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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
182/231

4章 第35話N・Ro 劣勢

「これで誰にも邪魔をされず、ゆっくり貴女と戦えますねえ!」

「くっ……しかしヴァン、おぬしも相当やられたようじゃのう? 左手と尻尾は千切れとるし、顔の形もずいぶん変わっておるではないか。わしの兄はどうじゃった?」

「……本当に、腹立たしいですね……スライム風情が、調子に乗るんじゃあない!!」


 突っ込んできたヴァンの剣をトンファーで受け流し、カウンターを叩き込む。

 だが同時にヴァンの前蹴りが、私の腹にめり込んだ。


 速い! そして、重い!


――おいナナ! ナナ!!

 聞こえてるよ、ロック。ヴァンの異空間化魔術に捕まったんだけど、術者以外が解除する方法って無いかな。……ヒデオに刺さってた短剣が、世界樹が作った異界を解除するための術に関係しているらしいんだけど、調べてもらえるかな。


――わかった、無理するなよ! 身体強化使わないとヴァンの動きについていけないだろうけど、制限時間があるんだからな! それに、俺もピーもナナの体から離れてるんだ、魔力がいつもの半分しかないの忘れるなよ!

 うう、魔術行使の支援は……大丈夫だね、よかった。

 一人で全部やりながら戦うとなったら、ほんとに危ないところだった。


 とりあえず……思いっきりぶっ飛ばす!

 身体強化術、三倍!!


「なにっ!?」

『ドゴン!!』


 予備動作無しで間合いを詰めて顔面を殴ったつもりだが、左腕でガードしやがった。

 でも腕一本、貰ったぞ!


「ふっ!」


 ヴァンがバランスを崩しながらも、上段から下段、中段と凄まじい速度で剣を振るった。

 だけど何度も見てるよ、その剣筋は!

 防御してカウンターを、ってヴァンが消えた? 後ろ!?


『スパッ!』

「んなっ!」


 転移が、早い! それにトンファーで防いだはずなのに、左腕ごと斬り飛ばされた、だと?

 一瞬激痛を感じたけどすぐに感覚を遮断し、サイドステップで距離を、って何かにぶつかった? 空間障壁!?


「ふははははは! どうです、自分の技で追い詰められるというのは!!」


 突きの軌道をトンファーでそらし、ヴァンが張った障壁を破壊してなんとか距離を取れた。

 やばいこれ、今の突きでトンファーに切れ目が入ったみたいだ。

 左のトンファーもさっきの三連撃で削られてたってことか。


――まてこらナナ! 時間稼ぎしろおおお!! 気持ちはわかるけど冷静になれ!

 ごめんロック、一発で仕留めるつもりだったんだけどなあ。それに冷静だよ?

 ……怒ってるけど。


「それにしても貴女は、毎回毎回毎回毎回私の左腕を! ……ですが今回はどうやら痛み分けのようですねえ、ナァナァ?」

「その気持ち悪い呼び方をやめんか。何じゃ、舌でも腐っておるんかのう?」


 一旦下がって、身体強化の倍率を下げる。

 外への転移は……やっぱり無理か。見えてる範囲ならともかく、現在地の座標情報を把握して転移可能になるまで、少し時間がかかるな。

 仕方ない、このまま畳み掛けたいけれど。

 私の手でぶっ飛ばしたいけれど!

 ヒデオの代わりに仇を討ちたいけれども!!

 ……ロックやアルト達を信じて、時間稼ぎに徹しよう。


 でもあの剣を何とかしないと、近接戦闘は分が悪い。

 それに魔術もヴァンが知っている魔術以外、使わないほうが良さそうだ。

 そうなると、距離をとってスライム中心で戦うしか無いか。


「減らず口を! ……まあ、良いでしょう。ナナ、私はね……嬉しいんですよ。こうして誰にも邪魔されることない空間で、貴女と二人っきりでいられることがねえ……別空間を作る魔術などという、面白い魔術を見せてくれた貴女の兄に感謝しますよ!」

「うわあ……口説かれてるみたいで気持ち悪いのじゃ。鳥肌が立ちそうなのじゃ。気持ち悪すぎて吐きそうなのじゃ。その汚い口を閉じてくれんかのう?」

「くくく、つれないですねえ。ようやく……ようやく貴女と、互角以上の力を手に入れました。ここで、ゆっくり、じっくりといたぶって、死なせてくれと懇願するようになるまで、貴女の魔石を少しずつ削って差し上げましょう!」


 悪趣味すぎ。


 ヴァンがかっこつけて、剣を振って刀身についた私の血を振り払い、切っ先を私に向けてきた。


 私も左腕の出血を止め……いや。


 このまま垂れ流しにしておこう。






――――






 畜生! ヴァンめ、俺が使った異空間生成魔術を真似しやがった!!


「な、何だテメエは!?」

「落ち着いて下さいダグ。キューさん……いえ、ロックさんですね? ナナさんとヴァンはどこですか?」

「俺が異空間を解いた時、ナナより速くヴァンが異空間を作りやがった。……ナナは今、ヴァンの作った異空間にいる」


(おいナナ! ナナ!!)

――聞こえてるよ、ロック。ヴァンの異空間化魔術に捕まったんだけど、術者以外が解除する方法って無いかな。……ヒデオに刺さってた短剣が、世界樹が作った異界を解除するための術に関係しているらしいんだけど、調べてもらえるかな。


(わかった、無理するなよ! 身体強化使わないとヴァンの動きについていけないだろうけど、制限時間があるんだからな! それに、俺もピーもナナの体から離れてるんだ、魔力がいつもの半分しかないの忘れるなよ!)

――うう、魔術行使の支援は……大丈夫だね、よかった。


 相棒、可能な限りナナの支援をしてやってくれ。別空間だけどできるな?

―――承知しました。


「ヒデオに刺さってた短剣ってどこだ!? 異空間化の解除術式が描かれてるかもしれない!!」


 ヒデオはどこ、って緑色の何かが飛びついてきたよ?


「キューちゃん! キューちゃん無事でよかったわ!! ねえ、ナナは? ナナはどこなの!?」

「俺はキューじゃなくてロック……って、その話は後だ! アネモイ、その辺に短剣が落ちてなかったか?」

「短剣ってこれのことー!?」


 ピーの近くにいたリオが掲げてる短剣、多分それだ!


「でかしたリオ! ……ってアネモイ! あああもう!!」


 アネモイが抱きついて離れないから、引きずってリオのとこへ行くしか無い。

 左足がなくて立てないから体を浮かせてるけど、移動を始めたらアネモイめ全体重かけてしがみつきやがった。全くもう。


 ……って、ナナの馬鹿! 何三倍強化とかしちゃってんの!!


(まてこらナナ! 時間稼ぎしろおおお!! 気持ちはわかるけど冷静になれ!)

――ごめんロック、一発で仕留めるつもりだったんだけどなあ。それに冷静だよ?


 絶対に冷静じゃないよあの子……早く何とかしないと。

 三倍強化ならヴァンの身体能力を上回れるけど、とどめを刺すまできっともたない。


 リオから短剣を受け取り、全員の視線が刺さってるけど気にせず解析だ。

 相棒!

―――術式解析。術式1、魔力を集め対になる魔法陣へ転移させる術式。術式2、魂魄を破壊する術式。


 魂魄破壊……くそ、こいつは後回しだ!

 魂の破壊時に発生した魔力を転送する仕組みか、対になる魔法陣ってどこだ、相棒!

―――位置情報確認。……把握。アトリオン世界樹の根本です。


 感覚転移……世界樹の根本に、短剣が刺さって……いや、挟まってるな。

 これに描かれてる魔法陣の術式は魔力の受け取りと、あと二つ……こっちか?

―――魔術破壊の術式と推測。


 見つけた!

 って待てよこれ……破壊術式が、発動してるじゃないか!

 異界が、地上と融合する!?

 ああもう、問題山積みだなあ!!


 とりあえずヴァンを倒さなきゃ。

 この術式だと……発動している相手に、直接触れる必要があるか?


(ナナ、異空間を解除する術式の情報を送る! ヴァンに触れて発動させろ!)

――おおロック早いね、助かるよ。でも、触れるのは厳しいなあ……ぐっ……。


(お、おいナナ!)

――大丈夫、ちょっと体に穴が空いただけ。とにかくやってみるよ。


 全然大丈夫じゃないじゃん!

 くそ、こっちからも何とか開ける手段考えないと!


「ねえキューちゃん……異空間に穴を開けられれば良いのよね?」

「アネモイ、何か知ってるのか!?」


 振り向いた俺の顔に、目を閉じたアネモイが頭突きをしてきた。

 ゴン! って物凄く痛そうな音したけど、何がしたいのアネモイ!?






――――






 高速飛行しながらのスライム戦に持ち込んでみたけれど、これもかなり分が悪い。

 ヴァンの光線魔術、滅茶苦茶タチが悪くなってる。


 ブレス器官を内蔵した中型スライムを四体出して、触れると爆発するバブルブレスと空間障壁でヴァンの行動を制限してみたものの、バブルどころかスライムも拡散する光線と曲がる光線に次々撃ち落とされ、障壁は簡単に破壊された。

 スライムの攻撃のいくつかは直撃しているが、魔鋼製だと思われる鎧を削るのが精一杯だ。

 前回同様に斬られる度に剣を吸収して折ってやろうと思ったけど、流石にそこまで馬鹿じゃなかったし、そもそも魔鋼製の剣らしく簡単には折れない。


 正直甘く見すぎていた。


 ヴァンの魔術の発動速度からして、かなり高いレベルで魔力視を会得しているのは間違いない。

 下手にヴァンが知らない魔術を使うと、簡単に真似されてしまう。


 ぶぞーととーごーを置いてきてしまったことも痛いが、一番痛いのは身体強化術を真似されていることだ。

 皇国で戦った時に、さんざん見せちゃったからな。

 強化倍率が高くないのが、せめてもの救いか。


 私も拡散する光線と曲がる光線は視て覚えたけれど、乗せる魔力量の違いなのか一発一発の威力が違う。

 空間障壁も同じで、私より作るのが若干硬い。

 飛行速度はこっちが上だけど、どっちも転移があるからあまり意味がない。


 高速飛行と転移を繰り返しながら空中で戦いを続けているが、気がつけば手足や体にいくつも穴を開けられ何度も斬られ、体中が傷だらけだ。

 対魔術・耐刃性能が高い新調したコートが無ければ、とっくに活動不能レベルのダメージを受けていたかもしれない。


(助けて……)


 しかもたまに聞こえる、この少年のような声。

 ロックが言ってたのはこれか。

 ヴァンから伸びてくる魔力線を防ぐ度に、ほんの一瞬「死ね」とか「壊れろ」とか聞こえてくるんだけど、たまにさっきの「助けて」が混じる。


 誰か知らないけど、ほっとくわけにはいかないか。

 また撃ち落とされた中型スライムの代わりを出し、高速飛行させて地水火風の四属性のブレスにバブル、目眩ましのミストを放つ。

 ヴァンが真似できない攻撃で、何とか削るしか無い。



――ナナ、異空間を解除する術式の情報を送る! ヴァンに触れて発動させろ!

 おおロック早いね、助かるよ。でも、触れるのは厳しいなあ……ぐっ……。


 転移してきたヴァンの剣を避けるが、同時に撃たれた光線が障壁を貫通し、胸に穴を開けた。

 どぼどぼと溢れる血が地上へと落ち、大きな血溜まりを作っていく。


――お、おいナナ!

 大丈夫、ちょっと体に穴が空いただけ。とにかくやってみるよ。


「おっと危ない。胸に貴女の魔石が入っていたら、勝負がついてしまうところでしたよ。しかしそこに入っていないとなると、頭か、お腹でしょうかねえ?」

「乙女の体を詮索するなど、デリカシーのない男じゃのう。もしかしておぬし、女にモテたことが無いじゃろ? ヒルダとの関係も、ただの交換条件に過ぎぬしのう?」


 返事の代わりに何条もの光線が飛んできた。

 細い光線のいくつかは回避も間に合わず障壁も貫通し、私の体に穴を開けた。


 悔しいけど、戦闘能力はヴァンのほうが上だ。


 正直私より強い相手なんか現れないだろうと、タカをくくっていた。

 皇国での戦闘時も、最初から本気で戦っていれば余裕で勝てたはずだった。


 でも今は近接戦闘を封じられ、魔術戦闘を制限され、圧倒的に不利な状況だ。

 ハチも一度見られているし、普通に撃っても避けられて終わりだろう。


 この状況は、私の傲慢さと甘さが原因だ。


 でも、やるしかない。


 ここからは一発勝負だ。


 集中!


 まずは仮面を取り出し、ミドルスライムをランダムに転移させながらヴァンにけしかけて時間稼ぎ。その間に()()も転移して、ヴァンと距離を取る。

 そしてヴァルキリーを()()()()仮面を付ける。

 視たところ、ヴァンの魔石は……頭に一つ、胸に二つ、腹に一つ、って四つも入ってるのかよ!


「おや、懐かしいですねえ、その仮面。貴女がまだ小さな、ノーラに似たゴーレムを使っている時に付けていましたねえ。その仮面を見ると……私が貴女に殺された時のことを思い出して、不愉快になりますよ!」


 馬鹿の一つ覚えのように私の後ろに転移したヴァンの剣が、振り返ったヴァルキリーの頭に振り下ろされた。


 この仮面を付けたら、顔か頭を狙ってくるだろうと思ってたよ。

 頭にめり込んだ剣が、魔鋼製の頭蓋骨を切り裂き、仮面の半分ぐらいまで断ち切った。

 でも魔石はそこから移動済みだ!


「かかったな、ヴァン!」


 身体強化術、三倍!!

 更に拳に魔素を集め、貫通力を上げる!

 ヴァルキリーの右拳をヴァンの腹にぶち込み、まずは表面の魔鋼を砕く!


『グシャッ!』


 トンファーだけじゃなくヴァルキリーの右拳も潰れたけれど、構うか!

 そのまま割れたヴァンの腹に手を突っ込み、そこにある魔石を掴む。

 手が潰れて握力が弱いから、スライムも出して魔石を確保!


 ここだ! 異空間解除術式、発動!!


 ……しない!?


「ふ、ふはは! 私の予備の魔力入れを掴んで、何がしたいのですか、ナァナァ!?」


 ヴァンの膝蹴りがヴァルキリーの腹にめり込み、その勢いで弾き飛ばされた。

 助けを求めてる魔石は回収できたけど、何で異空間解除に失敗したの!?


(だめ、だ……それは、術者本体に触れなきゃ、効果がない……。ヴァンの本体は、魔石だよ……)


 な、なんだって!

 ていうか、声……思考? 魔素に乗せてスライムに流してる?


(聞こえて、る……? ヴァン本体である魔石に触れて、発動させるんだ……)


 そこに触れられるくらいなら、解除じゃなくてぶっ壊すよ!

 って、こっちの声は伝わらないのか、魔力線を繋――ぐのは後だ!

 ごめん今繋いだらヴァンに()()()()がバレる!

――ナナ! 身体強化の限界時間だ、今すぐ強化を解け!!


 今解いたら追い込まれて終わりだ、こうなったら!


「ヴァアアアアン!」

「ふははははは! 自棄でも起しましたか!! 胸でも頭でもないなら、貴女の魔石は――」


 ロックの声を聞き流して空間障壁の足場を蹴り、ヴァルキリーを突っ込ませて魔素をまとった蹴りを繰り出す。

 頭への蹴りは避けられたけど、回転して放った二発目が、ヴァンの胸に突き刺さった。

 ヴァンの胸の魔石が二つとも砕けたのが見えた。でも代わりに、ヴァンにめり込んだ右足が切り落とされた。


 ヴァンの本体は頭の方、だったか。くそう、ここまで、か……。


 くそ、くそ、くそ!!


 限界を超えたせいか、魔力過多症そっくりの痛みが全身に走ってる。

 身体強化術も、維持できなくなった。


 そこにヴァンが、ヴァルキリーの首へと深く剣を突き刺した。

 剣から手を離したヴァンが、ヴァルキリーの腹へと掌を突き立てる。


「ここ、ですね?」


 ぶちぶちっと音を立ててヴァンが引っこ抜いたものは、お腹に魔石を収めるための魔鋼製の入れ物だ。


「ナァナァ、とうとう貴女の本体に、手が届きましたよ! ふははははは、はぁーっはっはっは!! どんな気分ですか、ナァナァ? 転移しようとしても無駄ですからね? その瞬間に、この入れ物ごと握りつぶして差し上げますよ! ふははははは!!」


 首の千切れかけたヴァルキリーが、剣が刺さったままゆっくりと地上へ落ちていく。


「万が一も許しませんよ! 貴女の体は完全に破壊しておこうじゃあないか!!」


 ヴァルキリーに顔を向けるヴァンの口に、魔素が集まる。

 皇国で見た、極太光線のブレスか。

 これ、詰んだかもしれない……くそっ!


『ゴゴゴゴゴ……』


 ん? 何だ地震、じゃない……空間が、揺れてる?


『バリィィィン!!』


 って、何だ? 空が割れた!?

 そこから出てきた緑色のドラゴンって、アネモイ!?


「ナナ! ダイジョウブナノ、ナナ!!」


 これアネモイがやったの!?

 って、だめ! ヴァンのブレスが、アネモイに!!

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