5章 第32話N キレたよ
野戦病院と化した世界樹前の前線基地で、次々と運ばれてくる負傷者達を前に翼を広げ、治癒の光を広範囲に放って治療に当たっていると、腰の通信魔道具が鳴った。
全チャンネル宛じゃなく私個人宛だ。ロック?
『あーザザッ……らロック。ナナー聞こえるー?」
「何じゃ? ロックか!?」
『ヒデオ確保したザザッッ。もう少ししたらザッ……帰るねー』
良かった……ロックとアネモイには帰ったらご馳走作ってやらないと。
「そうか、良かったのじゃ……礼を言うのじゃ、ロック。ヒデオもそこにおるんじゃな? おぬし、戻ったらお仕置きじゃからな!」
『何言ってるかよく聞こえないけど、俺はザザッ……。心配かけてごめん、ナナ』
『ヴァンはこっちで二体ぶっ飛ばすけど、ザザッ……がザッ……残り二体がそっち行くかもー。そんじゃぱぱっと片付けて帰るよー。ぷちっ』
まだ話したいのに切りやがった。でも「ぶっ飛ばした」ではなく「ぶっ飛ばす」だったから、まだ戦闘中なんだろうか。
かけなおしたいけど信じて待とう。
それとヴァンは二体がロックが相手するとして、残り二体がこっちに来るかもしれないって聞こえたんだけど……一体足りないよ?
六体いるってトロイが言ってたけど、似たゴーレムだからシーウェルトを数えてた?
グレゴリーも六体って伝えてきたし……もう一体いるという前提で警戒しておこう。
ひとまず今私にできることは、怪我人の治療だ。
吸血鬼は術を使えるものが少なく、こちらは魔人族に光人族と魔術に長けた者が多いのと、研究所で作られたクロスボウのような武器のおかげで、こちらの負傷者は多くはない。
でも、全くいないわけじゃない。
治癒の光でも足りないような重傷者は、ピーちゃんのフォローを受けたスライムで行う。
対抗術式とピーちゃんのおかげで吸血鬼化した兵士もいない。
でも、気を抜くつもりはない。
そして日付もとっくに変わってるような真夜中だから、私の翼から出る光が一番目立つ。
ヴァンがこっちに来てるなら、私が的になろうじゃないか。
シュウちゃんの力も借りて世界樹に近付く敵がいないか索敵しつつ翼を広げてふわふわ治療して回っていると、突然誰かが近くに転移してきた。
足を切断されたリオを抱き抱えてる、涙でぐちゃぐちゃの顔をしたセレスだった。
「え、えへへ……ゲオルギウス達に、遅れを取っちゃって……」
「わかっておる、何も言うでない」
リオの止血、切られた足の接続、失った血液を再構築して輸血。
それらの最中、ダグとテテュスが融合したのを感じた。
多少離れたところで、あれだけ強大な魔力を発したらバレバレだ。
世界樹が近いせいか感知能力が上がってるのかな、シュウちゃん様々だね。
リオの足をスライムで繋げ、失った血液を再構築して補填する。
よく見るとリオだけじゃなくセレスも傷だらけだし疲労も見て取れる。
「治癒の光を出しておくでの、二人は温かいスープでも飲んで少し休んでおれ」
朝からずっと戦い続けてたんだものね。
とっくに日付も変わってるんだし、少しくらい休んでもいいんだよ。
兵士達にも振舞っているドラゴンスープを二人に渡し、私は負傷した兵士達の治療に戻る。
ミニスライムと義体の翼で増幅した広範囲への拡散治療魔術、そしてスライムで重傷患者の再生治療。
目を閉じて両手を広げて佇む義体の姿が見える位置にいれば、リオもセレスも安心だろう。
そのまま集中しているフリをして、治療全般をピーちゃんに任せて意識をヴァルキリーに向ける。
魔石生命体であるシュウちゃんの一部を核として埋め込んだ、ヴァルキリーゴーレムへの憑依術。
昔ヒルダが魔狼に襲われた私とノーラを助ける際に使った術だ。
なおヒデオと初めて会ったときにヴァンが使っていたことは記憶から抹消する。
スライムだけの遠隔操作より、こっちの方が反応速度が高いんだよね。
猛スピードで疾走するダグの少し後ろを、気配を消しつつ追尾する。少しずつ離されてるけどもう場所はわかった。
はるか前方に見えた竜巻と雷は、間違いなくアルトの術だろう。
気配を消すのをやめて私も加速しつつ、アルトの様子を見る。
……両足切断に全身火傷、両腕の複雑骨折とズタボロじゃないか。
ここでやっと私に気付いて舌打ちをしたダグが、ヴァンの一体に地上からの攻撃が殺到したのとほぼ同時に、アルト目掛けて一気に加速した。
「アルト!! このバカ野郎が!!」
頭上からの激突音と怒鳴り声を聞き流しながら、私は落下してきたアルトの真下に滑り込んで両手で受け止める。
「無茶しおって……大馬鹿者が……」
「申し訳、ありません……ナナさん……」
それだけ言って気絶しやがった。もっともっともっーーと文句言いたいのに。
リオもセレスもダグもそう。
今の私を戦わせたくないっていうみんなの想いはすごく嬉しい。
でもだからって、自分達が傷付くのを私に黙って見ていろと言うのは残酷だよ。
ともあれまずは止血だ。それと両腕はこれだけ派手に折れてたら、ただ治療するだけじゃ駄目だ。一度吸収して構築し直さないと、砕けた骨が残ってしまう。
今は再構築した血液を送り込みながら、鎮痛剤代わりの麻痺毒を出すスライムでアルトを包むくらいしかできない。
地面に降りてスライムに包んだアルトを……ピーちゃん本体のとこに転移させよう。
ここまで離れたらリオと言えども私の転移反応に気付くまい。
ピーちゃんのいる神殿に転移させ、ヴァンに注意を払いながらスライムの方に意識を半分向けたら軽く引いた。
ガッソーとファビアン先頭にピーちゃんの前で、物凄い人数が祈りを捧げてたよ……。
「……っ! ナナ様ではございませんか!?」
私に気付いたファビアンの声のせいで、一斉に数百人の目が私に向いちゃったじゃないか。
いろいろ突っ込みたいところだけど戦闘中だし、さっさと用件を済ませよう。
「ファビアンすまぬ、ピーちゃんを使わせてもらうのじゃ。わしは戦いに戻らねばならぬでのう、アルトを頼んだのじゃっ!」
駆け寄ろうとしてきたファビアンとガッソーをかわしてアルトを包んだままピーちゃんに飛び込み、スライムはピーちゃんに同化させ意識をヴァルキリーに向けなおす。
ダグも降りてきたところだったしいいタイミングだ。
「てめえ、何でここにいやがんだよ」
「ふん、隠しても無駄じゃ。リオの足は鋭い剣での切り口じゃし、おぬしがテテュスと融合して戦いに赴く相手ともなれば、ヴァン以外におるまい。それとおぬしの前におるわしの体には、ダミーの魔石しか入っておらぬでのう。遠慮は無用じゃ」
「そんなんで戦えるんだろうな?」
腕・足・胸部にコートの上から装着する外装を装着し、軽く左右のジャブを放つ。
重量は問題なし、身体強化術も倍率は高くないけど戦えるレベルで使える。
「見てのとおり問題ないじゃろう。本気で行くのじゃ」
ヴァンも近付いてきているし、私だってフラストレーション溜まりまくりなんだ。
何がしたいのか知らないけど、私の仲間を傷つけたことを、後悔させてやる!
そう思ってヴァンが来るのを待ってたんだけど、見た瞬間にため息が漏れた。
深夜の森の木の間から幽霊みたいにゆらーっと出てくる、顔が半分溶けて腹に大穴空けたヴァンと、尻尾と翼と右肩から先の無いヴァン。そしてどっちの胸にも小さな穴がいくつも空いている。
それとこれまではヴァンと会うと必ず感じた強い悪意や殺意の類が、全くと言っていいほど感じられないのが奇妙な感じだ。
でも、その代わりに寒気がするんだけど何だろこれ。
「そんな体でよく動けるもんじゃのう……どちらも満身創痍ではないか」
「ナァ、ナァ……私、と……来い……」
「そうすれば……完全な平和を……私がナナのために、用意しようじゃあ、ないか」
何言ってんだこいつ。
それに私とヴァンの間に立っているダグを完全に無視してるというか、見えてないんじゃないだろうか。
おぞましい熱視線に寒気が増して行くんだけど。
「平和を乱しておる存在のくせに何を言っておるのじゃ」
「私も……私達も、平和のために、戦おうじゃあ、ないか……」
「全ての人を、根絶やしにして……ナナと私達だけの……平和な世界を、作り出そうじゃあ、ないか……」
あ、だめだこれ。
完全に狂ってる。
というかキモい。
キモ過ぎて寒気が止まらないよ!
「話すだけ無駄のようじゃな。ダグ、わしは尻尾無しの方をやるでのう、おぬしには大穴が空いておる方を任せたのじゃ」
「……おう、それでいいぜ」
ここで強がっても仕方ない。
穴開きのヴァンは手足が揃っていて剣も持っているのに比べ、尻尾無しヴァンは片腕と一緒に剣もなく純粋な戦闘力は下だ。
今のダグになら、安心して強い方を任せられる。
「私とナナの邪魔をするというのなら……」
「貴方から、片付けて差し上げようじゃないか……ダァグゥ……」
二体のヴァンからの光線が、ダグへ向けて殺到する。
でもダグはそれを全て軽々と避け、穴あきヴァンへと肉薄……転移したっ?
とっさに真後ろへ意識を向けるけど来る気配がない。
ダグの後ろにもいない。
気配は……上っ!
跳び上がりヴァルキリー用に作った肘まで覆う篭手『拳帝改』で、上空に現れた尻尾無しヴァンに殴りかかる。
でも尻尾無しは私を無視してダグにまた光線を放つと、私の拳が届く前にまた転移していなくなった。
ダグも私同様に穴あきに逃げられていたけど、それだけじゃなく二体からの光線を避けるのに忙しそうだ。
「っの野郎! ちょこまか逃げ回りやがって!!」
鬱陶しいことこの上ない。
しかも私を無視してダグ狙い?
舐められてるのかな?
なんでこうも思い通り行かないかなあ、イライラする。
「ダグ、ちょっとひと叫びしたい気分なのじゃ」
これだけで私の意図は伝わったようで、ダグが空間障壁の足場から地上へ降りたの見計らい大きく息を吸う。
「くわっ!!!!」
魔素を乱す竜の叫び。
転移だけの阻害だと範囲が狭くて移動されたら意味がないけど、この広範囲かつ無差別に魔素を乱す叫びなら、ヴァンの転移も邪魔できる。
ダグに迫っていた光線は全てかき消え、空中にいたヴァンは体制を崩して落下し、ダグが跳び上がろうと膝をかがめた。
その時横から私の方へ何かが飛んできて、足元にベチャッと落ちた。
私はそれが何なのか見る間もなく、ヴァルキリーゴーレムとの接続が切れてしまった。
……あれ。
……のおおおお! 私の馬鹿あああああ!!
周りの魔素乱したせいで憑依魔術も解除されたよおおお!!
スライムとのつながりは……こっちなら大丈夫みたい、急いでヴァルキリーゴーレム内のスライムへ意識を向けると、ダグの一撃を顔面に受けた尻尾無しヴァンの頭が、木っ端微塵に吹き飛ぶとこだった。
古竜テテュスと融合したダグ相手なら、そうなるよねー。
そんでさっき足元に飛んできたのは……茶色のスライム?
「ナ、ナナさん……今の何……急に、飛べなく……」
「もしかして……グレゴリーかのう?」
「そうだよ! ……いてて……合流して援護しようと思ったのに……」
そう言えばグレゴリーにはこの技教えてなかったな。
それにしても私もそうだけど、スライムだけになるとダメージが外から見ても全くわからない。せいぜい魔力視で視て魔力が枯渇寸前だと分かる程度だ。
「アルトとともに戦ってくれておったんじゃのう、礼を言うのじゃ。あとはわしらに任せて欲しいのじゃ」
『ギンッ!』
顔をあげるとダグの真っ赤になった左の拳帝を、穴あきヴァンが剣で防いだところだった。
戦う気満々だったのに、結局何もしてないじゃないか。
仕方ないので足元のグレゴリーを拾って抱き抱え、ヴァンとダグの戦いでも見物していよう。
そう思ったのになぜかダグはヴァンを睨みつけ、ヴァンもまたダグを睨むだけだった。
というか二人共自由落下の最中で、互いに追撃できず魔術も撃てず、ただ落ちてきてるだけだった。
それにしても、今更だけどどうでもいいことに気がついた。
ヴァンの背中にあるドラゴンの翼。
あれ、ただの飾りだ。
せめてそれ広げればグライダーみたいに多少は落下コントロールできるだろうに、広げる素振りはない。
そもそも今まであれをしっかり広げたとこを見てない。
多分尻尾も同じく飾りなんだろうな。
ほんと、どうでもいいんだけどさ。
そして木々の向こうに落ちていった二人の方角から、硬そうな金属音が連続で響いてきたけれど、その音がどんどん離れていく。
どうもヴァンは魔素を乱した範囲から逃げようとしているっぽい。
追いかけようと思ったんだけど、そうはいかないみたいだ。
「グレゴリー、義体はどうしたのじゃ?」
「ごめん、ナナさん……砂漠で真っ二つにされ、上半身はさっきまる焦げになっちゃった……」
砂漠って帝国の方でも戦っててくれたのか。
「謝らずともよいのじゃ、義体ならまた作ればよい。それよりその状態で攻撃を受けては危険極まりないからのう、下がっておれ」
グレゴリーを地面に降ろし、近付いてくる気配の元へ顔を向ける。
尻尾や翼に右腕どころか頭すら無く、腹や胸にいくつもの小さな穴が空いたゴーレム。既に竜に似たフォルムを完全に失ったヴァンが、私に向かって歩いてきていた。
「やれやれ……その状態でもまだ来るとは、懲りぬ奴じゃのう」
本体の魔石壊さないと駄目だね。
魔石視の仮面をかぶって、本体の場所……何だ、これ……無傷の魔石が、左肩に右腰に下腹部と三個も見える。
胸の二個と腹の一個は壊れてるけど、こいついったい何個魔石入れてたんだ。頭も含めると最低七個。
セーナンで戦ったヴァンより、中の魔石が増えてるじゃないか。
「流石にその姿では会話にならぬのう。ぶっ飛ばしてやろうかと思っておったのじゃが、さっさと片付けてダグのところへ向かうとしようかの」
空間庫からハチを出し、銃口をヴァンの下半身へ向ける。
スイッチはレールガンだ。もちろん威力は最大でね。
『ドゴン!!!!』
発射音と着弾の爆発音が同時に響き、ヴァンの胸から上だけが私の足元に転がってきた。
腰と下腹部にあった魔石は、下半身ごと木っ端微塵だ。
強化したおかげかな、特殊弾頭じゃなくても十分に通用するね。
右腕を私へ向けるヴァンの右肩に再度銃口を向け、スイッチをビームに切り替える。
『シュイイイイイン』
ビームがヴァンの装甲を貫通するまでおよそ三秒。
魔石を貫きヴァンの右腕が力なく地面に落ちたことを確認し、ヴァンの体をスライムで吸収する。
「む? どうしたのじゃグレゴリー」
「ど……どうしたの、じゃないよ、ナナさん……何その破壊力……」
着弾したところから扇状に地面がめくれ上がり、数キロメートルほど木々が根こそぎ吹っ飛んでいるだけじゃないか。
「カメタンクの主砲ほどではないのじゃ。……ここより北はもっと酷い状況のはずじゃし、落ち着いたら辺り一帯の樹木を再生せねばならぬのう」
軍用ゴーレム部隊と吸血鬼たちの主戦場になっていた地竜道周辺とその南側は、一面の荒野になってる。
そこに住んでいた動物たちは、戦闘前に西へと追いやっている。申し訳ないけれど、必ず元の環境に戻すからそれで許して欲しい。
「そういう問題じゃなくて……いや、それよりヴァンに気をつけて。あいつの体に入っている魔石、それ全部にヴァンが入ってるみたい」
「はあ? ……自分の意識がいくつもあるとか……気が狂っとるのう……」
「それにセーナンでナナさん達が倒したヴァンの記憶も持ってるらしい。下手に逃がすと、対抗策持ってどんどん厄介になるかもしれない」
セーナンからどうやって逃げ延びたんだ。
いや、それより……さっき見たヴァンを思い出せ。
右の腰に魔石があったのに、左の腰に無いのは不自然じゃないか?
「魔石だけで移動する手段は……」
「あるよ。僕はもともと魔石だけで飛んで移動してた」
「ほんに、厄介じゃのう! 周囲に移動する物体はーー」
『ゴオオオオオオ!!』
少し離れたところから、とんでもない大きさの火柱が上がった。
ダグの向かった方角だけど……これ、ダグの炎じゃ……ない。
「……ダグ?」
まさか。ありえない。
そう思って炎の間近に跳ぶと火柱の中心に、三つの人影が見えた。
頭を失ったヴァンと、そのヴァンに抱きつかれている、ダグ。
そしてその足元に倒れる、人影。
「ダグ! テテュス!!」
何だこの特殊弾頭並みの馬鹿みたいな炎は!
消している時間はない、一刻も早く二人を助けないと!!
異空間生成! ダグとテテュスを異空間に引きずり込む!!
異空間に入った瞬間炎が見えなくなり、支えを失ったダグがその場に倒れ込んだ。
思ったとおり炎は異空間に現れなかった。
その代りテテュスが倒れ今ダグが倒れようとしている地面は高熱で黒く焦げ、白煙を上げている。
マグマの上でも飛んでいるかのような熱気の中を飛び、二人を抱えて元の場所へと戻り二人の様子を見る。
生きては、いる。
スライムで包み全身の再生治療だ。
ダグは全身のあちこちが炭化しているが、その体は火竜の素材で出来ている。
恐らくそうじゃなかったら即死だった。
テテュスは炭化した全身の表面がボロボロと剥がれ、その下から綺麗な肌が見えてきた。
でもその体は元より二回り以上も小さくなり、感じる竜の力もかなり低い。
生きては、いる。
ハチを構え異空間を解除し銃口を炎へ向ける。
だがそこにはヴァンの姿は無く、既に燃え尽き倒れた残骸だけが転がっていた。
ならばもう用はない。
そんなことよりダグだ。
ダグとテテュスをスライムで包んだまま、ピーちゃん本体の元へ転移する。
そのまま二人を治療中のアルトの隣に並べるように、ピーちゃんの中へ入れる。
三人の中ではダグが最も重症で、肺が完全に焼けている。
テティスは見た目だけは綺麗だけど、十二~十三歳くらいの見た目まで小さくなり、感じられる魔力もかなり少ない。
アルトも火傷こそ治っているものの、両腕両足の再生は始まったばかりだ。
ふと顔をあげるといつの間にか神殿には誰もいなくて、私とピーちゃん、そしてピーちゃんの中で眠る三人しかいなかった。
「ピーちゃん……三人をお願いね……」
恐らくヴァンはもう一体いる。
私がさっき倒したヴァンの記憶を持って、合流するつもりだろう。
そしてダグを巻き込んで自爆したヴァンも、魔石を逃している可能性がある。
……そう、自爆だ。
あの炎、規模はもっと小さいけれど見たことがある。
魂を破壊する術式を自分に使って、暴走した魔力で自爆しやがったんだ!!
正気じゃない。
あれをのさばらせておいたら、私の大事な人たちがみんな死んでしまう。
そんな事は許さない。
私が前線に出て、最後のヴァンをあぶり出す。
そして……殺す。
そう決意して小型世界樹へと転移した私を、桃色の光が包み込んだ。
振り返ると、世界樹が桃色の光に包まれていた。




