表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とスライム  作者: ソマリ
幼少期編
8/231

1章 第8話H 日誌その1

2018/6/24

大幅に改稿。

『研究日誌』


エルメンヒルデ


「従魔強化第一案」


 実験目的:スライム・ゴーレム・アンデッド等の生成可能な従魔を強化する事。手段として知性の上昇を選択、従魔の核となる魔石に知的生命体の魂を注入する。


 実験内容:ゴーレム作成魔術・アンデッド作成魔術・魔法生物作成魔術を融合・改変した「試作魂魄召喚魔法陣」を魔石に用い、術式を発動させる。魔法陣の内容は「魔石の初期化、生体の魂を魔石に注入、肉体と魔石との接続」で、魔法陣に込めた生命属性魔力で発動する。今回はあくまでも試作魔術の実験であるため、従魔として活動させる基礎部分の記載は省き、起動のみを目的とする。テストケースとして計九例を観測。1号から3号までをミニウッドゴーレム、4号から6号までをラットゾンビ、7号から9号までをスライムとし、従魔作成に最低限必要なサイズの魔石をそれぞれ組み込み魔法陣を発動させる。


 備考:「試作魂魄召喚魔法陣」を書いている最中にノーラが泣き出し、あやしながら書いていたらノーラがへそを曲げて、羊皮紙を一枚破ろうとした。作成にひと月以上かかる代物を台無しにされてはたまらないので、しばらくノーラと遊ぶ。従魔生成をノーラが見たがって泣くが、従来の従魔生成ではないため万が一を考え、ノーラが寝静まった深夜に魔法陣を発動させて実験体を耐衝撃容器に入れ、しばらく観察する。


 試作魔法陣発動結果:2号ゴーレム及び7号スライムが起動せず。しかし魔石が稼働している様子が見られるためそのまま放置。他は6号まで問題なく起動、8号9号はスライム体の生成を開始。



「経過観察」


 起動した実験体に命令してみるが、どれも指示を聞かない。従魔としての基礎術式を組み込んでいないのだから当然だが、知的生命体が入っていないかと期待し様子を見る。


 十日目、7号スライムの起動を確認、スライム体を生成し始める。しかしそのまま活動を停止。要観察。2号ゴーレムは未だ起動せず。他変化なし。


 十五日目、スライムに餌を与えるため8号9号と同サイズ程度のネズミを用意すると、ちょうと7号が活動を再開。従魔基礎術式を使わず作られたスライムは野生と同様の存在となり、一度の捕食では体積と同量程度しか吸収しない。よって8号9号の半分のサイズしか無い7号には食べきれないサイズの筈だったのだが、7号は目を話した隙に全て食べきっていた。また7号は待機状態の形状も不自然で液状ではなく、水の詰まった革袋の様に形状がしっかりしている。話しかけても何の反応もないが、要観察とする。他変化無し。


 十八日目、今度は8号9号より大きなサイズのネズミを三匹用意し与えてみる。8号9号はおよそ体積と同量を吸収ののち、食べ残しを放置。7号はまたしても全て食べきっていた。途中目をやった時は8号9号が半分以上食べた辺りで、7号はまだネズミの頭までしか食べていないように見えた。それからの短時間で全て食べきったのだからこれはおかしい。やはり話しかけても何の反応も示さないが、重点的な観察対象とする。他変化無し。


 十九日目、研究室に入ってすぐどこからか視線を感じ、視線の元を辿ると7号スライムのように感じた。スライムは本来魔素や魔力を感じ取って行動するとされているため目が合うなどとあるわけがない。しかし野生とも従魔とも違う雰囲気を持つ7号に違和感を感じ触れてみたところ、触れた指先が解かされる事は無かった。従魔も触れるのだから、ここまでは良い。しかし問題は見た目通り『鷲掴み』にできたのことだ。このような弾力を持つスライムを私は知らない。普通のスライムは容器に入れる等しないと運べない、粘度が高いだけの液体の体だ。しかし7号は指の隙間から流れ出ることなく、そのまま手の平に乗せる事ができたため間近で観察を行う。残念ながら特に不自然な動き無し。8号9号は野性スライムと同じ反応。ラットゾンビの腐敗が進んできた。明日も変化が無ければ掃除させる。その際7号の様子を窺う事。


 二十日目、腐敗したラットゾンビのアンデッド化を解除し、従魔スライムに処分させる。2号ゴーレムは未だに起動せず。他7号以外変化なし。7号スライムはやはりこちらを見ている。従魔スライムにも吸気筒にも興味を持っている様子で、体を震わせていた。亜種? 変異種? 文献を読み返すもあのように体をぷるぷる震わせるスライムなど載ってはいなかった。もう一度触ってみたいのだが、どうも警戒されているようなので本日は特に構わずにおく。


 二十一日目、本来であればスライムに食事を与えるタイミングなのだが、少し予定を早めて絶食実験へ移行する。従魔化したスライムは餓死するまで絶食できるが、従魔化していない個体は五日ほどで攻撃性が増し、十日前後で凶暴化する。7号の変化が楽しみだったのだが、7号が休止状態になっていた。何故だ。


 二十二日目、7号が活動を再開していた。一安心である。他変化無し。


 二十三日目、予想通り8号9号の攻撃性が高まり、容器越しにこちらへ近寄ってくる。しかし私が入室するまでは7号を狙って容器内に張り付いていた。スライムは従魔として命令を受けない限り共食いをしない。やはり7号はスライムからも同類ではないと判別されているのだろう。なお肝心の7号は変化無し。


 二十七日目、8号・9号が凶暴化、容器の壁を叩き続けていたため従魔スライムで吸収。7号には凶暴化どころか攻撃性上昇の兆候すら見られず。小型容器に移してノーラに会わせ、問題が無いようであれば日常的な観察へ移行する。しかし、ケージの隙間から体が流れ出ることもなく大人しくしているスライムとは、もう笑うしかない。しかしこれも実験の成功例と思われるため、大事に育ててみようと思う。まずは食事としてレッサー・ゾルア・スパイダーの幼生を与え、落ち着いた頃を見計らってノーラに会わせる事にする。


 三十日目、7号に危険な様子は見られないが、大食いなのは驚いた。ともあれノーラも気に入ったようで何より。恐らく何らかの大人しい動物の魂が入ったものと推測されるが、要経過観察とする。研究室に残るはゴーレム三体のみ。魔石の稼動は現在も確認できるが未だ起動しない2号を除き、1号3号の停止処理を行う。2号の経過観察のみとなったため、以後五日毎に様子を見に来ることにする。






 もうこんな時間か、研究レポートをまとめるのに時間がかかってしまったな。

 机横のケージを見ると、中にいる『ナナ』は、ぷるぷると体を震わせながらケージ内を移動している。

 

 このナナのようなスライムが増えたところで戦力にはならないだろうけど、なんとも不思議で常識はずれのスライムが、私の研究が進む手がかりになればいいのだが。

 それにしてもこのような副産物ができるのだから、研究は面白い。

 二歳になった娘のノーラともいい関係を結べそうだし、戦力にならなくてもこれはこれで良いかもしれない。


「ふむ。まあ想定外のこともあったが、実験の第一段階としては十分な成果じゃろう」


 机の隣にいるスライム『ナナ』を見ながら、頬が緩むのを自覚する。

 ナナをこの部屋に連れてきたときは、改めて常識はずれなナナの行動に驚き、そして私の娘が世界一可愛いと再認識したな。






「十日も食べていないのじゃ、お腹も空いたじゃろう。まずは食事じゃが、今はこの蜘蛛しかなくてすまなんだが、食べれるところまで食べるが良いぞ」


 私は魔石を抜いたレッサー・ゾルア・スパイダーの幼生を7号スライムのケージに入れ、捕食する様子を観察しようとしていた。


「おうおう、ぷるぷる揺れおって。可愛い奴じゃのう」


 何故かこのぷるぷる揺れる様を見ていると自然と笑みがこぼれてしまうのだが、いざ7号が捕食を始めると……私の顔が、どんどん引き攣って行くのが自分でもわかった。


「自分より大きな蜘蛛の頭に乗って……そのまま食うのか、何という食欲じゃ。普通のスライムは体に取り込める分しか食えんのじゃぞ? しかも食っても食っても体の大きさが変わらんとは、いやはや何とも……。しかし先ほどもそうじゃが、手に乗せても食べる素振りは一切無かったのう。此奴もしや『人間』を認識しておるのか? 食べて良いものかどうか判別できておるとしたら、いきなりの実験成功かもしれんのじゃが、単なるイレギュラーじゃろうのう。しかしまあ……も、もう、食べ終わるとは……なんともはや……」


 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。気を取り直して、蜘蛛を食べ終わり満足気にぷるぷる震える7号に手を伸ばし、手のひらを上に向ける。


「おいでー、こっちに来るのじゃー」


 呼びかけには応えないと思っていたけど、私の手を見て察したのか、7号は近寄って来て私の手に擦り寄った。


「おおう、なんじゃこの仕草は。お主本当にスライムか? 可愛い奴じゃのう」


 すくい上げるように力を入れると自分から跳び乗ってきた7号を、顔の前まで持ち上げ再度間近で観察する。

 ぷるんぷるんと揺れている。

 撫でてみると表面がまるで赤ん坊の肌のようにすべすべで、ぷるんぷるんに柔らかい。

 スライムって液状の魔法生物だったよな、自分の知る常識が崩れそうになるぞ。

 もう少し触っていたいがやることもあるし、一旦ケージに戻しておく。



 机上で次回の実験で使う魔法陣を書き上げていたところで、部屋の扉を叩く音が聞こえた。


「ヒルダ様。ノーラ様の昼食が終わりましたのでお連れしました。入ってもよろしいでしょうか」


 問題ない、と答え書き物を中断し、扉が開くのを待つ。扉が開くと雇いのメイドであるメティに連れられ、娘のノーラが室内に入ってきた。


「ノーラ、昼食はどうじゃった? ちゃんと残さず食べられたかのう?」

「じぇんぶたべたのじゃー」


 ノーラはそう言いながら私に抱きつき、昼食に食べたものを報告してきた。


「そうかそうか、ちゃんと食べたのか。偉いのう。しかしまたわしの口調を真似しおって、困った娘じゃのう」


 私との会話が多いため言葉が似てしまうのは仕方のないことだけど、どうしたものか。

 メティとも会話しているはずなのに、どうしても私の真似をやめないのだ。

 その件は後で考えるとして、今日はノーラにお友達を紹介しよう。

 仲良くなってくれれば良いのだが。


「そうじゃノーラ。今日はノーラに会わせたいモノがおるのじゃ。そこのケージに入っておるスライムなんじゃが、もしかしたら友達になれるかもしれんと思うてのう」


 ケージを指差し、ノーラを伴って近寄ると中の7号スライムを取り出してノーラに見せる。

 当然だが万が一を考え、回復魔術の発動準備をしておく。大丈夫だということは半ば確信しているが、当然の処置だ。


「7号スライムじゃ。驚かせぬよう、ゆっくりと手を出して……そうそう」

「ななおう? きちゃなくないの?」

「7号スライムはお掃除用ではないから、汚くないのじゃ」


 ノーラがおずおずと7号スライムに手を伸ばすと、7号はその手に体を擦り付けてきた。ノーラの顔に満面の笑みが浮かび、見ていた私もまた危惧した事態にならず安堵したぞ。


「ななおー!」

「いやいや、7号じゃ。な・な・ご・う」

「な、な、お……なな。なな!」

「いや……まあよいか、いつまでも7号では可哀想じゃしの。今日から此奴は『ナナ』じゃ。ノーラ、仲良くするんじゃぞ?」

「ナナ! ナナ!!」


 7号改めナナをノーラの手に乗せてやると気に入ったようで、ソファに連れて行くと膝に乗せ、上機嫌で話しかけていた。






 満面の笑みを浮かべてはしゃいでいたノーラの姿を思い出すと、頬が緩む。

 やはり私の娘は世界一可愛い。そんな笑顔を見せてくれたナナには、感謝したい気分だ。


「ふふ。ナナもそろそろ寝るんじゃぞ? わしはそろそろ寝るとしようかのう。ノーラと仲良く頼むぞ。おやすみ、ナナ」


 部屋の明かりを消し、寝室へと向かう。

 私を見送るようにナナが体をぷるぷる震わせている気配を感じ、再度口元が緩んでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ