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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
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5章 第4話N だんじょんますたーなのじゃ

 ロックが何か企んでいるのはわかるんだけど……ちくしょう、それが何なのかわからないぞ。

 多分私が嫌がることなんだろうなあ、全くもう。


 あとでこっそり調べるか……。


 それにしてもこのスパークリングワインおいし~い。


「つーか嬢ちゃん、酒はプディングで造ってねえのか? こんだけいろんなもん造ってるのに……」


 私の前で同じようにちびちび飲みながら、つまみのポテチや魚亜人の集落から貰ってきた塩辛と魚の燻製を見て、オーウェンが首を傾げている。


「もちろん造っておるぞー。じゃが酒は熟成させねば味に深みが出んのじゃ。それに発酵させるにも時間がかかるしのう、今はあれこれ研究中だそうじゃ」

「研究所で、か……今いくつあるんだ?」

「農業、服飾、魔導、食品、製造・医療の六つじゃな」


 それぞれに細かく部門が分かれて、さらにその下に国営の農場や牧場、工場などがある。

 例えば製造技術研究所なら土木・建築・金属加工・皮革加工・木材加工の各技術研究部門があり、その下に各種工場や土建作業者の休憩所などがある。

 商業と教育は研究所を設けておらず全て国で管理しているが、将来的には商業は民間に任せる予定だ。


「今は国が一括で各研究所から買って、販売してる形なのか。何だってそんな面倒なこと国でやってんだ?」

「元々は異界からの移住者だけの国じゃったからのう。異界では物々交換が基本で、貨幣代わりに魔石が使われとった程度なのじゃ。それをいきなり貨幣を造ったので今後は全て貨幣でやり取りしてね、金額も自分達で決めてね、というのは酷じゃろう。しかもプロセニアから移住させた者も、大半は貨幣価値をよく知らぬ者たちばかりじゃしのう。税金の管理が楽なこともあるのじゃが、当分の間は国営じゃな」


 いくらアトリオンからたくさん商人が来てくれたとはいえ、ついこないだ増えた移住者も含めると教育が追いついていないんだよね。

 ほとんどアルト任せとはいえ、ちゃんと報告は聞いているのだよ。


「国営なので利益は度外視できますし、それに食料の備蓄量・生産量に合わせて価格を操作するのが容易ですしからね。移住者のみならず魔人族や光人族術士の大半を農業に回していますから、穀物の生産は間に合っていますので価格は下げています。しかしそれ以外は、かなり値段を上げざるを得ない状況ですね」


 近々狩りにも行かないと駄目かな、また雪原にいたマンモスみたいな奴とか。


「人手不足だが、人を増やすと今度は食糧不足か。こっちも大変なんだな」

「なんじゃ、ティニオンでも何ぞ問題が出てきておるのかの?」

「ブランシェとの街道をつなげるってんで、作業者を大量雇用してるんだけどよ……そこに元冒険者がかなり混じっててな。一時期ヒデオのおかげで対魔物専門の冒険者が増えたんだが、魔物の活動が急激に低下した今となっちゃ、そいつが仇になっちまった。作業者になるならまだマシでな、最近治安の方もちょっと、な……」


 ジルも一緒に暗い顔してるけど、お前ら外交官じゃないのか。

 まあオーウェンは王子という立場もあるし、あれこれ問題点も聞かされてるのかもしれないね。

 しかしそうなると、街道の工事完了後も見据えた雇用対策が必要になるわけか。

 世界樹を四本も吸収しちゃった私にも原因があるし、一緒に考えようか。


 うーん。冒険者は魔物が狩れれば良いわけだ。

 魔物を活発にさせるには、魔素が必要だ。


 魔素は、増やせる。


 でも魔物を増やすと、いろいろ被害も出る。

 村や街道に……あ。


「なあ、ナナ……」

「そうじゃの、ちょうどよいかもしれんの」


 私の空間庫から勝手に酒を取り出して飲んでいたロックと、目が合った。

 やはり考えることは同じか、というか酒返せ。


「人里から少しばかり離れた森に、世界樹を植えてはどうじゃろうか」

「もちろん小さな奴だよ。普通の木より少し大きい程度かな?」

「それなら周辺の魔物は活性化するじゃろうし、近くの村や集落は魔物避けの魔道具を設置すればよい」


 これなら冒険者を廃業しなくて済むし、私ってあったまいいー。

 魔物の肉や皮とかも、生活に欠かせないものだからね。


「それだけじゃない。ゴーレム化で食用の魔物を作ってやれば、食糧問題も解決できるんじゃないかな?」

「じゃがのう、構築前はわしの体……スライムの一部じゃぞ? そんな物を食べさせるのは気が引けるのう……繁殖には時間もかかるじゃろうし。とはいえ、食糧問題も大事じゃしのう……」


 今いる乳牛と豚は家畜化させるため、元からいる魔物を改造したものだ。

 それにあくまでも繁殖させるための原種扱いで、直接食べるわけじゃない。


「俺達が作るんじゃなくて、それ専門のスライム作ったら良いんじゃない?」


 そうか、世界樹とセットで常駐させる管理スライムも作ればいいんだ。

 既にピーちゃんが神殿で小動物作りまくってるもんね。

 そうなると、いろいろできることが増えるなあ。

 何ができるかなーって考えてたらヒデオも何か閃いたみたいで、ニヤニヤしてるな。


「ナナ、ロック。それならいっそのこと、ダンジョンとか作ったら良いんじゃないか? ナナもロックもそれくらい簡単に作れそうだし、ダンジョンなら出入り口だけ魔物避けの魔道具設置すれば、外に魔物が出てこなくなると思うし」


 ヒデオの言葉に私とロック以外の全員が首を傾げた。

 そりゃそうだ、ダンジョンと言えば地下迷宮や地下迷路だけど、そういった物を作る技術はこの世界には無い。あったとしてもダンジョン自体存在しない。

 でもそれならヒデオの言う通り、外に影響を及ぼす可能性は限りなく低い。


「ヒデオ……その案、採用じゃ! では明日から早速魔物避け魔道具の開発に取り掛かるのじゃ!」

「ダンジョンかー、地下に海や空作るのも面白そうだよねー、くすくす」

「ロック、いくらなんでもそれは……いや……可能じゃ、な……」


 そうだ、ロックが改変した空間断絶魔術だ。

 それと転移門を合わせて少しいじってやれば……外界との出入りが可能で、かつ外の明かりを取り入れられる仕様も、可能じゃないか。

 必要とされる膨大な魔力は、ダンジョン最深部に世界樹を置いてそこから引っ張ればいい。それに魔素が濃すぎると魔物が強くなるけど、階層があるダンジョンにすれば下の階に行くほど魔物が強くなるだけだから、上の階は比較的安全にできるかもしれない。


「ふっふっふ……面白くなってきたのう……」


 久々にモノ作りに没頭できそうだよ!




 翌日プロセニアに戻ったガッソーに連絡を取り、元光天教本殿に魔獣操者の杖が無いか確認すると、あっさりと見つけてくれた。

 というか全て破壊するつもりで、一箇所に集めていたそうだ。


 邪魔をする光天教司祭に扮する暗殺者達をぶぞーととーごーで無力化し、ゲートゴーレムを預けてあるトロイとダイアンの手も借りて、プロセニア中の光天教神殿を回って確認しているらしい。


 ついでにアルトの指示でプロセニア王宮に乗り込み、完全な降伏を受け入れさせたそうだ。

 国土割譲や賠償金も要求しないと言ったら、プロセニア王はキョトンとしたあとニヤニヤと笑っていたが、代わりの条件を話したら青くなったという。


 その条件は『戦争の敗北と光天教の悪事及び大司教死亡の公表』『ティニオン王国・フォルカヌス新皇国・プディング魔王国の三国との半永久的な国交断絶』『三国における光天教のすべての活動を禁止』というものだ。

 こちらとしてはもう関わらないから、あとは勝手にしろというスタンスだ。

 光天教は国教だからいろいろ大変らしいけど、知ったことではない。


 プロセニア地域には異界融合時に強い魔物を間引きしただけだから、軍も戦争どころではない状態だし、しかも王都の正規軍はぶぞーが単体で蹴散らしてしまったため、この条件を受け入れるしか無いということだった。

 あとはおまけとして、野人族の孤児も全て引き取りたいという私個人の案も飲ませたそうだ。

 これで移住者が数百人増えることになるけど、セレスが喜んで面倒見てくれるだろう。



 ともあれ魔獣操者の杖は放置されていたゴーレムやキメラ兵などの資料と一緒に、トロイがゲートを使って持ってきてくれたので、この一本を除いて全て廃棄するよう命じておく。

 資料は最後まで読んでないけど、今更どっちにも興味はないし思い出したくもないので、アルトに管理を任せようっと。

 そして私はグレゴリーと一緒に、魔獣操者の杖の解析を始めた。


「それで、中身は……と。珍しい魔素を操作する術式じゃの、ゴーレム創造時に使う奴じゃな。……認知機能に働きかけるものじゃが……ふうむ、一定以上の知能を持つ者には効かぬのじゃな」

「ああ、やっぱりそうか。ナナさんごめん、これも僕が作った術式だよ」

「いろいろ作っておるのう。今一般的に広まっておる術式の殆どは、グレゴリーが作ったものなんじゃろう?」


 生命魔術と空間魔術の生みの親と言われてるけど、それだけじゃないんだだね。


「僕が作った後に、改良されたり改変されたものも多いけどね。それと竜が使った魔術を見て真似したものもあるよ。異空間生成魔術とかね」

「異空間生成……まさか古竜と戦ったのではなかろうの?」

「あはは……そのまさか、だよ。と言っても古竜になりたての、しかも手負いのところを攻撃したからね。そうじゃなかったら、僕は今ここにいなかったと思うよ」


 グレゴリーによると人族の生存圏が広がった際、帝国北の山脈で風竜の、西の砂漠を迂回した先で地竜の住処を見つけたそうだ。

 風竜は山に入らなければ危険は少なかったので放置したが、地竜の方はそうは行かず、活動範囲があまりにも広いため大規模な掃討戦を行ったらしい。

 その際に竜の群れに襲われていた一体の古竜を見つけ、その古竜が異空間生成魔術を使っていたそうだ。

 一体ずつ異空間に連れ去って戦っていた古竜だが、残り一体というところで力尽き、最後に残った竜が古竜の死骸を口にして古竜へと進化するのを見て、手負いの今しかないと慌てて攻撃を仕掛けたという。


「かなりの犠牲を払ってなんとか倒したんだけど、他の竜に進化されても困るからね、二頭の死骸を帝都に持ち帰って地下に封印したんだ。いつまで経っても腐らないし、進化したての方は素材として重宝したんだけど、食われた方の古竜は硬すぎて加工できなかったから、そのまま封印してあるよ」

「それは大変じゃったのう」

「そういえば僕が寝ている間に、木と金の属性魔術が自然八属性として扱わるようになってたのは、ちょっと笑っちゃったけどね。元々その二つは生産・加工の魔術として開発していて、今のナナさんの国での使い方が本来の使い方なんだよ」


 なんだそりゃ、と話を聞くと、森の中にいち早く拠点を作るために木材加工を、より良い武器防具を作るため金属加工を魔術で行うため、木と金のニ属性の魔術系統を確立させたそうだ。でも副産物として作ったはずの木の根を操って相手の動きを封じる魔術や、金属装備の強度を一時的に増加させる魔術の方が多く広まった結果かもしれないと、グレゴリーは呆れ笑いを浮かべていた。


「それだけ戦いが絶えない状況だったのかもしれんのう。このプディングでは、その二つの属性が得意な魔術師は主に土木建築製造に携わっておるの。あと木属性術士は農業、金属性術士は採掘にも多く携わっておる」

「それだけこの国が平和って事なんだよね。というか完全に過剰戦力だよね……世界征服も片手間にできると思うけど、しないの?」

「そんな面倒なこと、する意味がないのじゃ。それに下手に統一してしまうと、それぞれの国で今後産まれるであろう文化の発展を妨げてしまうのじゃ。ゲートは設置しておるが、使用も制限しておるしのう」


 とはいえ今後はむしろ、ゲートの使用は増える見込みだけどね。

 交易が活発になれば、売れる特産品や輸出する文化の形成も早まるだろうと思うし。パクリパクられの心配はあるけど、知的財産という概念も作り、各国の人材が集まる研究所から広めさせている。


「そうそう、何が驚いたってそのゲートゴーレムだよ。ゴーレムと魔道具の融合とか、考えもしなかったよ」

「いずれにせよグレゴリーが『術式』という基本を確立しておらなんだら、それにアルトが魔道具の作り方を教えてくれなんだら、わしは魔道具の製造はできんかったのじゃ。二人のおかげじゃよ」

「……そ、そう、かな……それにしてもナナさん達の戦力なら、帝国なんて三日と持たないだろうね」

「多分一時間もかからないと思いますよ? ナナさん、そう言って頂けると側近冥利に尽きます。こちらこそありがとうございます」


 ってアルトか、いきなりびっくりしたなあもう。

 そしてグレゴリー、びっくりしてるみたいだけどなんで顔赤いのかな。


「それはそうとグレゴリーさん、ちょっといいですか? ティニオンとフォルカヌスの宮廷魔術師が面会を求めています。なんでも魔術の始祖に教えを請いたいとか」

「え、あー……こほん。その人達って魔力視持ち?」

「いいえ、違うようですね」

「それなら『まだその段階じゃない』って断ってもらえるかな」


 何をうろたえていたのかわからないけど、面倒くさいんだろうなというのは私もよくわかる。

 私に面会を求めてきてもアルトが許可してるのは、ティニオンはオーウェン、フォルカヌスはシアくらいなものだからね、だってそれ以外は面倒なだけだし。

 それはそうと、と。


「ふっふっふーん、でーきたーのじゃー。とりあえず術式を改変しただけなので木の杖のままじゃが、試作一号なのじゃ。早速起動なのじゃ!」

「い、いつの間に……ってうわ、これ出力強すぎるんじゃない? これだと魔物どころか、普通の人も効果範囲に入れないかも」

「なんとも近寄りがたい感じがしますね。それならいっそ、ダンジョンの入り口に設置するのはどうでしょう? これを抜ける意志すら無い者は入る資格無しとすれば、事故も減るのではないでしょうか」

「よいのう、アルト。その案は採用じゃ!」


 ダンジョンは門番とか置くつもりだったけど、それなら出入管理も楽だろう。


「あとはこれを無効化する術と、出力の調整じゃの」

「どうして無効化するの?」

「ふふーん、それはじゃのう、これは球状の効果範囲なのじゃ。これを町や村に置くとなると、ぐるっと囲うように何本も置かねばならぬ。それではコストが掛かりすぎるからのう、そこで無効化術式の出番なのじゃ。中心に効果範囲の広いものを置いて、同時にそれより少し狭い範囲で無効化を設定してやると、外周部だけに魔物避けの効果が出るのじゃ!」


 これは認知機能に働きかけ、この範囲に居たくない、入りたくないと思わせる術式だ。

 知能の高い者と意思の強い者にはあまり効果がないけど、魔物や獣には十分な効果があるだろうね。ただしこれだと赤ん坊や家畜、ペットなんかにも効果が出ちゃう。

 それに街の出入り口にも設置しないと、それらも出入りできなくなっちゃうよね。


「それならいっそのこと、ナナさんが作る予定の小型世界樹に組み込むのはどうかな? そうすれば森から外に出てくる魔物も抑えられるかも?」

「おお、よいのう。グレゴリーの案も採用じゃ!」


 一人でやるよりいろんな案が出て楽しいなあ、でもとりあえず今日はここまでとして、実地試験や調整とかはまた明日、だ。


 そしてティニオンの井戸掘を終えて戻ったロックが、何やら浮かない様子なのが気になる。まあ問題があったら相談してくるだろう。

 夕食後軽く酒を飲んでいると、ヒデオが明日ファビアンに話しをしに行くというのを聞く。


 自分自身の正体と、レイアスの死、か。

 どうしても一人で行くというので、了承するよ。


 妊婦になってから早めに寝る習慣がついちゃったので一足先に部屋に戻ろうとすると、ちょうどロックもアネモイの部屋に連れ去られてた。

 いつも通りというか、もうロックの部屋撤去しちゃってもいいんじゃないかな。

 世界樹から戻ってアネモイが起きるまでの、たった数日しか使ってないだろ。


 全くもう。


 さて、と。遮音結界発動。んー……このウサギのぬいぐるみでいいか。

 魔石はこれくらいで、シュウちゃん技能魔素注入のフォローお願い、これをこうして……っと。


「あーあー。聞こえるかのう?」

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