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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
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5章 第3話Ro お兄ちゃん頑張るよ

 会議室で待っていたヒデオの目が赤い。

 そりゃそうだよな、レイアスが死んでいたって知ってから、たったの一晩だ。

 こっちの世界に来てからずっと、ヒデオの生きる目的はレイアスの復活だったもんな。

 もしも嫁さんたちや子供やナナがいなかったら、自暴自棄になっててもおかしくない。


 それはそうとガッソーがいないな、とアルトに聞いたら、昨夜俺がアネモイのブレスを食らってそのまま連れ去られたあと、あれこれ指示してプロセニアに戻したそうだ。

 さすがアルト、仕事が早い。


 それぞれに挨拶して席についたところで、ナナがこっちを見た。


「アネモイはいつも通りかのう?」

「ああ、朝食の時間には起きてくるんじゃない?」


 呆れ顔でため息付いてるけど、ほんとは羨ましいくせにこのムッツリスケベ。

 義体にヒルダとノーラの体を使ってなかったら、とっくにリオかセレスといかがわしい関係になっていたはずなのは知っているぞ。

 もしくは、もっと自分の体に興味を持っていたはずだ。


 だって俺だし。


「まあよい。ではヒデオ、話してくれるかの?」

「ああ……まずは少し話が遡るけど、王都アイオンでの出来事から話さなきゃね」


 そっからヒデオの話を黙って聞く。ヒデオを誘い出した女の話はナナがオーウェンから聞いてたけど、金ボッチ君の正体がやっとわかったよ。


「なんと、あやつがキンバリーじゃったか……じゃが敵意は無さそうじゃったがのう?」

「ああ、そこが俺も不思議なんだ。ナナにヴァンが復活したことを知らせろって内緒話してきたり、ヴァンが出てきたときも……多分だけど、キンバリーが俺をかばって突き飛ばしてくれてなかったら、一瞬で殺されていたかもしれない」

「プロセニアのスパイを殺したのもキンバリーだろ? 案外風竜山脈で会った時にヴァルキリー姿のナナに惚れて、こっち側についてたりして」


 何のこと、って顔で俺を見るヒデオに、実はキンバリーとナナに面識があることを教える。

 名前を聞き忘れてたから、一人ぼっちの金髪君ということから『金ボッチ』って呼んでたんだよね。


「そ、そう簡単に惚れた腫れたの話に結びつけるでない。とはいえわしは金ボッ……キンバリーの命を救っておるからのう、改心したか何かわからぬが、恩返しと考えれば説明はつくのじゃ」

「キンバリーは俺と戦ってるときも手加減しているみたいだったけど……そっか、そんなことが……」

「それとプロセニアのスパイ……間者じゃが、公爵夫人が元プロセニアの貴族であったと、オーウェンから報告が来ておる。兵士が踏み込んだ際には、公爵を殺害した夫人が自害したあとだったそうじゃがのう」


 続くナナの説明は、公爵令嬢はプロセニアとの連絡に光天教の教会を使っていたことが判明し、ティニオン王国全土に光天教追放令が出たことだった。

 といっても元々信者は少なかったので、教団関係者と信者をまとめてプロセニアに強制移送する方向らしい。


 ちなみに侯爵令嬢の方はヒデオを好き過ぎるあまりの暴挙らしく、背後関係が全くと言っていいほど出てこなかったそうだ。

 好きなのはヒデオではなく英雄としての名声らしいけど、どうでもいいや。

 ただエリー達を殺すためいろんな犯罪組織に依頼してたらしく、それら犯罪組織共々侯爵家はもう存在しない。

 俺とアルトで秘密裏に片付けておいた。


「ナナ、話がそれてる。まずヒデオの話聞こうよ」

「そうじゃったな、すまぬヒデオ」

「良いんだ、公爵令嬢の件とか引っかかってたからね。それでヴァンが出てきて、驚いた俺とキンバリーが斬られた。直後ヴァンがエリー達に撃った光線一発でザイゼンの障壁が壊され、エリー達を逃がそうとしたけど間に合わなくて……ヴァンの光線が三人の胸に直撃したのが……見えた……」


 胸にはダメージなかったような?

 あ、そうか。

 ナナの作った鎧と、ヒデオと一緒に作った指輪のおかげか。

 指輪には頭と胸への攻撃を逸らすような術式入れてるもんね、これどっちか一つだけだったら抜かれてたかもしれないな。


「正直そっから先はよく覚えてないんだ……背中に痛みがあった後、体が動かなくなって……」

「その時ヴァンに背中を刺されたのじゃな。魂破壊の術式が描かれた短剣でのう」


 これで情報のすり合わせはだいたい済んだかな。

 そろそろアネモイも起きてくるだろうし、朝食にしようか。





 ヒデオが起きてから十日。エリー達の健康が確認できたので、朝食後にナナのお腹から子供を戻すことになった。


 術前は寂しそうだったナナだけど、術後はものすごく不機嫌な顔で戻ってきた。 ばつの悪そうな顔したエリー達三人と顔半分を腫らしたヒデオの様子から、何となく理由はわかった。

 またしばらくできなくなるだろうから気持ちはわかるけど、バカだなぁ。子宮に胎児を戻す手術するんだから、やったらバレるに決まってるじゃないか。


 それに人ん家でするんじゃない、なんて俺に言う資格はないか、あははー。




「ね、ねえナナ……これはね、その……ヒデオを元気付けようと思って……」

「ん。私達が襲った」

「ナナちゃんお願い、機嫌直してほしいかも~……」


 お腹が大きくなった三人が、逆にぺたんこになったナナに謝り倒してる。

 ナナは多分ヒデオ殴って満足してるだろうし状況も理解してるだろうから、見た目ほど怒ってないと思うだけどな。

 でも仕方ないなあ、助け舟を出してやるか。


「ナナ、ナオが産気付いたみたいだよ」

「何じゃと!? こうしてはおれん、エリー、サラ、シンディ、急ぐのじゃ!」


 自分は久々に二本の足で歩いてるけど、エリー達は逆に突然お腹が大きくなってるんだ、急がせるのは酷だろ。

 なんて思ってたら、スライムで三人分の移動椅子作って乗せると同時に走り去っていった。


「……慌ただしいなぁ……」

「ですね……。一つ、聞いていいですか? ロックさんは――」

「ん? 他人行儀だなあ、ロックでいいよ?」


 見た目は黒髪黒目の爽やかな好青年だけど、中身ナナとそう変わんないしね。


「じゃあ、ロックは……本物の俺に会ってるんだよな?」

「俺は姿を見ただけだよ。でも本物とか複製とかこだわり過ぎると深みにハマると思うよ? 一号二号とかで良いんじゃない? どっちも同じヒデオだし」

「一号二号って、バイクに乗った昔のテレビヒーローじゃないんだから……はは、でも、そうか……ありがとう、ロック」


 俺とナナ、ヒデオと旧ヒデオの関係は別モンだし、アドバイスが役に立つかどうかわからなけど、俺から見える横顔は少しスッキリした顔になったかな? 反対側腫れてるけど。


 それから向かったのはナナの部屋……じゃなく、使用人たちが使う大部屋だ。

 猫たちの世話はほぼ全て、使用人たちが交代で自主的に見ているからね。

 ナオの周りにいた使用人が俺たちに気付いて下がろうとしたけど、ナナがそれを引き止めた。

 いつも面倒を見てくれている使用人達こそ、一番近くで見るべきだからね。


「ダグはそんな壁際に張り付いてないで、もう少し近くで見ればいいのに」

「う、うるせえ。俺はここで良いんだよ」


 ホントは好きなくせに、くすくす。


「それよりヒデオのツラ、ありゃ何だ? 今度は何したんだよ」

「ナナの八つ当たりがこっちに向くかもしれないけど、それでも聞く?」

「……やめておく」


 それでいいと思う。ナナに聞こえたらきっと俺にまでとばっちりが来る。


 遅れてアネモイとリオ、そしてセレスに捕獲されたグレゴも来て、ダグと同じ質問をしてきた。同じ返事を返しておいたけどリオとセレスは気付いたらしく、くすくす笑ってたよ。


 そのあとは生まれた仔猫に手を出そうとした使用人をナナが止めたり、顔を近づけすぎたアネモイがナオに引っかかれたり、胎盤食べてるナオの行動を俺が説明したりしながら、無事四匹の子猫が生まれましたとさ。

 流石にまだ抱っこはできないから近くで見るだけだけど、ほんと可愛いなあ。


「私達も……元気な子、産まなきゃね……」


 それにしてもエリー達三人は感極まったのか泣きながら仔猫見てるし、ナナは少し寂しそうに三人のお腹見てるし、ヒデオは顔半分腫らしたままつられて泣いてるし、アネモイは俺の腕掴んで潤んだ目で見つめてくるし、若干カオスだねー。


 ま、平和ってことで。


 そのあとヒデオの顔を治してやり、ナナと一緒に二代目ヴァルキリー製造について話をしていると、昼過ぎにミーシャとペトラが戻ってきた。

 この二人は世界樹消失直後から部隊を率い、今日までエスタニア大陸各地を回って魔物狩りをしていたから、まだ俺のことちゃんと教えてないんだよね。

 説明しようとしたらジルとオーウェンもこっち来るって連絡が来たから、ナナと一緒にまとめて説明することにした。


 オーウェンはヒデオ達の無事に喜んだものの、レイアスの死を聞いて言葉を失っていた。ただ複製云々についてはあんまり理解していないみたいで、わからないなりにも問題ないということで話がついた。


 グレゴリーの存在については、ジルが絶句してたけどね。


「ところでオーウェンもジルも、あんまり寝てないんじゃない? 顔色良くないよ?」

「魔物被害は落ち着いたとは言え、人里近くに魔物の群れがいるのは間違いねえからな……ヒデオもエリーたちもいねえとなると、ティニオンで上位の魔物と戦えるのはオレ達だけだからな、そっちに駆り出されてたんだよ。正直ミーシャとペトラがいてくれなかったら、まだ国中走り回ってただろうぜ」


 ヒデオ達が慌てて詫びようとしてたけど、オーウェンは笑って流していた。


「悪いのはヴァンだし、妊婦を働かせるわけにゃいかねえから良いんだよ。だがヒデオだけでも早めにティニオンに戻ってくれると助かるぜ。英雄の名声を使ってでも、国民を安心させてやりてえ」

「わかった、近い内に王宮に顔をだすよ」

「頼んだぜ。それと嬢ちゃん、異界融合の初動でプディングが動いてくれなかったら、とんでもねえ被害が出ていたことは間違いねえ。近いうち親父が直々に礼を言いにこっち着たいって言ってたが、オレからも改めて礼を言わせてくれ」


 何かナナが悪い顔してるけど、オーウェンのお礼って言ったらやっぱあれだよねー。


「ああ、酒ならちゃんと用意してある。少し珍しい、エール酒のように泡が出るワインだ」

「わかっておるではないか、オーウェン。しばらく禁酒しておったからのう、夕食が楽しみなのじゃー、おっさけーおっさけーっ」


 一気に機嫌が良くなったな、お供え物といえばやっぱり酒だよな。

 しかしスパークリングワイン的な? 俺も少し貰おうっと。


「三度の飯より酒好きな嬢ちゃんが禁酒って、何かあったのか?」

「意識不明のエリー達に代わって、ナナが自分のお腹で子供を育ててたんだよね。ちょうど今朝、エリー達のお腹に戻したばかりなんだ」

「……相変わらずやること成すこと出鱈目すぎて、理解が追いつかねえな……。だけどそれと酒って何か関係あんのか?」


 ああ、妊婦に酒タバコ厳禁ってのはこっちじゃ一般的じゃないか。

 ナナと一緒に胎児に及ぼす悪影響について話していると、エリー達も熱心に聞いてた。タバコってこっち来てから見たこと無いけど、ティニオンでもごく一部の貴族の間で似たようなもの吸ってるらしいんだよね。


 あー、タバコで思い出した。

 麻薬関連も法整備しておかなきゃね。

 あとで鑑定スライムうんちょーくんの記録見て、ヤバそうな植物をピックアップしておこう。


「のう、ロック。タバコで思い出したのじゃが……」

「麻薬の件なら俺も思い出したとこ、調べておくよ」

「ふふふ、話が早くて楽じゃのう。頼んだのじゃ」


 だろうね。

 しかし自分の分身ながら、笑顔が可愛いなあ。

 ほんと……ヒルダとノーラの面影、残しすぎだろ……。

 よーし、お兄ちゃん頑張っちゃうぞ―!



 その後はオーウェンからティニオンとプディングとの街道整備についての話になった。

 ティニオンとの国境とした山脈を楽に抜ける道を見つけてあったので、そこを整備する方針だ。この抜け道、光天教の司祭がドラゴンを操りに行った際に使った道らしく、アルト達も結構早い段階で見つけていた。

 そーいや魔物を操る魔道具ねえ……改良したら魔物避けに使えそうだな。あとで可動品探しておこうっと。


「それとすまねえんだが、地と水に熟練した術者を何人か派遣して欲しい。あちこちで井戸が潰れちまっただけじゃなく、水脈も変わってるらしくてよ……早急に井戸を何とかしねえと、市民の生活が立ち行かねえんだ」

「土木術士はこちらでも足りないくらいですが……」


 アルトが手を口に当てて考え込み始めたけど、どっから何人削るか考えてんだろうね。人命に関わることだもん、断るわけがない。

 とはいえブランシェでも一部使えなくなった下水設備の補修と、人口増加による拡張工事の真っ最中だ。土木と農業に従事する魔術師は全然足りてない。


「それなら俺が行こうか?」

「そう……ですね。お願いできますか、ロックさん」


 あれ。意外とすんなり頼まれたよ? ナナみたいに理由つけて却下されると思ったのに。


「そういう事ならわしもゆこうかのう」

「ナナさんはご遠慮ください。王自ら他国に赴いての土木工事など、許されるわけ無いでしょう」

「ぬぐぅ……身重ではなくなったし、わしだけ遊んでおるというのものう……」


 それもそうか、俺は魔王じゃないから自由なんだね。

 ていうか安心しろナナ、仕事せずいつもダラダラプラプラ過ごしているポンコツ古竜だっているんだ。口に出すと夜が怖いから黙ってるけど。


「そんじゃナナには魔道具開発の方頼もうかな? 魔獣操者の杖の現物探して解析して、術式を改変したいんだけど」

「ふうむ……良い魔物避けになりそうじゃのう、任されたのじゃ!」

「ははっ、話が早くて助かるよ」


 さて、ティニオンに行くついでに俺は……アーティオンに行ってくるか。

 あそこは住民が望んだから、異界側のヒルダ集落と融合しちゃってるんだよね。

 人的被害は全く無いけど外壁や建物が木と融合して、ちょっと不思議な雰囲気の街になってる。


 女神誕生の地として信者も結構集まってきてるし、巨大な女神像も造られてるし。ていうか俺が造ってるんだけどね。


 くすくす。


 ついでに皇国のセーナンの状況も聞いておきたいな。

 あそこは皇国で一番大きな女神教神殿ができてるし、そっちに建ててる女神像も進捗が気になる。

 ナナは自分だけ崇められるのを嫌がって、多神教の『神道』にシフトチェンジさせようとしてたけど、まだブランシェですら一般的じゃない。

 多神教なのにまだナナしかいなから、当然だけどね。

 でも今のうちにナナを主神として周知させておけば、今後多神教が浸透してもナナが中心になる。


「ねえロック、何を企んでるのかしら? 悪い顔になってるわよ」

「それはね、アネモイ。きっと気の所為じゃないかな?」


 俺について来るようになったアネモイは巨大ナナ像の存在を知ってるけど、口止めはしてある。

 ナナが喜ぶようなことだから驚かせたいって言ったら、あっさり信じた。


 ほんとチョロいなこのポンコツ。

 そこも可愛いんだけどさ。

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