4章 第41話K 何だよそりゃ
ナナに顔向けできねえ。
合わす顔がねえ。
俺様はレイアスを殺した、ヴァンの共犯だ。
ナナのことだ、きっとヴァンを倒すだろう。
それなら俺様は、俺様にできることをする。
レイアスを抱きしめて泣きそうな顔をしているナナの顔も、これ以上見ていられねえしな……。
そこから立ち去り、その足で監視していた帝国の密偵を切る。
アトリオンの外に隠れていても、臭うんだよ。
このクソが、一体何人の血を吸いやがった。
魔導通信機ごと焼き払い、転移魔法陣を発動させる。
今の俺様なら一日に二回転移できる魔力があるが、それでも帝国に着くまで一ヶ月だ。
それに……帝都直前で一日休んで魔力を回復させねえとな。
いくら騙し討ちでも万全の状態じゃねえと、ゲオルギウス共三人をぶった切るのは無理だろうぜ。
それでも……良くて相打ち、か。
だが俺様はこれ以上クソ共がナナに迷惑かけねえよう、ぶった切るだけだ。
そうでもしなきゃ……ナナが俺様の命を救ったことが、意味のねえもんになっちまう。
しかし何だよあの火柱は……雲に大穴が空きやがったぜ。
きっと……いや、間違いなくありゃあナナの攻撃だろうよ。
あれが光天教の連中が言っていた、神の裁きとかいう奴かもな。
流石にヴァンも粉々だろうよ、ざまあみやがれ。
さて、と……。
ナナに許してもらおうって気はねえし、どうせ許されねえことをしてきたんだ。
最期くらい女神様の為に、俺様の命を使ってやろうじゃねえか。
「くくく、よく戻りましたねえ、キンバリー。異界と地上界が融合したという報告は受けていますが、忌々しいことに想定した破壊と混乱は起きていないようです。何があったのか、報告を聞こうじゃあありませんか」
「な……何で……」
帰還報告を聞いたグレゴリーが背中見せた瞬間にぶった切るつもりだったのに、何で……何でテメエが、出てくるんだ……。
ヴァン!!
まさか女神様が負けたっていうのか!?
それに……ヴァンと同型のゴーレムが、部屋の奥からいくつも出て……何、だよ、これ……。
「おやおや、どうしたんですかキンバリー。顔色が悪いですよ?」
「無理もありませんねえ、どうやら生贄にとどめを刺す瞬間を見学に行った私は、ナナにやられてしまったようですから」
「余計なことをせずにただ見ているだけのつもりでしたが、ナナを見て我慢できなくなったんじゃあないかな?」
「念のためにと持って行った、魂破壊の短剣を使ってみたくなったのかもしれませんねえ」
何で、ゴーレムが全部ヴァンと同じ声、同じ口調で会話してんだ?
「報告せよ、キンバリー。密偵は貴様とレイアスが接触し交戦開始したという報告を最後に、連絡を絶っているのだ。それとこちらのお方は全て、ヴァン様で間違いない」
「ゲ、ゲオルギウス……こりゃどういう、ことだ?」
「ヴァン様はグレゴリーの記憶から、魔石の複製魔術を読み取っておられたのだ。それを使い、ご自身の複製体をお作りになられた」
自分を、複製した、だと?
……何だよそれ、狂ってやがるぜ……。
だが……クソッ! これじゃゲオルギウスを切るどころじゃねえ!!
機を見て……クソが、ヴァン一体でもどうしようもなかったってのに、何体も相手にできるか!
今更死ぬのは怖くもなんともねえが……女神様の為にならねえ無駄死になんか、してたまるかよ!
落ち着け……そうだ、ズボンの右ポケット……女神様から貰った布切れ。
あれから何度もこうして握ってるが……柔らけえ……それに、あったけえ……。
「キンバリー! ヴァン様の御前でポケットに手を入れるとは何事か!」
「ふう……良いじゃねえか、固いことぬかすんじゃねえよ。……報告するぜ。レイアスと交戦中に、ティニオンの協力者が余計な真似してくれてな。そのせいでレイアスの女どもが駆けつけ、一対四で戦っていたところにヴァンが加勢してくれて、皆殺しだ。そこにブチ切れたナナが現れヴァンと戦闘になったんだが、そっから先は俺様もわからねえ。なんせ戦闘に巻き込まれて気を失っていたんでな」
左腕の裾をめくり、一度切られてくっついた部分をヴァンに見せる。
まだ完全に癒着してねえのがちょうどよかったぜ。
誰かの血を吸えば治りも早くなるみてえだが、そんなクソみてえな真似してたまるかよ。
「気付いたら誰の姿もなく監視していた密偵もやられていたから、ヴァンが負けたんじゃねえかと思って真っ直ぐ戻ってきたんだよ。俺様は死体だと思われたのか、捨て置かれたみてえだぜ」
俺様が斬った密偵は、俺様の裏切りまでは報告できてねえらしいな。
なら何とか誤魔化して、ヴァンの近くに居てやろうじゃねえか。
それにどうもヴァンの話からすると、アトリオンに現れたヴァンはやっぱり女神様にやられたらしい。
ざまあみろって言いてえところだが、いくらなんでもこの数相手はやべえだろ。
何とか弱点とか探って、女神様に知らせねえと……。
だが、どうやって?
「つまりそちらに行った私は、レイアスを生贄に世界樹の開放を行ったということですね。しかしオーウェンの名が上がっていないようですが?」
「オーウェンはアトリオンにいなかった。多分王都だろうよ」
「そうでしたか、それは残念。しかし不甲斐ないですねえキンバリー。せっかく強くして差し上げたというのに、足りませんでしたか? 貴方とは長い付き合いですから不問にしますが、次は役に立ってもらいますよ?」
部屋の奥から、また別のヴァンの声が聞こえた。
クソっ、いったいどんだけ増やしてんだよ!
って、次に出てきたヴァンは……見た目こそ、今までのや目の前のゴーレムにそっくりだけど……違う。存在感が別格だ、何だよこれ。
ゴーレムの、素材の差、か?
……こいつが、本体?
「くくく、どうです? この新しい体は。幸い素材もたくさんありますし、今後私は全てこの地の古竜を素材にして、体を作るとしましょうかねえ、ふははははは!」
何だよ、それ……畜生、クソったれが……。
だが悪いことばかりは続かねえらしい。
ヴァンの複製を入れる魔石を作るため、魔素集積装置からとんでもねえ量の魔力を引っ張り出してたらしいが、その魔素集積装置が停止した。
間もなく入ってきた報告に元樽野郎のアデルが慌ててたが、俺様は笑いを堪えるのに必死だったぜ。
アトリオンの世界樹、消滅。
そんな馬鹿げた真似ができるのは女神様くらいなもんだろうよ。
それもヴァンと女神様の戦いがあったその日にうちに消滅したらしいからな、間違いねえだろ。
そんで集められる魔素量が減少したことが、装置停止の原因らしい。
複製を増やせなくなってヴァンが荒れてたが、これ以上気持ち悪いもん増やされてたまるかってんだ。
装置からの魔力供給が止まった恩恵は他にもある。
装置地下に封印されていたらしい、古竜の死体。その素材加工に相当の魔力を使っていたそうだが、それもできなくなったんだとよ。
しかも光天教に何かあったらしく、情報収集ができなくなったって元枯れ枝のベルクマンが青くなってたな。
俺の監視についていた奴の他に何人の密偵があっちの大陸で活動してるのか知らねえが、そう多くはねえはずだぜ。
ざまあみやがれ。
そんでアトリオンの世界樹が消えたことで、ヴァンの計画は大きく変更したらしい。
最初はエスタニア大陸の混乱に乗じて女神様の国に攻め入る予定だったようで、ヴァンは既に吸血鬼兵の大半を西に移動させていた。
だが進軍を中断し、当分の間吸血鬼どもは全て人族のフリをして生活しろだとよ。
「人族を食料として飼い、力を蓄えつつ吸血鬼の支配権を広げさせようじゃあないか。まずは帝国の全土を、吸血鬼で埋め尽くしましょう。ナナの国へ攻め入るのは、それからですねえ。くくく」
だとよ。ああ、胸糞悪い。
「そうそうキンバリー、南西の砂漠地帯になかなか強い者がいて、吸血鬼兵が全滅したそうです。貴方には早速働いてもらおうじゃあないか。砂漠地帯を支配下に置いた暁には、キンバリーにその一体を任せましょう」
他の都市は帝国兵として吸血鬼を侵入させ、大規模な抵抗を受けること無く陥落させたらしいが、そこでは都市に入る前にアンデッドだとバレたらしい。
クソったれが。断ったところで元ジジイの誰かが行くんだろうよ。
それならいっそ、やってやろうじゃねえか。
吸血鬼が吸血鬼を増やした場合、直接血を吸った奴やその上位の吸血鬼の命令は絶対だ。
だが俺様やゲオルギウス達は血を吸われてねえから、ヴァンに支配されてるわけじゃねえ。
ゲオルギウス達は自主的にヴァンに従っているだけが、俺様は違う。
俺様は、ヴァンに心から従うつもりは微塵もねえ。
ヴァンの命令を受けてすぐ、俺様はクソみてえな匂いしかしねえ帝都を出て、砂漠に向かった。
砂漠には大都市が一つと、中規模の都市が二つ。
元々は帝国の支配下にあった、一つの国だ。
帝都から西南西にある大都市に近付くと、固く閉じられた門の前に数十人の兵士が陣取っていた。
俺様に気付いたそいつらの中から曲刀を持った男女の一組が出てきて、こっちに向かってきやがった。
「アンデッドに気付いたのはテメエらか」
「そうだ! 貴様も赤い魔素を纏っているな、アンデッドの手先だな!!」
「いったい帝国はどうなってしまったの!?」
「ああ、魔力視持ちか……道理で。けっ。帝国は吸血鬼と、その餌として生かされてる人間が少しいるだけの、クソ以下の国になっちまったよ」
無造作に間合いを詰めて剣を振る。
いくら英雄っつっても、レイアスの足元にも及ばねえな。
一振りで男の方の両腕を切り落とし、女は手加減した蹴りを入れて吹っ飛ばし、男の頭を掴んで持ち上げその喉に噛み付く。
これが、血の味か……クソ、最悪の気分だぜ!
こんなもん、美味えだなんて思うんじゃねえ!!
女神様のくれた、ハンバーガーの味を思い出せ!!
クソが……二度と……二度とこんなもん、口に入れてたまるかよ……。
その後は吸血鬼化させた砂漠の英雄に命じて、その場にいた兵士全員を吸血鬼化させ、気絶した女英雄の方を担いで都市に入る。
歯向かう野郎どもは全て吸血鬼化させた。
そのまま砂漠の王も吸血鬼化させ、あっさりと砂漠地帯最大の都市は陥落した。
「キンバリー様、隔離施設への収容が終わりました」
「ああ? じゃあ何でテメエはここにいんだよ。テメエも入ってやがれ」
次の砂漠都市に向かうため準備していた俺様に報告に来たのは、砂漠の英雄二人組だ。
「全ての女子供は餌として隔離しろと命令したはずだぜ」
「申し訳ありません、その……彼だけに罪を負わせる訳にはいかないと……」
口を開けた女英雄の犬歯、伸びてんじゃねえか……馬鹿が。
野郎の方も申し訳なさそうにこっち見てんじゃねえよ。
「ちっ。まあいい、吸血鬼化した兵士共はどうなっている」
「ご命令通り自我の残っている者は市民が外に都市の外に出ないよう警備に回り、自我の無い者は都市の外を巡回させています。キンバリー様……貴方の真意に気付いているのは、我々二人だけです。この都市のことはお任せください、必ず市民を守ってみせます」
ここの兵士は全て吸血鬼化させたが、自我が残ってるのは半数ほどだ。
元がある程度強え奴なら、吸血鬼になってもまともに自我を持っていられる。
英雄級の強さがあるなら問題ねえだろうと期待はしていたけどよ、まさか自我どころかそこまで理解してやがるとはな……。
「……ちっ。任せたぜ」
砂漠の英雄二人に都市を任せて、俺は他の都市へ向かう。
あいつらには帝都から兵士が来たら、隔離施設は何としてでも隠し通せと命令してある。
それと万が一女神やその仲間が現れたら、降伏し全て話すようにとも伝えてある。
そういや名前も聞いてねえが、あの二人なら任せても大丈夫だろう。
俺は残った都市をさっさと片付けて、ヴァンのもとに戻らねえと。
何でもいい、ヴァンの情報をとにかく集めなきゃいけねえ。
それと、女神様に知らせる手段だ。
女神様ならきっと、生き残った連中を何とかしてくれる。
…………けっ。
この俺様が、他の人間を助けるために動くとはな……。
それに他人を信用して仕事を任せるなんてな……。
何だって俺様はこんな真似してんだか。
胸クソ悪いけどよ……ヴァンの思い通りに事が進むほうが、もっとクソみてえな気分になるんだからよ、仕方ねえ。
それに……女神様のあんなツラなんて、二度と見たくねえからな……。




