2章 第17話R 紅の探索者
クーリオンの冒険者ギルドに着いて顛末の報告をし村長から受け取った羊皮紙を手渡すと、『森の息吹』と共に会議室のような場所に通され、そこで待つように言われる一行。そこで暫く待つと、細身で神経質そうな五十代くらいの男性がまずノックもせずに会議室へと姿を現し、次いで年齢は二十台半ば、暗い茶髪を短く刈った身長190センチほどの筋骨隆々で熊のような剣士と、いつも戦利品の査定をしている女性職員が続いて会議室へと入ってくる。
「私はギルド長のホスメンだ。まずは調査依頼の完遂ご苦労だった。しかし巣の発見だけではなく殲滅も行ったと報告を受けたがどういうことかね?」
ホスメンはそう言いながら剣士を伴い奥の席へと腰掛ける。
「『森の息吹』のクイーナだ。報告どおり、調査当日の夜ゴブリンリーダーによる村への襲撃があり、それをレイアスくんのパーティーが撃退、ゴブリンリーダーの討伐に成功した。翌日私ら『森の息吹』が巣を発見、ほとんど戦力の残っていないゴブリンの巣を討伐。雌三体を討伐後、巣穴の洞窟も再利用されないよう埋めてきた」
「ゴブリンリーダーを討伐ねえ。たった三人でか? 単体ならともかくリーダー種の脅威は群れの統率力だ。リーダーが率いる群れにはゴブリンが五十体以上いるのが常識だ、三人はもちろん全員合わせても十人足らずで何とかなる相手ではない。報告は正確に行い給え」
その言葉を聞いていたエリーシアは怒りで顔を赤くしていたが、シンディにたしなめられ無言でホスメンを睨みつけている。するとクイーナが革袋から魔石と討伐証明となるゴブリンの右耳を取り出し机の上に並べ始め、レイアスにも同じように並べるよう目配せをする。ホスメンは部屋の入口付近で立ったままのギルド職員に査定するよう命じるとそのままふんぞり返って結果を待つ。
「……『森の息吹』ゴブリン十五、雌ゴブリン三、魔石と討伐証明合わせて金貨四十五枚です。……レイアス君、ゴブリン二十と……魔石サイズ、2.5センチ級! 耳も大きさからしてゴブリンリーダーと判断されます! ゴブリンリーダー討伐証明が金貨八十枚、魔石が金貨百枚、ゴブリンの二十枚と合わせて金貨二百枚になります!」
興奮気味に話す女性職員と対象的に、ホスメンの顔は驚愕に目を見開いている。ホスメンは再度女性職員に確かめさせて間違いないと報告を受けると、苦虫を噛み潰したような表情で報酬の準備をするよう女性職員に命じる。
「ああ、それと君。巣の殲滅報酬として一人につき金貨三十枚ずつ上乗せしてやってくれ」
ホスメンのその言葉に驚き反論の声をあげようとするクイーナだが、ホスメンはそれを制するように右手の平をクイーナに向ける。
「すまないが討伐依頼は出ていないから正規の金額を払うことは出来ない。それに厳密に言えば『調査』の依頼である以上、本来であれば任務失敗という扱いでも良いのだぞ? 今回は巣の殲滅のためにクーリオンの正規軍が動く手はずになっていたのだ、兵士の訓練も兼ねてな。君たちはそれを無駄にしたのだよ? しかし村への襲撃を防いだという結果も鑑み、僅かながら報酬に上乗せということにした。飲んでは貰えないかな?」
「くっ……そういうことでしたら……」
通常であれば巣の殲滅などという危険な任務には、一人あたり金貨百枚ほどで三十人から四十人の募集がかけられるのだ。数年に一度のことではあるがこの時ばかりは採集専門の冒険者も駆り出され、毎回少なからず死傷者も出る任務なのである。それをたった三十枚ともなれば、クイーナのみならず誰だって文句の一つも言いたくなるだろう。しかしギルド長の言う事は至極当然の内容であり、クイーナは渋々了承するのであった。そのときホスメンの隣りに座っていた熊男が、レイアスパーティーとシンディに目をやるとギルド長の方へと顔を寄せ口を開いた。
「ギルド長、相場通り出してやれねーのか? むしろ兵士達が死ななくてよかったじゃねえか、しかも村一つ守ったんだろ?」
ホスメンの隣に座る熊男の言葉に、レイアス達もクイーナ達も驚きに目を見開いている。クイーナの後ろからはワイルの「ギルド側の人じゃねえのか」という声が聞こえ、皆心の中で同意の声を上げていた。
「し、しかしオーウェン殿、領主から正式に依頼を受けていない以上、報酬は全額ギルド負担なのですよ」
そう言って拒否するホスメンだが、オーウェンの「だから何?」と言いたげな表情を見て折れる。
「……わかりました。一人あたり六十用意させましょう」
ホスメンはため息混じりに女性職員に指示を出すと、女性職員は返事をして会議室を出る。
「ありがとうございます、ギルド長、オーウェンさん」
ギルド長と対等またはそれ以上の地位にある人のようだが、特に紹介などされていないからとさん付けで礼を言うレイアスと、続いてクイーナも同様に御礼の言葉を口にするが、オーウェンは特に反応する事無く冒険者の面々を眺めている。しかしレイアスは、時折オーウェンから鋭い視線を向けられていることに気付いていた。間もなく女性職員が大きな革袋を手にして会議室へ戻り、レイアスとクイーナが買取同意書と以来報酬受領書にサインをするとレイアスは金貨四百三十枚、クイーナは四百五十五枚の金貨を受け取り革袋へしまう。
「さて、これで依頼の件は終了だ。『森の息吹』は戻って良いぞ。レイアスのパーティーは残ってくれ、まだ話しがある」
やはり、と思うレイアス。ギルド長の口ぶりからオーウェンという男は貴族であることは間違いなく、これまでの様子から恐らく自分に用がありそうだと気付いていたのだ。マルクが王家に報告した件だったら面倒なことになるかもしれないと思いつつ、クイーナ達に軽く手を上げて挨拶をして会議室を出る五人を見送る。残ったシンディに訝しげな表情を向けるホスメンだが、移籍の件を伝えると驚きつつもシンディが部屋に残ることを了承する。
「さて、実はレイアスのパーティーは人数が少なく不便であろうと思ってな、前衛となる剣士を紹介したいと思い連れて来たのだ。こちらはオーウェン、よければ君のパーティーに加えられないかね?」
「オーウェンだ。報告ではお前らだけでゴブリンリーダー討伐とあるが、なんで『森の息吹』と協力しなかったんだ。一歩でも間違えば全員死んでいたのはわかるよな? 自己犠牲か目立ちたがりか知らねーが、これからはオレがリーダーとして無駄死にしねえように勝手な真似はさせねえからそのつもりでいろ」
両腕を組み、さも当然と言わんばかりに言い切るオーウェン。その内容と態度に呆然とするレイアスたち四人だが、我に返ると次々と口を開く。
「パーティーに加えるならまだしも阿呆をリーダーに据える気は無い。断る」
「あんた馬鹿じゃないの?」
「……嫌」
「報酬上げてくれたのは嬉しいけど、それとこれとは話が別かもー」
オーウェンに対して口々に好き勝手言う四人に対し、オーウェンはこめかみに血管を浮かせて口の端をひくひくと動かし、ホスメンは真っ青な顔をして勢いよく席を立った。
「ば、馬鹿者! 貴様らオーウェン殿に向かってなんという無礼を!!」
「無礼なのはどっちだよギルド長。そこのオーウェンはどんな立場の人か知らないけど『冒険者として』ここにいるんだよな? だったら常識で考えてみろよ。そいつの言葉は初対面の冒険者に言う内容か? だいたい何を根拠に従えって言っているのか理解できない。オーウェンをリーダーとすることはもちろんパーティー加入も断る。話は以上なら帰らせてもらう」
そう言って席を立ち、後ろの四人を伴い会議室を出ようとするレイアスに、さっきまで青かった顔を今度は紅く染めたホスメンが声をかける。
「ギルド長としての命令だ。オーウェン殿の加入を断るというのであれば、冒険者ギルドから登録抹消とし今後一切の支援を行わない。冒険者を続けられなくしても良いんだぞ?」
レイアスはこの時点で、マルクが王家に報告した『レイアスと一緒に行動すると魔力や魔術適性が上昇する』件絡みであることを確信する。でなければ、そこまで強硬に事を進めようとする理由がない。レイアスはマルクの『陛下は卑怯な振る舞いを嫌う』という言葉を思い出し、強気に振舞うことにする。その時エリーシアがホスメンに言い返すため一歩前へ出るが笑顔のレイアスに制止され、訝しげな顔で元の場所に下がる。
「わかりました。ホスメンさん、オーウェンさん」
笑顔でそう告げたレイアスに、ホスメンとオーウェンはふんっと鼻を鳴らし、エリーシア・サラ・シンディの三人は驚愕の目をレイアスに向ける。しかしレイアスの言葉はまた続いている。
「クーリオンの冒険者ギルドでは大変お世話になりました。我々は本日をもってクーリオン及びティニオン王国の冒険者ギルドより脱退、今後は他国へ移住し冒険者を続けます。それではさようなら」
ここで頭を深々と下げるレイアスを見てエリーシアとシンディは数刻ぽかーんと口を開けた後、笑いを堪えるため口元を押さえ耐えはじめる。サラは同様に口元を押さえているが、ぷぷぷっと遠慮なく吹きだす音が聞こえている。
「お、お前ら! 王族に逆らうというのか!!」
激昂したホスメンがレイアスを怒鳴りつけるが、レイアスはいかにもめんどくさいという表情で淡々と返す。
「お言葉ですが王族とは? ここには我々とホスメンさんとオーウェンさんしかいませんよね? オーウェンさん、一体あなたはどの立場でここに立っているのですか? 冒険者として、というのであれば冒険者の流儀を通してください。俺はあなたの冒険者としての経験も実績も知りません。そんな人に命を預ける馬鹿をお探しでしたら他を当たってください」
レイアスはオーウェンに軽く頭を下げ、ホスメンへと視線を移す。
「ホスメンさん、ギルドとしての支援といいますが、戦闘指導もない野営等の基礎知識も教えない、やっているのは依頼の仲介という名目の中抜きと素材の買取くらいじゃないですか。冒険者を食いつながせることはしても、生き延びさせるため、死なせないための支援を何一つとしてやっていないくせして何を偉そうに。ゴブリンの巣が見つかるたびに戦闘のできない採集専門冒険者までギルドの命令で駆り出し何人も死なせてるくせに何が支援ですか。挙句権限を盾に命令ですか、これじゃ冒険者が少ないのも当然ですよね。他国から来た冒険者に話を聞いたことがありますか? この国の冒険者ギルドは支援体制が全くなっていないそうですよ? 今まではそれでも我慢できましたが行動を縛るというのであれば、信頼を置けないギルドに用はありません」
ホスメンに対し終始馬鹿にするような視線を投げつけるレイアスは、ふん、と鼻を鳴らしオーウェンへと向き直る。
「それともオーウェンさん、王族であること『だけ』を理由に従わせますか? そんな卑怯な真似をするのがティニオン王族の流儀だというのであれば、仕方が無いので形だけでも従いますよ」
「ちょ、ちょっとレイアスくん! それは言いすぎかも!?」
流石に王族というのは予想外だったシンディが、慌ててレイアスを止める。エリーシアとサラはレイアスと同様ホスメンの態度からある程度予測していたためか、あまり動じていない様子であった。ホスメンの表情は青くなり赤くなり血の気が完全に引いて白くなりとめまぐるしく変わっている一方、オーウェンは逆に落ち着いてきたのか腕を組んでレイアスを睨みつけ、ゆっくりと口を開く。
「オレはティニオン王国第三王子、オーウェン・ティニオンだ。どうやら自分の立場も実力も解ってねえようだな。ゴブリンリーダー程度を倒したくらいで調子に乗ってるんじゃねえのか? レイアス、オレと勝負しろ。勝った方が負けた方の言うことを聞く。それで文句ねえな?」
そう言って立ち上がるオーウェン。
「つまり『王族として勝負を挑むからわざと負けろ』ということですね、オーウェン王子」
「ああ!? 何でそうなるんだよ!」
「ではなぜ勝負の前に立場を明かして名乗りをあげたのですか? このタイミングで名乗るということは王族の威光を笠に着ていることを明言することと同じだと思いますが、まさかそんなこともわからないなんておっしゃりませんよね? 自分の立場をご理解なさっていないのは、いったいどちらでしょう?」
「ぐっ、そ、そうじゃなくてだな……」
言葉に詰まるオーウェンに対し、レイアスはさらに畳み掛けるように言葉を続ける。
「では普通に勝負するとして、こちらのメリットは何でしょうか。あなたとの勝負を受けなくても、我々は国を出ますから何の問題もありませんよね? それとも俺達の家族でも人質にしますか?」
「そんな卑怯な真似はしねえ! さっきから黙って聞いてりゃてめえ馬鹿にするのもいい加減にしろよ!?」
その言葉を聞いたレイアスは、より一層強くオーウェンを睨みつける。
「オーウェン王子、既に卑怯な真似をしている自覚はおありですか? 王族がわざわざここまでするということは、ライノ男爵からの報告が理由と思われますが違いますか? 私の力を調べたいというのであれば、王族としてギルドなり国家なりを通して正式に依頼をするのが筋ではありませんか? それをせず素性を隠して無理矢理従わせようというのは十分に卑怯な行為だと思いますが?」
「てめえ……どうあっても俺に従う気はねえってことだな?」
苦虫を噛み潰したような顔でレイアスを睨みつけながら話すオーウェンに、レイアスは肩を一度すくめると呆れたような顔をオーウェンに向ける。
「あなたの『目的』は俺達を従えることですか?」
オーウェンはレイアスの言葉にハッとした表情を浮かべたのち、大きくため息をつくとぼりぼりと大きな音を立てて頭を掻き始めた。
「あー、ちくしょう! ……オレが悪かった」
そう言ってそっぽを向いて席に戻るオーウェンにつられ、レイアス一行も席に戻る。
「まず挑発するような、これまでの発言内容について謝罪します。そして俺の目的ですが、魔人族もしくは生命魔術を使用できる者の捜索です。そのためにはそれこそ他国へ行く用意もあります。今はまだ力不足を感じているため資金稼ぎを兼ねて冒険者稼業をしているに過ぎませんが、そんなパーティーでよければ、『冒険者として』加入するのは別に構いません」
レイアスはオーウェンに一度軽く頭を下げると、自分たちの目的と方針について説明をする。
「ああ、それでいい。もう察しているだろうが、ライノ男爵からの報告の真偽を確かめるのが本来の目的だからな」
「それじゃよろしく、オーウェン。それでオーウェンの冒険者経験はどれくらいだ?」
「いきなりため口かよ……冒険者経験は、無い」
「だと思ったよ。じゃあこれから一ヶ月は基礎の勉強な。冒険者ギルドでは野営の基礎もゴブリンや狼との戦闘の注意点も教えてないから……そうだな、シンディ教師役頼めるか? 俺達も別のパーティーではどうやってるのか知りたいこともあるし」
「アタシが? 別にいいよー、後でそっちとの違い教えて欲しいかも?」
指名されてうきうきのシンディに対し、嫌そうな顔をするオーウェン。しかし反論を飲み込み頷くと、軽く首を傾げて隣に座るホスメンに向きなおる。
「おい、そういやホスメン。何の指導もろくな支援もしてねえってのはどういうことだ? 説明してもらおうか?」
「え、あ、いえ、それはここだけではなく、国内の全冒険者ギルドで同じ方針を……」
オーウェンに睨まれしどろもどろになるホスメンだが、そこに暴露した本人が助け舟を出す。
「オーウェン、ギルド長を責めても仕方ない。そもそも魔物被害はそれほど多くないからって蔑ろにしている本部や国の方針に問題があるんじゃないかな。ですよね、ギルド長?」
その言葉でオーウェンが睨むのを止めたため、ほっと息をつくホスメンだが、そこにレイアスが続けて畳み掛ける。
「でも一都市のギルドでも出来ることはあると思うんです。せめて周辺の魔物の情報や資料などを開示するとかどうでしょう? 冒険者は自己責任ですから、読んで対策を練るのも読まずに進むのも自由です。それなら特にコストを掛ける必要も無いので本部の方針に逆らっているわけではないでしょう?」
「あー、それいいかもー? 今だと薬草の分布図すら無いものねー」
「あたしらは薬剤師さんに聞きに行って、薬草の特徴とかどんな所に自生するか調べてから行ったのよね」
両手を胸の前で組みレイアスに同意するシンディと、腕を組み深く頷くエリーシア。サラは無言でコクコク頷いている。
「わ、わかった。採集物や魔物の分布、生態についての資料庫を公開する……だが、資料の保全にも費用がかかる、ただというわけには……」
「一人につき利用料は銀貨五枚、破損等があった場合修繕費負担でいいんじゃないですか? 誰がどの資料を手に取ったか読む前に記録させるようにすればとりあえず良いんじゃないでしょうか」
にこやかに提案するレイアスに、ため息とともに了承し準備を進めさせると言って会議室を出るホスメン。そのホスメンが立ち去った後、オーウェンがレイアスに対し呆れたような顔を向ける。
「てめえ最初からここの資料狙ってやがったな? それにオレに対してもきっちり落とし所を出してくる辺り、ただのガキじゃねえな」
それに対してレイアスは軽く首をすくめると、種明かしを始める。
「買いかぶり過ぎだ。資料についてはオーウェンが大人しく引いてくれて、しかもギルド長に対して圧力をかけてくれたから交渉できただけで狙ってたわけじゃない。オーウェンはゴブリンリーダー討伐の報酬上乗せについて提案してくれる直前、俺達若年組を見てただろ? それと『無駄死にしないように』とか俺達のこと心配してるような発言もあったから、根は良い奴だろうと思ってた。ライノ男爵から『王族は卑怯な行為を嫌っている』とも聞いていたから、卑怯者のレッテルを貼ることで言動を誘導して強気の交渉ができたんだ。交渉が決裂しても他国へ行く時期が早まっただけと思えばどうってこと無いし」
「てめえ本当に十三歳かよ……末恐ろしいガキだぜ。ホスメンが脅しを入れてからオレが折れるまで、本気で冒険者ギルド抜ける気だっただろ?」
「そういえば途中ずっとギルド長じゃなくて名前で呼んでたわね、そんな意図があったの?」
「レイ、ずっと落ち着いてた。だから信じてた」
「あ、あたしだって信じてたわよ!?」
「アタシはずっとヒヤヒヤしっぱなしだったよー! 心臓に悪いかも!」
やっと緊張が解けたのか騒ぎ出す三人だったが、ひとまずレイアスの提案でそれぞれ自己紹介をおこなう。ここで二十四歳のオーウェンがシンディの年齢が自分より上だと知って驚いていた。
「ところでレイアスよう、パーティー名とか決めてねえのか?」
「あー……ほら、パーティー名って○○の牙だとか○○の風だとか○○の守護者だとか、何となくピンとくるものが無くてな、付けてなかったんだ」
そう言って指先で頬を掻くレイアスだが、本当のところは英雄としての記憶が中二病的なパーティー名をつけることに拒否反応を起こして保留にしたままだったのだ。
「それじゃー『紅の探索者』なんていいかも? 魔人族探しがレイアスくんの目的だし、魔人族って瞳が紅いんだよねー?」
「あら、良いじゃないシンディ。あたしは賛成よ」
「……オーウェン入らなければ『レイの楽園』が候補だった」
「待てサラそれ初耳だし断固として拒否するからな!?」
「……じゃあ『紅の探索者』で決まりだな。とりあえず半年、お前と行動を共にして本当に魔力に変動があるか確認する。その先は結果次第だ。それまでよろしく頼むぜ」
そう言って右手を差し出すオーウェン。レイアスはその手を握り握手を交わすと、ふとした疑問を口にする。
「なあオーウェン。王族って暇なのか?」
直後オーウェンに拳骨を受け、ぐおおおと呻きながら頭を押さえてしゃがみ込むことになるレイアスだった。
「てめえは本当に王族に対する畏怖とか全くねえのな……まあしばらくは冒険者としてやっていくつもりだからその方がいいけどよ。……オレは第三王子で、王位は第一王子の上の兄が継ぐことになっている。下の兄はその補佐として統治について学んでるが、オレは頭の出来はそれほど良くねえもんだからよ、軍にでも入ろうと思ったが昔叛乱があった名残で王族は軍には入れねえ決まりでな。上の兄に子供が生まれてからじゃねえと継承権も捨てられねーから、爵位を貰ってどこかの領主に収まることもできねえ。だが自由なのであって、決して暇なわけじゃねえ。そこんとこ間違えるんじゃねえぞ?」
「お、おう……悪かった……」
エリーシアとサラに助け起こされ、頭を擦りながら謝罪を口にするレイアス。しかしその表情はどことなく嬉しそうにも見て取れた。英雄としてハーレムづくりを一度は夢見たものの、実際に女だらけの環境に男が一人というのはなかなかに居心地の悪いものだと遅まきながら気付いていたため、実は同姓がパーティーに増えるのは大歓迎だったのだ。




