構えると、青ゴーレムはその場から転移し姿を消す。
「ゴーレム自身が転移可能じゃから、いちいち設置しに行かずとも良いのじゃ。それにゴーレム同士で通信させ、双方の安全確認が取れぬと転移門が発動しないようにしておるのじゃ。何か不測の事態が起こったら、即座に閉じるよう安全設計もばっちりじゃ。では赤よ、青への門を開くのじゃ!」
赤ゴーレムの前に腕を組んで立ち、ドヤ顔で命令を発するナナ。先ほどと同様板を合わせて扉を作り、扉の向こうに金属板が見える。そしてその金属板が黒くなった瞬間――
『ぶわっ!!』
「ぴぎゃっ!」
突如扉から放たれた暴風をもろに浴び、自分の身体が大きく後ろに吹き飛ばされた。直後に赤の扉の先がただの金属板に戻り突風は止んだが、後ろ向きにごろごろと転がり、スカートの中身を丸出しで静止する。こんな時に限ってタイツを履いておらず、しかもよりによってピンクの紐パンであった。
「うぎゃああ! 見るなー!!」
慌てて起き上がり隠すが、セレスとアルトの緩みきった表情に、見られたことを確信し少し涙目になる。
「ううう、なんじゃー! 何があったんじゃー!?」
駆け寄ってきたリオとジュリアの手を借りて立ち上がり、義体よりも遠くに飛ばされたスライム体をびょいーんびょいーんと跳ねさせながら定位置へ戻す。
「魔素の流れは見えなかったよ! ただの風かな? 魔導都市の天気が悪いのかな?」
「そんなはずはないのじゃぁ…… 感覚転移で見る限りでは、魔王都市より明るく風も弱いのじゃ」
自分にも魔素の異常な流れは見えなかったし、アルト・リオ・セレス・ダグの四人も魔素の流れを見ていないというのだから、ただの風なのだろう。
「うーむ……む? 向こうの方が天気が良い? ……赤よ、もう一度青への門を開くのじゃ!」
今度は周囲を空間障壁で覆い、完全に密閉してから転移門を開く。すると開かれた門から一瞬風が入り込むもののすぐに止み、辺りを静寂が包む。
「ん、何だ? 耳がおかしいぞ?」
「オレも! なんかキーンって鳴ってる!」
「大丈夫じゃ、すぐに慣れるじゃろう。それより門の先を確認しようかの」
「ナナさん、原因がわかったのですか?」
赤ゴーレムの開いた門へ向かうと、隣にアルトが並んで歩き出した。とりあえずパンツを見た罰として一発ボディーブローを浴びせておく。
「ふん。原因は『気圧』かもしれんのう」
不意打ちに腹を押さえてかがみこむアルトを背に、転移門をぴょん、と跳んで超える。着地した先は、想定通り魔導都市近郊の丘の上だった。すぐに門の前を離れると、次いでアルトが転移門をくぐり姿を現す。転移が成功した事実に驚き、その場で呆然と立ち尽くすアルト。この後何が起こるかおおよその想像はできていたが、敢えて何も言わない。
間もなくアルトの後方の転移門から、リオの足が生えて来た。
「ぐえっ!」
「ついたー! って、あれ? アルトごめん!」
次いで転移門から出てきたリオに蹴られ、カエルが潰されたような声を出して転がるアルトを見て、計画通り、と口の端を軽く上げる。
「リオよ、門の前にいると危ないのじゃ、出たらすぐにその場を離れたほうが良いぞ」
「わかった! えへへー流石姉御だね、すぐに原因わかるなんて!」
「間違っておるかも知れんがの、解決したから良いのじゃ。しかし安全のため、機能をいくつか足さぬと使えぬが、すぐに済むじゃろ」
リューン、セレス、ジュリア、ダグと全員の転移が終わると、青ゴーレムと転移させた赤ゴーレムを回収し、アルトに求められた気圧についての説明を簡単に行う。とはいえ自分も詳しくは知らないため、気体にも重さがあることと、天気が良いと気圧が高く、悪いと低くなる程度しか教えていない。というか教えられない。
「あとは興味のある者に研究でもさせると良いのじゃー」
投げやりに説明を終わらせ、ひとまず魔導都市へと向かう。イライザと合流し魔王邸とつなぐ転移用ゴーレムの設置場所を決めさせ、さらに住人同士が行き来できるよう、外に設置する場所も決めさせる。
まずは地上を探索し住む場所を決める必要があるため、それまでは魔王都市と魔導都市をつなぐ転移門があると便利だろうということになったのだ。
イライザとの久々の逢瀬を喜ぶリューンだが、仕事が山積みでまともに会話ができない二人に、少しだけ申し訳なく思うが手伝わない。
その後は全員で今後の転移ゴーレムの運用案と改造案を話し合い、赤・青の転移門ゴーレムは「赤から青への一方通行」「赤に青の門前が見える画面の設置」「赤の門は室内や倉庫など密閉された空間で使用」「万が一のため空間障壁も使用できるようにする」ことが決定する。
また側近用の転移門ゴーレムを別に作り、こちらは双方での通行と門前の画像と音声をやり取りできるようにすることが決定する。
一週間かけて改造と改善、そして十二体ずつの量産を終えた転移門ゴーレムに『ゲートゴーレム』とそのまんまの名前をつけ、赤・青のゲートゴーレム十セットをリューンとイライザに預け、二セットは空間庫にしまっておく。また自分と側近用として白色のゲートゴーレムも作り、二体を魔王邸と魔導都市のイライザ邸地下室に設置し、空間庫の使えるアルトとセレスに一体ずつ持たせて、残り八体は空間庫にしまっておく。
そして地上への転移実験だが、こちらはすんなりとクリアしてしまい拍子抜けだった。一つ誤算だったのは、異界と地上界で同じ座標以外に転移しようとすると、必要魔力が急激に跳ね上がるため不可能ということだった。つまり魔王邸のゲートからはアトリオンのヒデオ邸や、ファビアンがいるであろうアーティオンには飛べないのである。それでも数百メートル程度なら調節可能であるため、地下室から転移したら石の中にいる、という事態は避けられた。
そうして魔王都市地下室から転移した先は、ティニオン王国王都アイオン近郊の草原で、遠くにアイオンの食を支える穀倉地帯が広がっていた。異界側で結果を待つ四人に問題の無い旨伝えると、全員が恐る恐るゲートをくぐり、太陽輝く地上界へと転移を果たす。
「あれが、太陽なの? それに、明るいよ? 眩しいよ? 目が痛いよ!?」
「待て待て待て! リオよ、太陽を直視するでない! まったく、目が焼けてしまうのじゃ」
太陽を直に見てしまったリオの治療をしながら周囲を見ると、ダグは口の端を上げて空や周囲を見渡し、セレスは空に土に草にときょろきょろし、アルトは静かに涙を流していた。
「心なしか、空気も違う気がしますね……魔素も薄いようです」
「そうじゃな、魔素は異界より圧倒的に薄いのじゃ。しかし世界樹周辺では逆に濃くなっておったのう」
頬を伝う涙には一切触れず、アルトの質問にだけ答える。長らく焦がれたであろう地上界に来たのだ、茶化す気になれず気付かないふりをし、そのまましばらく地上界の空気を堪能してもらうことにし、空を見上げる。
久しぶりに来た地上界の太陽を浴び、友人たちのことを思い出す。エリーやサラ、シンディとはたまに通信し、お互いの状況を話したり、魔道具制作の相談に乗ったり、料理やお菓子のレシピを教えたりしていた。しかしヒデオの声は最初の通信の際の一度しか聞いていない。わざわざ呼び出す理由も思いつかず、そのうち会いに行くから良いかと思っているうちに、三年も経ってしまった。ヒデオの方から通信に出たいという話も無く、それを想うと胸に苦しさを覚える。
しかしヒデオを想い沈んでいる自分に気づくと、「わしは女好きなのじゃ」と何度も心の中でつぶやき、ヒデオの事を頭の隅に追いやり次の実験を行うことにする。
「リューンどうじゃ、聞こえるかのー?」
『はい、問題ありませんナナ様』
「ではイライザはどうじゃー? 聞こえるかのー?」
腰のポーチから出した携帯型通信機に呼びかけるが、魔導都市にいるイライザからは返事が無い。とはいえ通信も転移魔術の応用なので、予想はできていた。
次の実験のため一人で転移しようとしたらリオがしがみついてきたので、一緒にアトリオン側へ500キロメートルほど転移する。
「一人で行ったら駄目だよ姉御!!」
「ふふ、すまんのじゃ。しかしよくわしが転移するのに気付いたのう?」
「えへへー、なんとなく? それと魔力視のおかげだよ!」
野生の勘とでも言うのだろうか、そう納得してリオを撫でてやると、嬉しそうに目を細めてきた。
『ナナちゃんリオちゃん、置いてけぼりは酷いですわ~』
『ナナさんお願いですから転移前に一言お願いします……』
「かかっ、すまんのう、すぐ戻るのじゃ」
通信機から聞こえるセレスとアルトの恨みがましい声に、少しだけ申し訳ないと思いつつ実験を継続する。
「さてリューンは聞こえるかのう?」
『ザ……ザザッ――ザッ』
「うん、思った通りじゃ。さて、リオよ戻るのじゃ」
抱きついたままの、というか義体を後ろから抱きしめて持ち上げているリオにそう言って転移し、全員で異界に戻って会議室へ集まる。そこで通話実験のため異界に残ってくれたリューンとイライザ、そして自発的に留守番をしたジュリアも集め、結果報告と今後の展開について話し合う。
「ゲートの維持に必要な魔力は高くないのじゃ、これなら移住も物資の運搬も余裕であろう。地上と異界の通信については中継点を作れば良いじゃろうから、二~三日待って欲しいのじゃ」
「二都市間をつなぐゴーレムの経過観察もありますので、出発は十日後でよろしいでしょうか」
「ははっ、とうとう移住場所探しに地上界の探検か、楽しみだぜ!」
「準備はアルトに任せたのじゃ。それと大事なこと忘れとった。おぬしら全員非常識じゃから、地上界の常識を学ばねばならんのう、お金とか社会のルールとか最低限知っておかぬと、面倒なことになるのじゃ」
地上界の地図をテーブルに広げ真面目な話をしているが、義体の足元ではコナンとナオの二匹の猫に、スライム体が弄ばれていた。ころころびちゃっ。この一週間ゲートゴーレム量産であまりかまってやれなかったから、コナンたちも心なしか喜んでいる様子である。
「わしに聞いても駄目じゃぞー、地上に行ってから地上の者に聞くべきじゃろうのう。そういえばエリーの父親が貴族で、力になってくれるよう話を通しておくと言っておったな。そこにでも行くかのう」
自分も地上界の常識を知らない自覚はあるので丸投げすることに決めたそのとき、コナンの横殴りの猫パンチがスライムナナに直撃、ころころころっと転がりながら肉球に殴られる幸福感に包まれる。
「それじゃ姉御が地上へ行って通ったのと、同じルートを行きたい! その途中だよね、このクーリオンとかって町!」
「ではここから開始して、東へ移動してクーリオン、アトリオンですね。まずは世界樹を見てから、移住場所を探しましょう」
「わかったのじゃー」
スライム体に猫パンチを受け、肉球の感触に幸福感を覚える。アルトが地図を指差し何か言っているが適当に生返事を返し、ぷよんぷよんとスライム体の体を動かしコナンとナオを誘う。にくきうかもーん。
そうして会議が終わった後、重大な事実に気づいてしまった。二度と近寄るまいと決めていた、もしかしたら自分を信仰しているかもしれないファビアンと、その宗教団体がいるかもしれないアーティオンが、地上界最初の目的地となっていたのだ。
やらかしたことに気付き駄々をこねるが、会議中に遊んでいるほうが悪いとダグに一蹴されてしまった。事実だけに反論できないが、ダグに言われると余計に凹む。
翌日悔しさを忘れるため甘味を求め、リオとセレスを連れて蜜蜂の住処へ転移する。昔会った女王蜂と同一の個体に挨拶をすると、ちょうど良いタイミングだったことを知らされる。以前移住を勧めに来た際に、分蜂する時期まで待てと移住を断られていたのだ。
「ねえナナちゃん? もしかしてこれが蜜蜂かしら~?」
「うむ、そうじゃぞ? 今女王蜂と話しておるからの、攻撃せずに待っておるのじゃぞ」
「姉御! オレこんな大きな蜜蜂見たの初めてだよ!」
大きくない蜜蜂でもいるのだろうかと思いながら、ゲートゴーレムを使って魔王都市近くへの引越しを手伝う。農場の女性責任者は驚いていたが、攻撃されなければ反撃しないと言う女王蜂の言葉を伝え、無理やり同行させる。
「いいの? こんな幸せで……ああ、姉御、もっと頂戴……」
「濃いとは思ってたけど、そのまま食べるともう……言葉にならないわ~」
引っ越し手伝いのお礼に、蜂蜜を巣の欠片ごと口に放り込んだリオとセレス。だんだんとリオの発言はセレスの影響ではなく、素ではないかと思い始めてきた。どこまで過激になるか気になるが、そろそろやめさせたほうが良いのかもしれないと思いつつ、蜂蜜がたっぷり付いた、巣の欠片を口に放り込む。
「甘いのう! 美味しいのう! ほれ責任者、おぬしも食わぬか。これから共存する相手じゃからのう! わしらは蜜蜂に安全を提供し、蜜蜂はわしらに蜂蜜を提供するのじゃ。共存共栄じゃ!」
「ナ、ナナ様……今更かと思いますが、これはキラービーの亜種では……?」
何を言っているんだろうと首を傾げてみる。詳しく聞くと、どうやら普通の蜜蜂は地球にいたものと同じサイズらしい。キラービーとは巨大なハチの魔物で、大きなもので体長30センチ前後のものらしい。
「なんじゃ。それに比べたら5センチ位、普通の蜜蜂より少々大きい程度ではないか。しかし魔物の類となると、わし以外にコミュニケーションが取れぬのも問題じゃのう、女王蜂よ、わしらの言葉は理解しておるのか?」
―――理解
「キューちゃんありがとうなのじゃ。では質問に対して、良かったらマルを、駄目ならバツの字を蜂に書かせることはできるかのう?」
すると嬢王蜂がギチギチと顎を慣らし、蜜蜂が巣の回りに円形に集まりマルを描いた。
「できるではないか、頭が良いのう!」
ここにはヒルダとノーラと見に行った場所に咲いていた、菜の花のような黄色い花の植物も大量に植えられている。これはアルト主導で精油目的に大量に植えられたもので、他にもたくさんの植物や果樹が植えられている。見慣れた植物もあって安心だろうと問いかけると、蜂達は再度マルを描く。
「ふふふ、いい子じゃ。ではあとは任せたのじゃ!」
涙目の女性責任者に笑顔で別れを告げ、リオとセレスを伴い魔王邸に戻る。アルトを捕まえ事情を話し蜜蜂の保護を命ずることで、今後は蜂蜜の安定供給も可能となった。
無事に気分転換が済んだことで、諦めてファビアンの元に顔を出すよう腹をくくる。それに良い方に考えれば、自分が神扱いされているのであれば、アルト達四人に地上界のことを教えてほしいという頼みを、きっと快く引き受けてくれるはずである。
居心地の悪ささえ我慢すれば手間が大きく省けるのだから、プラスマイナスゼロ、むしろプラス寄りではないかと無理矢理思い込んで自分を納得させるが、深い溜め息が漏れることは止められなかった。




