2章 第10話N 亜人
「ナナさん、情報が集まり現地へ移動する必要が出た場合のことなのですが」
「わし一人でぱんたろーで跳んでいくのじゃ」
「駄目です」
高性能ゴーレムの骨格生成中のナナを訪れたアルトは、厳しい顔をナナに向けていた。
「おぬしらを連れて移動したら時間がかかりすぎるのじゃ」
「駄目です。せめて誰か一人、できるなら僕とダグ・リオ・セレスの四人を伴って移動するのが最善です。万が一があっても十分に対応できる戦力と、調査に適した知識が最低限揃う面子だと思います。そもそもナナさん、転移魔法陣を探しに行って、それが万が一切れ端しか残っていなかった場合それが転移魔法陣の切れ端だと判断できますか?魔術的な仕掛けがあった場合、それに対応できますか? 魔道具・魔方陣作成の知識も技術も乏しいと聞いてますので、今後のために僕が魔道具作成について教えます。魔方陣を書き直すことになった場合必要ですから。そして魔王が一人で出歩くなど言語道断です。そこで相談なのですが、全員が乗れるだけのゴーレムを作ることは可能ですか? できるなら製作をお願いしたいのですが。外に作業場を用意させてあり材料もそこに運ばせてありますので、ご自由に使っていただいて構いません。それではよろしくお願いします」
早口で話しながらずいずいとナナへにじり寄っていくアルトの迫力に、負け思わず頷いたナナは、深夜一人アルトが用意したと言う作業場に立っていた。十分な広さのある作業場を眺めしばらく考えた後、アルトの言う『全員が乗れるだけのゴーレム』を作るため目的の生体部品を再構築して組み上げていく。まずは骨格を組むと内臓が存在するであろう位置に十分な空間ができ、イメージ通りのものが作れそうだと満足げに頷く。
手足の筋肉を再構築しているうちに夜が明けてきたため作業を中断して全てを空間庫にしまい、アルトに魔道具作成を教わる準備のため部屋へと戻るのであった。
ナナはアルトから魔道具作成の手ほどきを受け、基本魔道具であるライターのような着火機や火を使わないランタンなどの簡単なものをどんどん作っていく。魔方陣も魔道具の一種という扱いであったためこうして基礎から学んでいた。ヒルダから基礎は学んでいたものの、それは主に魔道具の使用法についてであって、作成法ではないのだ。
ある程度完成した頃、以前引き出しに空間庫を結びつけた事を話すと、今度は用意された様々な鞄やポーチに空間庫機能の付与方法を教わり、アイテムバッグを大量に作成した。本来アイテムバッグの作成は高等技術なのだが、魔力視がそれを可能にしていた。用意された全ての鞄類をアイテムバッグにし終わると、アルトはその様子を見て頭を抱えていた。
「どうしたのじゃ? 頭でも痛いのか?」
「いえ……大丈夫です。それよりナナさん、疲れたりとかしていませんか?」
「全然問題ないのじゃ」
「そうですか……普通の魔道具職人は、空間属性鞄を一日一個、多くても二個作ったら倒れるほど魔力を消費するのですが……」
「一般的な都市住民の魔力量は80ほど、職人や兵士で200くらいじゃが、わし5,000超えておるからのう。問題なくて当然なのじゃ」
アルトはナナの非常識っぷりに慣れつつあるのか、落ち着いた様子で話を聞いていた。
「魔力量の測定までできるのですか……では僕の魔力量はどれくらいですか?」
「アルトは1,150じゃ。ちなみにダグは1,200あるのじゃ」
「……ナナさんの五分の一というのも驚きましたが、僅かとはいえダグに魔力量で劣っているという事実の方が受け入れがたいですね……ともあれ魔力量が高いということは魔道具作成には有利です。次は魔法陣の作成をやってみましょうか」
結論から言うと、ナナは魔方陣作成は全くと言って良いほどできなかった。そもそも魔素を直接操作して魔術を発動しているため、術式を正しく使用したことが無く、見てそのまま同じことは出来ても内容は全く理解していなかったのだ。
「ええと……ナナさん。基礎魔術術式講座から始めましょうか……」
「わかったのじゃ……」
ナナはこうして日中の多くを魔道具作成の練度を高めることに使い、夜間は外の作業場で移動用ゴーレムを作る日々を送っていた。製作途中の高性能ゴーレムは結局作りかけで再び空間庫に仕舞われる事になった。空き時間はリオはダグに、セレスはアルトに指導を受けて戦闘訓練をしているのを眺めたり、四人の戦闘訓練に付き合ったりしつつ情報が集まるのを待つナナ。そして四月、ナナが待ちわびた報告がようやく届いた。
「「「「「……」」」」」
ダグ・アルト・リオ・セレス・リューンの五人は、ナナが『移動用ゴーレム』として空間庫から出したものを見て言葉を失っていた。それは体長6メートルの、グランドタートルの形をしたゴーレムであった。しかしその甲羅の横には一枚の扉が設置され、開かれた扉の中には狼の毛皮で覆われた長椅子が姿を見せていた。甲羅のあちこちにはガラスがはめ込まれ、グランドタートルの首の後ろ辺りは特に大きなガラスがはめ込まれている。
「この子はタンクゴーレムの『わっしー』じゃ。よろしくなのじゃ」
今朝、五百年程前に光人族の一団が大陸南東部の山を越えていったのを見たと言う知らせが届き、早速調査に向かうべく準備を終えて集まったナナの側近達は、薄い胸を張って移動用ゴーレムを紹介するナナを前に言葉を失い固まったままであった。最初に再起動を果たしたアルトが恐る恐る口を開く。
「ナナさん、僕は『全員が乗れるだけのゴーレム』をお願いしたはずですが……ああ、そうか……そういうことか……いえ、すみません何でもありません……」
アルトが言葉足らずだった自分のミスとナナの勘違いに気付いて項垂れる。実はアルトは全員が乗れるだけの『数』を揃えて欲しかったのだが、ナナは全員が乗れるだけの『サイズ』のゴーレムを作ったのだ。しかし結果的には同じ空間にいられるのだからむしろ好都合と割り切り無かったことにしたアルトであった。
「ナナよぉ、こんだけのサイズのグランドタートル、一体どうしたんだ……まさか倒して素材を手に入れたってのか?」
「うむ、わっしーの左目を見るのじゃ。別の生物の目が嵌っておるのはわかるかのう? そこに散弾筒を突き立てて、ばん、とな。それとほれ、リオよ。ついでに作ったのじゃ、つけてみよ」
ナナはリオに向け、グランドタートルの甲羅を貼り付けた手甲を放り投げる。それはダグが持つ物の、デザイン違いの物であった。
「え……姉御、これ『拳皇』じゃん! いいの!? ありがとう!!」
「あら~、わたしには無いんですか~?」
「セレスには何か良い素材が手に入ったら作ってやるゆえ今は我慢して欲しいのじゃ。魔術阻害の装備は防具にすると術も阻害しかねんからのう、グローブ程度か武器にしか使えんのじゃ。さて、いい加減皆わっしーに乗らんか。置いていくのじゃ」
ナナとナナに抱きついたままのリオに続いて慌てて三人が乗り込み、リューンは留守をお任せくださいといって深く頭を下げ見送っている。内側は狼の毛皮を貼り付けた背もたれつきの長椅子が五つと、一段高い位置に前方を見渡せる御者席のようなものが存在し、ナナはその御者席へと上りわっしーに出発を指示する。
わっしーはのそっのそっと空中を登り始め、建物や外壁よりも高い位置まで上がると水平移動を開始する。疾走するわっしーによる最初の数秒の揺れで危険を感じたアルトたちであったが、すぐさま揺れの無い快適な状態になったことで落ち着きを取り戻す。実際には十数秒毎にとすん、とすん、と微妙な揺れがあるが、気にならない程度であった。
「ナナさん、このわっしーは一体どうやって移動を?」
「わっしーの腹の下にワックス……油を塗ってじゃな、空間魔術結界で作った道を水魔術で水浸しにし、その上を滑らせて移動しておるのじゃ。わっしーが通り過ぎたら集めた水も魔素に戻して消しておるから垂れ流しになることもないのじゃ。それにしても試運転なしじゃったが上手く行ってよかったのじゃ。ほれ、窓から横を見てみるがよいのじゃ。時折手足を掻いて加速しておるじゃろ」
外の景色を見てリオとセレスは目を輝かせ、アルトは試運転なしと聞いた瞬間から青ざめ引きつった顔をし、ダグは開き直ったのかゲラゲラと笑い転げていた。
食事とトイレ休憩以外全てわっしーの中で過ごす一行。就寝中もナナはリオとセレスに両側から抱きつかれながらわっしーを移動させ、およそ五千キロの道のりを四日足らずで移動する。途中で襲ってきた空を飛ぶ魔物はわっしーの張る結界を破ることができず、ほとんどは諦めて引き返していくが、運悪く正面に回ってわっしーに轢かれて落下していくものもいた。
「山脈は越えたのじゃ。一面の森じゃがどこかに光人族の集落があるかもしれん、移動の速度を緩めるでの、何か人工物など無いか探して欲しいのじゃ」
リオの元気な返事を筆頭にそれぞれが返事を返し、窓から下を眺めること三日、ようやく人影を発見したのはセレスであった。
「あら~、あそこに可愛らしい女の子が……あら? 蜘蛛??」
そのセレスが見つけた人影は蜘蛛の体に人間の上半身が乗っていて、木の葉に紛れて樹上から空を歩く亀を警戒しているようだった。
「おや……よく見つけましたね、言われなかったら気付きませんでしたよ。あれは亜人種のアラクネ族ですね。まだ生き残っている者がいたとは驚きです」
アルトの説明に耳を傾ける一同。光魔大戦時に少なくない数の亜人種が魔人族と共に異界へと送られたが、大半は闇の瘴気に触れて死ぬか魔物化するかという道を辿り、生き残った者も凶暴化した魔人族や他種族との争いの中で数を減らし絶滅したと言われているとのこと。当時は虎や獅子等の獣亜人や蛇や蜥蜴などの爬虫類亜人、そして眼下にいる蜘蛛や蟻等の昆虫亜人も存在したらしい。
「とりあえず話を聞いてみんことには始まらんのじゃ。言葉は通じるかのう」
不安げに呟くナナを怪訝そうに見るアルトとセレス。
「同じ人族の一種ですから当然話せますが、どうかしたんですか? 別に蜘蛛の外見をしているからって蜘蛛語を話すわけではありませんからね」
「あら~、方言のことかしら~。確かに別の集落と自分の集落では~、微妙に言い回しや発音が違ったりしますよね~」
「同じ人種でも国や地域、種族によって別の言葉や文字を使う事は無いのかのう?」
「……言語・文字ともに、別の存在は聞いた事もありませんし、文献等で目にしたこともありません。少なくとも千年前と変わっていなければ、地上界も同じです」
ナナは当たり前に日本語や英語のような複数言語がある物と思い込んでいたのだが、それが間違いだったとアルトの指摘で気付く。余計なことを言ったと思ったが既に手遅れで、アルトは何か考え込みながらナナの様子を窺っている。
「あー、実は以前ミツバチと会話したことがあってのう、言葉が通じぬから思念で会話を……」
アルトの大きく開かれた目と口を見て、誤魔化そうとしてさらに深く墓穴を掘ったことを悟ったナナは途中で話すのをやめ、眼下のアラクネへと顔を向ける。
「ともあれ言葉が通じるのであれば問題は無いのじゃ、早速交渉じゃ! わっしー、その辺りの広くなっているところに降りるのじゃ。わしは先に降りておるぞ」
ナナはアルトが衝撃から立ち直り追求を始める前に逃亡を図り、わっしー横の扉を開けて空中へダイブする。
「はっ!? ナナさん何を!」
アルトを筆頭にした四人の驚愕の声を背に、およそ300メートルほどの高さをアラクネへ向けて自由落下するナナ。200メートルほど落ちた辺りで空間魔術の足場を薄く何枚も重ねて作り、ばりばりばりと踏み抜きながら減速を果たし、樹上のアラクネと同じ目線の空中に着地する。
そのアラクネは片手に長い槍を持った十二~十三歳くらいに見える少女で、強いパーマのかかった濃い緑色の髪を無造作に胸の辺りまで垂らし、貧相な膨らみの頂をギリギリのところで隠していた。
人として見える部分から想像すると身長は140センチあるかどうかといった感じだが、彼女の腰下から生える巨大なタランチュラを連想させる蜘蛛の体を含めると、2メートル近くあるのではないかと想像できた。
混乱し事態についていけずに呆然としているアラクネの少女を前に、ナナは敵意が無いことを示すよう両手を広げで話しかける。
「こんにちは、なのじゃ。少し話を聞きたいのじゃが、良いかのう?」
周囲の様子を窺うと、姿こそ見えないが他にも数体のアラクネの存在を確認する。ナナはその者達にも聞こえるように大きな声で話す。
「敵意も害意も無いのじゃ。わしらは話を聞きに来ただけなのじゃ」
我に返った目の前のアラクネ少女は槍をナナへ向け、蜘蛛の前足を高く掲げて威嚇するような態勢を取る。
「仮面を取って顔を見せろ!」
「断るのじゃ」
即答で拒否したナナを、他のアラクネ族も姿を現し取り囲む。目の前を除く全員が豊満な胸をさらけ出した美しい女性達で、皆一様に木の幹に蜘蛛の足で掴まり、人間の手は槍を構えている。
「あー、すまんが今降りてきておるわしの仲間には男もおるでの、皆服を着てもらえんかのう?」
「「「男!?」」」
あまりの食いつきに少しびっくりしたナナに、周囲の豊満なアラクネたちが一斉にお尻を高く上げて糸を放つ。ナナはそれを避けようともせず粘着質の糸でぐるぐる巻きにされ、無抵抗のまま捕獲される。
そしてすぐに豊満な胸のアラクネの一人に命令された、貧相な胸のアラクネ少女に担がれてわっしーの着陸地点付近へと運ばれていく。このアラクネ少女だけは先ほどナナに向けて糸を放っておらず、むしろ仲間達の豹変振りに驚いていた様子だった。
「説明が欲しいのじゃが、良いかのう?」
「……ごめんねー。でもこうでもしないと私達が滅んじゃうんだよー……」
「滅ぶ? なぜじゃ??」
「あたいが生まれた頃に子種を提供してくれてた光人族の集落が滅んじゃって、あたいより若い子供がいないんだよー。だからあんたと交換に子種貰うんだって、姐さんがた張り切っちゃって……痛っ!」
近くの豊満アラクネが、貧相アラクネ少女の蜘蛛の腹に蹴りを入れ睨みつけている。余計なことを言うなと叱られた貧相少女はしょぼくれながら口をつぐんでしまった。
「せめて名前だけでも教えてくれんかの?」
「……ジュリア」
「そうかそうか、わしはナナじゃ。よろしくの」
いつまでも区別のために貧相貧相と心の中で言うのも可愛そうになり名前を聞くナナ。そうしていると歩いてゆっくりと高度を下げ高度50メートルくらいに達したわっしーの、体の横の扉からダグ・アルト・リオ・セレスが順に飛び降りてきた。
「なーにあっさり掴まってんだよ、ナナ」
一番に着地したダグが、周囲のアラクネ達を一睨みしナナに話しかける。アルト達も次々着地したあたりで、黄色い歓声が上がった。
「ワイルドなイケメンよ! 筋肉が素敵ーーっ!」
「知的なイケメンよ! キャー、こっち見てええ!!」
全ての歓声はダグとアルトに向けられたものであった。豊満な乳をたゆんたゆんと揺らしながら、隣のアラクネと手を取り合って喜ぶ者達を前に、歓声を向けられた二人と無視され続けているリオは呆然としていた。セレスはナナを担いでいる、最初に見つけたアラクネであるジュリアに視線を固定し目をキラキラさせていた。心なしか呼吸が荒いのはきっと気のせいだと、ナナは見なかったことにする。
「ダグ、アルト。どうやらこやつら、子種が欲しいらしいのじゃ。おぬしら協力できるかの?」
「え、ちょっと! あんた今どうやって抜けたの!?」
ナナは体表の複製体をスライムに戻して巻きつく糸の尽くを吸収して抜け出すと、担ぎ上げていたジュリアの肩からひょいっと飛び降り四人と合流する。
「はあ? 子種ってお前……はあ。悪いが今はそんな気分じゃねえんだ。他当たってくれや」
「ぼ、僕にはナナさんという婚約者がげふっ!」
アルトの腹にナナの拳がめり込む。
「冗談を言っている場合ではないのじゃ。アルトよ、アラクネとは女性だけの種族ではないか?」
「ぐ……え、ええ。そうですね、アラクネ族は女性だけの種族で、他種族と交わることで繁殖を……ああ、そういうことですか。ここ最近、それも20から25年以内の出来事でしょうか、子種を貰っていた近隣の他種族と決別またはその集落が全滅でもしたのでしょうね。それで繁殖のため、僕たちに目をつけたということですか。それでその他種族が、光人族だということですね?」
「うむ、聡いのう。話が早くて助かるわい。ところでなるたけ平和的に解決したいのじゃが、おぬしらの子種が駄目なら他に何か良い案はあるかの?」
「あ、姉御~、何かこの人たち、目が怖いよう」
目を血走らせてじりじりと包囲網を狭める豊満なアラクネ達を見て怯えるリオ、笑顔でただ一人だけを見つめ続けているセレス。空中からセレスがジュリアを発見できた理由が、何となくわかった気がするナナ。
「何を騒いでおるか、馬鹿もんども! 銀猿どもに見つかったらどうするつもりだい!?」
状況を変化させたのは、樹上から現れた一人の老アラクネの一喝であった。
「客人よ、申し訳ないのだが少し移動をお願いしたい。ここ辺りは奴等のテリトリーに近いでな」
老アラクネの先導で森を歩くナナとその一行。わっしーをナナの空間庫にしまった時は軽い騒ぎになったが、これも老アラクネの一喝で収まっていた。そうして老アラクネに案内されて着いた先は、太い木々とコケの緑が鮮やかな一角で、空を見上げると木々の間は蜘蛛の糸でたくさんの通路が作られている様子が見える。
「自己紹介が遅くなってすまないねえ。ワシの名前はバービー。アラクネ族の族長をしておる」
バービーと名乗った老アラクネは真っ白に染まった髪を後ろでひとまとめにし、周囲を取り囲む全裸のアラクネたちと違って、蜘蛛との境目までを隠す皮製の貫頭衣を身につけていた。
「ナナじゃ。一応こやつらのリーダーということになっておる。後ろの赤いトサカ頭がダグ、薄紫のおかっぱがアルト、ちっこい娘がリオ、でっかい娘がセレスじゃ」
「おや、魔人族と光人族が一緒に行動とは、時代も変わったもんだねぇ」
バービーはリオの金色の瞳を見たあと、他の三人の紅い瞳を見て目を細めた。
「亜人種が魔人族を見ても物怖じせず迫ってくるというのも驚きですよ? 昔は種族同士、集落同士で殺し合いをしていたと聞きますから」
アルトの問いにバービーは豪快な笑いを返す。
「がっはっは、お互い様というわけだ。ところであんたら、どっから来たんだい? この辺りにはもうあたしらの集落しか人族の住処は無いんだよ。なんぞ空飛ぶ亀に乗ってきたと騒ぐ者もいたが、どうなんだい?」
「わしらはここから西にある山脈の向こうから、さっきわしが空間庫にしまった空飛ぶ亀のゴーレムに乗って、光人族の集落を探しに来たのじゃ。ちと聞きたいことがあってのう……なにやらもう滅んだらしいと、先ほどそこにおるジュリアから聞いたが、その場所を教えてはもらえんかの?」
「無理だね」
ジュリアは突然名指しされバービーに睨まれビクッと姿勢を正している。
「何か不都合でもあるのかのう? 何なら交換条件を出してくれても良いのじゃが」
「光人族の集落があった場所は今、銀猿どものテリトリーど真ん中なんだよ。そんなところに行かせるわけにはいかないね」




