表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とスライム  作者: ソマリ
魔王編
27/231

2章 第1話N 拳王都市へ

 ヒルダの集落を後にしたナナは、肉体の習熟訓練と持久力の確認をしつつヴァンの砦へと走る。ナナの新しい肉体の細い手足は筋肉も少なく、それだけでは見た目どおりの力しか出せないが、骨格を通るナナのスライム体と魔力神経接続によって実際は成人男性をはるかに上回る膂力を持っていた。

 しかも呼吸の必要も無いので息切れする事が無く、肉体的持久力は測定する意味が無かった。ただし肉体を動かすだけでもある程度の魔力が必要であるため、呼吸をすることで自動的に周辺魔素を取り込むよう、キューに命じて肺を改造させる。そうして砦まで徒歩で四十日ほどのところを、二十四時間走り続けることでわずか二日で到着する。


 ナナは空間庫から一組のトンファーを取り出し両手に持つと、悠々と砦へ向かって歩き出す。ヒルダ邸を出る前にキーパーと模擬戦を何度かやってわかったが、この小さな体では武器戦闘の間合いが相当不利であった。また直刀では格下であればともかく、同等以上の相手であるキーパーとの模擬戦中に何度も折ってしまっていたため副武装として割り切った。

 ヒルダとノーラのくれた体は、出力こそ最高級ゴーレムの半分以下だが高い敏捷性を持っていたため、いっそのことインファイトに特化しようと考えて攻防一体のトンファーを作っていたのだ。なおトンファーの本体部分は以前作った散弾を撃つ筒であり、握り手側の先には銃口が開いている。


「なんだ? このガキどっから来やがった? 変な仮面つけやがって気持ち悪いぜ」

「へへ、ガキとはいえ女だぜ、顔とかどうでもいいじゃねえか。どうせ例の集落から逃げてきたんだろうよ」


 堂々と砦に近付くナナを見つけ、抜き身の剣を手に持った男が二人ナナに近付いていく。片方の男はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、ナナの身体に無遠慮な視線を投げつけていた。


「例の集落とは、この先にあるヒルダの集落の事かのう?」

「ああ、やっぱあそこから逃げてきたのか、せっかく命拾いできてここまで逃げてきたってのに運が悪かったな」

「へへ、ヴァン様が戻るまでは生かしておいてやるよ、それまで俺たちが可愛がってやるぜ」


 そう言って下品な男がナナに剣を持つ手とは逆の手を伸ばす。ナナは無言で右のトンファーを旋回させ、男の左腕へ振り上げへし折ると同時に間合いを詰めると、左のトンファーを腹部にめり込ませる。さらに前のめりに倒れこんできた男の顔面へトンファーを叩き込むと、ごきり、という鈍い音と共にあらぬ方向へと首が曲がった男が地面に倒れこむ。

 相棒が悲鳴を上げる間もなく倒されたことが理解できず、残されたもう一人の男はただ呆然としているだけだった。


「下品すぎて聞くに堪えんの。……それでおぬしはかかってこんのか? ヴァンの手下は腰抜けしかおらんのか?」

「て…敵襲!!」


 らしくない挑発をするナナに対し残った男は大きく叫ぶと剣を構え、無防備に正面から近付いてきたナナに剣を振り下ろす。しかしあっさりとトンファーで受け流され、男は躍起になって中段・払い・突きと連続で剣を振るうが全てトンファーで受け止められたり受け流されたりと、ナナの体に剣がかする気配すらない。

 間もなく男が呼んだ仲間が五人駆けつけ手にした剣や槍でナナに攻撃をしかけるものの、その全てを余裕の態度で受け流すナナ。しばらくそうやって実戦の中で防御の訓練を行い、男達に疲れが見えてきたところであっさりと制圧する。


 制圧した男達は、ヴァンのことや砦内の詳細を聞いたあと、実験台にするため手足を切り落とす。そして空間庫へ入れようとするが、通常の空間庫にも時間停止空間庫にも入らない。しかし空間魔術の結界で覆うと入ったため、一人ずつ空間庫に入れて放置する。

 次いで目の前に転移門の出口を作って男を放り込むが、出て来なかった。自分が転移門をくぐって動作を確認後一人の男を掴んで転移門をくぐるが、門を抜けると男の姿がなかった。

 自分の知らない術式によって魔素に特定の動きをさせなければ自分以外は転移できないと判断して検証を終え、残った三名を殺すと魔石を抜いて実験に使用した者達の手足とともに肉体を吸収しておく。



「これで全部かのう」


 ヴァンの自室という部屋には何枚もの羊皮紙があり、それらに目を通すと時系列順にファイリングするような感覚で、空間庫へと投げ込んでいく。


 入手した情報をまとめると、

『地上の世界樹が異界を作り維持していること』

『ヴァンは以前とある集落を襲い、魔獣操者の杖・属性視の珠・そして地上界への転移が可能な魔方陣を入手したこと』

『その魔法陣の発動には大量の魔力に加え、空間属性の魔力も大量に必要なため誰も使用できず残されていたこと』

『ヴァン自身の子供が高い確率で空間属性を持つことを偶然知ったこと』

『強力な個体との間に子を成せば発動に足りる空間属性の魔力が得られるであろうこと』

等があり、二人を殺害するに至った経緯を知る事となった。しかしそこで不可解な事実に気付き、ヴァンの左腕を空間庫から取り出す。


「キュー、この腕を少し吸収し解析するんじゃ……これまで吸収した魔人族と比較、同一種族かどうかの判別は可能かのう?」


―――基準不明 判別不能


 ナナはヴァンの子が高確率で空間属性を持つ事が気になっていた。またヒルダ邸から姿を消した二体の高性能ゴーレムを入れられるような入れ物をヴァンが持っていなかったことも気になる。空間庫の付与された鞄などは、その口を広げて入る大きさまでしか入れられないのだ。となるとヴァン自身に空間庫の魔術が使えてもおかしくは無い。そしてヴァンとの戦闘。ヴァンが使った光線は光属性魔術だ。


「……いや、どうでも良いことじゃな。動機を知りたいわけじゃないのじゃ。しかし、どこの集落を襲って地上転移魔法陣を手に入れたのか、それさえわかれば地上への道が見えるやもしれんの」


 ヴァンの自室での調べ物を終え砦内を捜索していると、酷い暴行の跡が残る鎖につながれた女性の遺体を発見する。また別の部屋からは死後相当経っていそうな鎖につながれた半ば白骨化した遺体もいくつか発見し、ナナはそれら全てを鎖から解き放ち砦の外に運び出し一箇所に纏めると、火の魔素を集めて火葬する。さらに砦にも火を放つと、周囲の木々に延焼しないように注意しつつ完全に燃やし尽くした。


 空間庫に入れたヴァンの手下を出して確認すると、通常の空間庫に入れた方は窒息死していた。時間停止空間庫に入れた方は生きていたが、恐怖で発狂寸前だった。話を聞くと真っ暗で五感も無く意識だけがある状態であったとのこと。ナナは自分がスライムになりたての頃を思い出し苦笑すると、二人から魔石を抜いて体を吸収する。


「流石に殺すつもりの者でないと実験には使えぬからのう」


 ナナはそうつぶやくとヒルダ邸から回収してきた体内にある金属類を確認する。実戦を行うことで改めて感じたことがあり、改善の必要を感じたためキューを呼ぶ。


「キューよ、骨格の木製部分と交換する同型の金属部品を作って欲しいのじゃ。移動中に体内で形成することは可能かの?」


―――頭部以外は可能


「頭部はしばらく硬質化で対応するのじゃ。他部位の形成は何日で終わるかの?」


―――七日


 ナナは小さく頷きキューに形成を頼むと、東へ向かって移動を開始するのであった。



 砦を出て東に走るナナは途中で何度か狼やオーガと呼ばれる魔物に襲われるが、どれも難なく撃退し魔石を回収の後全て吸収していった。

 オーガとの戦闘では中途半端な糸では動きを止められないことと、ナナの直刀では刃筋を通してもオーガの硬い骨まで両断することが難しいこと等がわかり、魔獣との戦闘について自分自身素人であることを改めて思い知るのであった。

 そして四日ほど走った頃、森の中で巨大な亀を発見する。その亀は体長6メートルほどもあり、体長2メートルの亀を食べている最中だった。共食いかと思ったナナだったが、食べられている方はヒルダの集落周辺でよく見られたフォレストトータスで、食べている方はトゲトゲの甲羅と凶暴な顔つきをしており、地球で見たワニガメによく似ていた。そしてそのワニガメはナナを見つけると食事をやめ、見た目にそぐわない速度でナナへと近づき大きな口を開け襲い掛かる。


「何と素早い……しかもこやつ、随分大きな魔石を持っておるな」


 ナナの仮面はワニガメの心臓部近くにある、これまで見たことも無いサイズの魔石を映し出していた。しかしナナはそれに気を取られることなく、ワニガメの噛みつきを避けながら取り出した直刀で首を薙ぎ払うが、直刀の刃は浅い傷をつけるだけにとどまり首を切り落とすことはできなかった。


「ならばっ!」


 ナナは大きく跳ぶと空間魔素を集めて作った足場に乗り、光の魔素を集めてヴァンが使ったのと同じ光線をいくつも作り出しワニガメに放つ。その攻撃は首を引っ込めたワニガメの甲羅に当たるが、傷一つつけることができなかった。

 しかしこれは魔術の威力に問題があったのではなく、ワニガメの甲羅に秘密があることを魔力視で見抜いていた。ワニガメの甲羅に魔術が着弾する瞬間に魔術を構成している魔素が霧散しており、術の威力のほとんどが減衰していたのである。


 この時ナナは、ヴァンが入手したらしい魔獣操者の杖という魔道具の事を思い出していた。もし名前の通り魔物を操る能力があるとしたら、ヴァンとの戦闘前に魔物と戦う必要が出るかもしれない。中にはこのワニガメのように巨大で魔術の効かないものもいる可能性だってある。先の戦闘でも自分自身が素人であること自覚していたこともあり、機会があったなら魔物との戦闘に慣れておく必要があると考え、ワニガメを討伐することにする。

 光線を防いだワニガメは警戒しているのか、距離を詰める事無くナナの様子を窺っていた。そしてそのワニガメは、地面に降りてトンファーを構えるナナを睨みつけると大きく口を開く。


『バスッ!』


 ワニガメが口から吐き出した空気の塊は、まるで砲弾のような威力でナナに迫るが、目に見えない砲弾も魔力視の前には意味が無い。しかも魔素の動きで行動を予見していたナナは焦らず、ワニガメの顔の横へと転移し、その目へとトンファーを握る拳を突き立てる。


『『ドガアン!』』


 周囲にワニガメの放った空気砲弾の着弾する音と、ナナのトンファーへと姿を変えていた散弾筒の発射音がほぼ同時に響き渡る。ワニガメは目鼻口など頭部の穴という穴から血を垂れ流し絶命していた。


「甲羅以外は魔素の拡散が弱いようじゃの」


 ナナは手からスライム体を出してワニガメの吸収を始め、残された8センチの魔石を回収する。ワニガメの吸収が終わると、トンファーの表面に擬態能力で再構築したワニガメの甲羅を貼り付け、目の前に光の魔素を集めた光球を作り出す。


『ブンッ』


 その光球はナナの想像通りトンファーの一振りで霧散し、ナナは満足げな様子でその場を立ち去るのであった。




「オレはリオってんだ。なあアンタ、オレと勝負しろっ!」


 集落の真ん中で、一人の少女がナナを指差して叫んでいる。リオと名乗ったこげ茶色のワイルドヘアーの少女は身長は155センチほどで、十五~十六歳くらいに見えるが魔人族特有の紅い瞳であるため恐らく五十年は生きているだろう。


「理由が無いのじゃ。それと邪魔じゃ」


 ナナは先ほどぶちのめした、二十人を超える荒くれ者達を蜘蛛の糸で縛りながら、回復魔術をかけて回っていた。

 ナナは集落に着いて早々ヴァンの事を知る者がいないか探したのだが、仮面をつけた真っ白な少女を気味悪がったためか、まともに相手しようとする者が一人もおらず、それどころか武器を持った男に身包み置いて行けと脅される始末であった。そこにおかしな少女が割り込んできて武器を持つ男を殴り倒したのだが、集落の者が次々と武器を持って押し寄せ、降りかかる火の粉を払った結果がこの死屍累々のありさまである。


「さて、さっきも聞いて回ったのじゃが誰も答えてくれんでの。ヴァンという男を知らぬか? 青い髪で身長185センチ、確か四百歳くらいの男じゃ」


 ヒルダの集落と比べてあまりにも冷たく、殺伐とした人々の雰囲気にうんざりしていたナナは、感じる苛立ちを抑えつつ倒れている者達に声をかけた。


「拳王様、魔道王様、不死王様には遠く及びませんが、それなりに力のある者だと聞いた事があります」


 答えたのはリオの一撃から立ち直って間もなく、今度はナナによって顎を蹴り砕かれた、最初に追い剥ぎをしようと立ちはだかった男だった。ナナはその男に近寄り、目の前に立つ。


「く、詳しくは知らないのですが、拳王様が以前、南の集落に強い者がいるという噂を聞いて戦いを挑みに行ったと聞いています。そして拳王様から逃げたヴァンという男は西へ行ったらしいと……お、俺が知っているのはこれくらい、です」

「そうか、良い情報なのじゃ。ついでにここから拳王都市と、ヴァンがいたという南の集落までの距離を教えて欲しいのじゃ」


 男を縛る蜘蛛の糸を解きながら、さらに質問を投げかけるナナ。男は自由の身になるが抵抗する事無く、むしろナナを敬うような素振りすら見せる。


「拳王様の御住まいまで東南東へ四十日、南の集落までは南南西に八十日ほど歩けば着きます」

「そうか、礼を言うぞ。しかし急に従順になりおったがどういう心境の変化じゃ?」

「拳王様を敬う者は、力ある者が正しく、敗者は勝者に従うのみという教えの元で生きています。我々は敗北しましたから敗者として従うのみです……せめて御名前をお聞かせ願えないでしょうか」

「ナナじゃ」

「リオだ!」

「ナナ様、ですね……ありがとうございます!」


 男はナナに対して深く頭を下げるが、リオの方は見ようとすらしていない。


「え、オレには何か言うこと無いの?」

「……不意打ちで勝った気になってんじゃねえぞこのガキ、ナナ様が二十人以上倒してる間にてめえは三人しか倒してねえじゃねえか!」

「オ、オレも本気を出せばそれくらい余裕だよ!」


 リオと元追い剥ぎの言い争いを背にし集落を出ようとするナナだったが、走って追いかけてきたリオに捕まった。



「な、なあってばー。ナナっていったっけ、アンタそんなナリしてめちゃくちゃ強いんだな。でもアンタに勝てないようじゃ、拳王ダグにもきっと届かない。オレはダグを倒すために修行してきたんだ、だから頼む! オレと勝負してくれ!」


 ナナには理解できない理屈を語るリオという少女に対し、この先も付きまとわれると面倒だと思ったナナは、集落を出たところで振り返るとリオと向き合い無言で構える。

 問答無用で襲いかかってこなかった点と、強くなりたいという願いに多少心を動かされたこともあり、ほんの少しだけ相手をすることにした。


「い、いいのか!? じゃあ、早速いくぜっ!」


 リオは喜色満面といった表情でナナへと間合いを詰め、左右の拳を連続で繰り出す。ナナは手の甲や手の平を使い全ての軌道を逸らす。


「はっ!」


 リオは鋭く息を吐くとナナの頭部目掛け右回し蹴りを放つが、ナナは屈んで回避するとリオの軸足を軽く蹴り払う。


「うわっ!」


 背中から地面に転がりそうになったリオは、かろうじて態勢を立て直し顔を上げるも、その首筋にそっとナナの手刀が触れる。


「……も、もう一回だ! 今度は最初から本気で行くぜ! うおおおおおおおおおお!!」

「何度やってもかわらんのじゃ……む?」


 ナナは間合いを取って構えるリオに違和感を感じ注視する。


(『透明な魔素』じゃと? わしにもはっきりと判別できるということは、技能魔素とは違う……もしや十一番目の属性魔術か!?)


「行くぜっ!」


 リオは前回と同じようにナナへと間合いを詰め、前回をはるかに上回る速度で左右の拳を連続で繰り出す。しかしナナは先ほどと同様軌道を逸らすのは変わらなかった。その後リオは右下段蹴り・前蹴り・左右拳連撃・右裏拳・左蹴り上げと流れるように連続で攻撃を繰り出すが、ナナはその全てを回避し、左蹴り上げからの踵落しは頭上でクロスさせた腕で受け止める。飛びのき間合いを取ったリオは驚愕に目を見開いたまま、肩で息をしていた。

 そしてナナは一連のリオの動きを観察することで、十一番目の属性についてどのようなものか知る事ができた。


「身体強化じゃな。筋力・瞬発力共に1.2倍ほど上昇しておるの。確か魔力属性じゃったな……しかしこの感覚……む?」


(キューよ、魔力属性魔術の技能魔素は特定済みじゃな? その技能魔素、わしにも入っておらんか?)


―――ランク3相当の技能魔素を確認しました


 リオの真似をして覚えたての身体強化をしようとしたナナは、それが体内を巡る魔力を操作したり魔力経路を作ったりしたときと、似た感覚である事に気付いたのであった。


「アンタ、凄いな。最後の一撃、あんなに軽々受け止められたうえ、強化術まで見破られるなんて思わなかったぜ」


 そこに息を整え終わったリオが話しかけてくる。


「強化術とは安直な名前じゃ。……こうかのう」

「ええっ!?」


 ナナは見よう見まねで強化術の発動に成功する。スライム体を動かすために全身を巡る魔素を日頃から動かしていたナナにとっては、動かす対象を魔素から魔力へ変更するだけなのでそれほど苦ではなかったのだ。

 しかし魔力で強化された全身の筋繊維は、その魔力を片っ端から体外へ放出してしまい、強化を続けるためには膨大な魔力を体内へ無理やり流し続けなければいけないようであった。

 体外への放出を止めようとそちらに意識を向けると体内を流れる魔力の操作が疎かになり、体内の魔力操作に集中すると全身から相当な量の魔力が流れ出ていってしまう。

 そうして魔力の操作バランスを見極めようと四苦八苦するナナを、リオは口をあんぐりと開け呆然と見ていることしかできなかった。


「な、なあアンタ、よかったら名前を教えてくれよ」


 ナナの体から漏れ出るというより、溢れ出している大量の魔力を感じて気圧されながらも、意を決して口を開くリオ。


「ナナじゃ。良い術を見せてもらった礼に一つ基礎的な事を教えてやるのじゃ。回し蹴りのような大技を放つ際は相手の体制を崩してからでないと、避けられるか手痛い反撃を受けることになるのじゃ」


 ナナはそう言うとリオに近付き、貧相な胸を覆うチュニックを引っ張る。リオが反射的に耐えようと後ろに重心をかけた時には既にナナの手はチュニックから離れており、後ろに一歩下がってしまう。そしてそのリオの左頬に触れるか触れないかという位置に、ナナの放った右の蹴り足があった。


「おぬしは苦し紛れに大技を使う癖があるようじゃの。威力も速度も並みの者達と比べれば桁外れじゃから問題無かったのかもしれぬが、それでは通用せぬ相手もおるのじゃ。ではの、精進するのじゃぞ」


 ぽかーんとした顔のリオをその場に残し、踵を返すと拳王都市へと向け走り出す。


「はっ!? ま、まってくれナナ! オレも行く!!」


 後方から聞こえた我に返ったらしいリオの声を無視し、これ以上構う余裕はないと走る速度を上げるナナであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ