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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
199/231

5章 第10話N 生命の神秘なのじゃ

 私とロックが作ったダンジョンは十の階層があり、最下層を除く各階層はそれぞれ直径5万メートルの円形で高さは千メートル、面積にすると2千平方キロ近くあり、東京都や大阪府とほぼ同じくらいになる。


 当然だがそんな物を地下に作ったら、崩落しないわけがない。


 実際は深さ500メートルの竪穴で広さは50メートル四方、各階層はロックが改変した異空間生成魔術で、現実世界ではない広い空間を作った。

 その穴の両端には壁の中に階段を作り、次の階層へ行くには異空間の階層を通って、反対側の階段に行かなければ降りられないようにしてあり、最下層には高さ500メートル近い世界樹を一本設置した。

 最下層まで降りないとその姿は見えないし、各階層は異空間になっているから世界樹と干渉もしない。

 魔素だけが、各階層へと流れる仕組みになっている。


 そして異空間の階層には、地上と同じように太陽が出て沈み、雨も降り風も吹く。


 第一階層は草原と湖で、ゴブリンや鹿くらいまでの大きさの獣と魔物、鰐や蟹に蛇などを放した。

 第ニ階層は海と森林で、オークや牛や馬くらいまでの獣と魔物、海魚や海の魔物を放した。

 第三階層は山岳地帯、鳥系の獣と魔物、岩場に住むゴブリンやオークの上位種などを放した。

 第四階層は雪原、大型の海獣やペンギン型の魔物などを放した。

 第五階層は砂漠、第六階層は密林、第七階層は湿原と、ここからは超大型の魔物も含め、それぞれ地形に適した魔物を片っ端から放した。

 さらに第八階層は荒野、第九階層は火山地帯で、どちらも超大型の草食動物と、少数のドラゴンを放してある。

 そして最下層の第十階層は世界樹と管理スライムの本体があるため、管理者権限を持つ者以外は入口になる小部屋から先には進めないようにした。


 そのうちだけど、万が一最下層まで降りられた者のため、ご褒美になる宝物でも置いておこうと思う。



「そこで、じゃ。第四階層までは食用や素材となる魔物や獣を多く放してあるでの、冒険者が稼ぎに行くには適しておると思うのじゃ。その管理を、カーリーに任せようと思っておる」

「つっても四階層でまともに戦えるのは、うちの兵士でもごく一部しかいなかったからな。海獣の肉と脂はかなり高く売れたんで兵士が喜んでたが、少ねえ人数で組んでる冒険者じゃ三階層が限界だろうよ。それと兵士の訓練にもちょうど良いからな、これからも使わせてもらうぜ」


 最近までダグ達が試験的に潜ってくれていて、問題なさそうだと確認してくれていた。

 それと兵士がそこで狩ってきた魔物の肉を買い取って市場に流したため、現在は肉の値段も下がりつつある。

 一石二鳥だ。


「各階層の出入り口は強力な魔物避け結界を張っておるでの、魔物が外に出てくることは無いのじゃ。じゃが同時に、中に入る資格のない弱者にも効果があるでの、そういった者にはそれ以上奥に進まぬよう、注意喚起も頼むのじゃ」


 間抜け顔のまま私の話を聞いて固まっていたカーリーだが、目眩でもしたのか軽くよろけたみたいだ。


「ナナ様……いくつか質問がございます。異空間に作った階層とは何ですか? 世界樹を設置したというのはどういうことですか? ドラゴンを放してあるって、まさか捕まえてきたのですか?」

「異空間は『異界』と呼ばれておったものと似たようなものじゃが、術式を改変して広さを調節し、出入りできるようにしておる。世界樹はアトリオンや世界各地にあった物をわしが喰ろうて自身の一部にしておるでの、それを再構築して設置したのじゃ。異空間を維持する魔力も、その世界樹から供給されておる。ドラゴンや他の魔物は全てロックが捕獲してきたものじゃ、とはいえ食物連鎖の関係で今後魔物は増減させる予定じゃがの。他に質問はあるかのう?」


 なるべく一つの階層で生態系を維持できるようにしたいから、その辺の調整は長期間様子を見てやらないといけない。

 それより金魚みたいに口をパクパクさせているけど大丈夫かカーリー。

 そんで深いため息が聞こえてそっちを見ると、オーウェンが頭を抱えていた。


「カーリー、諦めろ。嬢ちゃんはこういう奴だ。こう言っちゃなんだが……俺達の常識や理解の外にいる存在だと思いな」

「熊の分際で失礼じゃのう」

「それにティニオンやフォルカヌスの森にも世界樹を植え、冒険者の狩り場を確保する計画も進んでんだよ。今親父……国王が場所の選定に、兵士を動かしてる」


 冒険者の失業対策に肉や素材の確保は大事だからね、そう遠くないうちに場所は決まるだろうな。


「ここの北にある農業都市マロンと、東にある港湾都市ヴェールの中間あたりの森の更に北に、試験として既に世界樹を植え魔物避け魔道具で囲ってあるのじゃ。猪に狼やオーウェンの親戚くらいしかおらぬが、視察でも何でも好きに行ってよいぞ」

「……ああ、近い内にジルと見に行ってくるぜ……」

「それと世界樹の森やダンジョンに行く際は、一つだけ気をつけて欲しい事があるのじゃ。金色のスライムは管理者じゃからの、いじめないで欲しいのじゃ」


 下位ドラゴンより強いから滅多なことにはならないだろうけど、一応ね。


「フォルカヌスにはスライムに手を出す不届き者はおりませんわ! それに黄金のスライムだなんて神々しい存在に万が一手を出すような不埒者がおりましたなら、責任を持って処分いたします!!」

「そこは厳罰程度に留めてもよいと思うのじゃがのう……」


 鼻息荒いよシア、それに処分とかやる気満々じゃないか。

 そして隣りにいるレーネに金色のスライムが見たいとか言って、世界樹の森に連れて行くようおねだりし始めた。

 簡単に作れるけど、作ったら作ったで連れて行かれそうな気がするな。

 まあ良いけど、それよりもカーリーだ。

 流石というべきか、気持ちを切り替えたのか真剣な顔に変わって考え込んでいるようだ。


「……ナナ様。ダンジョンの管理ですが、入場許可証のようなものを作っても構いませんでしょうか。できればこーじ様と連動し、出入管理を行いたいと思うのですが、いかがでしょうか」

「構わんのじゃ。そう言えばヒデオからも冒険者管理用のスライムが欲しいと言われておったのう、なんなら冒険者ギルド専用に一体作ってやるが、どうじゃ? 仕様は……そうじゃのう。身分証明に使えるよう、冒険者にランクなどが記載された金属製のプレートを出すような機能とかどうじゃ?」

「よ、よろしいのですか!?」

「他にも欲しい機能など纏めたら、わしかロックに渡すとよい」


 また俺? みたいな顔でこっち見んなロック。

 それに冒険者ギルドはプディング国内だけの組織じゃないからね、役所スライムのこーじとは連動させることはあっても、同一にするのはまずい気がするし。


 さて、だいたい話は済ん――


『ピピピッ』


 腰に付けた通信機が鳴った瞬間、私は転移した。




「ふぎゃっ!? にゃにゃ様、いきなり転移はびっくりするにゃ!」

「状況はどうなっておる!」

「ナナ様落ち着いて! さっきエリーとサラが産気ついたって、分娩室に入ったばかりだよ!」


 私の代わりにエリー達につけていたミーシャとペトラの二人から視線を移し、魔力視を強めに発動して分娩室の扉を視る。

 除菌室の向こうにある分娩室内には、分娩台に寝かされたエリーとサラ、その近くで慌ただしく働く五人の助産師が視える。

 そしてウロウロするヒデオが邪魔だと叱られて、ちょうど分娩室を追い出されるところだった。


「ちょ、ちょっと待って、出産の立会いを……」

「そんなの聞いたことありません! 邪魔ですから外でお待ち下さい!!」


 扉が開き青い明かりが漏れてくるのと同時に、横幅が立派な助産師のおばちゃんの張り手を食らったヒデオが、勢いよく分娩室から飛び出してきた。


「夫たるものは、どんど構えてここでお待ち下さい!」

「え、ちょ……ええぇ……」

「諦めるのじゃな、ヒデオ。ここでは助産師が正義なのじゃ」


 ふふん、とヒデオにドヤ顔を向け、私の両腕を掴んで一緒に転移していたリオとセレスの手を解き、除菌室を超えて分娩室の扉を開ける。


「ナナ様と言えどもダメなものはダメです!!」


 一歩で追い出された。

 今朝早くエリーとサラとシンディの三人に、出産の兆候が見られるって連絡を受けてから、この時をずっと待ってたのに。くすん。

 会議中ふざけてたのだって、じっとしてるとエリーたちのことばかり考えちゃうからだ。


 ああでももうすぐ産まれるのかー、楽しみだなー、男の子かな、女の子かな、名前は――って私が決めることじゃないよな、うん。でもエリー似かなサラ似かな、それともヒデオ似かなー、何にせよ可愛いんだろうなーとにかく元気に生まれてくれればそれで良いんだけどなー。頑張れエリー、頑張れサラ。何かあっても私がついてるよ、だから――


「もう、姉御もヒデオも! 大人しく座って待とうよ!!」

「ひゃいっ!?」

「うおあっ!?」


 びっくりして頭の上のミニスライムが跳び上がった。

 リオに叱られるほど落ち着きが無かったかな、私。

 そういえば何度もヒデオとすれ違った気がする。

 ああでも落ち着かないんだよなあ、仕方ないから分娩室前の長椅子に腰掛けたけど、どうすりゃいいのよ。

 扉の向こうから聞こえてくるエリーとサラの声が、苦しそうで、辛そうで、何とかしてやりたいけど、私にはどうにもできないのが悔しい。

 立ち上がろうとしたらセレスに後ろから抱き抱えられて膝に乗せられ、うろうろしないようにするためか、がっちりと捕まえられてしまった。


「大人しく待ってましょうね~、ナナちゃ~ん」


 ぐぬぬ。

 隣を見るとリオが笑顔で、長椅子に座るヒデオの肩を上から押さえ付けていた。

 ヒデオの顔が軽く引きつってて、長椅子がミシミシ言ってるよ。

 こうして二人に無理矢理大人しくさせられてたら、廊下の向こうが騒がしくなってきた。

 そしてキャスター付きのベッドに乗せられて、助産師にガラガラ運ばれてくる見知った顔。


「シンディ!?」

「ふー、ふー……ナナちゃん、アタシも産気付いちゃったかもー……ふー、ふー……うああっ!」

「シンディしっかりしろ、俺がついてるから大丈夫、頑張れ!」


 分娩室に運ばれるシンディに付き添い、リオの手から逃れたヒデオとセレスの膝から降りた私が、除菌室を超えて分娩室の扉を開けた。


「ヒデオ様もナナ様も、仕事を増やさないでください!!」


 怒られそしてまた追い出され、リオとセレスに拘束される私とヒデオ。

 さらに扉の前に、若干呆れ顔のミーシャとペトラが立ち塞がった。

 ううう、いいじゃないか……邪魔どころか何なら手伝うのに……。


 扉の向こうから聞こえる三人分の苦痛の声が、一際大きくなってきた。

 しかしまだ産まれないのか、頑張れエリー、サラ、シンディ。


「ところでヒデオ、子供の名前は考えてるの?」


 突然リオがヒデオに質問を始めた。

 こっち側は誰も一言も発してない状況に耐えきれなくなったのかな、確かに黙って待ってるよりは良いか。落ち着かないし。


「いや、なんかその、いろいろ考えたんだけど決められなくて……赤ん坊見てから決めようかと……」

「しょうがないやつじゃのう、全く。決められぬならわしが決めてもよいのじゃぞ?」

「姉御の名付けって、独特の雰囲気あるよね!」


 リオの笑顔が、暗に「やめろ」と言っている気がする。

 人の名前ならちゃんと付けるもん。


「……こほん。それで、どのような候補があるのじゃ?」

「ああ、男の子だったら――」

『ああ、ああああああっ!!』


 悲鳴? この声は、エリー!?

 一体何が――。


『あぎゃああ、あぎゃああ!』


 ……あ。


 元気な、赤ん坊の泣き声。


 産まれたんだぁ……良かったぁ……。


『ンンンッ!』

『ふあああっ!』


 次はサラとシンディの声だ。


『んぎゃああ、んぎゃああ!』

『ふぎゃああ、ふぎゃああ!』


 ああ……三人共、産まれたんだ……。

 良かった、良かったよう……。

 分娩室に入っ……れ、ない。セレスが放してくれない。

 隣からは長椅子が壊れそうな音が聞こえている。

 ヒデオも押さえ付けられてるようだ。


 えー……。


 それなら転移でセレスの腕から抜け出して……ってあれ、私の周りだけ紫の魔素が乱れてる?


「駄目だよナナ、助産師さんの邪魔したら。もう少しだけ大人しく待ってようよ」

「ロックおぬし、ピンポイントでわしの転移を阻害しおったな……」


 ちくしょういつの間に来た、私の気持ちがわかるくせに邪魔するとは何事だ。

 でも三人共元気な鳴き声で安心したよ、男の子かなー、女の子かなー。

 早く抱っこしたいなー。

 フライングして魔力視で中覗いちゃおうかなー、って助産師さんがこっち来た!


「もう入っても大丈夫ですよ。ただし除菌室で十数えてから、分娩室にお入りください」

「わかった! ナナ!!」

「うむ!!」


 リオとセレスの拘束から放たれた私達は揃って除菌室に入り――


『ばいぃいん』


 分娩室の扉前に張られた空間障壁に顔から突っ込んだ。

 いたひ。

 やりやがったなロック。

 頭の上から落ちたミニスライムを回収して、ロックを睨みつける。


「十数えないと障壁解かないよ? 全くもう……」

「ぐぬぬ……」


 畜生覚えてろ、いちにーさんしーごーろくしちはちきゅーじゅー。


「数えたのじゃ!」「数えたぞ!」


 ロックが障壁を解除すると同時に、二人で分娩室に飛び込んだ。

 ふわぁ……三人共体力回復剤を飲みながら、お乳をあげている最中だ。おくるみに包まれてるから姿は見えないけど……って、ロックは!?

―――俺は病室で待ってるよ。早く赤ちゃん見たいけど、流石に俺がそこ入るのはまずいだろ。

(良い判断じゃの、授乳の真っ最中なのじゃ。入って来ておったらぶっ飛ばすところだったのじゃ)


 気が利くじゃないか、流石私。


「ヒデオ、あたし達の子よ……元気な、女の子」

「私の子は、ついてる。男の子」

「アタシの子も女の子かもー」


 ヒデオは号泣しながら一人ずつ順番にねぎらい、キスしていった。

 みんな幸せそうな顔だなあ、私まで嬉しくなってきたよ。

 そしてヒデオが一周してエリーのとこまで戻ると、ぐちゃぐちゃの顔でこっちを見た。


「なあ……これって……しばらくナナのお腹にいたからだよな……」


 何のことだ。とりあえずエリーの手招きに応じて、私も近寄って覗き込む。

 エリーの乳首にしゃぶりついている、可愛らしい赤ん坊。

 ふわぁ……天使だ。

 天使ってここにも実在したんだ。

 ……天使?


 ……あれ?


 この子、見たことあるというか……私の知ってる天使にそっくり過ぎやしないか……?


「桃色の髪が可愛いわね、あたしとナナから受け継いだみたい。瞳は……赤銅色かしら? これはヒデオとナナからね。ふふふ……ヒデオとあたしと、ナナの子って感じかしら」


 エリーの子の桃色の髪も赤銅色の瞳も、明らかに私が混じってる。

 サラの子は瞳は黒いけど明るい茶髪というか亜麻色かな、これはヒデオと私の遺伝っぽい。

 シンディの子は瞳が茶色だけど、若葉色の髪は私とシンディの遺伝だろうか。

 どの子も可愛いけどさ……普通は瞳や髪の色って、精子と卵子の時点で決まるんじゃないのか。

 いや、そんなことより……顔立ちといい、髪の色といい……そっくり……。


「ふふふ、ナナってば何固まってるのよ。ねえヒデオ、名前は決めた?」

「ああ……エリーとの子が『レオノローラ』、サラとの子が『レオンハルト』、シンディとの子が『レオルティナ』ってのはどうかな」

「あら、いい名前じゃない。よろしくね、レオノローラ」


 レオノローラ、だって? 何で、その名前を……。

 この見た目でその名前って、ああ……もう駄目。


「ふ、ふぇぇぇ……ふえええええぇぇ……」

「ちょ、ちょっとナナ、何であなたまで大泣きしてるのよ!」

「だって……ふえぇぇ……その名前……ふえぇぇぇ……」

「あ、ごめん駄目だったか? 何かこの子見た瞬間、思い付いたんだけど……」


 私は、ヒデオに話していない。それどころか、誰にも話していない。

 なのにどうして? 何でその名前なの?


「レオノローラというのはのう……ぐすっ……ノーラの、本名なのじゃ……」

「え? ……えええ!? いや、初耳だぞ!? 確かにナナから聞いたノーラって子と同じ、ピンク色の髪だとは思ったけど……」

「ふぇぇ……ふえええええぇぇぇぇ……」


 偶然なの?

 生まれ変わりなの?

 エリーはヒルダに似てるし、そこに私の遺伝も加わったから似るのはわかるとして、何でヒデオはその名前を思い付いたの?


「ふえええええええええぇぇ……」


 涙が止まらない私を見て、エリーの子がきゃっきゃと笑ってる。

 ああもうわかんないけど……可愛すぎるだろもおおおおおおおおお!!



「ナナ、落ち着いた? それならこの子の愛称、ノーラのほうが良いかしら?」

「ぐすっ。いいや、いくら似ておってもこの子はノーラではない。親であるエリーの呼びやすい名前で呼んでやるとよいのじゃ」


 それに三人共可愛いのに、ノーラなんて愛称つけられたら贔屓しちゃいそうだ。

 そして話し合いの結果、それぞれローラ、ハルト、ティナ、という愛称で呼ばれることになった。

 ヒデオは最初からそう呼ぼうと思ってたみたいだけどね。


 うん。それでいい。

 三人には私というかヒルダとノーラの血も混じってしまったことだし、二人もきっと見守ってくれるだろう。

 私の義体の目を通して見てるんだよね、ヒルダ。ノーラ。


 この子達が元気に育つよう、見守っててね。


 それにしてもほんと可愛いなぁ、三人共ゲップさせてもらって、きゃっきゃと笑ってるよ。

 リオもセレスも、遠巻きに見てるミーシャにペトラも、デレッデレに顔が緩んでるね。ふふふ。

 助産師も……って、私を見て青い顔した人がいるよ?


「ナナ様、先程は失礼な言動、大変申し訳ありませんでした!」

「なんじゃそんな事か。仕事を全うしておるようで安心したのじゃ。それに元気な子を取り上げてくれて、心から感謝するのじゃ。三人同時の出産は大変じゃったろう、皆お疲れ様なのじゃ」

「むしろにゃにゃ様は邪魔してたにゃ」


 ほう、いい度胸だミーシャ。事実だけど罰として今度超念入りにブラッシングしてやろう。自力で立ち上がれなくなるくらいもふもふしてやる。

 でも事実だからこそ、ちゃんとしないと。


「確かに、仕事を妨げてすまなんだのう。申し訳ないのじゃ」


 この子達の前でみっともないことはできない、私はちゃんとごめんなさいが言える指導者なのだ。えっへん。


「勿体無いお言葉、まことにありがとうございます、ナナ様……。ではそろそろ皆様を病室にお連れしたいのですが、よろしいでしょうか」

「そう言えばロックも赤子を見たいと、病室で待っておったのう。忘れておったのじゃ」


 ロックもローラを見たらびっくりするだろうな。

 それに名前も。ふふふ。



 だけど病室に行ってびっくりしたのは、こっちの方だっだ。


「お父様、それにお母様!? どうしてここに!?」

「なんでいる、父」

「クイーナ? 何これ、幻かも!?」


 病室にはエリーの両親、サラの父親、シンディの親代わりだったクイーナと、更にはヒデオの両親まで揃い踏みだった。

 殺菌魔道具片手にドヤ顔のロックにはイラッとしたけど、他のみんなは物凄く優しそうな顔つきだ。若干一名泣きそうになってるけど。


「頑張ったわね、エリー……」

「う、うう……よくやったぞサラ……」

「私は場違いかとも思ったんだけどねえ、ああもう泣くんじゃないよシンディ」


 エリーとサラとシンディは大泣きして、それぞれの親と抱き合い……訂正。

 サラじゃなくて大泣きしてるのカイルだ。サラ無表情。

 でもまあ、よかったね。

 さっき散々泣いたけど、今度はもらい泣きしそうだよ、全くもう。


「まったく、おせっかいな奴じゃのう」

「ナナだってほんとはこうしたかったくせに。ま、俺のほうが自由に動けたからね、だからこそみんなを集められて……ん?」


 エリーの方と言うか、エリーが抱いてる赤子を見て固まったな。どうやら気付いたようだね。


「ヒデオ、皆におぬしの子を紹介せぬか。おぬしが付けた、素晴らしい名前とともにのう」


 そのヒデオはファビアンに無言で背中をバシバシ叩かれむせていた。

 ファビアンなりに褒めてるんだろうか。

 そういやヒデオがファビアン達に全てを明かした際、私が少し余計なことしちゃったみたいだけど、いい関係を築けてるようで良かったよ。


「げほっ……ん、んんっ。えーと、子供の名前なんだけど……エリーの子は女の子でレオノローラ、サラの子は男の子でレオンハルト、シンディの子は女の子でレオルティナって名付けたんだ」


 ロックは顎が外れそうなくらい口を開けてローラを見つめていて、そして口をパクパクさせながらこっちを見た。


「わしは教えておらぬ。ヒデオが自分で思い付いて名付けたそうじゃ」

「そう、か……ああ、やばい。天使にまた会えるなんて、思ってなかったから……」


 ロックの両目からもボロボロと涙があふれた。

 私もロックもノーラが二歳になってからしか知らないけど、本当にそっくりだもん。びっくりするよね。


 さて……と。この子達が平和に暮らせるように、もうちょっとだけ頑張ろう。

 ロックも協力は惜しまないだろうし。

 むしろ私の分までこき使わないと。


 私もできる限りのことを、頑張ろう。

 今の私では、できることはそう多くはないけれど……。

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