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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
222/231

5章 第33話R+ 男の意地

「おや? 随分と硬い鎧ですねえ。ところで予定より戻るのが遅くなりましたが、このネズミは何者ですか? それにレイアス、キンバリーまで、ここで何をしているのですか? 説明してもらおうじゃあないか、なあ、()よ」

「いいところに来てくれましたね、反撃の機会を待っていた甲斐がありましたよ」

「形勢、逆転ですねえ……ロックウウウ……」


 俺が見たことのない赤い人型竜ゴーレムのヴァンが、俺の真後ろに転移してきて背中に攻撃を受けた。

 その攻撃が魔石にわずかに届いていたようで、全身の激痛でアネモイが気を失ったようだ。


 手足をもいだヴァンがゆらーっと浮き上がり、胴体吹っ飛ばしたスライムヴァンがタールのような粘液を出して下半身と繋がった。


 数だけ見れば三対三だけど……この赤いヴァン、やばすぎる。

 これまで見たヴァンより一回り大きく装甲が厚いけど、それだけじゃない。

 何でこいつから……アネモイやテテュスに似た、竜の力を感じるんだよ!!


「私は二つ、残っている……持っていけ、私よ……」

「そうか、それは手っ取り早いな」


 赤いヴァンがスライムヴァンへ近寄ると、スライムヴァンが胴体代わりのタール部分に手を突っ込んで、魔石を一つ取り出し赤いヴァンに渡した。

 魔石を受け取った赤いヴァンは、それを口に運び……飲み込んだ?

 何をしているんだ、こいつら。


「……ほほう、私がいない間に、いろいろあったようですねえ。受け取るべき記憶が多すぎて、完全に共有できるまで時間がかかりそうじゃあないか」

「記憶の共有だと?」

「……ロックといいましたか。ナナの兄? ……ほほう、そこにいるのはレイアスではなくレイアスの兄ヒデオで、ヒデオはナナと恋仲ですか」


 魔石に記憶を書き込んで共有?

 いや、違う……まさか!


「おやおやロック、表情が変わりましたねえ。もしかして今頃気付いたのですか? 私を何人も壊しておいて、鈍すぎるんじゃあないか?」

「……ヴァンが六体だっていう情報は、あったんだよ。トロイが命がけで教えてくれたり、キンバリーからも聞いていたからな。……そのゴーレムボディ、いくつも魔石入れられるな? 5個か? 6個か? ……まさかそれ全部に……ヴァンが入ってるとはね」


 一つの体に何人ものヴァンがいるってことか。

 記憶の共有ってのも、体内でヴァンの魔石同士を魔力線でつないで読み込んでるってことか。

 俺の両隣で武器を構えているヒデオとキンバリーから、息を呑む音が聞こえる。

 こいつ完全に狂ってる。正気じゃない。


「くっくっく、正解ですよ、ロック。私自身はいくらでも増やせるのですよ! ただ、私が入るのに相応しい体が、六体以上作れなかっただけなのです。試しに通常素材で体を作ってみたのですが弱すぎましてねえ」

「通常素材の体は諦めて一つの体に複数の私が入り、交代で体を操っているのですよ。それと先程貴方が勘違いしていたセーナンのゴーレムとは、シーウェルトのことでしょうね。彼はプロセニアで作られた体の中で目覚めた運のいい男で、実験ついでに彼へ通常素材の体を下げ渡しましてね」

「トロイというのは……魔人族のネズミでしょうか……? 私だけが彼と会っていませんから、キンバリーが流すであろう情報と合わせ……ナナを惑わすことが目的でしたが……効果はあったようですねえ……」


 三体で交互にしゃべるなよ鬱陶しい。

 それにしても悪役にはこういう場面では、ペラペラと説明しなければいけないというルールでもあるんだろうか。

 少なくともヴァンは……俺達をここで確実に仕留めるつもりで、説明しているんだろうな。

 それならついでにもう一つ、気になっていることを聞こうじゃないか。


「それで行方不明だったそこの赤いのは、どこで何をしていたのかな?」

「くっくっく、ここからずっと東にある山の火口で、竜退治をしていただけですよ。半ば岩と化した地下の素材よりも、殺したての素材なら加工がしやすいかと思いましてねえ」

「……火の、古竜……」

「ほほう、ご存知でしたか。まさか一ヶ月以上も戦い続けることになるなんて思いませんでしたが、とどめを刺した途端に私に強大な力が流れ込んできたことには驚きましたよ!」


 最悪じゃないか、こいつ火古竜の力を受け継ぎやがったのか!


「さあ、聞きたいことは以上ですね? では私から一つ」


 不意打ちでヴァンが小さな光線を撃ってきた。

 ギリ当たらない、当たっても鎧を貫ける威力じゃないと無視したけど、ちくしょうやられた!


「これでナナと連絡もできませんねえ?」


 腰に下げたままだった魔導通信機が、今の一撃で焼き切られている。

 ヒデオは持ってないみたいだし、最悪だ。


「さあロック、貴方も私と同種の力を持っているようですねえ? ……早速ですがこの力、試させてもらおうじゃあないか!!」


 一瞬にして間合いを詰めて来た赤いヴァンの剣撃を、左腕の装甲でかろうじて受け止める。

 身体強化術の負荷が魔石にかかり、徐々に全身の激痛が増していく。

 やばい、でもやるしかない!


 ヴァンを押し返し追撃するふりをして、赤いヴァンが動いたと同時にヒデオとキンバリーへ光線魔術を放っていた芋虫ヴァンに肉薄し、顔面を殴り飛ばす。


『ドゴンッ!』


 インパクトの瞬間に手首の散弾発射魔道具を発動させ、芋虫ヴァンの頭を木っ端微塵に吹っ飛ばす。スライムをくっつけると何の抵抗もなく吸収できたので、今度は確実に倒したらしい。


()()を感じる相手の中で、最も弱いやつから倒すのって戦いのセオリーだよねー」


 そう言いながら今度はタールヴァンをちら見して、鼻で笑ってから赤いヴァンへと間合いを詰める。


「貴様!!」


 赤いヴァンの剣を受け、避け、カウンターの拳を入れながら、タールヴァンの光線を無視するかのように全て装甲で受け、弾く。


 お前が煽り耐性低いのは知ってるんだよ。

 赤いヴァンはヒデオやキンバリーを脅威だと認めないだろうから、これでまず間違いなく狙うことは無い。

 タールヴァンには「お前は驚異じゃない」って態度見せた以上、顔真っ赤にして俺だけ狙ってくるはずだ。


 頼む、今のうちに逃げろ、ヒデオ。

 この赤いの相手じゃ、任せろなんて気楽に言えないんだ。






―――――






 ロックのヴァン達への挑発で、スライムヴァンの標的が俺達から外れた。

 悔しいけどその意図はわかるよ、俺じゃ足手まといだ。


「キンバリー、今のうちに二人を連れて逃げるぞ」

「……おう。あの男ならヴァン二体相手でも勝てそうだしな、俺様たちじゃ邪魔になるだけだぜ」


 違う。俺はロックとの訓練で何度も殺されかけたからわかる。

 明らかに反応が鈍い。

 でも今は俺にやれることをやるだけだ。


 キンバリーの部下だという二人に空間庫から出した外套を巻き、キンバリーと一人ずつ抱えて部屋の外へ出る。

 それを階段前に横たえ、階段を登ろうとしていたキンバリーを見上げる。


「悪いなキンバリー、こっからはお前が二人を抱えて行ってくれ」

「ああ? てめえはどうすんだよ!」

「俺にはやらなきゃいけないことがある」


 空間庫からゲートゴーレムを出し、階段の踊り場に置く。

 ゲートゴーレム起動。頼む……。


「空間魔素の乱れにより長距離転移及びゲート開放不可。開放可能まで約四時間です」

「……駄目か……。キンバリー、四時間後にこいつが転移門を開くから、俺が戻らなかったらこいつでプディングに跳んでナナに知らせてくれ」

「おいコラ、どういうつもりだ」


 階段を降りてきたキンバリーが、俺の鎧の襟を掴んで顔を近づけ睨んできた。

 ヤンキーやチンピラのそれだけど、怯むわけにいかない。


「てめえに何かあったら、女神様が悲しむだろうが。ああ?」

「ロックに何かあっても、ナナは悲しむよ」

「てめえが行っても足手まといだってわかるだろうが。ああ?」

「赤いのは無理でもスライムのヴァンなら戦える。……あのままだと、ロックは負ける」


 扉の向こうからいくつもの破裂音と、金属がぶつかりあう音、そしてロックの気合の声やヴァンの笑い声が聞こえてくる。


「……ちっ、勝手にしろ! クソが!」


 そう言ってキンバリーは俺が寝かせた吸血鬼の隣にもう一人を寝かせ、何でか知らないけど扉の方へ向かって歩いていった。


「おいキンバリー、セリフと行動が一致してないぞ」

「るせえ! てめえのあのでっけえ剣、あれ使うには()()がいるんだろ? 俺様が時間を稼いで……いや、もう遠慮はいらねえんだ。ぶった切っても構わねえな?」

「ははっ……ああ、期待してるよ、キンバリー! 行くぞ!!」


 改めて考えるとほんと不思議な気分だよ、キンバリー。

 まさかお前とこうして肩を並べて戦うなんてな。

 ……ヴァンを倒して、一緒に帰るぞ!






―――――






 ヴァン自体の戦闘力は恐ろしく上がっているが、幸い武器までは変わっていなかったおかげで、ヴァンの剣は俺の装甲を斬り裂けない。

 それに気付いたヴァンは俺のむき出しの頭と装甲の薄い関節部分、そして最初に壊した背中の穴を、執拗に狙って斬りかかって来てる。

 でもそれを全て腕肩脛と装甲の厚い部分で受け、流し、弾きながら、カウンターの拳を胸の中心に叩き込み手首の散弾発射魔道具をぶっ放す。


『ドゴンッ!』


「……ちっ! 硬すぎだろ!!」

「それは私の台詞です。この剣では貴方の鎧に、傷をつけるのがやっとのようですねえ」


 傷一つ付いてないお前に言われたくないね!

 ヴァンの懐からレールガンを撃とうとしたけど、一瞬早く首狙いのヴァンの剣が振られ、慌てて腕の装甲で止め、られない!?


「くうっ!」


 力任せに振り抜かれ、壁際まで吹き飛ばされちゃった。

 ……力負けしてるのに、これ以上身体強化術の倍率を上げられないとか、もどかしくてイライラするよ。

 ナナっていつもこんな状態で戦ってたんだね……。

 全身の痛みに耐えられるギリギリのところで強化してるのに、届かないんだもんなあ。


 スライムヴァンも頭と背中の穴を狙って光線を撃ってくるようになったから、そろそろ鬱陶しくなってきた。ヒデオ達も逃げたし赤ヴァンの隙を突いてぶっ飛ばそう。

 こっちも光線魔術で相殺しながら飛行し、熱光線氷刃雷球と相殺しにくい魔術で二体のヴァンを撃ち、赤ヴァンの周囲限定で転移と障壁を封じる

 もちろんこんな術真似されても面倒だから、俺の術は視られないよう常に周囲の魔素は軽く乱してある。


「はっはっはあ! 死ねええ、ロックウウウ!!」


 そこに腰のレールガンを打ち込むつもりが、スライムヴァンのブレスが俺の魔術をかき消しながら迫ってきた。

 回避は間に合わない、障壁を張ってしのぎきったと同時にその場を離れると、そこへ翼を広げた赤ヴァンの剣が振り下ろされた。

 速いっ!? でもまだ見える!!


「うおおおおおおお!!」


 振り下ろされた赤ヴァンの剣をギリギリで避け、その柄を左脚で踏み、頭を掴んで顔面に右膝を叩き込む。

 さらにのけぞった顎目掛け腰のレールガンを撃った瞬間、剣から手を離したヴァンの拳が脇腹にめり込んだ。


『ズヒュン!』

「があああっ!」


 撃つ方が一瞬遅かったせいで軌道が逸れ、ヴァンの顔の横を弾丸が素通りしていった。

 ちくしょう!

 しかも今食らった一発で、魔力を通した上位竜素材の鎧が割れそうだ。背中に受けた一撃といい、剣より素手の方が危ないぞこいつ。

 それでも剣を握り直して斬りかかって来る辺り、こいつ絶対何か狙ってる。


 スラヴァンは相棒が吸収合戦を再開して足だけは止めてくれてるけど、赤ヴァンと戦いながらじゃ分が悪い。

 赤ヴァンの力と速度に対応するのも、身体強化は限界だ。

 スラヴァンへの攻撃はブレスや赤ヴァンに阻止され、俺のスライムから魔術を撃とうにも、吸収合戦をやめた瞬間逆に食われる。

 しかもこれ以上ダメージを受けたら、アネモイとの融合が強制解除される。


 手詰まりに近いな、かと言って逃げ切れるとも思えないし……ってヒデオ、何戻ってきてんだよ!

 キンバリーがスラヴァンに斬りかかりヒデオが援護、キンバリーがダメージを受けると前後スイッチしてヒデオが刀を振っている。


 ……ああもう、正直助かるけどあとで説教だよ!

 スラヴァンは完全に任せて赤ヴァンだけに集中!


「ヴァン! お前はここで倒す!!」


 竜の、アネモイの力を使って身体強化の倍率を上げ、全身の激痛を抑えて赤ヴァンに迫る。

 剣の一閃を左拳で逸し、左右の連打を散弾付きで胸にぶち込む。

 振り落とされた刃は右の掌で逸して肩の装甲で受け、左手を腰に運んで引き金を引く。


『ズヒュン!!』

「ぬうううっ!!」


 嘘だろこいつの装甲どうなってんだよ直撃でもひびが入っただけじゃないか!

 でもヒビが入るなら壊せるってことだ!

 反動で開いた距離を詰め、剣を受け、逸し、装甲で止めつつ、赤ヴァンの胸部のみに打撃と散弾を集中させる。流石にレールガンは警戒されてしまったけど、さらにもう一発ぶち当てられた。

 でもその後はヴァンが翼を閉じたり開いたりしながらゆらゆらと加速減速を繰り返し、レールガンを当てることができなくなった。

 あの翼、飾りじゃなかったのかよ! 飛行速度の調節に使ってやがる!!

 格闘しながらじゃないと駄目だ、むしろレールガンに意識が向いている今こそ、拳でやってやる!

 赤ヴァンは光線だけじゃなく火槍も撃ち始めたけど、それらを打ち消し、残りを避けながら間合いを詰めて左右の拳を叩き込む。

 胸の中心のヒビが少し大きくなったと思ったその時、スラヴァンの断末魔が聞こえてきた。


 ヒデオ、キンバリー、やるじゃないか。


 ヒデオの魔素をまとった刀で両断されたスラヴァンからは、吸収時の抵抗が完全に消えた。

 とはいえヒデオの攻撃で俺のスライムもほぼ燃え尽きてるから、吸収しきるのは無理だな。


 さあこれであとは、俺が赤ヴァンを倒すだけだ!

 頭を狙って振り下ろされた剣の白い刃を左手で逸し、肩の装甲で止め……白? 駄目だっ!!


『ギィンッ!』

「があっ!」


 剣の色と触れた瞬間の違和感に任せて体をよじったけど、間に合わなかった。

 右肩の付け根から切り落とされた俺の右腕が、くるくる回りながら落ちていく。


「くくく、火竜の力と記憶、そして他の私の記憶を確認しながら戦っていたせいで、随分時間がかかってしまいましたねえ」

「ぐ……ああああああああああ!!」


 こいつ、手を抜いてたってことかよ!!

 それにこの剣……光の魔素!?

 ヒデオの技か!!

 やばい強化術が解けた、アネモイとの融合も――っ!?


『ビュンッ!!』


 視界が消えた、音も……首を、刎ねられたのか?

 くっ! 五感をスライムに戻し魔力視発動と空間障壁を最高出力でっ!


『ピキッ!』


 ぐああああああああああ!!

 前方宙返りしたヴァンの尻尾が、俺の義体を真上から叩きつけていた。障壁がなかったら完全に魔石砕かれてたぞちくしょう!!

 全身痛いなんてもんじゃないよ!!


『ドゴン!!』


 があっ! 床をぶち抜いて、下層に……。

 それに義体から力が抜けて……融合が解けた!? アネモイ!!


 義体の近くに転がってる……よかった、気絶してるだけ……でも……何でアネモイ、小さくなっていってるんだ?

 どんどん竜の力が、減って……抜けてる? どこへ? ……ヴァン!?


 ちくしょうどうすれば……ちいっ!!

 俺のスライム体でアネモイを包んで、俺と一緒に降ってきた瓦礫に擬態!

 相棒手伝え! アネモイからの力の流出を遮断するんだ!!

――承知しました。


 ぐうう、体の痛みが何だ!!

 アネモイは絶対守る!

 惚れた女の一人も守れず、何が男だちくしょう!!

 まだまだ愛してるって言い足りないんだ、絶対に逝かせないぞ!!

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