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英雄とスライム  作者: ソマリ
魔王編
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2章 第21話V&L 絡み合う思惑

 アトリオンにて戦闘が行われるおよそ六年半ほど前、地上界へとたどり着いたヴァンはアーティオンから世界樹へ向かう途中で進路を北に取り、小都市国家群と呼ばれる紛争地域へと足を踏み入れた。そこで目に付いた村や集落を襲撃し食料を調達しながら、北西部にあるバイアロンという都市を目指していた。道中で何度もいずこかの兵士と戦闘になったがヒルダ邸から奪ってきた二体のゴーレムによって軽々と殲滅でき、地上界にいる人々のあまりの弱さに拍子抜けしていた。

 また地上界に来て文献でしか読んだことのない『ゴブリン』という魔物にも遭遇し、この弱い魔物を実験台にすることで、異界では魔物一体一体が強く試す機会がなかった『魔獣操者の杖』という魔道具の使い方も把握できた。これにより道中で見つけたゴブリンや狼を従えることが出来るようになり、アンデット化させた村人を含めて三百体ほどの集団が出来上がる。

 これらを利用してバイアロンに攻撃を仕掛けるが千人を超える兵士に押され壊滅してしまう。流石に闇の瘴気によって住人の大半を失ったアーティオンと違い、自分一人で何千何万という野人族を葬るとなると魔力が不足すると考えたヴァンは、単独で兵士の大半を葬ると一旦引き、無人となった村の一つに潜む。ここでのヴァンの目的は『勝利』ではなく『一人でも多く殺すこと』であり、そのための手段を模索していた。



「強大な力を持ち魔物を操る魔王よ、俺様を配下にしろ。絶対役に立ってみせる」


 村に潜んでいたヴァンの元を訪れた金髪の青年はそう言って、茶色の瞳にかけた幻覚魔術を解除して金色の瞳を露わにする。キンバリーと名乗ったこの光人族の青年はバイアロンに住んでおり、バイアロンの住民を皆殺しにするため協力したいと言う。また長命種である光人族であることを悟られぬよう少都市国家群を転々としていたため、都市のみならず全ての集落の位置や魔物のすみかも把握していると言う。

 魔人族である自分になぜ天人族が協力しようというのか幻覚魔術をかけた紅い瞳で睨みつけ問い質すと、キンバリーは「その方が多く殺せるだろ?」と言ってニヤリと笑った。その目が自分と同じ『殺しに快楽を得る者特有の目』であることに気付いたヴァンは『魔王』という自分につけられた二つ名が気に入ったこともあり、信用できるかどうかは別と割り切り配下として使うことにした。


 キンバリーの情報から周辺の魔物の生息地を回り異界にもいたオーガと魔狼を従えると、オーガにはゴブリン達を、魔狼には狼達を大量に従えさせ、また周辺の村や集落を襲うことでアンデットと魔物の餌を調達する。そうして八百体程まで増やした魔物たちをバイアロンに向けると、自身はキンバリーの手引きで都市内部へと侵入する。

 前回の戦いで兵が不足しているバイアロンは魔物の大軍を前に都市防壁の門を閉め籠城戦の構えを見せるが、都市内部に潜むヴァンは深夜、四つある門のうち一つを守る兵士を皆殺しにし、その全てをアンデットに変えて住民を襲わせる。そうしてヴァンは次々と門を落としアンデットを量産していき、夜が明ける頃には住民の逃げ道を完全に封鎖していた。

 あとは魔物とキンバリーの好きなようにさせ、二日もするとバイアロン住民約二万の命は僅かな数を残してが物言わぬ死体かアンデットとしてヴァンの旗下に加わり、僅かに生きて捕らえられた者もゴブリンやオーガの慰み物となって命を散らせる。

 アーティオンを壊滅させてから四年、とうとう二つ目の都市バイアロンを落としたヴァンは満足げに笑みを浮かべるのであった。

 アーティオンと違い闇の瘴気の助けがないため一日に数百体程度しか死体をアンデットに変えることができず多少時間はかかったもの、魔物の餌ともなるアンデットの大軍を従えたヴァンは、キンバリーの情報を元に小さな村や集落に魔物を送り殺戮を繰り返しながら小都市国家群南西のホルアデに向かう。しかしここで冬が訪れたことにより、バイアロンに戻り一冬を過ごすことになる。


 雪が溶けると再度ホルアデへの侵攻を始め陥落させると、中央のアルプーラと周辺の村や集落を襲い五度目の冬をアルプーラで過ごす。翌年の雪解けを見計らい北東のハーデラグも陥落させ一人残らず虐殺を行い、ここでも周辺の村や集落を襲う。

 そしてヴァンが地上へと現れ丸六年となる十月、六万を超えていたアンデットのうち四万をキンバリーに預けると世界樹北のテミロイへと向かわせ、ヴァンは中央南部の都市セトンへ残り二万のアンデットと魔物を従え侵攻、これによりヴァンは小都市国家群六都市全ての殲滅を終える。

 ヴァンは雪の積もり始めたセトンで世界樹の破壊にもうすぐ手が届くという事実に心を踊らせ、二十万都市である世界樹の街アトリオンをどうやって落とすか思考を巡らせつつアンデットを増やしながら雪解けを待つのであった。



 一月のとある日、キンバリーが一冬過ごしたテミロイからセトンへと深い雪を越えてヴァンの元を訪れ、小都市国家群壊滅の祝いと礼を告げる。


「魔王ヴァン様のおかげで少都市国家群は壊滅、あちこちで死を振りまいてくれたおかげで闇の瘴気がそこかしこに現れてるみたいだぜ。バイアロンなんてもう真っ暗で周辺には魔物が増えてきてるってよ。そんで次はどうするんだ? この先の都市はどこも人が多い、一旦南西の山岳地帯に向かって魔物を増やすって手を勧めるぜ」


 ヴァンはその言葉を聞いて目を細める。


「ほう。バイアロンの現状を誰から聞いたのだ?」


 キンバリーはしまった、という表情を浮かべるが、観念したのか深いため息をつく。


「こ……子飼いの傭兵にぶっ潰した都市のお宝を渡して、情報を集めさせたんだよ」

「それで、その傭兵は他にどういった情報を私にもたらしてくれるのかな?」


 ニヤニヤと笑うヴァンに、キンバリーは渋々といった感じで世界樹の街アトリオンの戦力情報と、ティニオン王国王都アイオンやその周辺の村や集落の位置情報を伝える。


「ほう、アトリオンにはティニオンの第三王子がいる、と?」


 キンバリーから地上界の人の暮らしや身分制度について聞いていたヴァンは、王子という身分について知っておりその有用性に目をつける。


「いい情報じゃあないか、キンバリー。ではここセトンに二万のアンデットを残し、残りを全てテミロイへと移動させよう。狙いは世界樹の街、アトリオンだ」


 あれこれ聞かれることを想定して身構えていたキンバリーだが、あっさりと開放されたことに安堵するような表情を浮かべる。しかしそもそもヴァンはキンバリーの事は最初から信用しておらず、使えるから使っているというだけのことなのだ。


「それとアトリオンにいる貴方の子飼いの傭兵と連絡を取る手はずを整えておくように」


 そうキンバリーに指示するヴァンの表情は、まるで悪巧みを思いついた子供のようでもあった。







「それは本気で言っているのですか!?」


 ティニオン王国のあるエスタニア大陸の東、イルム大陸の北部に位置するフォルカヌス神皇国の宮殿内の一室に、一人の女性の声が響き渡る。


「もちろんだ、レーネハイト。貴様にはエスタニア大陸に現れた魔王を討ち倒し『魔獣操者の杖』を持ち帰ってもらおう」

「貴様にはジルフィードという転移魔術を使える仲間がおったであろう、二ヶ月足らずで着くであろうよ」

「光天教からの進言であるぞ。神皇様のみならずステーシア皇女も了承しておる」

「これはクラン『風の乙女』への正式な依頼だ、依頼書と支度金は傭兵ギルドから受け取れ」


 大理石のような真っ白な壁に覆われ複数のテーブルと椅子が並ぶ会議室のようなその室内には、白銀のプレートメイルを身に纏い明るい金髪を背中まで伸ばした女性が立っており、室内最奥に並ぶ一際豪華な椅子に腰掛ける四人の男達と睨み合っていた。



 フォルカヌス神皇国は神皇を頂点とする封建制度で治められている、首都シェンナを含めた五つの大都市で構成される大国である。しかし神皇とは名ばかりで権力を取り上げられた傀儡であり、代わりにそれぞれの大都市を治める四大貴族が結託して権力を握っている。


「くっ……ではせめて、ステーシア様にお目通りを……」

「ならぬ。ステーシア皇女にはこちらから伝えてあるので心配はいらぬ」

「『魔獣操者の杖』を早く持ち帰ればそれだけ魔物の被害が減るのだ」

「それこそがお心を痛めておられるステーシア皇女の為になるとわからんのか」

「もちろん貴様一人ではなく『風の乙女』の精鋭を連れていくんだな。わかったら早く準備を進めろ」

「はっ……承知、しました……」


 レーネハイトは怒りや苛立ちを隠そうともせず四人の男達を睨みつけるが、言葉だけの了承の意を伝えると会議室を後にする。



「あら~、いくら何でも強行軍過ぎるわねぇ。ワタシの転移魔術って言っても一日に移動できる距離はせいぜい300キロよぉ? この地図の場所だとエスタニア大陸の世界樹近郊よねぇ、到着は早くても火の月半ばってとこかしらぁ?」


 レーネハイトが傭兵ギルドから受け取ってきた依頼書と地図を見ながら、長身でガッチリとした体型を女性物の衣服で包んだ濃い化粧をした男が、ふわっとさせた紫色の長い髪をいじりながら愚痴をこぼしていた。


「片道で二ヶ月か……仕方あるまい、中立を保っている光天教の進言だ、無視はできん。……それに四大貴族の奸計であることは間違いないが、神皇とステーシア様の了承を得ていると言われた以上、断るわけにも行かぬのだ。頼んだぞ、ジルフィード副団長」


 そう言って悔しさに顔を歪ませるレーネハイトは四大貴族の企みと目的について考えを巡らせる。


 レーネハイト・グリニールはフォルカヌス神皇国の英雄として名を馳せている。貴族として皇女ステーシアの近衛を経て、四大貴族の暗躍により貴族位が剥奪された後はジルフィードとの出会いをきっかけに、女性限定の傭兵団『風の乙女』を立ち上げると、『白銀のレーネハイト』と呼ばれるようになり順調に功績を重ねていった。『風の乙女』が首都シェンナで最大戦力となった頃、国家と『風の乙女』の間で友好関係を結ぶためという名目で、つい先日レーネハイトはおよそ三年ぶりに皇女ステーシアとの再開を果たしていたばかりであった。


「レーネとステーシア皇女が再開を果たした途端にこの命令じゃあ、裏に何かあると思って間違いないわよねぇ……了解よ、レーネハイト団長。それにしてもあまり大人数で移動もできないわねぇ、六人が限界よ? メンバーはレーネ、ワタシ、ペトラ、ワース、ビルギッタ、ミーシャでどうかしらぁ?」

「む……目的地であるティニオン王国へ行くにはプロセニア王国を越えねばならんが、大丈夫か?」


 ジルフィードの言葉で我に返ったレーネハイトは、野人族至上主義をかかげ亜人族や地人族等へ弾圧を行うプロセニアに、地人族のペトラ、獣亜人族のワースとミーシャを連れて行くことに難色を示す。


「魔物の王と称される輩が相手なのよぉ? 『風の乙女』の最大戦力で向かう必要があると思うわぁ。それにワタシ達が不在の間セーナンの魔物被害を抑えるために向かう人員も必要だから、これがベストメンバーよぉ。プロセニアの国境はワタシの転移魔術で超えるから問題無いけれど、その代わり道中の村々での水食料の調達はレーネとビルギッタにお願いするわねぇ、ワタシじゃあ目立ちすぎて……ね?」

「承知した、こちらこそよろしく頼む。それとボスティア王国を攻め滅ぼしたローマン帝国の動きはどうなっている?」

「こちらに攻め入ってくる気配は無いみたいよぉ。セーナンの現在の脅威はボスティアでもなく帝国でもなく、魔物のみってことになるわねぇ」

「ではセーナンに赴く者も、シェンナに残る者も、私が不在の間十分に気をつけるよう通達を出してくれ。四大貴族共は私がフォルカヌスから離れている間に、恐らく何らかの奸計を仕掛けてくるに違いない。……しかしままならぬものだな、ジル……英雄と呼ばれるほどの力を持ってしても、国家や権力に抗うことも出来ずステーシア様お一人を救うこともできぬ……。そんな私のどこが英雄だと言うのだ……」


 そう言って肩を落とすレーネハイトの頭を、ジルフィードはたくましい腕で抱き寄せ背中を軽く叩く。


「少なくともワタシはレーネに救われたわぁ。『肉体の性別が何であろうと魂が女なら乙女を名乗って何が悪い』って言ってくれたレーネは、ワタシにとって間違いなく英雄よぉ? そして英雄レーネハイトに救われ憧れ共に戦うことを選んだのがクラン『風の乙女』なのよぉ。その皆がレーネと同じように、ステーシア様の事を気にかけているわぁ。国民に四大貴族の専横を許すな、という声が高まってきたのだって、レーネがいたからよぉ? 貴女は戦闘力だけではなく、その生き方でも英雄と讃えられているの。だからこんな任務さっさと終わらせて四大貴族の企みを暴きに戻るわよぉ?」

「……ああ、そうだな……魔王と呼ばれている相手の力は未知数だが、エスタニア大陸は魔物どころか住む人々の力もイルム大陸より数段劣ると聞く。そのような土地で魔王などと大層な名で呼ばれていようと、ドラゴンすら屠る我ら『風の乙女』の敵ではないだろう。そうなると問題はやはり移動だな。ジルの空間庫だけでは負担が多すぎる、アイテムバッグも幾つか持っていくとしよう」


 ジルフィードから体を離したレーネハイトは、わずかだが先程よりスッキリとした顔をしており、緑がかった青色の瞳にも力が戻っていた。


「最速で魔王を討伐し、フォルカヌス神皇国に戻るぞ!」


 レーネハイトはそう力強く宣言し、同様の内容をここにはいないステーシアへ心の中で誓うのであった。

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