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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
215/231

5章 第26話N+ 意図したわけではないのじゃ

『にゃにゃ様!! あいつヴァンじゃにゃいにゃ!!』

「にゃんじゃと!?」


 ああもう、びっくりし過ぎてつられちゃったじゃないか馬鹿猫!


『にゃにゃ様にチ○コ蹴られて死んだシーウェルトにゃ!』

「はっきり言うでないわ馬鹿猫おおおお!」


 いやそれより何でシーウェルト?

 人型竜のゴーレムはヴァンだけじゃない?? 一回り小さい奴を見たってトロイが言ってたけど、こいつのこと??


「ナナさん、緊急事態です。地竜道近郊にて、吸血鬼の集団を発見しました」

「こちらも来おったか!」

『こっちはあたしらで何とかするにゃ! にゃにゃ様は安心してそっちに集中して欲しいにゃ!」

「うむ、では任せたのじゃ! くれぐれも無理はするでないぞ!!」

『承知にゃ! にゃからこっち片付けて戻ったら、にゃにゃ様にまたブラッシン『ぷちっ』』


 死亡フラグなんて最後まで言わせてたまるか。

 ちゃんと戻ってきてよ、馬鹿猫。


「ナナ、俺も軍の指揮に戻るぜ。テテュスも……ん? どうしたテテュス」


 ダグの隣りにいるテテュスは、壁の方を見て何かじーっとしてる。

 猫もこんなことたまにやるよねーなんて思ってたら、いきなりこっち向いた。


「海竜たちからの報告なのだ。ずっと東の方で見るような船が数十艘、魔術で姿を隠しながらこちらに向かっておったのだ」

「……向かっておるのではなく、向かっておった?」


 私が作った光学迷彩魔術のようなものだろうか。

 それなら空から見ても気付かなかったのもうなずけるけど、何で過去形?


「うむ。五頭の海竜を横に並ばせ、ブレスで薙ぎ払ったのだ。セーナンでブレスの面白い使い方を見たので、テテュスも真似してみたのだ。一艘残らず沈め、今は海竜達が食事中なのだ」


 うわあ……何だか敵ながら同情しそう。

 でもおかげで助かった。


「テテュスよ、助力感謝するのじゃ。火竜肉は上乗せしてやるでのう、海竜達にも感謝を伝えておいてくれぬかの」

「わかったのだ。ではテテュスはダグとともにゆくのだ」

「お、おう。んじゃちょっくら行ってくるぜ」


 二人がゲートをくぐったのを見送り、アルトの隣へ行って一緒にモニターを見る。

 タカファイターからのリアルタイム映像には、()()()から出てくる吸血鬼の集団が映っている。


「出現地点は地竜道よりだいぶ南です。転移門の術式はやはり知られていたようですが……吸血鬼たちの動きがおかしいですね。まとまって北上しています」

「……もし地竜道を囲むように配置しておったら、後ろから攻撃されることになっておったのう」

「やはり僕たちの待ち伏せを予測、いえ確信していたということでしょう。ということは……」


 ……意図的に情報を流した可能性が高い。


「ヴァンに似たゴーレムをセーナンに出すことで、わしらの意識をフォルカヌスと地竜道に分散して向けさせるつもりじゃったのじゃろうな。恐らくジースとプロセニアの問題もあったじゃろうから、早めに片付いておらなんだら面倒なことになっておったじゃろう」

「そして意識を向けていないであろう海から、船で襲撃ですか。テテュスさんには頭が上がりませんね」

「それだけではなかろうの。その計画であればヴァンによるブランシェ襲撃の可能性も高いのじゃ、警戒を怠るでないぞ」


 私達の戦力分散が目的の波状攻撃なら、必ずここへ直接来る。

 それも数時間以内に間違いなく……って、あれ?

 ヒデオ拐った時点で、この計画だと破綻してない?


「よく考えるとじゃ……揺動のつもりじゃったなら、プロセニアとジースからも同時に襲わせるべきじゃと思うがのう……」

「最初のセーナン襲撃からの、微妙な時間差が気になりますね。何か裏がある、もしくは……僕たちが通信魔道具を所持していないという前提で、計画を練ったのかもしれません」

「どういうことじゃ?」


 アルトによると、最初のセーナン襲撃からフォルカヌスの首都に早馬が着くまでの平均的な日数と、プロセニア・ジース両国の侵攻がティニオン首都に伝わるまでの日数を考えると、それがちょうどヒデオが襲撃を受けた日になるという。

 そしてティニオン首都アイオンから早馬が出ていれば、ブランシェに着くのは今日だったはずらしい。


「それとナナさんがフォルカヌス王に会いに行っているという話を、ゲオルギウスにしましたよね? フォルカヌスはナナさんが転移で行き来できる事を考えての作戦だったのではないでしょうか」

「……もしわしらが通信魔道具を持っておらなんだら、今日この日に全て集中しておった可能性が高いということかのう。敵ながら、素晴らしい作戦じゃ……」


 なんというか、言葉がない。

 わざとではないだけに、何か……哀れだ。


「しかも本来であればこの波状攻撃のキモは、どこからヴァンが来るかわからぬことにあるはずじゃ。そのうえでブランシェに直接攻撃を仕掛けられておったら、困ったことになっておったじゃろうの」

「こちらに通信魔道具があったことと、ヴァンの突発的な行動のおかげで、無意味な戦力の逐次投入になっていますね。こちらとしては非常に助かりますが……そうなるとロックさんとグレゴリーさんが心配ですね」

「ロックは大丈夫じゃろう。わしが言うのも何じゃが、今のあれはアネモイと融合し本気で戦えば、ヴァンなど相手にならぬ。ダグもそうじゃが、古竜との融合は世界樹と融合したわしに並ぶものがあるのじゃ。しかもわしと違って、魔石にダメージも負っておらぬから全力を出せるしのう。それにグレゴリーも、魔術だけならヴァンなど足元にも及ばぬ」


 信じてるからね、二人共。

 ヒデオをお願い……。


 それにしても、こうして待ってるだけって嫌だな。

 元いた世界だと一般的な魔王というのは、居城の奥で待ち構えているものだけど、私はそんなのお断りだ。

 今の私でも戦える手段、方法……よく考えたらいくらでもあるじゃないか。

 いざとなったらこの姿でも戦ってやろうじゃない。

 ノーラに見せたくないから、また仮面着けなきゃね。






―――――






 北上する吸血鬼を背後から攻撃したダグさんと正規軍によって、吸血鬼にかなりの打撃を与えたと報告があったわ。

 数が多すぎるのも逆に哀れね~、カメタンクの口から出る主砲って言ったかしら? あれ一発で何百体が木っ端微塵よ。それにくまキャノンの肩についた筒から出る攻撃も、一発で数十体が木っ端微塵ですもの。


 でも吸血鬼の数が多すぎて、前線は徐々に後退してるようね。

 しかも軍の背後に転移してくる吸血鬼集団のせいでこちらにも被害が出始めたので、わたしとリオちゃんは散発的に転移してくる吸血鬼集団を狩って回ることにしたわ。

 わたしには転移があるし、リオちゃんは転移そのものを察知する能力が高いから、遊撃隊という扱いかしら。

 それでも間に合わなくて何体ものカメちゃんとくまちゃんが壊され、たくさんの負傷者が出てしまったわ。

 負傷者はすぐにマリエルさんとヨーゼフさんが救出し、前線基地に連れ帰ってるおかげで、死者も吸血鬼化した人もいないのがせめてもの救いね。


 しばらくしてやっと吸血鬼の転移が落ち着いたので、わたし達も一休みしようと小型世界樹近くに作った前線基地に戻ると、ナナちゃんがアルトさんと一緒にわたし達を出迎えてくれたわ。


「もう! 姉御! 魔王邸で待っててって言ったのに!」

「待っているだけというのは、やはり性に合わぬ。それにヴァンが来るのなら、わしは国内の全住民が避難しておるブランシェを離れるべきじゃろう。ヴァンの狙いはわしじゃからな、ブランシェがわしの巻き添えで狙われたりしたらたまったものではないのじゃ」


 あら~、ナナちゃんの格好、懐かしいわ~。

 初めて会った時そっくりの、白コートに白のニーソックス。当時と違って仮面は無いしホットパンツは黒だけど、ニーソックスとホットパンツの間に見える太ももがそそるわね~。

 でもこれって動きやすい格好よね、万が一の時はこの姿で戦うつもりかしら?

 ……それは許すわけにいかないわ。


「ナナちゃんその姿で応援に来てくれるのは嬉しいけれど、安全のためヴァルキリーになって欲しいわ~」

「セレス、わしの下半身ではなく目を見て話さぬか、このド変態め。……もうバレておるから言わせてもらうのじゃが、魔術戦闘だけならこの姿の方が楽なのじゃ。ヴァルキリーは直接入らずに、遠隔制御しようと思っておる」

「遠隔制御って……そういえばそんなこともできたわね~。でも魔力の制御をするだけで痛いんじゃなかったかしら?」


 視線を上げナナちゃんのわずかに盛り上がる胸を眺めて疲れを癒していたら、その向こうに真っ白な翼が見えたわ。

 ヴァルキリーよりも大きな翼だけど、これナナちゃんの背中から生えているのかしら?


「一度に使う量を減らせば問題ないのじゃ。魔力増幅効果のあるこの翼なら、少ない魔力でも十分な効果を出せるしのう」


 また体を作り変えたのね、でもその小さくて細い体の真っ白な肌に傷がつくのは嫌ねえ。

 とはいえヴァルキリーじゃナナちゃん痛いんだものね~……。


「……仕方ないわね~、でもナナちゃん。()()()、前に出ちゃだめよ~?」


 ナナちゃんの紅の瞳が、そーっと横に流れたわ。

 いざとなったら出るつもりね。


「……リオちゃ~ん、ナナちゃんが前に出る前に、全部わたし達で片付けるわよ~」

「そうだね、セレス! ……あ! ちょうど来るみたいだよ!!」


 ほんとリオちゃん、転移察知が早いわ~。

 わたしもわかるけど、リオちゃんよりもずーっと後なのよねえ。

 ナナちゃんを逃すまいとして鍛えられたのが、役立っているわね~。


「先に行ってるね!!」

「は~い、頼んだわよ~」


 リオちゃんが騎乗用ゴーレムに乗って北に走り出すと、白狼ちゃん達が駆け寄ってきてナナちゃんにお辞儀し、リオちゃんを追って走り出したわ。

 すごい速さね~、小型世界樹の結界から出たと思ったらもう見えなくなっちゃった。


「今のは……ジェヴォーダンとシャストルかのう?」

「そうよ~、リオちゃんがダイエットさせてから、かなり懐かれたみたいね~」


 農場にいた頃は運動不足で丸々としてたものね~。

 元はナナちゃんの作ったゴーレムだけど、普通に人懐っこい動物にしか思えないわ。

 ……あら? リオちゃんが見つけた転移反応の少しあとに、そこを囲むように別の転移反応を感じるわね。


「アルトさん、ナナちゃんをお願いしますね~、わたしもちょっと行ってきますわ~」

「ええ、お気をつけて」


 私が見つけた転移反応めがけて跳ぶと五十人位の吸血鬼がいたので、水の魔素で全員を包み、火の魔素の熱調節で冷やして氷漬けにする。

 もちろん全員、瞳の色は確認済みよ。ここまで普通の目をした吸血鬼は一人もいなかったけど、念の為見ておかないといけないわ。ナナちゃんの悲しい顔は見たくないものね~。


 次の転移反応地点に転移して吸血鬼を氷漬けにし、三箇所目に行こうとした時にリオちゃんがいる方向からバリバリッ! ってものすごい音がしたわ。

 リオちゃんの電撃ね。

 この程度の相手なら囲まれてもリオちゃんなら問題ないんだけれど、むしろ心配なのは散らばられる方よ。


 わたし達は強い。


 でも圧倒的に少ないの。


 散らばって都市に向かわれたりすると、とても面倒なことになるわ。

 まとまって来ている今のうちに、できるだけ叩いておかないといけないわ。


 そのまま時計回りに吸血鬼を十隊ほど潰し最初の地点に戻ったところで、またリオちゃんの電撃の音がしたわ。まだ戦闘中だなんておかしいわね、そんなに数が多かったかしら。


 音のした方に少し進んだところで、白黒の塊が転がってるのを見つけたわ。

 これって……焦げた白狼!? リオちゃんの騎乗用ゴーレム!!

 完全に機能停止してるわけじゃないけど、あちこち炭化してるわね。

 感覚を飛ばしリオちゃんの居場所を探ると……よかった、無事ね。

 相手は金髪で赤い目の吸血鬼が二体、体格のいい一体はリオちゃんと両手で組み合っていて、細身のもう一体はそれを援護しているみたいね。

 少し離れたところで白狼ちゃんたちが大怪我して倒れてるけど、命に別状は無さそうね。

 これはナナちゃんに気付かれる前に、早めに片付けないといけないわ。


 槍を取り出して三叉の穂先それぞれに水と光と火の魔素を集め、後衛の吸血鬼の真上に転移すると同時に、水弾と光線を連続で放つ。

 わたしの転移が終わった瞬間には、すでに吸血鬼は私を見て空間障壁を張っていたわ。

 光線は全部防がれちゃったけど、そんなの予想済みよ?

 だってリオちゃんが苦戦するような相手ですもの、甘く見るわけ無いでしょ。


「ふんっ、仲間か! だがその程度の攻撃、防げぬとでも思って……ぬ、ああああ! あ、熱ううっ!!」


 光線よりだいぶ遅く落ちた水弾改め熱湯弾が足元で跳ね、吸血鬼の足にバシャバシャかかって……あら? よく見たらこの吸血鬼、使者としてブランシェに来たゲオルギウスとかいう人ね。


「ゲ、ゲオルギウス! む、ぬうう!?」

「はああああああああっ!!」


 ゲオルギウスに気を取られたわね、リオちゃんが組み合っていた相手を一気に押し返して、ゲオルギウスの横に投げ飛ばしたわ。

 ホカホカの湯気が出てる、濡れた地面に。


「あ、熱っ! あ、あ、ああ熱ううっ!!」

「アデル! 何をふざけておるか、あ、暴れるな!!」


 アデルという体格のいい吸血鬼がのた打ち回るたびに、ゲオルギウスにも熱湯がかかってるわ。

 うふふ、熱そうね~。アデルが慌てて立ち上がったけど、二人ともびしょ濡れね。

 拳に風の魔素を集め、満面の笑みを浮かばてるリオちゃんが怖いわ~。


「たあっ!!」

『バリバリバリバリ!!』

「「んぎゃああああああ!!」」


 ナナちゃんが前に見せてくれたのよね~、水は雷を通しやすいって。

 リオちゃんの拳から出た雷はゲオルギウス達から少し離れたところに落ちたせいで、二人共馬鹿にしたような顔から馬鹿みたいな顔になって、似たような悲鳴を上げているわ~。

 今のうちにとどめを――はっ!?


 嫌な予感がして体を横にずらした瞬間、わたしがさっきまでいたところを光線が走ったわ。

 リオちゃんも無事に避けたわね。


「くはっ、はあ、はあ、はあ……小娘どもが、調子に乗るなよ! 気付いているだろう、魔人族の小娘。私と戦っている間にも、周囲にどんどん我が軍勢が転移しているということを! どうやって転移前に感知しているのか知らぬが、貴様の能力は邪魔だ!! ここで殺す!!」

「そ、その細い体で、俺と互角の力、ここで殺さないと、た、大変なんだな」

「あら~? ここを囲むように転移してきた吸血鬼でしたら、もうとっくに全滅させちゃったわよ~?」

「「……は?」」


 あらあら~、揃って呆けちゃったわ~。


「……アデル!」


 リオちゃんがゲオルギウスの声と同時に飛びかかっていったけど、少し手前に張られた空間障壁が、リオちゃんの拳を止めた。

 わたしも槍の先から圧縮魔素の水刃を撃ったけど、これもゲオルギウスの空間障壁に阻まれ霧散した。


「貴公ら確か、リオとセレスと言ったな。覚えておれ……今度会う時は、貴公らの血を一滴残らず啜ってやるわ!!」


 負け惜しみを残して、アデルを連れたゲオルギウスは転移していったわ。

 それにしても……リオちゃんの打撃やわたしの水刃が、こうも簡単に防がれるなんて信じられないわ。

 アデルという吸血鬼もリオちゃんと互角の力だったようだし、リオちゃんが苦戦するわけよね。


 間抜けだったけど、油断してたら負けていたのはわたし達だったかもしれないわ~。






―――――






 地下にアデルを伴い転移し、かろうじて逃げ延びた。

 おかしい。

 こんなはずでは無かったはずだ。


「ベルクマン! 地上への侵攻状況はどうなっている!!」

「背後を突かれたせいで、地上に転移し終えた吸血鬼の四割がやられた。今は数頼みで南へ押してはいるが……我々はプディングの戦力を見誤っていたようだ。プディングの斥候が使っていた転移魔道具といい、ふざけた姿のゴーレムといい……そして恐らくだが……通信魔道具も持っている可能性が高い」


 一体どうなっているのだ。

 まともな居城すら持たぬ新参国家の分際で、これほどまでに高度な魔導技術など持てるはずがない。私が通された迎賓館にも、たいした魔道具など無かったはずだ。

 ……私がそれを見ても違和感に気付かぬほど、ありふれていたとでも言うのか?


「な、何体もの海竜を支配し、操る何かも、脅威だ。し、しかし、風竜や地竜はいないのが、せめてもの救いだ」

「ここに至るまでの洞窟で、全ての地竜を狩っておいて正解だったな。船と吸血鬼兵を沈められたのは痛手だが、アデルだけでも転移で逃げられたのは不幸中の幸いよ」

「だ、だが、ヴァン様は何をしておられるのだ」


 そうだ、ヴァン様だ。

 本来ならアデルと船で一人、地下から私とベルクマンと一緒に二人、ティニオン側から一人、そして空からもう一人が同時にブランシェへ攻め入るはずだったのに、ヴァン様が一人もおられないというのはどういうことだ。

 地竜道から我らが攻め入ると言う情報をプディングに流し、我らを待ち伏せするであろうプディングの軍やナナどもを逆に包囲殲滅する予定であったが、これでは我らが一方的にやられるだけではないか。

 通信封鎖も解かれていないから装置前にいるヴァン様にも連絡は取れぬし、まさかこうも思い通りに行かないとはな。


「……過ぎたことをどうこう言っても始まらぬ。我らにできるのは、ヴァン様がお見えになった際に見限られぬよう、全力でプディングに打撃を与えることだけだ」

「だがどうやって? ダグという将軍が率いる正面のゴーレムを突破するのは容易ではないぞ」

「……敵は強力ではあるが圧倒的な物量差があるのだ、一刻も早く全軍を地上へ投入しダグを押し返せ。アデルは私と一緒に上へ転移し、小娘どもを誘き寄せる。そして我らの転移から一刻ほど間をおいて、ベルクマンは我らのもとに吸血鬼を転移させるのだ。その後吸血鬼を率い、西側から前線を迂回しブランシェへ直接攻撃を仕掛けろ」


 直接攻撃であれば、小娘どもの攻撃は私の障壁を越えることはできない。

 気をつけるべきは、何故か障壁を無視して伝わった雷撃の魔術だけだ。

 ……それと、熱湯もだ。

 確か雷は金属に落ちやすい。それを使えば障壁を超えてきても、雷魔術は無効化できるだろう。


「ヴァン様がお見えになる前に、なんとしてでも都市ブランシェへ侵攻するのだ」


 再出撃の前に、まずは体中の火傷を消し魔力と体力を回復させねばな。

 近くで控えていた下位吸血鬼を一体呼び寄せ、首をねじ切り直接血を浴びながら飲む。

 アデルは女吸血鬼を呼び寄せ衣服を全て脱がせると、果物の皮でも剥くように女の皮を剥ぎ取りながら、中身だけを美味そうに食べ始める。

 私は五体、アデルは三体分の血肉と魔力を補充し、準備を終える。


「ゆくぞ、アデル」


 光人族の小娘は無傷だろうが、魔人族の小娘はそうもいくまい。何せ私ですら使えない雷魔術などという最上級魔術を連発したのだ。

 逆に我らは吸血鬼を食うことで即座に回復ができる。


 いくらでも回復できる我ら相手に、どこまでもつかな。


 我が望む永遠はヴァン様とともにある。

 そのために何万人何十万人死のうが、知ったことではない。

 むしろ我が永久の命の礎として死ねるのなら、本望に違いない。

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