4章 第36話Ro・N まだ終わっていない
「ねえキューちゃん……異空間に穴を開けられれば良いのよね?」
「アネモイ、何か知ってるのか!?」
振り向いた俺の顔に、目を閉じたアネモイが頭突きをしてきた。
ゴン! って物凄く痛そうな音したけど、何がしたいのアネモイ!?
……って、あれ?
頭突きと言うか、顔面突き?
痛そうに赤くなった鼻と唇が、俺の顔に押し当てられてるのは何?
あれ。……なん、だ?
俺の魔石に、力が流れ込んできた……この力って?
それに力と一緒にアネモイから流れてきてるのは、アネモイの知識の一部か?
……そうか、これなら!!
「……キューちゃんお願い……ナナを助けて……」
俺の頭部から唇を離したアネモイが、そのまま俺から離れるように走っていった。
そしてアネモイの体に闇のカーテンが、って変身するなら先に言って!
慌てて相棒と一緒にアネモイの服を転移させてやると、同時に古竜アネモイの巨体が姿を見せた。
空中をじーっと見つめるアネモイ。
何をするのかは、だいたいわかった。頼んだよ、アネモイ。
ナナは……切り札は残してるが、それ以前ダグにしこたま怒られただろうが。
だけどみんなの蘇生が間に合ってよかったよ。
もし失敗していたら……ナナは躊躇なく自分を巻き込んででも、助けを求めてる魔石も無視してでも、ヴァンを倒そうとしただろうね。
それにしても相棒とナナとの繋がりのおかげでナナの様子が見れるが……くそ!
異空間解除が効かなかったか!!
それより!
(ナナ! 身体強化の限界時間だ、今すぐ強化を解け!!)
やばい、詰みかけてる!!
「アネモイ! やるぞ!!」
「GYAAAAAAA!!」
アネモイの魔素を乱す叫びで、俺の飛行術が消える。
変わりに俺は、さっきアネモイからもらった竜の力で飛行術を発動させる。
『ゴゴゴゴゴ……』
地鳴りのようだが、これは空間が揺れる音だな。
そこへアネモイが高く上げた右手を振り下ろしたら、何もない空中に爪痕がはっきりと残った。
そこが異空間との、境目だな!
身体強化、五倍!!
俺の拳に集まれ、竜の力あああ!!
「うおおおおお!!」
『バリィィィン!!』
アネモイの爪痕に俺の拳が突き刺さると、そこを起点に空間が割れる。
一気に空間のゆらぎが広がり、割れた空間の破片とアネモイが乱した魔素が混ざり合って消え、少し離れたところの空中に、ヴァンが現れた。
「ナナ! ダイジョウブナノ、ナナ!!」
「後は俺に任せて下がってろ! アネモイ!」
ヴァンの顔がこっちを向いて、口を大きく開けた。
避けたらアネモイや地上の皆に当たるけど、そいつも予想済みだよ!
『ギュイィインッ!!』
「やらせない!!」
竜の力で極厚特大の空間障壁を作り、ブレスを斜め後ろに逸らす!
『バリバリバリバリ!!』
(ナナ、俺もお前と同じ手を使う! 仕留めろ!)
――わかった、まかせて。
余裕でブレスを弾く俺を見て、ヴァンは憎々しげにブレスを止めた。
危なかった……アネモイの竜の力ってとんでもなく魔力使うな、身体強化解除。
もう魔力がほとんど空だけど、バレないようにしようっと。
「姉御!!」
「ナナちゃん!?」
地面に落ちたヴァルキリーを見て、リオとセレスが悲痛な叫びを上げた。
あんなにボロボロになるなんて……くっ。
「ふははははは! まさか異空間を割るとは、驚かせてくれますねえ。おっと、下手に動かないで下さい。ナナの魔石が砕けても良いと言うのなら、止めませんけどね!!」
「おい……あいつが持ってる魔鋼の玉って……」
「まさか……ヴァルキリーの中にあるはずの、ナナさんの……魔石容器……」
リオもセレスもダグもアルトも、ヴァンの手にある容器を見ながら固まっている。
四人が動き出す前にカタをつける! 転移!!
「なにっ!?」
ヴァンの目の前に戦闘ロボ義体を転移させて、左拳で殴りかかる。
盾にするつもりだったのか、ナナの魔石容器を拳の前に出してきたので、拳を止めてヴァンの右手首を握らせる。
ミシミシ、とヴァンの手首と容器が歪む音が聞こえるが、そのまま右手でもヴァンの首を掴ませる。
「おや、私がナナを握りつぶすのが早いか、貴方が手首を握りつぶすのが早いか、勝負でもするつもりでしょうか? くくく、貴方は馬鹿なんじゃあないか!?」
ヴァンの口から細い光のブレスが、周囲から光線が発生し、義体が一瞬にして穴だらけになった。
勝ち誇ったようににやけてるけど、お前の負けだよ。
衝撃を感じた瞬間、すべての感覚がかき消えた。
――――
私の方を向いてブレスを撃とうとしていたヴァンが向きを変え、アネモイとロックめがけて口を開いた。
叫びそうになった瞬間、ロックが見たこともない強度の空間障壁を張って、余裕で防いでみせた。
よかった……でもロック、もの凄い勢いで魔力減ってるよ!!
――ナナ、俺もお前と同じ手を使う! 仕留めろ!
わかった、まかせて。
ロックは落ち着いてるから、きっと大丈夫。
信じて任せて自分の仕事をこなそう。
そして転移したロックの義体がヴァンに殴りかかり、打ち合わせどおりヴァンを捕まえた。
「おや、私がナナを握りつぶすのが早いか、貴方が手首を握りつぶすのが早いか、勝負でもするつもりでしょうか? くくく、貴方は馬鹿なんじゃあないか!?」
いくつもの光がロックの義体を貫くのを見ながら、私は地上の真っ赤なスライムから出てハチの照準を合わせる。
装填しているのは、特殊弾頭。
周りはブレス器官をいくつも内部に構築させた、血の海に偽装したスライム。
ハチと同時にブレス斉射だ! 滅びろ、ヴァン!!
『ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!!』
高圧縮した火の魔素を詰めた特殊弾頭が、ヴァンのほぼ真下から直撃した。
そこに追い打ちをかけるブレスの絨毯が、砕けたヴァンとロックの義体を飲み込み、潰し、砕き、切り刻み、消し炭にしていく。
「あ……姉御!!」
「ナナちゃん!?」
ここでようやくノーマル義体に入った私の存在に気づいたリオとセレスが、叫びながらこっちに走ってきた。
それを見ながら、近くに転がっているヴァルキリーの残骸から、ヴァンから奪ったひび割れた魔石と割れた仮面を回収し、魔石は一時空間庫へ、仮面は自分に付ける。
無数のブレスに打ち上げられて、ロックの義体は跡形もなく粉々だ。
ヴァンの体も粉々だけど、魔石視の仮面でよく見てみると、数百メートルほど上空に吹き飛んだヴァンの頭を見つけた。
特殊弾頭が当たった直後に、私の攻撃を真似て魔素をまとったのは視えていた。
あの一瞬で防御に使うなんて、本当にとんでもない奴だ。
それがなきゃ完全に消し炭になってたのに。
ロック、頼んでいい?
――おっけー任された。
痛みは収まってきたけど、まだ体動かすのもちょっときついや。
「姉御おおおおお!!」
「ナナちゃん!!」
「ぬお! これ、止まらぬか!! ぐへっ!?」
飛びついてきた二人にふっ飛ばされ、三人まとめて血の海スライムの上に落ちてぼよーんってなった。
体動かしづらいんだから、下がスライムじゃなかったら大惨事だよ、もう。
抱きついたまま号泣する二人の頭を撫でてると、アルトとダグも走ってこっち来た。
「よかった……ナナさん、無事だったんですね」
「ナナてめえ……無茶しやがって……」
「ほんと、心臓止まるかと思ったよ。心臓無いけどね!」
ん? アルトとダグに……ロックか? これ。
ヴァンの頭を掴んで降りてきたんだね、ダグとアルトがびっくりしてるじゃないか。
「ロックもお疲れ様なのじゃ。ところで何でおぬしパンイチなんじゃ。露出の趣味でもあるのかのう?」
「いやあ、身体はこっそり作れたんだけど、服までは作る余裕が無くってね」
黒のブーメランパンツ一枚だけという変態は、ダグに似た高身長細マッチョで、黒のロン毛に黒目のイケメンだ。なんか地球にそっくりな俳優いたな。
ところでヴァンの頭の上に乗ってるミニスライムは何だ。
んぱっ、んぱっ、って変な音も聞こえてるけど何してんの。
「あ、これ? ヴァンに逃げられないように、魔石周りの魔素を乱してるだけだから気にしなくていいよ」
ああ、そういう事か。
「じゃあヴァンの処分は任せ――ぐっはぁ!」
喋ってる途中のロックの背中に、ものすごい勢いで緑と肌色の何かが激突した。
ていうか、全裸のアネモイだ。
「キューちゃん、キューちゃんキューちゃんキューちゃん! うわあああああん!!」
「せ、背骨が外れるかと……ってアネモイ!? 服を着ろおお!!」
アネモイの突撃でヴァンの頭が転がったけど、ミニスライムは張り付いたままだ。
そのヴァンの目が、ギロッとこっちを見た。
「な、ぜ……ですか……。貴女の魔石は、私が握っていた、はず……」
「おぬしが握っておったのは、空の魔石入れじゃよ。ミドルスライムを転移させてけしかけた時に、それに紛れさせてわし本体はこの血の海へ転移させておったからのう。おぬしの敗因は、ヴァルキリーと本体をつなぐ細い魔力線に気づけなかった事と、この血の海じゃ」
周りの真っ赤なスライムをぷるるんと動かして、ヴァンに見せつける。
ふふふん。
「この赤いの、全部スライムなんじゃがのう、ヴァルキリーの体積以上に出血し続けているのを、おかしいとは思わんかったのか? 馬鹿め」
「ぐっ……貴方がスライム風情だということを、失念していましたよ……」
「ついでに言えば、俺も最後に殴りかかった時、目の前に転移したのは魔石を入れてない体だけだからね。ってアネモイそろそろ離れて服を着ろおお!!」
ビクッとして離れたアネモイに一瞬で服が着せられた。
ロックかキューがやったのかな。
全裸のアネモイがほぼ全裸のロックに抱きついている姿のおかげで、緊張感が完全に無くなってたからね。良いんだか悪いんだか。
そして服を着たアネモイは私に気づき、今度はこっちに突進してきた。
「ナナ! ナナ、ナナ、ナナあああ!! うわあああああん!!」
ああもう。
リオとセレスに加えてアネモイに抱きつかれ押し潰され号泣されながらと、なんとも締まらないけど……決着はついたよ。
そして絶句しているらしいヴァンの頭を、ダグが拾ってニヤリと笑った。
「ナナ、俺達でこいつぶっ壊していいな?」
「そうじゃのう、直接壊したいところじゃが……任せたのじゃ」
「お任せ下さい。二度と復活できないように、跡形もなく粉々にして磨り潰しておきます」
本音は自分の手で粉々に砕きたい。
でもアネモイの鼻水まみれの泣き顔見たら、力が抜けちゃったよ。
ヒデオ達も蘇生できたと思うし……任せて良いか。
ダグがヴァンの頭部から魔鋼の外皮を剥がしはじめ、間もなく魔石がむき出しになった。
そこにダグが手を伸ばした時、違和感に気づいた。
ヴァンに対してじゃない。何というか、空気感?
『ゴ……ゴゴゴ……ゴゴ……』
空間が、揺れてる?
それも、この辺りだけじゃない??
「は、ははは! もう異界の消滅は止められませんよ! この大陸で、何万、いや何十万人が死ぬんでしょうねえ!」
「しまった……世界樹が作った異空間、異界が……解除されておるのか……?」
「大事な貴女の国の者も、たくさん死ぬんでしょうねえ。ふははははは! 見届けられないのが残念で――」
『バキッ!!』
「……うるせえよ」
激怒した顔のダグの拳が、ヴァンの魔石を一撃で砕いていた。
アルトは無言のまま、その魔石を魔術で切り刻み、砕き、磨り潰している。
視るとヴァンの魂の魔素らしい物も、あっという間に霧散して消え去っていった。
今度こそ確実に、ヴァンの消滅を確認した。
ヒルダ、ノーラ。下らないものを見せてごめんね。
「ナナ、悔しいけどヴァンが言ったことは本当だよ。さっき世界樹を見たら、異空間生成魔術の破壊術式が……発動してた」
あっけない最期だったけど、これでいい。
これ以上、ヴァンに構っている暇はない。
ヴァンの思い通りの結末なんて、絶対に許さない。




