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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
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4章 第40話N 忘れてた

 ヴァンを撃退してから一ヶ月が経っても、エリー達は目を覚まさなかった。

 心臓も呼吸も本来の動きを取り戻し、ピーの補助は必要なくなっていた。

 それでも健康状態を見るためピーを張り付かせ、ブランシェの神殿にはピーの分体であるスライムだけを戻しておいた。


 また四人にはマリエルとヨーゼフの二体を付けて、磨り潰した野菜や竜骨のスープを経口摂取させており、健康状態には何の問題もない。

 食事を摂らせることはできたけど、結局子供は私が預かったままだ。

 それと体が衰えないように、ピーに定期的に微弱な電流を流させ筋肉を刺激している。



 この間に異界と地上界の融合は大きな事故など無く終えたけど、全体的な魔素濃度が上昇したことによる魔物の活性化で、各国ともに対応に追われていた。

 でも非常事態だからとゲートの使用を許可した冒険者ギルドを通して、皇国からも傭兵たちが救援の為に駆けつけてくれたおかげもあって、ティニオンとジース両国での魔物被害は一ヶ月もせずに沈静化していった。


 また融合によって一時的に上昇したエスタニア大陸の魔素濃度だが、世界樹が失われたことによって急速に濃度が低下したことも、魔物の活性化を抑えられた要因だろう。

 これは瘴気を浄化しに行ったロックが教えてくれたんだけど、小規模な瘴気溜まりなら自然に霧散してしまうほど、魔素濃度が低下したらしい。


 世界樹が失われた事はティニオン国内で大きな騒ぎになったけど、ロックが国王イゼルバードとオーウェンを始めとした数名の重鎮を連れ、他の世界樹へと転移して実態を見せてくれた。

 これにより世界樹が力を取り戻してそのまま存在し続けた場合、予想される被害の大きさを感じ、皆絶句しながら納得してくれたそうだ。



 そしてグレゴリーは、ヴァンが潜んでいたのが帝国だったと教えてくれた。

 でもグレゴリーが自分の作った国の不始末は自分で拭いたいと言うから、私達は直接的な介入をしないことにした。


 そもそもヴァンを倒した以上、帝国への興味はない。


 そのグレゴリーはくまのぬいぐるみに入ったままジュリアとニースに連れられ、ブランシェの市街地や服飾工房に魔道具研究所、そして周辺の自然などを自分の目で見て回った。

 魔力視ではない普通の視力で風景を見るたびに何度も泣いていた彼は今、魔石の修復の為に深い眠りについている。

 私自身が以前行った、別の魔石を融合させることによる修復だ。

 以前私がヒルダの魔石と融合した際は目覚めるまで二十日かかったけど、グレゴリーはどれくらいかかるかな。



 アネモイは世界樹を吸収して戻ってから数日間眠り続けていたけど、目覚めるとひたすらにロックが料理した竜の肉を食べさせてもらっていた。

 そのアネモイは、完全にロックにべったりだ。

 少し寂しい気もするけど、祝福してあげるよ。


 何だってそう懐いているのか聞いたら、どうもかなり前からキューちゃんの主人格である、ロックの存在に気付いていたらしい。

 私と同じような感じがするからと、強い親近感を抱いていたそうだ。


 同じ感じがするのも当然だろうな、なんせ私と……元、同一人物なんだから。



 そして自称『私の兄』のロックが話してくれた、ロックの正体や私のことやヒデオのこと。

 私はしばらくの間、その事実を完全に受け入れることができないでいた。


 私は一体何者なのか。

 そして私は何ということをしてしまったのか。

 ヒデオに許してもらえるだろうか。


 話を聞いてからずっと、そんなことばかりを考えていた。


 でもロックが、ヒルダだけでなく私にも感謝していると言ってくれたことと、本物か偽物かじゃなく、ナナとして生き続けた私こそがナナで、ロックは『元』ナナだと割り切っていたことで、私は私自身についてうじうじ考えるのを一旦やめた。


 そしてロックをみんなに紹介して私が複製であると打ち明けた時の、リオの「姉御はヒルダさんの事、恨んでるの?」という何気ない一言が、私を救ってくれた。


 私はヒルダに救われた。

 心から感謝している。

 その私が後悔していたら、ヒルダの好意を踏みにじることになるんじゃないだろうか。


 それに怒るか、恨むか、それとも感謝するかは、ヒデオが決めることだ。

 今私がクヨクヨ考えても仕方がない。



 そのロックはピーちゃんを隷属化させた際に自我を取り戻したらしく、以後私が休んでいる間に義体から抜け出して、アルトと会っていたことも聞かされた。

 そう言えばビデオゴーレムはロックのアイディアを元にして、アルトが作ったものらしい。

 道理で納得だよ。


 ただ、しばらく私の中に隠れたまま、お風呂などでリオやセレスやアネモイ達の裸を見て楽しんでいたようなので、お仕置きとしてスライムのブレスを数十発食らわせておいた。

 私は良いんだ、今は女だから。ふん。



 そして私は、今更ながら自分の体と言うか、義体の大きな問題に直面した。


 ヒデオとエリー達の子をお腹に入れるため、完全生体の義体になったのだ。

 脳が無いせいか眠くはならないんだけど、動けば疲れるし眠くもなる。


 お腹も空く。


 そして飲んだり食べたりしたものは、出さなきゃいけない。


 そう。


 この世界で、初めてのおトイレである。


 それも女の子の体で。


 しかもお腹が大きいから、よく見えない。


 一回目はどうすれば良いかわからず、恥ずかしながらリオに手伝ってもらいながら、した。くすん。

 ニ回目はなんとか自力でやってみようと思ったけど、絶対気付かれないよう細心の注意を払っていたのにセレスにバレ、手伝いを口実にトイレへの侵入を許してしまった。

 セレスには落ち込んでいる私を元気付けようという意図があったのかもしれないが、だからといって後ろから私の両足を抱えて抱き上げるなんて、いくらなんでもひどすぎる。

 三回目でようやく、自力で普通にできるようになった。ただしこの時から、お手洗い前には必ずセレスを拘束してから、という習慣ができてしまった。


 そして最初からメイドゴーレムのマリエルに手伝ってもらえば良かったじゃないかと気付いたのは、だいぶ経ってからだった。私の馬鹿。

 さらに老廃物として排出されるものをスライムで吸収するよう、自分の体を改造すればいいと気付いたのはもっと後だ。ほんと私の馬鹿。



 自分の体を改造して問題が落ち着くと、私はまだ行ったことのない南大陸のものを除く、三本の世界樹全てを吸収した。

 当然お腹の子は危険に晒せないから、義体は世界樹の近くでダグ達に護衛してもらい、ロックをお供に本体であるスライムで直接吸収しに行った。


 これは世界樹からの要望によるものだ。


 世界樹の意識は三本とも死者達の意識に飲み込まれていたが、私が吸収することで一つになり自我を取り戻した。

 これにより残った一本と繋がることができ、五本目の世界樹は吸収せずとも自我を取り戻せたそうだ。

 といっても自発的に何かをしようという気は無いらしく、たまに私と会話をする以外は、私を通して人や世界を見るだけで満足らしい。


 また、常に私と一緒にいることになったので、いつまでも『世界樹』呼びでは可愛そうなので名前をつけた。

 ただ第一候補の『ジュウ』では名前としてどうだろうということで、シュウと命名した。

 一人を除いて「また変な名前を……」という目で私を見るんだけど、何がおかしいんだろうとロックと顔を見合わせて首を傾げてしまった。



 それと四本の世界樹を吸収し終えてしばらくすると、世界中の魔素濃度が低下した。

 今はまだ大きな問題は見られないけれど、いずれは新たな世界樹を作っておいたほうが良いかもしれない。

 魔術が使えなくなるほど魔素濃度が低下しちゃったら、この世界ではデメリットの方が大きいと思う。

 小型の世界樹をたくさん作るのなら、周辺の魔物もそれほど強くはならないだろうし。



 更に時が過ぎ、十一月。


 エリー達の子供は七ヶ月くらいなんだけど、私のお腹はパンパンに膨れ上がり、義体が小さいのと中に三人入っていることもあって、見た目には完全に臨月だ。

 ロックが「犯罪臭がする見た目だ」と言っていたけど、無視しておく。

 鏡を見ると私ですら同じことを思ってしまったが、気にしたら負けだ。

 そして万が一に備えて移動椅子もやめ、首から下を完全スライムで包み、飛行魔術で移動するようになった。

 半透明の水風船から頭だけが出てるような見た目で、ロックとダグがお腹を抱えて笑っていたけど、子供達の安全のためなら見た目なんて二の次だもん。

 くすん。


 そしてこの時私は、自分の大きくなったお腹を見て、ある男のことを思い出した。

 恐る恐るアルトに聞くと、アルトもまた忙しさに翻弄されて忘れていたらしい。




「ほっほっほ、三ヶ月ぶりですかな、ナナ様! 大人の姿も神々しいですが、今のお姿も……おや?」

「すまんのじゃガッソー! 言い訳はせぬ、完全に忘れておった!!」


 慌ててアルトとロックを連れてプロセニアの光天教本殿に飛び、案内された大司教の部屋でガッソーと対面した。

 両隣にぶぞーととーごーを従えてるし、何だか豪華な格好をしていることもあって、ものすごく偉そうだ。


「ナナ様……そのお腹と、スライムに包まれたお姿はいったい何事ですかな!」

「ううむ、話すと長くなるんじゃが……それより何事か、とはわしのセリフじゃ。この三ヶ月で何があったんじゃ? 光天教の者が恐ろしいほど低姿勢でわしらを案内してくれたし、なんぞ以前より若い者が多い気がするのじゃが……」

「わたくしもお聞きしたいことがてんこ盛りですぞ! まずは互いに情報交換と参りましょう!」


 ソファーの上座に案内されたけど座れないので、スライムごと乗ってぷよぷよしながらガッソーと顔を合わせる。


 まずこちらの情報として、ヴァンの復活と討滅、異界と地上界の融合、そして融合が完了するまでの時間稼ぎをしている間に、異界側からプディングの軍で魔物の駆逐を行った事を話した。

 異界との融合については前大司教が残した資料にあったらしく、ガッソーもおおよそは理解していたそうだ。


 そしてこのお腹は、ヴァンの手にかかり意識不明になっている、エリー達の子であることも話した。

 またヒデオも意識不明のままであること、ヴァンとの戦いで私の兄であるロックが姿を表したことも話して紹介する。


 だがロック、なぜガッソーと固い握手を交わしている。

 そしてなぜアルトと三人視線を合わせて頷いたんだ。

 嫌な予感がするなあもう。


 こっちの話が済むと、今度はガッソーだ。


 もうね。


 話を聞いて、衝撃を通り越して乾いた笑いが出たよ。


 今私がいるのは、どうやら()光天教の本殿らしい。


「女神教プロセニア支部には、人種差別を好まぬ者だけが残っておりますぞ! 異界側で魔物と戦っておった半透明の亜人や森人・地人は、ナナ様の手の者であると確信しておりましたからな。あれだけ酷いことをしてもなお我々に救いの手を差し伸べてくださるナナ様の存在を知ったならば、宗旨変えするのはごく自然なことですぞ!」


 ああ、頭が痛い。


 光天教の狂信者や盲信している者達が、問答無用でガッソーに襲いかかったのも原因らしい。

 その全員がぶぞーととーごーによって、完全に無力化されていったそうだ。

 武力で勝てないと知るや神の教えを持ち出してガッソーを説得しようとしたらしいが、光天教の悪事をことごとくバラしたら逃げ出したまま返ってこなくなり、一部始終を見ていた若い信者の多くが宗旨変えしたという。


「プロセニア国内の、女神教に同調する者に声をかけておりますぞ。もちろん差別的な意識の無い者に限りますので数は多くありませぬが……いやはや、わたくしが言うのも何ですが、深く信仰している者ほど厄介ですな!」

「まさか……布教活動をしておるのか?」

「素晴らしきナナ様の存在を正しく広めるのは我が使命ですぞ! とはいえ我々は少数派ですからな。最近は異教徒排斥の動きが強くなりつつあり、短絡的に暴力を振るう者まで出る始末でしたぞ。自分と違う者に対してそれだけを理由に攻撃的になるとは、神を語る資格はありませんなあ」


 ガッソーとしては共存も視野に入れ、このままプロセニアで活動しようと思っていたそうだが、光天教側に共存の意志は微塵も無さそうだ。

 ガッソーと女神教プロセニア支部の者達、そしてガッソーが声をかけたプロセニアの国民。その数、およそ一千人だと。


 何してんのガッソー……。


「いっそブランシェに移住させちゃえば? このままプロセニアにいたら火種になりそうだし、根本的に考え方が合わないのだから相手の考えを改めさせるんじゃなく、関わらずに過ごすという選択肢もあるんじゃないかな」

「そうですね、ナナさん。野人族以外を嫌う者達は、野人族だけで暮らさせれば良いと思います」


 それはそれで、ブランシェで火種になりそうだけど……でもガッソーだけじゃなくファビアンもいるし、その辺りはうまくやりそうな気がする。

 ファビアンのおかげで、プロセニアからの移住者は平和に暮らせているようだし。


「そうじゃな、ロック、アルト……ガッソーもそれでよいな?」

「ええ、ええ。もちろんでございますとも! それともう一点事後報告ですぞ。この本殿内に通信設備を見つけ、万が一を考え破壊しておきましたぞ。各地の神殿はもちろん、帝国とも連絡を取られては面倒ですからな!」

「まあ、そうじゃのう……しかしプロセニアの今後の扱いは……む?」


 ピーちゃんからの連絡だ。

―――マスター・ナナに緊急報告。ヒデオが目を覚ましました。


 転移いいいい!!

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