5章 第38話H 想いを背負うということ
ゲートが開くまでの間に、ナナのところへ行くまでの間に、やれるだけのことはやっておく。
地下では古竜の力を把握するには狭すぎたので、皆を連れて外に出てきた。
地上までの階段でイグの力と向き合ってわかったことの一つに、ツノの存在があった。
これは俺の体が古竜と同化していくに連れ勝手に生えてきたんだけど、生やす場所や形が自由に変えられるので、邪魔にならないよう耳の後ろに隠しておく。
このツノが竜の力の核になってるんだけど、魔石と違って壊れても問題ない。
ただイグによると、ダメージを受けると小さくなり、これが完全に無くなると力が枯渇して死ぬらしい。
しかもダメージを受けて失われた力は、そのままダメージを与えた相手に移動するという。
アネモイを見ると元の半分くらいの大きさになっていた。
ヴァンは古竜一体半の力を持っていると考えたほうが良さそうだ。
外に出て最初に、ロックのとんでも兵器の威力を確認しておく。
腰のレールガンは知ってるけど、このレールキャノンだと思われる長筒? こいつの威力は未知数で、知らずに使うのはあまりに危険過ぎる。
ちょうど俺の中にいる古竜イグが、千年以上閉じ込められていた場所を消し去りたいと思ってるようだし、装置跡地を完全に破壊しよう。
「ロックから預かった武器、試し撃ちしておきたい。二人はゲートゴーレムと一緒に、帝都……だった、そっちの瓦礫の方まで離れてくれ」
ヘルメットを被り飛行してレールキャノンを構えると、どの辺りに飛んでいくのかがわかる、ガイドマーカーみたいなのが視えた。ヘルメットの機能らしく、これなら正確な射撃ができそうだ。
ロックとアネモイを連れたエイブラハムとフローレンスが、十分に離れたのを確認して引き金を引く。
『ズバアアアンッ!!』
『ドゴオオオオオオオオオン!!!!』
発射の反動で後ろに思いっきり吹っ飛ばされた……。耳は痛いし反動で的は外すし散々だ……って……外したのに、近くに着弾しただけで……落盤して、辺り一帯が……しまった、ロックとアネモイは!?
よかった、ギリギリ無事だ。ゲートゴーレムも問題無さそうだ。
つーか……このレールキャノン、やばすぎるだろ……。
それでもヴァンには効果があるだろうから、これを使わない手は無い。
調べてみると威力調節用のツマミがあり、最小の威力なら飛行しながらでも反動を抑えられたけど、最高威力だと地面に固定して撃たないと確実に吹っ飛ぶ。
あと空気の障壁で衝撃波消さないと、多分鼓膜が破れる。
次は俺の力だ。
全体的に魔術の発動速度も威力も上がってるんだけど、イグとキンバリーのおかげなのか、特に光と地に関しては特に桁違いだ。
そのまま外でイグの力の確認もしつつ、もうすぐゲートが使えるようになるってときに、空に突然映像が浮かんだ。
ブランシェでアルトが使った空間スクリーンみたいだけど……何か違う?
スクリーンに映っているのは薄暗い家の中で、青い髪の赤ん坊におっぱいをあげる女性。
やがて頭の中に響いてきた声で、青い髪の子供がヴァンだとわかった。
イグの力で自分に何が出来るのか確認しながら、ヴァンの生い立ちからの半生を見ていると、エリーにどこと無く似た女性が、生まれたばかりのローラを抱いている姿が映ったんだけど、何だこれ。
……あの子がノーラ!?
本当に、ローラそっくりじゃないか……。
それにヒルダさんとノーラは、そんなくだらない理由で殺されたのか。
……こんなにも誰かを殺したいと思ったのは初めてだ。
全部見終わったけど、ヴァンに同情する気は全く起きない。
いい大人どころか俺よりずっと年上なのに、まるで子供だ。
そう思ってため息が漏れたところで、今度は別の声が聞こえてきた。
『痛い……痛いよ……』
女の子みたいな、可愛い男の子だ。
何となくだけど、誰なのかわかる。
ナナだ。
というか、ナナになる前の、島津義之だ。
『痛いのは嫌だよ……』
『僕も強くなったら、痛くても我慢できるようになるかな?』
『空手? ボクシング? ……わかったよ、痛みに負けないように僕、頑張るよ!』
地球の町並みなんて久しぶりに見るな。
懐かしいけどそれ以上に、ナナから目が離せない。
格闘技にのめり込んでいくナナがだんだんゴツくなって……多分これ大学生くらい?
オーウェンそっくりな体格に成長してるよ……子供の頃の見る影が無くなってるな……。
そういや何でか昔からオーウェンにだけ当たりが厳しいって思ってたけど……ははは……。
『もっと、もっと、生きていたかったんだけどねー……』
『俺の体……どこ? ……すらい、む?』
『……ごはんどこーーーーー!』
そして義之の死と、スライムへの転生。
ナナもこっち来てすぐの頃は、大変だったんだな。
『うわあああああ可愛いいいいいいいいい……天使だ。マジ天使』
……結構スライム生活満喫してるな……。
ヴァンに殺されたヒルダさんとノーラの前で泣くスライムが映し出されたときは、俺まで悲しくて、悔しくて……やっぱりヴァンは許せない。
俺と初めて会ったときの号泣も、それまでのことがわかったおかげで、貰い泣きしてしまった。
そしてナナのこれまでの映像が流れ終わると、今度は別の声が頭に響いた。
『この星に生きる全ての命よ』
エイブラハムもフローレンスも首を傾げているけど、俺はこの声を知ってる。
正しくは、イグが知ってた。
『この未熟な世界に生まれし、未熟なる命よ』
『この世界の行く末を決める戦いが、行われています』
この世界の行く末って……そこまでの大ごとになってるのか。
『滅亡か』
『繁栄か』
『祈りなさい』
『願いなさい』
「あ、あの……ヒデオ様、この声はいったい……」
「これは世界樹の声だ。……ヴァンとナナの戦いのことだろうな」
ただ、世界樹って今ナナの中にいるんじゃないのか。
ヴァンの映像はともかく、ナナが自分の過去を自分から曝け出すとは思えない。
ナナと関係なく動いてるのか?
いや、そもそも……さっきの映像、俺に見せるためだけじゃないよな、もしかして世界中に流れてる?
『『ナナ……私と共に、新しい世界を築こうじゃあないか』』
『全身全霊でお断りするのじゃ』
「……考えるのはあとだ。ゲートが使えるようになったようだし、行くぞ」
スクリーンにナナとヴァンだけじゃなく、ブランシェで戦う皆の姿が映ってた。
何してんだよ、エリーもサラもシンディも!
アルトやダグは!? ブランシェ目前まで攻め込まれてるとか、笑えないよ!!
ヘルメットを脱ぎゲートをくぐった先は、魔王邸の地下。
駆け上がり使用人に声をかけて、まずはリューンさんがいる会議室を目指す。
扉を勢いよく開けると、リューンさんとイライザさんと、中にいた兵士や使用人たちの目が一斉にこっちへ向いた。
大きめのモニターが並び、たくさんある通信機からは怒声が聞こえる。
「……ヒデオ様? 無事だったんですね……後ろのお二人は、吸血鬼とお見受けしますが?」
「待て! この二人は味方だ! ロックとアネモイを運んでもらったんだ!!」
リューンが槍に手を伸ばしかけたけど、エイブラハムが抱く緑のスライムとフローレンスが抱く少女に気付くと手を止めた。
「この二人はエイブラハムとフローレンス、俺の部下だ。悪いがこっちの事情はこの二人から聞いてくれ。ブランシェの戦況はどうなっている?」
「相手方に集団転移を使える術師がいたため、想定よりも早く吸血鬼がブランシェに到達してしまいました。幸い数は多くありませんが、こちらの戦力が圧倒的に少なく苦戦しています。先ほど戻ったダグ様やアルト様がたも迎撃に向かわれましたが、お二人ともヴァンから受けたダメージが大きく……」
「わかった。吸血鬼たちの向こう側に味方が回り込んだりとかしてないな?」
「回り込めるほど兵員に余裕はありません」
それだけ聞けば十分だ。
「わかった。全滅まではさせられないかもしれないけど、俺がやる」
魔王邸の外に出て、桃色の明かりに照らされながら飛行する。
空にはナナとヴァンの戦いが、巨大スクリーンに映し出されてる。
ナナはハチを上手く使って優位に戦っているけど、ヴァンにはまだ余裕がありそうだ。
急いで片付けて、ナナのとこに行かないとな。
イグ。お前の力、使わせてもらうぞ。
古竜の力の使い方はさっきまで練習したし、アネモイを見ていたおかげで覚えてる。
今の俺は義体に入るスライムじゃなく、完全な古竜。
古竜の力も肉体も全て、属性に染まっていない純粋かつ濃密な魔素。
イグが俺に力の全てを委ねてくれたから、気付いたんだ。
イメージしろ。
「うおおおおお! ……竜化!!」
俺の体から吹き出した濃密な魔素が、俺のイメージ通りの属性に染まりながら受肉し、外側に白くて硬い鱗を形成していく。背中から生やした翼を大きく広げ、全身に冷気をまとう。巨大化していく全身の感覚に身を任せ、力の奔流を魂で感じる。
元々の地の古竜とは色も形も全く違うが、これが俺のイメージした姿。
ヴァンを倒すためだけに新たに生まれた、氷の古竜だ。
ブランシェの都市上空から、周囲の様子を見る。
研ぎ澄まされた感覚が、周辺の状況を次々と把握していく。
……今気付いたけど、なんで桜咲いてんの。
いや、これ……世界樹か? しかもめっちゃピンクに光ってるし。
……いやいや、それを考えている場合じゃない。
地上には俺に気付いて驚く人より、ナナとヴァンの戦いが映されたモニターを、祈りながら見ている人の方が多いな。
街の外は……あれか。
ブランシェの北、吸血鬼が……約二万か。前線ではその二万とエリーたちが戦っている。
アルトやダグもちょうど参戦したみたいだけど、確かに動きが悪い。
西の少し離れた地点にも、五千ほどの別働隊がブランシェに向かっているみたいだ。
まずはそっちを片付けよう。
距離……十分。
ブレス用意……発射!
『GYSYAAAAAAA!!』
冷気を纏ういくつもの氷の塊が口から放たれ、周囲の魔素と大気中の水分を飲み込み巨大化していく。単純な質量弾で簡単にかわせるほど遅いけど、威力はロックから借りた兵器以上だ。
『ドドドドドドドド!!』
命中!
着弾した辺りに咲いた大きな氷の華が、ほぼ全ての吸血鬼を飲み込み氷漬けにしたようだ。
前線の吸血鬼たちはあっけに取られて動きを止め、 エリー達も気付いてこっちに視線を向けた。
「全員下がれ! ドラゴンブレス行くぞ!!」
『GYSYAAAAAAA!!』
首を横に振りながら吸血鬼が密集している辺りを薙ぎ払うと、一撃で大半の吸血鬼を氷漬けにできた。
討ち漏らした吸血鬼たちが密集している地点に二発、三発とブレスを放ち、これで残敵はわずかだけ。
これならブランシェが、皆が負けるはずが無い。
呆然とするエリー・サラ・シンディの近くに降下しながら、竜化を解く。
やっと俺だって気付いたらしく、目に涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
「……心配かけてごめん。ただいま」
地面に降り立ち両手を広げ、三人を待ち構える。
三人共速度を落とさず駆け寄ってきて、抱きしめるために身構えたら――
『バチン!』『ベチン!』『ドスッ!』
俺の両頬と腹に、想定外の衝撃が走った。
「……え?」
何で俺……エリーとシンディにビンタされて、サラにボディーブロー食らってんの?
「何してるのよ! 早くナナを助けに行きなさい!!」
「おかえり。でも喜ぶのは早い」
「ナナちゃんが一人で苦戦してるかも!!」
いや、行くけど……その前に一言くらい……。
「金髪とか、さっきのドラゴンとか、帰ってきてからゆっくり説明してもらうかも!」
「私たちもまだまだ現役。任せて」
「あたし達はまだ、ナナも一緒にヒデオのお嫁さんになるってこと、諦めてないんだからね! だから早く迎えに行って、連れて帰ってくるのよ!!」
怒った顔のエリーの顔が近付いてきて、また引っ叩かれるのかと思ったら、両頬挟まれてキスされた。
次いで飛びついてきたサラにもキスされ、シンディにも抱きしめられてキスされた。
「ん。行ってらっしゃい」
「世界の命運がかかってるかも?」
「ちゃんと……ナナを連れて、帰ってきなさいよね!」
……ほんと……女って強いな。
「ああ……任せろ。必ずナナを連れて帰ってくる! ゲートゴーレム、ナナの居る場所への門を開いてくれ!!」
空間庫からゲートゴーレムを二体出し、一体が先に転移するのを待つ。
……なんで跳ばないんだ?
「管理者権限により、転移及び開門を禁じられています」
「……えー……」
エリー、ため息つくのやめて。
サラ、目を逸らしてくるけど肩が震えてるよ。
シンディ、笑顔が完全に引きつってるよ。
「……行ってくる……」
結局自力で転移かよ! ……締まらないなあ……。
転移と飛行を繰り返しながら、ナナがいる方角へ向かう。
ヴァンのいる方向は感覚でわかる。向こうにも気付かれてると思うけど、念の為低空を飛び最短で真っ直ぐ向かう。
途中から転移より飛行速度を上げた方が速いと気付き、翼を具現化して全速力で飛ぶ。
音速を超える衝撃波は風の魔素を操って打ち消し、桃色に輝く小型世界樹が見えてくるのと同時に戦闘の光が見えたので、そっちへ意識を集中する。
……ナナが、捕まってる!?
とっさにヘルメットを被りロックから借りたレールキャノンを構え、引き金に指をかける。ナナとヴァンの距離が近い、最小威力に切り替え!
ナナに触るな!!
『バシュッ!!!!』
『ドゴオオオオオン!!』
低空からの砲撃がガイドマーカー通りに、ナナを捕まえていたスライムの触手を砕き、ヴァンに直撃する。
この一撃じゃ倒せないのはわかってるから、転移してレールキャノンでヴァンを思いっきり叩き落とし、ついでに地上にいる赤黒いスライムとまとめて吹っ飛ばす!
『ドゴオオオオオオオオオオン!!!!』
……まだヴァンの気配は有る。倒しきれてないか……いや、それより。
「ナナ! 無事か!!」
「ばか、ものぉ……なぜ来たのじゃ……ヒデオ……ばか……ばかぁ……」
俺の胸に飛び込んできたナナを抱きしめ、頭を撫でる。
俺が見ていない間にヴァルキリーじゃなく通常義体になっていることや、両腕と左脚が折られていることなどいろいろ聞きたいことはあるし、正直もう少しこうしていたいところだけど……先にやることやらないとな。
「ナナは下がって。ヴァンは……俺が倒す」
地面に出来たクレーターが巻き上げる土煙の中から、一条の熱線が向かってきた。
光と火の融合ブレスといったところかな?
左腕の装甲表面に鏡と氷の複合障壁を作り、受け流す。
「ナナから……手を、離せええええ!!」
「言われなくてもそうするさ。ここからは俺が相手だ」
本音を言えばナナを抱く手を離したくないけど、巻き込むわけにいかないからな。
「ヒデオ……おぬし、いったい……」
「大丈夫、ナナは休んでて。俺が……古竜、ヒデオ・クロードが、ナナを守る!」
レールキャノンをしまい、代わりに魔素を纏う刀を手にヴァンへと迫る。
余裕の表情で横薙ぎの一閃を防ごうとしたヴァンの右腕を斬り落とし、返す刃で驚いた顔をしたヴァンの腹を割く。
首を落とし、胴体を真っ二つにするつもりだったけど、流石にそう簡単には行かないか。
「貴様……ヒデオか! なぜ……なぜ生きている!! それにその力……私と……同じ、力だと!?」
「ロックとアネモイが、守ってくれた。キンバリーが命を賭けて、助けてくれた。そして……地の古竜イグアースが、全てを守る力を、俺にくれた!」
地上に向けた腰のレールガンの引き金をスライムで引きながら、刀を両手で持ってヴァンへと間合いを詰める。
「ブランシェを襲う吸血鬼は、壊滅させた! もうお前の仲間は誰もいない!!」
「それがどうした! 私は、私一人でも人を滅ぼす!! 私の邪魔をするというのなら、まずはヒデオ! 貴様から殺す!! ナナの前で! 惨めに!! 泣き喚くがいい!!」
斬り落としたヴァンの右腕が再生し、その手に一振りの真っ赤な剣が現れた。
空間庫から出したんじゃない、あれは……魔素で作ったか。
でも、それがどうした。
ナナがすぐ側で見ているんだ、ひるむわけが無いだろ!
「ナナは渡さぬ! 死ね!!」
ヴァンの剣はやはり鋭く、速い。
でも今の俺は、その動きがはっきりと見える。
全部避けられるわけじゃないけど、流れるようなヴァンの剣技に合わせて防ぎ、かする程度の攻撃なら無視してカウンターを放つ。
たまに地上のスライムにレールガンを撃ちながら、光線や熱線を術で相殺し、ヴァンの手足や胴体に深い傷を付ける。
「ロックは俺に戦う力をくれた! イグアースは俺に守る力をくれた! キンバリーは俺に、命をくれた!」
「弱者の力をいくら束ねたところで、弱者は弱者よ!!」
叫びながら突いてきたヴァンの剣を刀で叩き折る。
だがヴァンは構わずに突進してきて、俺の胸目掛けて腕を伸ばした。
『グシャッ!』
「がはっ……」
嫌な音だ。ヴァンの右腕が、肘まで俺の胸に埋まっている。
背中まで貫通かよ……鎧が砕けたし、直前で拳に魔素を纏いやがったな。
「ヒ……ヒデオオオオオオオオ!!」
「ハアーッハッハッハア!! 動くなよ、ナナ!! 目の前で……お前の大事な人の魔石を、握りつぶされたくはないだろう?」
俺の背中から生えるヴァンの右手に握られる俺の魔石が見えたのか、ナナの悲痛な声が聞こえた。
やばい、もう泣かせないって誓ったのに!
(ナナ、大丈夫だから。何があっても、俺を信じて待ってて!)
――なっ! ヒデオか!?
これでいい。
刀を左腰に構えて刀身を左手で握り、魔力視に集中する。
「貴様は馬鹿か! 今動いたらどうなるのかもわからないらしいな!!」
「やめろ、やめるのじゃ! ヒデオ!!」
ヴァンの右手が俺の魔石を握りつぶす乾いた音が、響いた。
だが同時に俺の魔力視も、ヴァンの魔石を捉えた。
腹に一つ、胸に一つ。
「馬鹿はお前だよ、ヴァン」
「何っ!?」
俺の胸から引き抜こうとする腕を、筋肉とスライムで妨害する。
そのまま、一閃。
左手から鞘走りのようなシャリンッという音が響き、ヴァンの体が腹を境に上下に別れた。
その奥に隠されていた魔石ごと、真っ二つだ。
「ぬああああ! 貴様! ヒデオオオオ!!」
「お前の言うとおり俺は弱者だから、みんなの力を、想いを束ねて、お前を倒す!」
うっすらと見えるヴァンの左腕が、力任せに俺を引き剥がそうとしているのを無視して、ヴァンの胸へ至近距離からレールガンと冷気交じりの光線魔術を連射する。
そして3発目のレールガンが胸の装甲を完全に砕き、20本目くらいの冷凍光線がその奥にある魔石を貫き、粉々に砕いた。
力が完全に抜け落ちたヴァンの右腕を解放し、地上にいるスライムヴァンを確認する。
魔石発見、三つとも同じ位置だ。そこへレールキャノンを向け、出力を最大に!
「ナナもこの世界も、お前の好きにはさせない! 滅びろ、ヴァン!!」
『ドゴオオオオオオオオオオン!!!!』
落ちていくヴァンの上半身を貫き、地上のスライムヴァンの魔石に直撃したレールキャノンの弾丸が、全てを吹き飛ばした。
ヴァンの魔石は、これで全て破壊した。もう魔力視の出力を下げても良いな。
……ふう。
「ふう、ではないわあああ!!」
「はうあっ!?」
え、何で俺ナナに蹴られたの!?
「いきなり出てきて無茶やりおって! この馬鹿者! たわけ!! ……ばか……心配、させるでないわ……ばか……」
「ごめん……」
しまったまた泣かせちゃった!
「その、今俺の体って、古竜と同化というか、完全な古竜になったんだ。古竜って全身が濃密な魔素って言うか、魔石みたいなもんで、だから今の俺は全身が俺っていうか」
「わかっておるわ……」
もう泣かせないってキンバリーに約束したのに、結局泣かせちゃった。
それにしてもまた俺の胸に跳びついてきたナナの体、本当に細くて小さくて柔らかくて……今度はさっきと違って鎧が無いおかげで、ダイレクトにナナを感じられるな。
いつの間にか折れてた手足も治ってるようで安心したよ。でも抱きしめ返すとまた折れちゃいそうだな、つーかこんな体で戦ってたんだな。
地球にいた頃のナナだったら、逆に俺の方が折られそうだけど……って、何か物凄い顔でナナがこっち睨んでるけど、何だ?
怒ってるのか泣きそうなのか絶望してるのかよくわからない、面白い顔してるんだけど――
「面白い顔で悪かったのう!」
「げはあっ!?」
ナナの掌底が腹に……待て、ヴァンに胸突き破られた時より痛いぞ!?
いや、それより何で俺の考えてる事が!?
――ヒデオが魔力線を無理矢理広げて、声をかけてきたからじゃろうが!
え、どういうこと?
――記憶と思考をブロックせねば、全部わしに駄々漏れなのじゃ。
ナナ、愛してる。
「ぎゃああああああ!!」
『ドゴッ!』
「げぼはあっ!?」
マジで筒抜け……つーか、何でまた同じとこに掌底……。
いやいや、いくらなんでも痛すぎだろ!?
「……ふん、元格闘家を舐めるでないわっ!」
「いや、それ……説明になってないから……」
つーか考えてることダダ漏れって、変なこと考えたらマジで殺されかねない。
っと……もっとじゃれていたいんだけど、それどころじゃなさそうだ。
「うむ。ヒデオのレールガンで、地上のスライムヴァンの魔石も砕かれたと思ったのじゃが……わしにも感じたのじゃ」
「古竜の気配。あいつ古竜の力を理解してなかったみたいだから、魔石を壊せば終わりだと思ったんだけど……しつこい奴だな」
「ヒデオ。誰かの想いを背負っておるのは、わしも同じじゃ。じゃから、その……わしと一緒に、戦ってくれぬかのう……」
ナナの体は心配だけど……そんな事言われたら、拒否できるわけが無いじゃないか。
……それに……俺はやっとたどり着いたんだな。
初めて会ったときからずっと、追い続けてきたナナの背中。
それが今、俺の隣りにある。
ナナと並んで戦える。
こんなに嬉しいことはない。




