表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
206/231

5章 第17話N+ 可愛そうな奴なのじゃ

 ゲオルギウス達に魔術を使わせ、それを視て私も多くの魔術が使えるようになった。

 古竜の素材で作ったこの体は身体能力も高く、剣や漆黒の外装は魔鋼を上回る強度がある。


 私の敵となり得るのは、ナナ以外に存在しない。


 それでも今の私なら、一方的に蹂躙できる。


 はず、でした。

 ……おかしい、ですね。


 魔鋼をたやすく切り裂く私の剣はダグの篭手を切り裂けず、小さな傷をつけるのがやっとでした。

 さまざまな属性を操り数十の魔術の槍を作れば、アルトが作る百を超える魔術の槍が全て打ち消し、それどころか逆に私を打ち、焼き、凍らせ、切り裂いた。


「ヴァン! おぬしはなぜ、異界から地上界を目指したのじゃ!!」


 うるさい。


 転移を駆使してナナに近付こうとすれば魔人族の小娘に蹴り飛ばされ、ナナに光線のブレスを吐けば光人族の小娘が出す水の盾に跳ね返され、小娘から殺そうにもダグとアルトが邪魔をする。


 腹立たしい。


「ヴァン! おぬしはなぜ異界を消そうとしたのじゃ!!」


 うるさい。


 さっきからナナの顔を見ていると、答えを知ったうえで聞いている様子なのが腹立たしい。


 私の外装はあちこち破壊され、剣も折られた。


 腹立たしい。


 ナナが一時も私から目を逸らさずに見ていること自体は、悪い気分ではない。


 だがそのナナが一歩も動くことなく、大声を張り上げているだけというのが腹立たしい。


 なぜ、私と戦わない。


「ヴァン! おぬしはなぜ……人を、憎むようになったのじゃ……答えよ!! ヴァレリアン!!」


 ナナが私の真の名を口にした。

 以前呼ばれた時は、怒りしか無かった。

 なのになぜ今は……悪い気分では、ないのだろう。


 だが私はそれがなぜなのか、確かめる時間は無い。


 私は恐らくここで死ぬ。


 ならばせめて、私が知ったことを他の私に伝えなければ。

 今私が感じた疑問は、残った()が考えればいい。


 連続で撃ち出した光線魔術がダグに迫るが、直前でガラス製らしい障壁に逸らされ一発も当てられなかった。

 アルトへ吐き出した光ブレスもガラス製らしい障壁に防がれたが、もう少しで障壁を溶かし貫けると思った瞬間、ダグの炎をまとった左拳が私の右肩を砕きながら体にめり込み、体内の()が一つ壊された。

 だがその炎に紛れ、無傷の()を一つ取り出すことが出来た。


 そしてこの()を、アンデッドに持たせて運ばせれば……だめだ。

 上位ならともかく並みのアンデッドでは、術者である私が死んでからの活動可能時間が足りない。

 アンデッドが増やしたアンデッドなら時間の制限がなくなるが、そうなると死んだ私の命令までは聞かない。

 そもそも素材が無いし、ゴーレムにしても同じだ。


 ……スライムにするしかない、というのか。


 ナナの言葉ではないが、業腹じゃあないか。


 しかしただのスライムを作るだけでは、兵士に見つかれば焼き払われる。

 だが、今の私と同じ漆黒の体で、ナナのスライムのように姿を変え、小さな私の姿を取れば――ぐっ。


 今度はアルトか、蔦のように見える魔力の塊が私の足に絡みつき、魔素を操り硬化させたのであろう地面へと叩きつけられた。

 ご丁寧に、地面からは無数の岩の棘まで出ているじゃあないか。

 今のでまた一つ()が壊されたが、地面には私が叩きつけられた大穴が出来ている。

 土煙に隠れ、アルトのように周辺の魔素を乱して魔力視への目くらましをし、スライム化の術式をかけた魔石を穴の底へ放り込む。数時間もすればスライムに包まれ活動できるようになるだろう。

 同時に喉へ魔素を集め、強力なブレスの準備をしておこうじゃあないか。

 これならブレスに気を取られ、()を隠したことに気付くまい。


 だがまだ諦めたわけじゃあない。

 上空高く転移しダグやアルトが追いつく前に、ナナの真上からブレスを――


『ドゴンッ!』

「がはっ!?」


 転移し終わった瞬間、魔人族の小娘が私の顎を蹴り上げた。

 この距離でも、私の転移に反応できるというのか!?


 だが、ブレスを止めるまでに至らなかったのは、私の最後の幸運だろうか。


 手に入らないのなら……せめて私と一緒に滅べ、ナナ。


『バリバリバリバリ!!』


 特大の光線ブレスが光人族の小娘が張った水の盾を蒸発させ、ナナに届――いない、だと?

 霧散した水の盾の真下に伸びた光線が、ナナからだいぶ離れた場所に着弾していた。

 水の盾は光線を防ぐためだけではなく、私にその位置を誤認させるためのものでもあったか。


 だがわずかに首を振れば、ナナに届く。

 ほんの少し。

 あと、少しだ。


『『ドガンッ!』』


 鈍い音が二つ。

 それはダグの炎に包まれた拳が左胸の私を、アルトの岩の槍が頭の私を貫き、魔石を、砕いた、音、だ。


 ナナに、届かなかった。


 届きも、しなかった。


 ナナ……ナナ、ナナ、ナナァァァァァァァアアアアアアアア!!


 ……ナナァ……ナァナァ……俺を、そんな目で……見るんじゃあ、ない……。






―――――






「ぜぇ、ぜぇ……なんちゅうバケモンだ……助かったぜ、アルト」

「ダグが僕にお礼を言うなんて、気持ち悪いですね。ですが……僕もダグがいなければ、危ないこところでした。ありがとうございます、ダグ」


 通常義体に戻った私はミニスライムを出し、二人に駆け寄って治療魔術を使う。

 十体のミニスライムが翼を広げて魔術を増幅し、二人の傷がみるみるうちに癒えていく。

 大きな傷は一つもないけれど、全て紙一重だった。


「正直、これほどとは思わなかったのじゃ。ダグとアルトの連携がわずかでもかみ合っておらなんだら、どちらかがやられておったかもしれぬのう……」

「ああ……それとナナが装備を一新してくれてなかったらと思うと、ゾッとするぜ」

「ナナさんが作った杖のおかげで命拾いをしました。それとリオ君もセレス君も、いい仕事をしましたね」


 ヴァンがブレスで空けた大穴の側では、リオとセレスの二人もへたり込み肩で息をしている。

 ヴァンは途中何度も私にちょっかい出そうとして、そのたびにリオとセレスが防いでくれていた。

 そのおかげで、私は今回何もしてない。

 させてもらえなかった。


 せもてもの感謝にとドラゴンスープを空間庫から出して、四人それぞれに手渡しで配っていく。

 リオたちと一緒にへたり込んでいるアネモイは何もしてないから放置する。


「みな……ありがとう、なのじゃ」

「こっちこそ感謝するぜ、ナナ。……やっとヴァンを思いっきりぶん殴れたんだ、いい区切りになったぜ」

「ふふ……ヒルダのことは、もうよいのか?」


 ヒルダに惚れていたダグもまた、敵を討ちたいと願っていたよね。


「ああ……まあ、な。テテュスを見てると思い出しちまうこともあるが、ありゃ完全に別人だ。それなのに俺がいつまでも引き摺ってちゃあ、テテュスにわりいからよ」


 言い終わると同時に私から目を逸らしたけど、しっかりと顔が赤くなったのは見逃さないぞ。ふふふ。爆発してしまえ。


「ではわしは……ヴァンの遺体でも食うとしようかの」

「ええ!? 大丈夫なの姉御、お腹壊したりしない!?」

「そうよナナ、それと私にもスープちょうだい!!」


 リオ、それは無いと思うけど私もちょっとだけ同じこと考えたよ。

 アネモイは黙れ。


「こやつ、過去の記憶があちこち抜けておるようじゃの。わしの問いかけに、何の反応も見せなんだ……哀れなやつじゃ……」


 竜の顔してるせいで表情はあまり読めなかったけど、間違いない。

 それに多分だけど、ゲオルギウスが光魔大戦を引き起こした光人族の一味じゃないかな。

 ヴァンに記憶があれば、そんな奴をわざわざ側に置くわけがない。


 ヴァンは母親を異界に追いやった光魔大戦の首謀者と、異界で母親を汚した魔人族、そして自分達を守ろうとしなかった異界の光人族を恨んでいるはずだ。

 母親から恨み言を聞かされ続けて育てられたらしいからね。


 今思えば、母親に自分を見てもらいたい一心だったのかもしれない。


 同情はする。


 でも、私の仲間や罪のない子供達まで巻き込んで戦争を始めようというのなら、それは許すわけにいかない。


 今のヴァンを止められるのは、世界中で恐らく私達だけなんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ