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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
214/231

5章 第25話N+ 下品過ぎるのじゃ

 朝食をとってそろそろオーウェンが戦闘開始するころだなーと思っていたら、シアから緊急通信が入った。


 ヴァンが一体、セーナンに現れたというものだった。

 他のヴァンがいなければこちらから出向いて倒しておきたいところだが、今私の近くにはアルトしかいない。

 ダグもリオもセレスも、地竜道を通ってくるであろう吸血鬼を叩くため、軍と軍用ゴーレムを率いてブランシェ北東の世界樹へ向かった。


 囮か、こちらの戦力分散が目的か。


 アルトにブランシェ周辺の警戒を指示、私はセーナン周辺にヴァンがいないか探していると、シアから追加で通信が入った。

 レーネとヴァンが交戦開始、若干押されているものの互角の戦闘をしているという。

 しかもヴァンは前回見たときのものより一回り小さく、前回は遠くにいても伝わってきていた威圧感が、今回のヴァンには無いという。


 どういうことかと思っていたところに、今度は別の通信が入った。

 帝都に向かったロックからの通信だったので、シアとの通信をアルトに任せてロックからの呼び出しに応える。


『ザザッ……やあナナ、こちらロック。これからグレゴと一緒に異空間を出て、ヒデオの救助に出るよ。砂漠のザザッ……は俺の作った異空間に残るそうだけど、なにか変わったことは無い?』


 異空間の空間座標を確認し終えたゲートゴーレムを仲介してるのか。

 少し雑音は入るけど、問題無さそうだ。


「こちらナナじゃ。たった今シアから通信が入ったのじゃが、セーナンにヴァンが出たらしく、今レーネと交戦中らしいのじゃ。一回り小さい奴らしく、これから確認に行こうと思っておる」

『じゃあそっちは任せたよ。帝都のヴァンは最大で四体だね、連れ去られたザザッ助けてすぐ戻るよ。とりあえず通信と転移を阻害している装置を壊したら、一度連絡する』

「まさか正面から戦うつもりではなかろうの?」


 グレゴリーが一緒とは言え、二対四では分が悪すぎる。

 そこまで馬鹿ではないと思いたいが、なんせ私だ。やりかねない。


『大丈夫、作戦があるから。ただ一~二体ザザッ……そっちに飛んで行くかもしれないから、それだけ警戒しておいてほしい。ザザッ……行ってくるよ』

『僕もナナさんのザザッ……だから僕に任せて、ナナさんはザザッ……』

「おお、グレゴリーも頼んだのじゃ。巻き込んですまぬのう、感謝するのじゃ」


 あまり聞き取れなかったけど、元気そうな声が聞けて安心したよ。

 通信を切ってシアの様子を聞こうとアルトを見たら、ちょうどミーシャとペトラが会議室に入ってきた。


「にゃにゃ様、話は聞かせてもらったにゃ! 確認ならあたし達に行かせて欲しいにゃ!!」

「ボクたちが引き止めてる間にダグたちを呼び戻して、準備を整えて下さい!」

「ヴァンが本気になれば、おぬしらは……いや、わかったのじゃ。じゃが無理はするでないぞ! 死んだら許さぬのじゃ!!」

「「はい!」」


 嬉しそうに会議室を出る二人を見送ってアルトを見ると、軽く頷いてダグに連絡を取り始めた。

 私はその間に再度セーナンの確認だ。

 感覚を飛ばしヴァンとレーネの姿を探す。

 ちょうどドラゴンゴーレムのブレスが放たれ坂道の吸血鬼が焼かれるところだったが、その後ろからもどんどん吸血鬼が坂を登っていくのが見えた。

 そして同時に、帝国側に広がる平原のかなり奥の方で、剣を交わす二人を見つけた。

 レーネは全力で剣を振るっているが、ヴァンは余裕でそれを避け……あ、当たった。


 え?


 何だこのヴァン、一回り小さいくせに動きは鈍いし全員青く塗ってるし。

 何か話してるようだけど、転移阻害結界のせいで近づけなくて、声が拾えない。

 そして今度はヴァンの剣が、レーネの胴体をかすめた。

 浅く斬られたけど……この剣筋……何かおかしい。

 褒めるようでものすごく嫌だけど、私の知るヴァンの剣はもっと鋭く、速く、流れるような剣筋だ。

 ちょうどセーナンからミーシャとペトラの二人が出てきて、ペトラは吸血鬼の足止め、ミーシャはレーネの元へ一直線に向かっていったから、もう少し様子を見よう。


『ピピッ』


 こんな時になんだと思ったらオーウェンじゃないか。

 どうせ聞こえないのだから聴覚だけ戻して、視覚だけはセーナンに残しほかのヴァンを探しながら、オーウェンからの報告を聞く。


『……ひとまずこれで、ティニオン側の問題は解決したぜ』


 人道的に考えるとプロセニアを支援すべきかもしれないけど、今はこちらにも余裕はない。

 支援するしないについても全て片付いてから考えよう。


『それとニースの魔道具のおかげでかなり助かったぜ。ありがとうよ、嬢ちゃん』

「ニースに伝えておくのじゃ。じゃがこれでセーナンの問題さえ片付けば、あとはヴァンを残すのみじゃのう」

『フォルカヌスの方は長引きそうなのか?』


 長引くというか、不可解過ぎてどう対処すべきか迷ってるんだよね。

 あ、またレーネの攻撃がヴァンに当たった。


『うむ……ヴァンが現れたのじゃが……今レーネと、互角の戦いをしておる』


 ミーシャが吸血鬼の一団をかいくぐってレーネたちのもとに着いたけど、すぐにセーナン側に引き返していった。通信可能な範囲まで戻ろうとしているようだし、跳ぶのは少し待とう。

 こっちも会議室にアルトが出したゲートゴーレムでダグとテテュスが戻ってきたし、セーナンの周りに他のヴァンの姿も見えない。

 叩けるときに叩いて数を減らしたいんだけどなぁ……なんだかこのヴァン、微妙?






―――――






 いつもどおりセーナンから離れて吸血鬼をなぎ払いに来たのだが、今回は勝手が違った。

 私の閃光斬を警戒してか、吸血鬼が散発的にしか襲いかかってこない。

 吸血鬼の密集している箇所へ切り込み、一体でも多く屠ろうと剣を振るっていたが、気がつけばセーナンからだいぶ離されてしまっていた。

 正気を失っているはずなのに、まるで統率されたかのような動きだ。


 しかも私を大きく迂回して、吸血鬼たちがセーナンへの坂を登り始めた。

 およそ三十体ずつの吸血鬼が、間隔を開けて登っている。

 あれではブレスを撃っても大きな被害は与えられないし、そう遠くないうちに壁に取り付かれてしまう。

 今日一発目のブレスが坂道の吸血鬼を薙ぎ払ったが、もう次の一団が坂道を登ろうとしている。

 もう少し吸血鬼を減らしておきたかったが、そろそろ門前で防衛戦に移行せねばなるまい。


 そう思って踵を返した瞬間だ。背中に強い殺気を感じ、無意識に剣を振った。


『ギィンッ!』


 私の剣と背後からの一撃が交錯し、甲高い音をたてる。

 振り向くとそこにいたのは青い人型竜のゴーレム……ヴァン、だと!?


「ハハッ! 会いたかったぜぇ……レーネハイトぉ!!」


 青いヴァンが連続で振る剣を、受け、避けながら、反撃に体を回転させながらの横薙ぎの一撃が、青い胴体を浅く斬る。

 おかしい、ナナ様から聞いたヴァンの強さなら、私の攻撃などで傷をつけられるわけがない!


「貴公……ヴァンではないな? 何者だ!」

「ハハッ! 悲しいねえ、俺の事を忘れちまったのか?」


 セーナンから撃たれた二発目のブレスの音を背に、青い人型竜のゴーレムと剣を切り結ぶ。


 ほぼ、互角。


 いや、向こうはかなり余力を残し遊んでいるようだ。

 何者か知らぬが決着を急がねば、ステーシア様が危ない!

 だが早く片付けねばと焦ったせいか、青いゴーレムの剣が腹をかすめてしまった。

 この程度問題ない、それより早くステーシア様のもとに戻らねば!


「んにゃあっ!!」


 はっ!? 後ろから聞こえるこの気の抜けた声、まさか!


「ミーシャ!?」

「レーネ! 手を貸すにゃ!!」


 後ろに視線を向けると吸血鬼たちの首だけがいくつも空を舞い、その向こうでは坂の中腹でバラバラに吹き飛ぶ吸血鬼が見えた。そこにいる全身鎧の小さな影は、間違いなくペトラだ。

 ミーシャは瞬時に間合いを詰め青いゴーレムに飛び蹴りを放ったが、ゴーレムはそれを軽く受け止めて……なんだ、こいつ……ホットパンツ姿のミーシャの、足の付け根を凝視しているのか?


「ぎにゃっ! こいつキモイにゃ!!」

「ハハッ! 獣人、てめえにも蹴られた借りがあったっけなあ? もう気持ちよくならねえ体になっちまったが、てめえらとステーシアの泣き叫ぶ姿を想像するだけで、昂ぶって昂ぶって昂ぶって達しちまいそうだぜええええ!!」


 後方宙返りしながら私の隣に降り立ったミーシャと私に対し、青い人型竜ゴーレムは股間の外装を外し、仁王立ちしている。

 外装の下からは棒状の汚い肉が生え……汚すぎて直視できない。したくない。

 しかしこの下品な振る舞いに言動。

 間違いない。


「ミーシャ、此奴はヴァンではない。この下品さ、それに笑い声……思い出したぞ」

「ヴァンじゃにゃい!? ……ああ! こいつ、にゃにゃ様に蹴られてケツ丸出しで死んだアホにゃ!!」

「ああ!? 誰がアホだ!! 舐めた口利きやがって、こいつで黙らせてやるぜ!」


 腰を突き出すな、屑が。


「ミーシャ、この屑は私に任せ、ナナ様にご報告を」

「わかったにゃ!」


 確実にヴァンではないとわかった。セーナンもペトラがいる以上、任せられる。ナナ様への連絡も他の吸血鬼の始末も、ミーシャなら安心だ。


 ならば私も心置きなく、目の前の屑に集中しよう。

 自分の中の力に、意識を向ける。

 屑が斬りかかってきたが、落ち着いてそれを剣で捌く。


「覚悟しろ、シーウェルト!!」


 僥倖だ。

 シーウェルトがなぜヴァンと似たゴーレムになっているのか、聞きたいことは山程ある。

 だが私の手で、この屑に汚され命を落とした仲間たちの仇を討てるのだ。


「閃光斬!!」


 私の放った閃光斬は、シーウェルトを縦に、真っ二つにする。

 はず、だった。


 見えない斬撃はシーウェルトの外装を深く傷つけたが、両断するには至らなかった。

 此奴、思ったより硬いようだ。


「ハハッ! びっくりさせやがって!! そんな攻撃、ヴァン様に貰ったこの体には効かねえんだよ!!」

「なるほど立派な体のようだ。痛覚すら無いとは驚きです」

「ああ? あ……あ……ああああああ!!」


 私が剣先で示した自分の体を見て、やっと気付いたのか。

 自分から外装を外したのを忘れたのか、馬鹿め。

 屑の股間の醜い物が縦に真っ二つになってぶら下がっているが、汚すぎて視界にも入れたくない。


「てめえ、俺の大事なブツを! 殺す、ひん剥いて穴という穴――――――――――――――――――――」


 聞くに耐えないので、途中から聞くのをやめた。

 まだ何か喚いているが、どうでもいい。

 斬る!


 間合いを詰めて胸めがけて突きを繰り出す。

 慌てて避けたシーウェルトの声を無視して剣を振る。

 だがシーウェルトも本気を出したようで、身体強化術を使っている私を軽く上回る、異常に高い膂力を持っていた。


 剣技は私のほうが上だが、膂力に押され体中に傷を付けられる。

 しかし閃光斬を織り交ぜる私の剣が、シーウェルトの剣を叩き折る。

 そして追撃の一撃がシーウェルトの首に届いたその瞬間、胸部へ強い衝撃を受けた。


「がはっ!!」


 シーウェルトの拳が私の鎧の胸部を貫き、そのまま鎧を道衣ごと力任せに引きちぎった。

 肉こそ持っていかれていないが、ほんの少し退くのが遅かったなら、心臓に達していたかもしれない。

 

「ハハッ! いい眺めじゃねえか、なあ? 少しばかり小ぶりだが、ツンと――――――――

――――」


 もう少し深く首に切れ目を入れられていたら、黙らせる事ができたのに残念だ。


 さあ、汚い言葉も、嫌らしい視線も、意識の外へ捨てろ。

 騎士たるもの、下卑た視線ごときに負けて剣を下ろすことは無い!!


 むしろ屑が私を見て動きを止めている今こそ好機!

 自分の中にある力に、意識を向ける。


 アネモイ様、お力をお借りします!!


 私の両腕が、両足が、緑色の鱗で覆われる。

 両手で握った剣を頭上に振り上げ、みなぎってきた力の全てをシーウェルトへ向ける。


「はあああああああっ! 真! 閃・光・斬!!」

『ザシュッ!!』

「え……あ。が、ああ……」


 振り下ろした剣からの見えない刃は、今度こそシーウェルトを縦に両断した。

 更に左右が縦にズレたシーウェルトへと間合いを詰め、胸部めがけて一閃する。

 たった二度とはいえ竜の力を()()で振るった反動で、私の体から急激に力が抜けていくのがわかる。

 紙一重。

 後先考えない全力の一撃など、私一人では撃てるものではない。

 この勝利はミーシャにペトラ、そして二人を遣わして下さったナナ様のおかげだ。


 四つに別れて崩れ落ちるシーウェルトに背を向け周りを見ると、既に勝敗は決していた。


 セーナンからも歩兵が出撃し、ペトラと協力して吸血鬼を撃退している。

 私の周りには戻ってきていたミーシャが作り出した、吸血鬼の首なし死体が折り重なって倒れている。


 残る吸血鬼はあと僅か。


 ナナ様のお手を直接煩わせずに済んだ。

 仲間の仇も討てた。


 ひとまずは、勝利を喜ぼう。


「レーネ、おっぱい丸出してドヤ顔はやめるにゃ。変態みたいにゃ」

「…………」

「や、やめるにゃレーネ、ぎにゃああああ!」


 無言でミーシャの白いコートを奪い、羽織る。

 ナナ様の側近の証だが、私もいつか女神様の騎士として、下賜賜りたいものだ。

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