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英雄とスライム  作者: ソマリ
幼少期編
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1章 第23話N 一緒に

 ナナは全身の痛みに耐えながらヴァンの消えた地点へ行くと、そこにはヴァンの肘から先の左腕が落ちていたので回収する。

 そしてノーラの遺体とかき集めたヒルダの遺体を回収し時間停止空間庫へしまい、広間の手足の無い襲撃者四人に治療魔術を施し止血を行うと、ヒルダの残した研究記録を漁る。

 やがて目的の物を見つけると6センチ級の魔石を用意しヒルダに対して術式を発動させる。それは以前ヒルダがナナに対して使った『試作型魂魄移動魔法陣』であった。


「キュー。結果は」


―――魂の移動と思しき現象は見受けられません



 魔法陣の発動を視て術式の模倣が可能になったナナは広間に移動し、襲撃者の一人の首を切り落として術式を発動させる。


「キュー。結果は」


―――魂の移動と思しき現象は見受けられません しかし周辺の別の魂が入りこんだのを確認 技能魔素の量から動物と断定


 今度は術式に邪魔な別の魂が介入しないよう、空間魔術で別の襲撃者と魔石の間に道を作ってから首を落として術式を発動させる。


―――魂の移動と思しき現象は見受けられません



 四人の首を落としたが目ぼしい結果は得られなかったので、集落の様子を伺う。すると案の定集落外の者が十四名紛れ込んでおり、集落の者を殺したり犯したりする様子が見えたので、集落へ転移し襲撃者達を次々と切り伏せる。

 集落の者がナナに何か言っているが、ナナは無視してその場でサンプルとなる襲撃者の首を落としたり魔石をえぐり出したりして『試作型魂魄移動術式』の検証を行った。

 サンプルが残り二人となった時点で、ヒルダのレポートにあった魂魄移動術式の内容にある『死亡直後の魔獣から魂の抜き出し』が機能していないという結論に至る。

 実際にナナはこの術式で助かっているのだが何が違うのかと少し考え、ナナとサンプルたちとの決定的な違いに思い至る。ナナは魔石こそが本体で、魂も魔石に宿っているのだ。そしてサンプルとした襲撃者達の魂は、肉体に宿っている。この術式は恐らく『魔石内の魂の抜き出し』が正しい内容なのであろう。そう結論づけたナナは残る二人の手足をへし折ると転移でヒルダ邸に戻る。



「キュー。この魔石じゃが……」


 地下でヴァンが持っていた血まみれの魔石を取り出し、キューに問いかけるナナ。その魔石は直径6センチほどの大きさで、ナナのものより一回り小さかった。


―――個体名:ノーラ の魔石です


 ナナは少しばかり逡巡するとヒルダとノーラの遺体を空間庫から取り出して並べる。そして、意を決してキューに問いかける。


「キュー。二人の遺体と、この魔石のいずれかに、魂と思しき魔素は……存在しておるか?」


―――存在しておりません


 ナナはそれを聞くと、そのまま崩れ落ちる。聞きたくなかった。しかし確かめなければいけなかったのだ。意識から追いやっていた全身の激痛が戻ってくる。なぜこうなった。『なぜ二人は殺されなければならなかった』。


「あ……ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 二人の死を認めてしまったナナは涙を流す事もできず、止むことの無い全身の激痛も忘れ、ただただ大声で叫ぶことしかできなかった。





 どれだけの時間叫びつ付けたのか、ナナにはわからなかった。しかし近くに人の気配を感じてナナは叫ぶのを止める。

 怯えた様子で出てきたのは集落の者達で、叫ぶスライムに恐怖を感じながらも恐る恐る近寄り、ナナの前に横たわるヒルダとノーラの遺体を目にし皆一様に膝から崩れ落ちる。中には遺体に手を伸ばそうとしたものもいたが、目の前に陣取るナナを恐れ一定の距離を保ったまま声を上げて泣いていた。

 暫くするとその集落の者達はヒルダの遺体に対して一例すると涙を拭くこともなく、一人の男を先頭に近くに転がる集落の者の遺体を集め運んで行った。

 やがてナナはメティの姿を見ていないことを思い出し、二人の遺体を仕舞い邸内を探索するが、間もなく厨房近くで背中と首の後に大きな切り傷があるメティの遺体を発見し回収する。そのまま当てもなく邸内をウロウロするナナは、寝室の隣の部屋にて大きな包とともに置かれた二人の手紙を発見することになる。




『ナナへ。外を出歩くのにも料理をするのにもスライムのままだと大変でしょうから、貴方にピッタリの体を作ったわ。骨格と魔銀糸だけで申し訳無いのだけれど、あとは自前で用意してちょうだい。ゴーレムボディより人に近い骨格にしてあるから調整は大変でしょうけど、十分に練習できたはずでしょ? あとは任せたわね』


『ナナへ。いつもありがとうなのじゃ! この体は母さまと一緒にナナの為に作ったのじゃ。そこでお願いなのじゃが、仕上げる時は髪の毛をいつもの狼のように真っ白にして欲しいのじゃ。そうしたらわらわの瞳と同じ紅いリボンがきっと似合うのじゃ。同じ髪型にしたらきっと姉妹のように見えるのじゃ、この体で一緒に遊べる日を楽しみにしておるぞ。それとわらわに料理を教えて欲しいのじゃ、メレンゲクッキーをわらわも作りたいのじゃ!』


『追伸 文献にあった世界樹の話をノーラにしたところ、いつか見てみたいと言っています。私も見たいので、いつかあなたとノーラの三人で旅に出たいわね。旅の途中でも普段と変わらない生活ができそうな知識もあるのでしょう? もちろん旅の間の料理はあなたが担当です。楽しみにしているわ』



 手紙と一緒に置かれた羊皮紙には、ノーラが描いたであろう絵が描かれていた。そこには紅い瞳に紅い髪のドレスを着たヒルダらしき女性、紅い瞳に桃色の髪でワンピースを着たノーラらしき少女とともに、紅い瞳に白髪でノーラとお揃いのワンピースを着た少女の姿があった。

 ナナはまさかと思いつつそばにある包を開けると、想像通りであったため堪えきれずに笑いだしてしまう。そこにあったのは身長120センチ程の小型骨格であった。手足は高性能ゴーレム同様球体関節骨格であったが関節部以外は木製で、さらに腹部の金属板も取り払われているが、替わりに木製の頭蓋骨から腰部までを背骨となる金属関節で接続されていた。

 確かにほぼ人体に近く、ゴーレムには無かった木製の肋骨が形成されていた。一見して少年型だと思ったのだが全体的に線が細かったことと、一緒に入れられていた紅いリボンとワンピースと下着類を見て二人の意図を確信した。それらは全て女性用だったのだ。


「そうじゃったそうじゃった。確かにわし、一度も性別を聞かれたことも無いし言った記憶も無いの……だからといってこれで少女の姿になれとは、ヒルダもノーラも無茶を言いおるわ。それに十分に練習、じゃと? まさか人に近いゴーレムを要求したのは……二年も前からこのつもりじゃったというのか? ……はは……ははは……」


 ナナは力なく笑うと二人の作った骨格や用意された衣類をまじまじと眺める。骨となる木材や金属部品の内側は空洞になっており、一緒に残されたメモによるとこの空洞内をスライム体で満たせば魔銀糸神経との相乗効果で、更に人間に近い動きができるのではないかとのことであった。

 手紙を読み直したり骨格をいじったり衣類を広げたりしていたナナは、やがて動きを止めてしばらく考え込むと、意を決したようにヒルダとノーラの遺体を空間庫から取り出す。



「ヒルダよ。始めの頃はおぬしの『良い母』である部分しか知らなんだゆえ、握られたり踏まれたりするたび驚かされもんじゃ。本性を知ったのは言葉遣いを戻した辺りからかの? しかし集落を、ノーラを守るために気負いすぎていたものが抜け落ちてからのおぬしは、とても綺麗で、とても可愛かったのじゃ。ただ夜着以外で、おぬしのドレス以外の服を一度も見られんかったのは残念じゃのう。そんな胸を見せ付けるような服ばかり着ておるくせに、ドレス以外の服は恥ずかしいとか意味の解らん理屈をこねおって」


 そう言ってヒルダの顔を優しく撫でるナナ。


「ノーラよ、わしが教えた童話からおぬしは自分のことを『わらわ』と呼ぶようになったのう。わしに合わせたと言っておったが、結局何のことやら意味を教えてもらえんかったのう。わしの作ったリボンがお気に入りで、毎日つけておるもんじゃからこれまでに何本作ったか覚えてないくらいじゃ。ノースリーブのワンピースがお気に入りじゃったのう。フリルのついた可愛い下着はヒルダと取り合いしとったのう。冬は魔狼の毛皮で作ったコートをヒルダとおそろいで着てご機嫌じゃったのう。そういえばノーラだけではなくヒルダも甘いものに目は無かったのう、メレンゲクッキーや蜂蜜水を作ったときは……」


 ノーラの血の気を失った頭部を愛おしそうに撫でると、ヒルダの頭部とノーラの体を抱き寄せ、震える声で二人の思い出を思いつく限り話し続ける。


「世界樹、じゃったか。一緒に見に行こうではないか。世界中の綺麗な景色を、一緒に見るのじゃ。わしが連れて行くのじゃ。わしが見せるのじゃ。高い山も広い海原も超えて、わしと世界を旅しよう。おぬしらに見せるためなら空すらも飛んでやるのじゃ。……絶対に、誰にも邪魔はさせないのじゃ。わしらの邪魔をするなら巨大なドラゴンだろうとぶん殴ってやるのじゃ。美味しいものもたくさん食べよう。果物やケーキも世界に無ければわしが作ってやるのじゃ。ドラゴンの肉はどんな味かのう、美味しい肉を持つ魔獣の類も世界にはおるのかのう、それも一緒に確かめようではないか。じゃから……わしと一緒に行こう」


そしてゆっくりと、キューに指示を出した。


「キュー。二人の遺体を……吸収しろ」




「右眼球はヒルダ、左眼球はノーラの物を再構築。頭髪は魔狼の毛皮。体表は二人の肌を再構築し複製体でコーティング、他外見の形成は任せたのじゃ。魔石本体は頭部と下腹部へ設置し転移による出入りのみ可能とし、開口部は不要とする。血管内および骨格内にスライム体を流せるよう流路生成、そこを流すスライム体は赤色に擬態。あとは人体に準拠し不要な内臓を除き形成、内臓の取捨選択も任せたのじゃ」


 ヒルダとノーラの作った骨格に、ナナの指示に従って二人の体を使って肉体を形成していくキュー。やがて形成が終わると、そこには瞼を閉じた白髪の一糸まとわぬ美少女の姿があった。


「すぐにでも世界を見せてやりたいのじゃが、しばしわしの我侭に時間を貰えんかのう。今のままでは素直に二人との旅行を楽しめぬのじゃ。わしはこれからヴァンを追い、殺す。ゴミ掃除が終わったらすぐにでも世界を見せてやるでな、すまぬが終わるまで辛抱して欲しいのじゃ」


 そう言うとナナは完成した自分の体を見ること無く以前ヒルダから貰った仮面を着け、瞳からの視界を塞ぐ。とはいえスライム体で複製された肉体はあらゆる部位からの視点に変更することも出来る上に魔力視もあるためナナ自身の視界が塞がれることはない。

 そして二人が用意した下着とニーソックスを、凹凸のほとんど無い身体にまとう。とはいえこの下着はもともとナナが作ったスパイダーシルク製のものである。ニーソックスに下着姿で仮面をつけたナナは紅いリボンとワンピースを手に取り、少し考えると空間庫にしまう。


「汚したくないのじゃ。落ち着いたら着させてもらうとするかのう」


 そう言うとナナは魔狼の毛皮でコートとホットパンツとブーツを作り出し身に纏うと、再度邸内を探索しゴーレムやナナが設置した空間庫の中身等の回収を行う。

 地下実験室に作りかけの最上級ゴーレムも一体あったのでそれを含めた全てのゴーレムを空間庫にしまい、最後に向かった広間へと向かう。

 転がる襲撃者の死体を見て人を殺した事を思い出すが、情報を聞き出すべきだったとしか思わないことに、ナナは何の疑問も抱くことはなかった。さらなる邸内の探索の結果広間にいたはずの最上級ゴーレム二体がいなくなっていることに気付くが、行方の確認のしようがない。

 広間のゴーレムも空間庫にしまうと切断された襲撃者の腕へと手を伸ばし、掌に薄く張られた複製体の一部をスライム体に戻し、そこへ押し込むようにして吸収を終わらせる。

 そして少しばかり考え込むと、ナナは掌から大量のスライム体を出現させて他の死体や手足を包み込み、キューに魔石を残して吸収するよう指示する。ナナは空間庫の口を掌に設置し、そこにはナナの本体であるスライム体の大部分と直刀などの武器を入れておく。

 そして掌から即座に出せるスライム体と直刀の使い勝手を確かめ襲撃者の魔石を吸収すると、日の落ち始めた集落へと転移する。



「襲撃者の生き残りはどうしておる」


 突如現れた見たことも無い真っ白な少女に警戒し、遠巻きにする集落の者達に声をかけるナナ。


「わしはナナ、ヒルダ・ノーラの縁者じゃ。襲撃者の生き残りはまだ生かしておるかの?」


 すると館まで集落の被害状況を知らせに来た男が一歩前に出て、ナナを案内する。その先には手足があらぬ方向に曲がり股間を潰された、虫の息の男が二人と十二人分の死体が転がっていた。


「すまぬの、まだ息があるようで安心したわい。少し借りるがよいな?」


 言うが早いかナナは息のある男達に治療魔術を施す。傷が治っていくと死にかけだった男達のうち一人が飛び起き逃走を図るが、その男にナナは一瞬で迫ると直刀を一閃し両足を切り落とす。悲鳴をあげ転がる男と、起き上がるタイミングを失い顔だけナナに向けるもう一人の男。ナナはそのもう一人のほうへと、直刀を片手にゆっくりと歩み寄る。


「おぬし、ヴァンの仲間か手下じゃろ? ヴァンの行方など教えて欲しいのじゃが、答えてくれんかの?」


 そう言いながらナナは直刀を振り、男の右足首を切り落とす。再度響く悲鳴。


「どちらにせよ逃がすつもりは無い。話して早く楽になるか、手足をみじん切りにされて苦しみ抜いて死ぬかの違いじゃ」


 右足首から切り落とされた男は比較的早く情報を吐き出したため、首を落とされるまでに両手の指を落とされるだけで済んだ。逃げ出そうとした男は四肢のすべてを失ってもなお頑なに情報提供を拒んだため、治療魔術をかけられながら内臓を引き摺り出され首にかけられるという事態に至って漸く口を割った。


 男達からの情報によると、ヴァンは地上界へ行く魔力を得るため最初からヒルダとノーラを殺すつもりだったらしい。そもそもヒルダとの間に子を設けたのもその計画の一環とのことだった。

 男達はヒルダ邸へと向かう道に作った砦でヒルダ邸を脅威から守るように見せかけ、実はヒルダの集落に向かう者を片端から殺し、犯し、討ち捨てていたとのことだった。ヴァンのことは砦に行けば何かわかるかもしれないと思い、砦の位置を聞き出しておく。


「地上、か。キュー、ヴァンの使用した魔法陣の術式は確認できたかのう」


―――闇の魔素による視界不良により確認不能


「そうか、やはり砦に向かうしかないの……」


 ナナは深くため息をつくと最後の男にとどめを刺し全ての死体を空間庫に投げ込むと、集落の男の方に向き直る。


「わしはしばらくしたら集落を出るのじゃ」


 案内した集落の者は、ナナがヴァンの手下に行った拷問に引いていたが、はっと我に返りナナを止める。


「お、お待ちください。ヒルダ様がいない今、ナナ……様までここを出るとなったら、集落の守りはどうすれば……」

「ふむ……わしが代わりにゴーレムを起動して置いてゆく。少し待っておれ」


 ナナは空間庫からヒルダ邸内にあった作りかけ以外のゴーレムを全て取り出し起動させると、最上級ゴーレム以外に集落周辺の警備ゴーレム全回収を命じて走らせ、この場に一体のみ残った最上級ゴーレムに向き直る。


「一応聞くが、おぬしはわしと共に来るのと集落の護衛、どちらが希望じゃ」

「マスターのご命令を聞くことこそが私の希望にございます」


 起動したゴーレムが人の言葉を話したことに、顎が外れんばかりにぽかーんとしている集落の者。


「わかったのじゃ。今からおぬしの名は『キーパー』じゃ。では集落内全てのゴーレムを率い、わしが集落を出た後はこの男と協力し集落の防衛に当たれ……クザス、だったかの」


 ゴーレムに名前をつけ今後のことを指示するナナ。なおクザスという名はヒルダ邸の広間でヒルダとノーラの遺体を前に聞いていたのだが、ナナは覚えておらずキューから名前を聞いて話している。

 そうこうしている内に次々と槍を持った軽装ゴーレムを抱えた鎧ゴーレムがナナの元へ戻り、ナナは動きを止めた軽装ゴーレム全てを起動させる。全て終わるとゴーレムにはキーパーの指示に従うよう命じ、配置を任せる。


「キーパーよ、終わったら館の地下最奥へ来るのじゃ。クザス、わしは近々ヴァンを殺しに行く。いつ戻るかわからぬが、それまでキーパーと協力してヒルダの館と集落を頼むのじゃ」




「来たな、キーパー。わしは今からしばらくの間動けなくなるかもしれぬ。もしそうなったら、わしが動けるようになるまで体を頼むのじゃ」


 ナナはヴァンと戦った部屋に来たキーパーに頼みごとをすると、床に座り左手に自分自身の核である魔石を出現させる。その魔石はところどころ小さくかけているうえに大きなひびが入り、今にも割れてしまいそうな様子であった。広間でヴァンの攻撃を受けた際のものであろうと判断し、今度は右手にノーラの魔石を空間庫ら取り出し出現させる。


「ノーラ、まずはおぬしじゃ。ヒルダの魔石も必ず見つけるので、そうしたらまた三人で暮らすのじゃ。それまで辛抱して欲しいのじゃ。……キュー。ノーラの魔石をわしの魔石と融合させよ」


 ノーラと一つになる。その言葉を胸に、前回の融合時も感じた全身を砕かれ磨り潰されるような激痛を、声一つ上げず意識を失う事も無く耐えきって融合を終える。

 しかし融合による激痛の余韻と疲労から、動けるようになったのは三日後であった。その時全身汗だくになったようにずぶ濡れであったが、その正体は激痛により制御を離れた体表のスライム複製体であったことに気付き、再度複製体を体表に貼り直す。その頃には融合前まで感じていた全身の痛みは消え、ナナの魔石は直径7.7センチほどの、綺麗な球体へと姿を変えていた。

 ナナは体内に魔石をしまうとキーパーを引きつれメティを埋葬する。そして襲撃者の遺体を全て吸収し、回収した4~5センチほどの魔石を四つキューへ融合させる。

 余裕のできたキューの技能魔素には魔術技能と、ナナの苦手な金属加工技能を上昇させる。キューは容量に空きがある限り技能値の増減が自由である点は便利なのだが、ナナの体を動かすことになる物理技能だけは情報伝達速度の問題なのか、反応にラグが生じて使い物にはならないため、他の技能を入れるしかなかったという理由もある。


 その後は邸内の掃除と片付け、掃除スライムの復活などを順次こなし、長期間館を空けても問題ないように準備を整え、合間に肉体の習熟訓練と武器の作成を行う。

 また、恐らくノーラを守るために戦って破壊されたのであろう、破損したパンダ型ゴーレムぱんたろー・ネコ型ゴーレムかりん・ウサギ型ゴーレムもっちーの魔石を回収し、キューに命じてぱんたろーの魔石へ統合させるように融合させる。それを体内にしまい、ヒルダの「長い時間をかけて大量の魔素を流し続けることで復活する」という言葉を信じ魔素を注入し続ける。


 そうして時が過ぎ十二月の初日、ナナは一人集落を後にし東へと向かう。

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