表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
194/231

5章 第5話Ro これでも働いてます

 今日はティニオンの井戸づ掘りなんだけど、その前にまずは自分用の白コート作りから始めようかな。

 いつまで待ってもナナが作ってくれないから、自分で専用のを作っちゃおう。

 でも完成したらしたで、今度は寝起きのアネモイがそれを見てふてくされちゃった。

 仕方なくアネモイの白コートを俺のと同じように少し改造してあげたら、一発で機嫌直してくれたけどね。

 すぐ原因わかって対処できた俺って優秀。

 乙女心がわかる漢を目指すよ!


「ねえロック、この背中の刺繍素敵ね! でもこれ、ナナに怒られないかしら?」

「それはね、アネモイ。今日はこれからティニオンで活動するから、ナナの国が協力的だって周知させるためなんだ。感謝されても、怒られることはないと思うよ」

「そう、それならいいわ! それに……ロックと、同じ刺繍だし……」


 そ、そういう意図じゃないんだからねっ。

 なんてツンデレ発言はさておき。

 刺繍はスライムを抱く翼の生えた女性、ヴァルキリー義体のナナ。


 というか、女神教のモチーフだ。


 ちょっと嫉妬深いアネモイだけど、ナナに対してだけは寛容どころか好き過ぎるくらいだ。

 まあ俺に懐いたのも、そこが理由なんだろうけどね。元同一人物だし。

 何にせよ始まりはともかく、今は俺を見てるんだからそれで良いのさっ。


 それはさておき、ティニオンの各都市に村や集落の井戸掘りだ。

 パッと転移しドゴンと井戸を掘り、呆然とする市民にアネモイと二人笑顔で手を振ってシュパッと転移する。

 数が多いから一つ一つに時間かけられないからね、それに白コートと背中の刺繍でどこの者かはわかるだろうし。


 こうしてティニオン国内のほとんどどの地域で、女神教とプディング魔王国のアピールができた。満足満足。

 これで仕事は終わり、残りはプライベートだ。アネモイ掴んでてーんいっと。



 まずはクーリオン。


 目的はエリーの両親だ。

 ヴァンと戦うために出てきちゃってからヒデオが目覚めるまでの間、俺はあちこちでナナの身内であることを明かし、今後について指示を出したり提案を出したりしていた。

 ここもその一つで、以前訪問した際に国の教育関係を任せたいという思惑をぶっちゃけたら、しばらく考えさせてほしいと言われたので、今日はその確認だ。

 ライノ夫妻は領主のコーバス伯爵と調整した結果、期限付きの出向という形なら引き受けると言ってくれた。

 教育者を教育する立場として赴き、人材が育ったらティニオンに戻るそうだ。

 ジルを通してティニオン王家には話を通してあるので、二人をゲートでブランシェに送ってイライザに任せ、またまたてーんいっと。



 次はアーティオン。


 ここにはサラの父親がいる。

 騎士でしかも女神教の司祭も兼任しているカイルは、サラの子が産まれたらブランシェに来るということで話はついている。


 エリーの両親もそうだけどヒデオの嫁さん三人の親族は、出産時または出産後しばらくの間は、ブランシェに居てもらおうと思ってね。

 もちろん俺は三人共目覚めるって確信してたから前もって話を通してたし、両親のいないシンディの親代わりであるクイーナにも話をしてある。

 そっちは臨月あたりをめどに、冒険者ギルド経由でブランシェに来ることになっている。


 とういうわけで、今日ここに来たのは別件だ。

 アーティオン上空に転移し、アネモイと二人でゆっくり降りる。


「綺麗……まるで何百年も経った都市のようね……」

「見たことないだろアネモイ……って、また相棒から記憶を盗み見したな?」


 いたずらがバレたような顔をしたアネモイは置いといて、俺もこの景色を楽しもう。

 ここアーティオンは、異界との融合を住民が受け入れた。

 そのため外壁やそこに近い建物の多くが木と融合して、幻想的な雰囲気になっている。


 アーティオンの住人が融合を受け入れた理由は、この場所は異界側では、ナナが生まれたヒルダ集落だからだ。

 異界融合時に総合指揮をとっていたアルトに相談を受け、ナナが義体を作り変えて妊婦になっている隙に俺がこっそりと対処した。


 当然外壁はそのままだと防御壁としての役割を果たせないので、木を登っての侵入が簡単にできないよう、前回来た時に外壁に沿って木々はどかしておいた。


 しかし女神教神殿、前回見たときよりも豪華になっているな。

 それにアルトがデザインしたレリーフが、あちこちに規則正しく飾られている。

 女神教発祥の地にある神殿として、ふさわしい形になってきたかな?


 神殿前に降りると俺達を見つけ、武装した司祭が近付いてきて頭を下げた。

 腰に曲刀を下げてる司祭なんて、ここには一人しかいない。


「ロック様、アネモイ様。お越しいただきありがとうございます」

「堅苦しいのはやめようよ、カイル。それより進捗はどう?」

「問題ありません。ロック様がゲートを繋いでくださり、プディングから資材と技術者を提供して頂いたおかげで、素晴らしい物ができつつありますよ」


 カイルに案内されてすり鉢状の大ホールに入ると、その中心に足場に囲まれた高さ3メートルほどの像が見えた。

 スライムを抱く、翼の生えた女性の像。


 というか、ナナだ。


 周りの足場には何人もの作業者がいて、それぞれ作業に集中している。

 資材を運ぶ獣人族、魔術で資材を繋げる魔人族、糸で高いところに資材を引き上げるアラクネまでいる。


 どれもブランシェから派遣された職人だ。

 ゲートはナナがここに置きっぱなしで忘れているものを使い、ひっそりとブランシェ神道神殿とセーナン女神教神殿にも設置してある。

 あの子結構忘れっぽいところがあるからね、多分ここにゲートゴーレム置いてるの覚えてないと思う。

 俺だって異界融合時にここに来てなきゃ、思い出してないんだもの。間違いないね。

 それはそうとゲートの使用許可は司祭とその同行者に限り、ブランシェに入る際は住民管理スライムこーじくんへの登録必須にしてあるから、特に問題は発生してない。


 なんて考えながら完成までもうすぐだなーって眺めてたら、難しそうな顔をしたカイルが寄ってきた。


「ファビアン大司教から『神道』という多神教の話を伺ったのですが、女神様を崇めるのと何が違うのでしょうか」

「一緒だと思っていいよ。多神教といっても今はナナしかいないし、今後神様が増えても、主神がナナであることに変わりはないからね」

「ナナ様が主神、ですか。なんとなく理解できそうです、ありがとうございますロック様」


 そのうち武神とか魔術神とかいろいろ増えるとは思うけど、ナナが中心にいるのは変えないし変わらない。

 それまでに主神の地位を確立させ周知させるためにも、ここ発祥の地は大事だ。


「セーナンも問題無さそう?」

「あちらはステーシア様とレーネハイト様が直接指揮をとっており、資材も人員も豊富らしく順調と聞いています」


 フォルカヌス新皇国のセーナンは、都市住民のほとんどが女神教の信者だ。


 というか、ナナの熱狂的なファンだ。


 ナナのおかげで戦火を免れたうえ皇女殿下まで信者ともなれば、爆発的に信者が増えるのも当然だよね。


「じゃあ後は任せたよ、今度はサラの出産のときかな? ブランシェで待ってるよ」

「はい! 重ね重ね、ありがとうございます!」


 アネモイも飽きてきたみたいだし、次行こうっと。

 と言っても近場なんだけどね。



 短距離転移で目的地に飛び、相棒のキューちゃんを通して交渉する。

 しかしその間、アネモイは俺に後ろに隠れっぱなしだ。


「ねえロック、どうしてあの子達は私に敵意を向けているのかしら」

「それはね、アネモイ。……美味しそう、って思っただろ? ハチミツじゃなくて、ミツバチの方を」


 目的地は旧ヒルダ集落の西、巨大ミツバチたちのコロニーだ。

 冬だからみんな巣穴に引っ込んでるけど、この辺りも異界との融合でだいぶ様変わりして、その巣穴自体も融合した木に半分近く侵食されてる。


 そこでブランシェに来ないか交渉しに来たんだけど、アネモイがミツバチに睨まれて交渉が頓挫しそうになった。流石に予想外だよ。

 そういやハチノコを美味しそうに食べてたっけなこのポンコツ。


「ギチギチ……」

「アネモイはちょっと離れててくれ……」


 働き蜂の塊から顔だけ出して顎を鳴らす嬢王蜂に従い、アネモイを少し遠ざける。

 悲しそうな顔をするな、自業自得だ。


「さて、巣穴が潰れた群れには、新しい住処を用意できるよ。それにこの辺りの植生もだいぶ変わったよね、蜜を集めるのが大変だったんじゃない?」

「ギチギチ……ギチ……」

「やっぱりそうだったか。それなら何で……あ、そっか」


 警戒するはずだよ、見た目別人だもんね。実際にほぼ別人だけど。

 義体を空間庫に入れて、本体で交渉だ! ぷるるんっ。


「ギチギチギチ……ギチ……」

「そうだね、俺は前に来たナナと同じスライムだよ! 色はナナと区別するため黒いけどね。それで移住先だけど、ここより温かいよ!」


 ぴょんぴょんぷるるんとしながらの交渉は、やけにあっさりまとまった。

 この姿だと警戒されにくいようだ。

 そのままゲートで農業研究所管轄の農場に送り、その場で巣になる小屋も作って蜂球ごと移動させ、森人族のジョシュアに丸投げする。

 ジョシュアは半透明の黒スライムになっている俺を見てギョッとしてたけど、アネモイが一緒だったから俺だと気付いてもらえたようだ。

 こうしていくつかのコロニーで交渉を行い、新たに五つの群れをブランシェへお迎えできた。


 作物の栽培は受粉にかなり人手を割いてたから、これで少しは楽になるんじゃないかな。

 いくら魔術で急成長させても、受粉させない限りは実にならないもんね。


「よーし、これでティニオンでの仕事と用事は終わりだよ……ってアネモイさん、何してるのかな?」

「ぎゅー」

「『ぎゅー』じゃなくて。俺を胸に挟むんじゃありません」


 スライムになっている俺を持ち上げて抱きしめるアネモイに注意するが、聞き入れる気は無いらしい。

 感触が心地良いから別にいいか。仕方ないなあ、もう。


「それじゃあアネモイ、このまま魔導研究所に行こうか」

「任せて、ロック!」


 歩く度にたぷんたぷんと揺れる双丘に合わせ、自分もぷるんぷるんと揺れてみる。こんな上等なクッション、スライムじゃなきゃ堪能できなかったよね!


 魔導研究所に入るとみんなギョッとしてこっちを見て挨拶するけど、ナナと違って仕事の手を止めてまで頭を下げたりする人はいない。

 俺にまでそんな対応されたら、自由に動けなくなって困るからね。

 それにしても……何か疲れ切って倒れそうな人が多いよ?

 中でも完全に九尾の狐になったゴスロリ男の娘、ニースが目の下にクマまで作って草と睨めっこしてる。

 こっちに気付いてフラフラと立ち上がったけど、どうした。


「あれ、アネモイさんに……それ、ロックさんですか?」

「ニースおつかれー、そうそうロック。ちょっとうんちょーくんのログ見に来たんだけど……どしたのこの惨状」

「ああ、すみません……ちょっと鑑定からの資料化が追いつかなくて……」


 どういうことか話を聞くと、異界との融合でこれまで地上界に無かった植物や鉱石が見つかり、それらを全て鑑定して書物にまとめているそうだ。

 普通の人は上位鑑定まで行う魔力が足りないから、名前だけ鑑定してあとは魔導研究所が発行している資料を読んで、詳細を調べるのが一般的らしい。


「すまんニース……もっと早く言ってくれれば……」

「いえ、これも仕事ですから……」

「とりあえず、うんちょーくんのところに案内して……」


 役所スライムのこーじ、鑑定スライムのうんちょーくん、情報収集スライムのふーすけの本体が保管されている場所には、魔王邸とここ魔導研究所からゲートで行ける。

 というかセキュリティ上、ゲートを使わないと行けないような場所にしてある。


「ちょっと待ってね……。相棒、うんちょーくんと接続。直近三ヶ月以内に集積した新規情報のログを取得し、スライム体で複製した紙面に分類順で印刷。内容は上位鑑定の結果までだ」

―――承知しました。


 少しすると俺の体から、文字が細かく記載された紙がでろーんと流れてきた。

 あ、紙のサイズ指定しなかったから、嫌がらせFAXみたいになってる……。

 ま、いいか。


 そして出てきた紙を見て、ニースが遠い目をしながらぶつぶつつぶやいてる。

 ほんとスマンかった。


 出てきた紙をちらっと見ると、分類・名称・概要がズラズラっと書かれてるけど、名称のほとんどが『名称不明○号』ってなってる。

 これに各研究所で名前つけたら、うんちょーくんから出てくる情報も更新されるんだよな。その度に資料化するとか、気が遠くなるよね……。


「……こういうことできるから、数が多い時は遠慮なく声かけてね……。更新するときとか、さ……」

「あ、あはは……」


 床にへたり込んじゃ駄目だよニース、綺麗な尻尾が汚れて……って、そんな事言ってる場合じゃない。


「ニース、研究員全員で三日間休みを取ってくれ。これは命令だ」

「え……でも……」

「何日、いや、何週間まともに休んでないんだ? 気付かなかった俺にも責任はある、鑑定結果は俺がまとめておく。本当にごめん」


 さすがにこれは命令してでも休ませなきゃ駄目だ。

 ブラック企業化してることに気付かなかったのは、本当に申し訳ない。

 あとでアルトやイライザに聞いて、他にも似たような状況になってる部署がないか確認しておこう。

 場合によっては俺がそこに代わりに入ればいいんだし。

 もしくは雇用を極端に奪わない程度なら、スライムか魔道具作って置いとこう。

 薬毒関係をまとめて医療研に引き渡すのは後回しだね。


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」

「それと研究員全員集めて。元気になるスープでも振る舞うよ」


 ナナの空間庫から勝手に貰うけど、あとで報告しておけばいいだろ。

 状況が状況だし。



 そして集められた研究員にねぎらいの言葉と謝罪を告げながら、作りおきのドラゴンスープをそれぞれに渡していく。

 アネモイも手伝ってくれたから結構早く済んだけどさ。


「ロック、おかわり!」

「ねえアネモイ、お前が一番にがっつくのはどういうことかな?」


 そこも可愛いけどさあ、このポンコツめ。




 スープを飲み終わったみんなに帰って休むように命令し、少しするとアネモイがソファーで横になり爆睡し始めた。

 相変わらずパンツ丸出しで寝相悪いなあ、まあ俺しかいないから放っておこう。

 ついでだから今のうちにうんちょーくんと接続し、いろいろ調べておきたいからね。


 どれどれ……情報収集スライムのふーすけは、相変わらず皇国では人気だなぁ。

 でも一つの家庭で可愛がるんじゃなくて、地域猫みたいな可愛がり方されてるようだね。

 ティニオンとジースでも最近は害の無いことが知られ、結構可愛がられてるようだ。

 プロセニアは……少し前まで見つかると焼かれてたけど、最近はそんな余裕なさそうだね。数は少ないけど、順調に活動範囲を広げてる。


 そして帝国は、と。


 ……南西砂漠地帯の一部を除き、活動範囲無し。

 見つかり次第焼き払われている、か。


 うーん。


 なーんか気になるんだよね。

 グレゴが戻る時、俺もついていったほうが良いかな?

 とはいえグレゴも俺と同じボディだから、そうそう問題が起こるとは思えないけどさ。


 それこそ、ヴァン相手でもない限りは。


 もう終わったんだから、これ以上あいつの事考えるの嫌なんだけどさぁ……。

 間違いなく本体倒してるし、流石にありえないよねー……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ