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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
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4章 第32話N そんな馬鹿な

 私に抱きついてコートに涙と鼻水をなすりつけていたアネモイだが、私の方は落ち着いたというのに泣き止む気配がまるで無い。

 それどころか辺りを見回し、より悲しそうな顔になっている。


「ねえナナ……ぐすん。ここ、人がたくさん死んでるわ……とても嫌な場所なの……」

「アネモイおぬし、なぜそれを……魔力視かのう?」


 遺体も血痕も拷問道具も、皆が来る前に全て吸収し終わっている。

 となると、アネモイが視線を漂わせる空中になにかある?


 魔力視の出力を上げてみる。

 視力を上書きし魔素の色以外が全て消え、全ての輪郭とその内部が見えて来て、空中の魔素の色と様子が変わってきた。

 様々な色を内包したいくつもの魔素の塊が、そこら中に無数に漂っている。


 キューちゃん、この魔素はもしかして……。

―――人の記憶や感情を内包する、魂の魔素と酷似しています。


 やっぱりそうか。

 百や二百で済まない数が漂っているじゃないか、アネモイはこれを視たんだね。


「……ここは哀しい場所じゃ。先に進むとしようかの」


 魔力視を通常の出力に戻し、目を閉じて死者へ祈りを捧げよう。

 助けてあげられなくてごめんなさい。

 宣戦布告なんてせず真っ直ぐ光天教を潰しに来ていたら、もう何人かは助けられたんだろうか。

 せめてもの詫びに、あなた達の無念は晴らします。


 祈りを終えて目を開けると、トロイが側で膝をついて待っていた。


「ナナ様。奥の扉の先は上層まで続く階段となっており、大司教の部屋へと繋がっています。それとそこで手足を失い転がっているのが、大司教本人でございます」

「ご苦労さまなのじゃ、トロイ。だ、そうじゃが……ガッソー。トドメを刺すかのう?」

「ほっほっほ……いい気味、ですぞ。……放って置いても息絶えるでしょうな、無視して先に進むことを、進言いたしますぞ。大司教の執務室なら、帝国との繋がりについて明確な証拠が出るやも知れませぬぞ! ……げほっ、げほっげほっ!」


 ああもう、張り切り過ぎだよガッソー。トロイが駆け寄ってアルトに代わって肩を貸してあげたけど、歩くのも辛そうだね。

 とりあえずここから移動したら、ドラゴンの骨で出汁をとったスープでも飲ませてやろう。

 あれ体力回復の効果があるからね。


「自らの手で復讐を遂げずともよいのじゃな?」

「ナナ様が、アルト殿が、皆様が来てくださいました時点で、わたくしの勝利ですぞ。ほっほっほ」


 タチの悪い策士だよ。まったくもう。


 で、だ。その大司教だけど目が覚めたようだ。


「う、うああ……」

「ほっほっほ、お目覚めですかな、大司教殿」

「き……貴様、ガッソー! 光天の神を裏切ったか!!」


 言葉は偉そうだけど、凍ったままの肘と太ももを使って、器用に四足で逃げる大司教格好悪い。

 というか変なものを揺らすな。渇いた血でどす黒く染まって見えにくいとはいえ、汚いものをアネモイに見せるんじゃない。

 すっかり忘れてたけど、こいつ全裸だった。


「先にわたくしを裏切ったのは、光天の神と大司教……貴方ですぞ? それに真なる神とそのご加護は、女神ナナ様とともにおられるのですぞ!!」


 ……ガッソーとファビアンを合流させるのは危険かもしれない。

 やってもらいたいことがあるんだけど、考え直すべきだろうか。


 なんて考えているうちに四足で逃げていった大司教は、隅っこに畳んであった服に顔を突っ込んでいる。自分のパンツに顔を埋めるとか変態か。変態なのか。

 やっぱりちゃんとトドメを刺しておいたほうが良いんじゃないか。


『ぱきんっ』


 ん? 何かが割れる音?


「は、ははは、油断したな!」


 顔を上げた大司教の口からどす黒い液体が漏れてるし、パンツも真っ黒に染まってる。

 ……ポーション瓶を、噛み割ったのか?

 その効果なのか大司教の手足の氷が割れ、肉が盛り上がってきたかと思ったら再生しやがった。


「見よ! 失った手足など、どうとでもなるわ!! ふはは、はあっ!」


 急に背中を向けた大司教のどす黒いケツが、だらしなく揺れている。

 気合とともにかかってくると思わせて即逃げるとか、憎たらしいほど良い判断だとは思うけどさあ……。


『パキョンッ!』

「かぱっ!」


 ダグが腕を振ったら、大司教の頭の上半分が吹っ飛んだ。

 ああ、さっきのもこれか。

 ただの石を投げるだけで、どんだけの破壊力だよ。


「ダグ、グロいのじゃ。あそこまで豪快に吹き飛ばさんでもよかろう」

「て、てめえがそれを言うか……」


 ダグの視線の先に、私がここで最初に頭を潰した死体がある。

 ダグが処分した二体ほど、のーみそは飛び散ってないもん。


「ん、うが、げ、えが、ご……」


 ん? 大司教の体が動いてる?


「頭と手足から肉が増殖していますね。再生能力の暴走でしょうか?」


 警戒しながら見ていたら、一分もしないうちに肉の塊になった元大司教は動かなくなった。

 増え続けるようなら焼くかスライムで吸収しようと思ったけど、必要なさそうだね。


「なんともはや、まともに遺体も残らぬとは。お似合いの死に方ですぞ、大司教」


 最後に全員で、この場で亡くなった全ての人に対して祈りを捧げて扉をくぐる。

 大司教達は人でなしだからカウントしてやるものか。


 そして階段を八人で登る、なんてことはせずに飛行魔術で一気に上る。

 大雑把な制御しか出来ないけど、この人数なら余裕だね。



 大司教の部屋につくとまずはガッソーにドラゴンスープを飲ませ、ヒデオにガッソーの無事を知らせる。

 外を歩いているみたいだけど、アトリオンに戻ったのかな。

 報告だけの短い通信を切ると、元気になった自分にびっくりしていたガッソーが、真剣な顔してこっちに来た。


「ナナ様、わたくしは本殿内に居る、何も知らない信者たちに事情を説明してこようと思うのですぞ」

「なんじゃ、ガッソー以外にもまともな者がおるのかのう?」

「ほっほっほ、わたくしはちいっともまともではございませんぞ!」


 ガッソーによると本殿は暗殺者に扮した司祭の立ち入りは禁じられいるうえ、ここには人種への差別を持たない、正しく神を信仰する信者も少なくないそうだ。

 光天教信者ってガッソー以外全員が、人種差別主義者だと思ってた。

 まともな奴に説明したいと言うなら止めないけど、流石に一人で生かせるのは危険だろうなあ。かといって人員は裂けない。

 ゴーレムを出すとしてもぱんたろーじゃ騒ぎになるし、過剰戦力だけど仕方ないなあ。


「念の為ぶぞーととーごーを預けるのじゃ。どうせ狂信者もおるのじゃろう?」

「ナナ様には全てお見通しですかな、ほっほっほ。……ナナ様。この度はお救い頂き、感謝の念に堪えません。今後は全身全霊をかけ、ナナ様の為に働かせて頂きますことを、どうかお許し頂きたく存じます」

「嫌じゃと言ってもどうせ聞く気は無いじゃろ。……おぬしの孤児院の子らが、ブランシェにおるでの。早く終わらせて、会いに行ってやるがよいのじゃ」


 こうなる気はしていたし、どうせ駄目って言っても女神教のファビアンと合流するだろう。

 ガッソーにはファビアンと協力させて、私だけを女神とする一神教じゃなく、アネモイとかアルトとかも巻き込んだ多神教にするという話を詰めて貰いたい。

 女神教の存在自体はともかく、ファビアンのおかげでプロセニアからの移住者が絡むトラブルが少ないのは知っている。

 よくやってくれていると思うのだけど、前に頼んだ多神教にする案が全然進んでいないんだ。

 ガッソーが力を貸してくれれば、私だけに向けられている信仰を分散させられると思うんだけど……悪化しないことを願おう……。


 そしてガッソーの次は、録画再生用のゴーレムを持ったアルトとトロイがこっち来た。


「ナナさん。ここアプロニア上空に、映像を流す許可をお願いします。ゴーレムとの戦闘、地下牢の様子、そして大司教の蛮行を映します。そしてプディングとの終戦条約違反を訴え、我々が光天教本殿を押さえた事実を知らしめようと思います」

「んじゃあ俺は外で軍を抑えてるぜ」


 そう言いながらダグが窓を開けて飛び降りたけど、私達に気付いて軍が来るとしたらもう少し先だろうが。書類の山から逃げたな。


「魔人族のこと、他種族の奴隷のこと、全てこの国のあらゆる民が負うべき罪ですぞ。ナナ様、わたくしからもお願いするのですぞ。この国の大司教とは、国王以上の権力を持っております。その大司教が討たれ、プロセニアが完全に敗北した事実を、国民に知らしめるべきですな」

「任せたのじゃ。ではわしらは書類漁りでもしようかの。アネモイは大人しくしておれ」

「ねえナナ、私の扱いが適当だと思うの。抗議するわ」


 どうせ読んでもわからないだろうと思ったけど、試しに書類をいくつか見せたら、大事なものをあっさりと見つけ出してくれた。


「ああ……キューちゃんと繋がって……ふふ、すまんかったのう、アネモイ。おぬしも情報集めを手伝ってくれんかの?」

「任せて!」


 あれ。もしかしてアネモイは私よりも上手く、キューちゃんの能力を使いこなしているんじゃないか?

 でもアネモイにキューちゃん渡した場合、私も困るしなあ。

 それよりキューちゃんにも自我があるっぽいし、キューちゃんの意志も確認しなきゃなあ。

 どうなの? キューちゃん。

――現状維持を望みます。


 そっか、これからもよろしくね!




 扉の外がかなり騒がしくなっているけれど、お構いなしに書類を漁る。

 建物の外で上がってる火柱は司祭に扮した暗殺者とやらの自爆魔道具だろうけど、ダグならアフロになるだけだから平気だろう。

 そして最初に見つかった書類は、キメラ兵の作り方と、人型竜ゴーレムについてだ。


 キメラ兵の方は強い副作用があるが、改造しなくても一時的にそこそこ強い力を得られる薬を、極秘に開発したとあった。

 外から聞こえる戦闘音のいくつかは、この薬を飲んだやつをぶぞー・とーごーがぶっ飛ばしてる音かもね。

 時々ぐちゃっという肉を潰すような音が気になるけど、放っておこう。


 人型竜のゴーレムの方は、複数の魔石を内蔵させたゴーレムねえ。

 私とキューちゃんが入ったこの義体に、近いものがあるな。

 そう言えば胸と頭に魔石が入ってる奴がいたっけ。

 縦に裂いちゃったからわからなかったけど、もう一体も二つ魔石が入っていたのかもしれないな。


 どっちの書類にも帝国から破棄命令が出ているけど、どうも大司教が命令を無視して、自分のために残したっぽいね。


 そして光天教についてだけど、どうやら帝国の下部組織として裏の仕事を請け負っていたようだ。

 わかりやすいところで言うと、全ての国の光天教神殿は、プロセニアと帝国に情報を送るスパイまたはその隠れ家だ。

 また司祭の半数は暗殺者としての訓練を受けた者で、忠誠の証として胸に魔道具を埋め込まれるとあった。


 その魔道具とは……魂破壊時の魔力を用いた、自害用の発火魔術?

 魂破壊って何!?


「おや、ナナさんどうしたんですか? それはアトリオンの司祭が持っていた魔道具ですね?」


 近くのテーブルに自害用の魔道具を乗せ、調べようとしたところにアルトが覗き込んできた。


「アルトか、映像の方はよいのか?」

「先ほど見せられない部分の編集を終えて、トロイに渡しました。そろそろ映像が流れるはずです。……おや? これ、中が開きそうですね。小箱でしょうか?」

「おお、でかしたのじゃアルト。どれ、中には……魔法陣……これ、は……」


 似ている。


 私はこの魔方陣にそっくりなものを、知っている。


 私の知っているものとは明らかに違うが、この術式は……。


「これは……ヒルダさんの日記に、そっくりな魔法陣がありましたね」

「魂関連の術式に、間違い無いじゃろう。わしが命を救われた、魂魄移動の魔法陣に、よく似ておる……。これは魂を破壊した際の魔力を、箱の外に書かれた発火魔法陣に送る術式らしいの」


 よくもまあ、こんな非道なことを思いつくものだ。

 光天教なのか帝国なのか知らないけれど、呆れて言葉が出ないよ。


(パキィィィィンッ……)


 ん?


「今、わしのゴーレムが破壊された。ぶぞー、とーごーではない……誰じゃ?」


 私の部屋に居るぬいぐるみゴーレムは無事、ブランシェにいるゴーレムも揃ってる、ヒデオに預けたラッシーでもない、じゃあ誰が壊されて……ザイ、ゼン?


 ザイゼン! 答えろ!!


 まさか、そんな馬鹿な! エリーに何かあったの!?

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