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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第3話N 興味はあるが封印するのじゃ

「ふっふ~ん、ふっふっふ~ん、でーきたーのじゃー」


 ナナは鼻歌を室内に響かせながら、上機嫌で目の前に横たわるゴーレム見ていた。それはオーウェンが取り返してきた最後のヒルダ製ゴーレムであった。ナナの手が加えられた現在の姿は、身長180センチを少し超えるくらいの、暗いグレーの髪をオールバックにした、細身の渋い中年男性型ゴーレムとなっている。

 マリエルと共に側に置く執事型ゴーレムにするつもりで、内部の8センチ魔石にはマリエルとほぼ同じ技能魔素を注入し、戦闘技能は格闘のみとしてその分高く設定しておく。


「おぬしの名前はヨーゼフじゃ。よろしく頼むのじゃ」

「かしこまりました、マスター・ナナ」


 名付けが終わるとナナは先日大人買いした上質な生地を使い、ヨーゼフの執事服を作って手渡す。キューが調整した執事服はサイズもぴったりで、本当にキューには助けられていると実感する。更にマリエルにヴィクトリアンメイド型のメイド服を作ると、マリエルを呼んで着替えさせる。


「おおお、ヨーゼフは格好良いのう。丸メガネなんか似合いそうじゃな、今度作ってみようかの。マリエルは……綺麗じゃが、胸が大きすぎたかのう……」


 歩く度に大きく揺れるマリエルの胸を見て、目の保養ではあるのだがそれ以上に下品さを感じてしまう。ならば揺れすぎる胸をどうにかすればいいという結論に達し、マリエル用にフルカップのブラジャーを作り装着させる。


「どうじゃ、マリエル。それで少し歩いてみせるのじゃ」


 室内を歩くマリエルの胸の揺れは納まっており、キャミソールだけのときより形も整って見え、先程までの下品さが消えたことに安堵する。秋葉原でよく見かけたような可愛らしいメイド服ならともかく、今回作った上品さのあるメイド服では、揺れる胸は似合わないと思う。

 マリエルはエリー達と違って体型が変わらないため、ブラジャーを作っても無駄になることはない。そのためフリルやレースの着いた可愛いブラやショーツも幾つか試しに作ってみたが、マリエルでは感謝と賞賛以外の感想が貰えず、着せ替え人形で遊んでいるような感じで少し寂しくなった。




 ヨーゼフとマリエルに着替えを数着渡し、二体を連れて裏庭へ向かう。裏庭ではヒデオ達がビリーとぱんたろー相手に、戦闘訓練の真っ最中であった。世界樹防衛戦は終わったがヒデオ達は鍛錬の継続を希望したため、予定のない午前中はこうして全員で戦闘訓練を続けているのだ。


 一戦を終えてザイゼンから治療魔術を受けるヒデオ達に、ヨーゼフを紹介する。


「何でヨーゼフ? 執事って言ったらセバスチャンじゃないのか?」

「ふふん、わしはそんなありきたりな名前はつけぬのじゃ。無関係ではないがの、かっかっか」


 首を傾げるヒデオだが、どうせわからないだろう。ネタばらしをする気もないので放っておく。


「では少しばかりわしも体を動かすのじゃ」


 マリエルには魔鉄の芯を銀猿の骨でコーティングした長柄のモップを、ヨーゼフには拳部分に薄くワニガメの甲羅を貼り付けた黒い薄手の革グローブを渡すし、自身はトンファーを取り出して模擬戦を始める。

 最初のうちは軽くあしらうことができたが、二体とも徐々に戦い方がスムーズになり、五分もしないうちにそれなりに戦えるようになっていた。

 五分が経過すると、今度はマリエルとヨーゼフで素手の模擬戦を行わせ、マリエルも素手でそれなりに戦える状態になるまでその動きを観察する。

 また、少し離れた場所で模擬戦を再開したオーウェンが、マリエルが動く度にひるがえる長いスカートに見とれて、ぱんたろーの前足をモロに食らっていた。自業自得である。ヒデオは必死にこちらを見ないようにしているのがバレバレだが、オーウェンのような失態を晒さないだけマシだと思うナナであった。




 二体の戦闘訓練を終えて屋敷に戻るが、二体とも土やホコリや草の汁などで薄汚れていた。このまま家事をさせるわけにもいかないため、一度部屋に戻ってスライム体を出し、二体を包んで汚れを綺麗に落とす。解れたり破れた衣服も全て修繕し、元の清潔さを取り戻した二体に昼食の用意を任せる。


「毎回わしが綺麗にしてやるわけにもなあ……それにエリーも言うておったな、長距離移動時は身体を綺麗に保つのが大変じゃと。仕方ない、作ってやるかのう」


 空間庫から小さめの魔石を取り出し、技能魔素をキューに注入させてスライム作成術を行使する。出来上がったスライムに自分のスライム体を小さく千切って捕食させ、ハンドボールくらいの体積になったスライムに青くなるように命令し、以後の捕食対象を『肉体に付着した汚れや汗・皮脂等の分泌物』に限定させ、万が一窒息しないよう『顔面を対象外』とする。

 目的の身体洗浄用スライムを作り出すと、人体に使うものなので念のため、自分の身体で人体実験を行うことにする。体表部に薄く張ったスライム体を一度全て撤去し、義体の素肌を露にすると、身体洗浄用スライムを頭に乗せる。



 ナナの頭部に乗せられた青い身体洗浄用スライムは、薄く広がると頭髪・頭皮をあっという間に包み込み、洗浄という名の捕食を行う。数秒ほどで頭の洗浄が終わり、下へ向かって移動する青スライム。それが耳に差し掛かったとき、ナナの身体は力が抜け、へなへなとソファーへと倒れこむ。


「あ、耳はだめなのじゃ……んっ……はぁ……」


 耳の穴にまで侵入した青スライムが這い回る感触は、くすぐったくもあり、背中にぞくっとした、不快ではない何かを感じさせた。それは青スライムが耳から首筋へと移動した際も同じ感覚に襲われる。初めての感覚に頭がぼーっとしてきて、考えが纏まらない。

 やがて青スライムは襟元から服の中に進入し、肩・脇・腕を包み込み、その不快ではない感覚に身をゆだねる。そして青スライムが腕の洗浄を終え、とうとう胸へと移動する。


「んっ、あはぁ……これ、は……」


 胸を包み込み、更に下へと広がる青スライム。その時胸に走ったしびれるような感じには、覚えがあった。それは以前、セレスと初めて会った夜。下着の感触を確かめていたセレスが、勢い余ってナナの胸の先端に触れたときと同じ快感であった。


「ぎゃあああああ! いかん、いかんのじゃ!! ストップじゃ!!」


 ソファーから飛び上がるように身を起こし、コートとキャミソールを脱いでスライムを引き剥がそうとする。しかし既に青いスライムの一部は腰より下に到達しており、慌ててホットパンツを脱ぎ捨てパンツをずらし、青スライムを完全に引き剥がすことに成功する。

 青スライムは捕食対象を『肉体に付着した汚れや汗・皮脂等の分泌物』としているのだ。ナナは自分の体の現状を把握しており、このままパンツの中への侵入を許していたら取り返しのつかない事態に陥るところだった、と胸をなでおろす。

 セレスに胸を触られたときに感じた快感と、この青スライムから受けた感覚が同じものだと気付いてよかった。そう考えながら涙目で荒い息を整え、火照る身体を鎮めようとしたその時であった。


「ナナ! どうした、一体何……が……」


 バアン、と音を立てて開かれた扉の向こうから、酷く慌てた様子のヒデオが、こちらを見て固まっていた。今の、自分の姿は――


「ぎゃあああああ!!」


 慌ててしゃがんでコートを被るが、既に手遅れだった。二度目の悲鳴でヒデオが慌てて後ろを向いたが、もう遅い。部屋の入り口と窓を、土魔術と金魔術で完全に塞いで固める。真っ暗闇の室内で、一体何が起こったのか、自分の頭を整理する。しかし部屋の入り口を固めた土壁を叩きながら、謝罪するヒデオの声が聞こえ、考えが纏まらない。そう、ヒデオに見られたのだ。しかもただの裸ではなく、火照った様子の裸を、である。羞恥から顔に熱を感じる。今すぐにでもここから飛び去り、異界に帰りたい。顔を覆ってのた打ち回りたい。

 しかしその衝動をかろうじて抑え、パンツを履き替えてホットパンツ・キャミソール・コートを身にまとう。外からは遅れて来たエリー達にヒデオが事情を話し、絞られているようなやり取りが聞こえる。窓と扉を塞ぐ魔術を解除し廊下に出ると、正座していたヒデオがこちらに向き直り土下座する。


「ほんとうにすみませんでした!」

「悪気があったわけではなく、わしを心配してくれただけなのはわかっておるのじゃ……。もうよい、頭を上げんか。エリー達も、許してやってくれんかのう」


 ヒデオは頭を上げようとせず、エリー達は怒りというより、呆れたような表情をしていた。そもそもこれは事故だ。さらに言うなら、気を抜きすぎてヒデオの接近に気付かなかった自分の落ち度だ。


「ナナがそう言うなら……でもいいの?」

「かまわん。じゃがその代わりと言っては何じゃが、実験に付き合って貰えんかのう、ヒデオよ?」

「そ、それで許してもらえるなら、どんな実験でもやる!」


 にやり、と自分の口元が動いたのがわかる。そこまで言うなら身体洗浄用スライム完成まで付き合ってもらおうじゃないか。悪いのは自分だが、八つ当たりくらいは許されると思う。「あとで部屋に持って行く」と言って部屋に戻り、捕食対象や捕食速度、洗浄箇所などを変えた様々なバリエーションの試作型身体洗浄用スライムを作り出す。


 さあ、悶え、搾り取られ、のた打ち回るがいい!


 などと意地の悪いことを考えながら複数の青スライム入り容器を持ち、ヒデオの部屋に向かおうとしたのだが、その時三人娘が部屋を訪れた。


「ねえナナ、実験って危なくないわよね? ナナがあんな声を上げるような実験なんて……。そ、それに、あたし達もヒデオのパーティーなんだから、あたし達にも責任があるっていうか、その……」

「私も実験に付き合う」

「ちょっと怖いかも!? でもアタシも実験に付き合ったほうがいいかなー、と」

「ふふ、ヒデオは大事にされておるのう。別に危ない実験ではないのじゃ。ただ、ちょっと、のう」


 三人娘に身体洗浄用スライムを作ろうとした経緯と、服の中に入ったスライムを取り出そうとして服を脱いだところに、悲鳴を聞きつけたヒデオが来たことを簡単に話す。自分達の為に身体洗浄用スライムを作ろうと言うのなら、自分たちが協力するのが道理だと、張り切る三人娘。



 しかし五分もしないうちに三人とも衣服をはだけ、息も絶え絶えのあられもない姿でベッドの上に転がることになる。


「わしが慌てて引き剥がした理由がわかったじゃろう……?」

「はぁ、はぁ……なんで、こんな……」

「もう無理かもー……」

「ナナいやらしい」

「こんな結果を求めて作ったわけじゃないわい。わしもおぬしらと同様、下半身の洗浄前に気付いてのう……無理やり引き剥がしたのじゃ。あそこに到達されておったら貞操の危機だったのじゃ」


 目の保養としか言いようの無い光景だったが、あまり見ているのも悪いと思い目をそらそうとした時、ずり上がったスポーツブラを直しながら、サラがこちらを見て首を横に振った。


「これヒデオに手伝わせると、ナナの身に何が起きたか知られる危険が」

「んなっ!?」


 盲点だった。それだけは絶対に避けねばならない。そうなるとこれ以上の実験継続は、いろいろな危険が伴うためお蔵入りとして、青スライムを空間庫へ封印する。サラのおかげで助かったと思いながら三人を見ると、それぞれが改善案について議論を始めていた。


 しかしもじもじと心地悪そうに話す三人の、その理由に思い当たることがあり、議論を一時中断させて三人分のパンツをその場で作って渡す。そして互いに背中を向けて穿き替えた四人分のパンツは、マリエルを呼んでその場で洗濯して貰い、顔を真っ赤に染めた四人は何事も無かったように議論を再開する。


「捕食箇所、穴の奥に行かないよう指定すべき」

「そ、そうね。耳は気持ちよかったけど、危なかったわ。あたしは移動されるのがだめね」

「移動されるたび微妙な振動が危険だったかも」

「何とかなりそうじゃが、ずいぶん真剣じゃの」


 話によると長期の旅に限らず、トイレ後に洗浄できるスライムが作れるなら、何としてでも完成させてほしいとのことだった。


 今のように毎日風呂に入り、身体を清潔に保つ快適さを知ると、これまで普通だったものが不便だったり不快に感じるようになったとのことで、その最たるものがトイレだったのだ。

 この話を聞いた時、ヒルダの家のトイレにスライムがいたことを思い出す。同類として悲しくなるため、何をしているのかよく見てはいなかったが、キューが鮮明に記憶していた。


 その結果灰色のトイレスライムと携帯用トイレスライムを完成させる。身体も一部分を洗浄する機能をつけたが、先程までの青スライムとは比較できないほど、何の問題も無く洗浄してくれる。



「さて、残る問題は、ヒデオに何を手伝わせるか、じゃが……」

「そうね、手伝いは要らなくなりました、灰色スライムができました、だと違う疑いを持たれるわ」

「ナナ、他にどんなことができるの」

「むう。魔術以外では糸を出す・麻痺毒を出す他、スライムを出せるのじゃ。スライムは固くなる・治療できる・温めたり冷やしたりする・木材や皮革金属等様々な加工・洗浄など、いろいろできるのじゃ」

「スライムばっかり。ナナはスライム使い」


 サラの呟きを聞いてどきっとするが、完全に正体を明かしたわけではないから良しとしておく。


「じゃあまだ肌寒いから、スライムを使って防寒の何かをしていたとかどうかな? それならナナちゃんが裸だった理由も説明つくかも?」


 シンディの案に乗り、四十度から十度刻みで八十度までの、橙色カイロスライムを作り出す。ヒデオには九十度の試験中に服の中に落としてしまい、慌ててあの姿になったということにして誤魔化しておく。


 翌朝ヒデオは真面目に使い心地について報告してくれたが、正直どうでも良かったので何を言っていたか覚えていない。

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