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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
178/231

4章 第31話N 人とは認めないのじゃ

「ガッソーさんを見つけたわ~。奥の地下牢だけど……これは、酷いわねぇ……」


 トロイのいる辺りに感覚転移させて人型竜ゴーレムを見ていると、セレスから報告があった。

 セレスも感覚転移を使って、私が見ている辺りより奥の方を確認してくれてたんだね。

 こっちも人型竜の確認は済んだし、セレスと同じ辺りに感覚を飛ばそう。


「この場所は……酷い、のう……死体か、瀕死の者しかおらぬではないか……」


 私もガッソーを見つけたけど、ひどい有様だな……牢の一つに、両目を潰され、両腕を壁に杭で打ち付けられて吊るされてる。

 他の牢にも、地人族や森人族、獣人族の亜人種がいた。


「……プロセニアは降伏条件となる『全ての非野人族受け渡し』を、反故にしたということですね。行きましょう、ナナさん」


 そう、大義名分は得られた。

 それならまずは人型竜ゴーレムの破壊から始めようか。


「まずは安全の確保じゃ。ゴーレムは全部で三体、前回皇国で戦った奴の同型じゃが奴ほどの強さは無いようじゃの。わしが一体引き受けるでの、残り二体をダグ達四人に任せるのじゃ」

「駄目だ、ナナの敵は俺達が潰す。俺とアルトで一体ずつ、リオとセレスで一体だ。ナナとアネモイは先に行って、ガッソーとかいう奴とか助けて来いよ」


 ダグの目がマジだ。

 戦闘に関しては本当に頑固だからなあ。

 でもこの人型竜ゴーレム、ヴァンより弱いと言っても戦力値が二十万を越えている。

 今のダグとアルトなら余裕だけれど、リオとセレスは……二対一なら、勝つ見込みはあるかな。


「ナナが俺達に二体任せるって言うのなら、それほど強くねえんだろ。てめえは過保護だからな」

「それにナナさんが即座に却下しないということは、ダグの案でも互角以上には戦えるということですよね」

「……仕方がないのう。じゃが一分一秒を争うほど死にかけた者はおらぬようじゃからの、わしも見ておるので存分に戦うがよいのじゃ」


 命令を待ってる犬のようなリオの顔が、ぱぁっと明るくなった。

 仕方ないなあ。リオは私から離れると、一刻も早く敵を倒そうと焦ってやらかしそうだからね。


「そうと決まれば、まずはトロイの潜伏場所に転移しようかの」


 トロイが地下道の闇に紛れ、若干広くなった部屋にいる人型竜ゴーレムの様子を見ているな。それじゃあトロイの目の前に転移しようっと。

 トロイがぎょっとした顔をしているのも仕方ないと思う。

 なんせここは、人型竜ゴーレムから完全に見える位置だからね。


「ちょ、ナナ様、アルト様!」

「気にするでない、トロイはここでわしらと一緒に見ておれ」


 私の言葉と同時に、ダグ達四人が新たな武装を構えて駆け出した。

 私はこの場で異空間生成魔術を発動し通路と部屋を覆う。


 さあ、戦闘開始だ。




「何でえ、思ったより歯ごたえのねえ連中だったぜ」


 あれ。思ったよりかなり早く片付いてしまったよ?

 ダグは最初の一撃でゴーレムの胸に大穴を開け、魔石を砕いて終了。

 アルトも岩というかダイヤモンドのような槍を無数に作り出し、ゴーレムを剣山みたいして魔石も貫いて終了。

 リオはゴーレムに攻撃させてカウンターで胸に一撃、鎧を破壊したところで下がり、そこへセレスが槍の先端から光と水のビームみたいなのを放ち、魔石を真っ二つにして終了。


 リオとセレスはもう少し接戦になると思ったんだけど、壊れたゴーレムをよく見たら身体能力と魔力はかなり高いけど、技術は低いし魔術も使えないじゃん。

 ちゃんと見ないと駄目だね、反省。


 異空間化を解除すると、ダグの攻撃の余波やセレスのビームでぶっ壊れた壁や扉が元通りになった。

 これ異空間化させてなかったら大惨事だよ、奥に捕まってた人達も無事じゃすまなかったかもね。


「みなお疲れ様なのじゃー。これトロイ、何を呆けておる。さっさと進むのじゃ」

「は、はい! え、ええ? 壁が元に……えええ!?」


 ふふふん、異空間化は便利だなー。音も漏れないから隠密行動にぴったりだ。


「手分けして救助を開始するのじゃ、通路にわしのスライムを出しておくでの、重傷者は片っ端から突っ込むのじゃ」


 破壊されたゴーレム達は空間庫へしまって、扉の鍵を破壊して奥へ進む。


 改めて見るとその地下牢は、目を覆いたくなる惨状だ。


 通路の両側にある鉄格子の中には、五体満足な者なんてほとんどいない。

 通路の真ん中にスライムの塊を出してキューちゃんに治療を任せ、私は真っ直ぐガッソーがいる牢屋に向かおう。


「まだ生きておるようじゃの、ガッソー。やれやれ、ひどい有様じゃのう……」

「う、ぐ……その、お声は……ナナ様……ああ、神よ……感謝、致しますぞ……」

「おぬしにはわしの敵について、いろいろと聞きたいことがあるのじゃ。死なれては困るでの、今降ろしてやるからもう少し待っておれ」


 アネモイの手を借りて、ガッソーの腕ごと壁に打ち付けられた杭を抜き、両手で抱えて牢を出る。

 通路に寝かせたガッソーのえぐられた目と両腕の傷にスライムを当て、再生治療を行うと同時に、翼を広げて広範囲に治療の光を放つ。

 よくもまあ生きていてくれたもんだ。無茶しやがって。


「ぐっ……ああ、温かいですなあ……痛みが、引いていきますぞ……」

「馬鹿もん、おぬしは後で説教じゃ。それで、一体何があったのじゃ?」

「ほっほ……お恥ずかしい話ですが、大司教の暗殺に失敗いたしましてな……ですがナナ様との関与を疑われたおかげですぐに殺されず、こうして拷問にかけられておったのですぞ……」


 この惨状を見ると、良かったと言って良いものかどうか悩むなあ。


「まあ生命があっただけマシじゃな。ところでガッソーは、この地下牢の存在を知っておったかのう?」

「話だけは聞いておりましたな……非野人族を拷問するためだけの、隠された地下牢ですぞ。……しかも地下牢の奥に飼育場があり、そこで魔人族を繁殖させ、儀式や実験に使用しているという噂もありましたな……」


 魔人族もいる?


 飼育場に、繁殖だと?


 地下牢の奥って、この先は行き止まりだ。


 それにいくらなんでも人が人を飼育するなんて、まともな人間のすることじゃない。噂だけが独り歩きすることなんてよくあるよね。


 なんて思いながら奥に視線を向けると、トロイが壁を調べているじゃないか。

 気になるから私もそっちへ行こうと思ったけど、ちょうどアルトが近付いてきた。

 そのアルトの肩には、いつの間にか録画用のビデオゴーレムが乗ってるな。

 いろいろ証拠として映像を残すためなんだろうね。


「ナナさん、こちら八名の救助を行いました。最低限の治療後、ゲートでブランシェのイライザに引き渡しておきます。ガッソーも無事なようで安心しましたよ」

「いやはや……面目ないですぞ。ところでこちらにいらしたということは、わたくしの残した手記をご覧になられたのですかな?」

「読ませてもらったのじゃ。まったく……もっと早く話しておれば、とっくに光天教など滅ぼしておったというのに」


 とは言うものの、ヴァンを滅ぼしたと思っていた皇国の一件の前だったら、または亜人種や森人・地人族に非道な実験を行っていると知る前だったなら、ここまでしなかったかも知れないけどね。

 そして保護した者達の誘導のため離れたアルトに代わって、今度はトロイが近付いてて頭を下げた。

 そのトロイの肩にも、いつの間にか録画用ゴーレムが乗せられている。


「ナナ様、隠し通路の痕跡を見つけました。しかしどうやら向こう側からしか開かない仕組みらしく、開閉機構が発見できません」

「む、トロイよくやったのじゃ。ぶぞー、出番じゃ」


 空間庫から出したぶぞーが、刀を手に壁に近寄り数度振った。

 ズズズ、という岩のずれる音の後、壁の奥に空洞が現れた。

 けど、奥から漂って来た、生臭さの混じるこの鉄の匂いって……。


「これは何とも……強烈な血の匂いじゃの……アネモイはここで待っておれ、様子を見てくるでの。トロイ、ついてまいれ」

「え、ちょっとナナ? ねえ!?」


 この血の匂いの感じからして、この先にあるものはアネモイに見せるべきじゃない。

 ガッソーから聞いた、飼育場やら繁殖やらという噂。

 いくらなんでもそこまでの鬼畜はいないと思いたいが、念の為だ。



 少しばかり走って辿り着いた隠し通路の先は、広い空洞になっていた。


 なんだ、これは。


 なんだ……。


 なんなんだこれは!!


「き、貴様は! 邪神風情がどうしてここに!!」

「魔、魔王!?」

「ひいっ!? ゴ、ゴーレム、かかれ!!」


 腹や首を割かれ血のプールに浮かぶ数々の遺体。


 いくつかの拷問具にかけられたまま息絶えた、いくつかの遺体。


 壁に打ち付けられた杭から伸びる鎖に囚われたままの、無数の遺体。


 そして隅にうず高く積まれた、遺体の山。


 男も女も、年寄りから子供まで、そこにある遺体の全ては胸を切り開かれ、また多くは目玉をえぐられて苦悶の表情を浮かべている。


 そして血のプールに浮かんでいる小さな男の子の遺体に、片方だけ残った目の瞳の色は……紅だ。


 ふざけるな。


 ふざけるなよ!


 これが、人のすることか!!


「ナナ様!」

「どいておれ、トロイ……」


 全裸で血のプールに浸かっている三体の年老いた男が見えるが、ここに生きた()はいない。

 あれを私は、人間だとは認めない。


 他にいるのは、私に向かって飛びかかってきている人型竜ゴーレムが二体だけだ。

 トンファーを空間庫から出し、大きく息を吸い込む。


 血の匂いに混じる腐臭が、不愉快だ。


 この場所そのものが、不愉快だ。


 これをやった存在が、不愉快だ。


 全部、消えてしまえ!!


「うおおおおお!!」

『グシャアッ!』『ドゴン!』

「ひ、ひいい!!」


 飛び込んできたゴーレムの脳天にトンファーを振り下ろし、真っ二つに引き裂く。残るもう一体は胸に正拳をぶち込み、大穴を開けてやる。


「どういうことか、説明してもらおうかのう……ここで、何をしておった?」

「ぜ、全部貴様が悪いのだ、貴様が宣戦布告などしなければ、この者らはまだ生きていただろうなあ!!」

「なんじゃと……む?」


 血のプールから出ようとしている年寄り達に近寄ろうと思ったが、胸に大穴を開けて倒したはずのゴーレムが、私に近付き腕を振り下ろしてきた。

 しつこいな。今度はその攻撃をかいくぐり、トンファーを振り上げる。

 粉々に引き飛んだ頭部に混じり、砕けた魔石の欠片が舞い上がった。

 さっき胸に穴を開けた時も、確かに魔石を砕いたように見えたんだが。

 まあいい、そんなことより、だ。


「ば、ばかな……高性能ゴーレムが、こうも簡単に……」

「ひ、ひいい!!」


 呆けた顔の年寄り達だが、我に返って血のプールから出て走り出した。

 向かった先は私と反対側、見るとそちらに扉がある。

 トロイが追いかけて飛び出していったので、一旦任せよう。


 みんなにはこの惨状、見せたくない。

 今から私がすることも、だ。


 ……キュー。

―――全て吸収致します。


 大量のスライムで入り口を塞ぎ、全ての遺体や血のプールの吸収をキューに任せ、私はトロイが制圧した男達の前へ行く。


「誰でもよいぞ。ここは何じゃ。何をしておった。全て話すのじゃ」

「舐めるなよ、邪神風情が!」


 質問の答え以外はいらない。

 レンガほどの大きさの空間障壁を作り、ゴーレムをけしかけた男の頭上から、地面へ向けて移動させる。


 死ね。


「ん、なん、え、ああああああ!」

『パキョッ!』


「ひいいっ! な、何だ、何をした!!」


 空間障壁で頭を押し潰しただけだ。

 残る二体の顔は恐怖にひきつってるし、これで話す気になるだろ。


「質問しておるのは、わしじゃ。ここの遺体は全て、魔人族じゃな。もう一度聞くぞ。ここで、何を、しておったのじゃ?」


 キューちゃんから入ってきた遺体の情報は、間違いなく全ての遺体が魔人族、または魔人族と野人族のハーフだという。

 だが正直、人種は関係無い。

 子供も、何人も混じっていたんだ。

 今すぐ殺したいのを我慢して聞いているんだから、早く答えろよ。


「こ、ここは魔人族の飼育場です! 私達は、ここで――」

「貴様! 光天の神に逆らうか!!」


 うるさいな。

 ミニスライムでブレス器官構築。偉そうな年寄りの手足にコールドブレス放出。

 悲鳴を上げる男の、凍った手足を空間障壁で押し潰す。


 ……自分の手足が砕けたのを見ただけで気絶か。とりあえず予備の情報源だ、転がしておこう。

 これで話しやすくなっただろ。


「さあ、続きを話すのじゃ」

「は、はい! ま、まず私の名は――」


 名前なんてどうでもいい、どうせ殺す。



 殺したいのを我慢して聞いた話によると、こいつらは光天教の幹部らしく、ここで魔人族を飼っていたらしい。

 長寿を得られると信じ、定期的に生き血を抜いて浴びていたと。

 下らない。


 しかし魔人族の繁殖能力が低下、ハーフすら生まれにくくなった事もあり、プディング魔王国に屈した鬱憤をぶつけて最近皆殺しにしたばかり、か……。

 私が先にここの存在さえ発見していれば……ヴァンが絡んでいるかも知れないからって、慎重になりすぎたせいだ。


 助けてあげられなくて、ごめん……。


「それで、ここの存在を知っておるのは、光天教の幹部全員かのう?」

「い、いえ、前任者は既に亡くなっていますし、面倒を見させていた奴隷も全員殺したので、今はここに居る三人……いえ、二人、だけで……」

「そうか。ならばもうよいぞ」


 人でなしの分際で、自分達を人として数えるなよ。

 だが幹部全員知ってるなら皆殺しにしようと思ったけど、これで全員ならもういい。

 胸糞悪い。

 空間障壁生成、二体を押し潰し――


「ナナ!」

「姉御!」

「ナナちゃん!」


 後ろから、三人がかりで抱きしめられた。

 アネモイに、リオとセレス? キューに入り口は塞がせていたはずだが?


 そう思っていたら、パキョンッ! という音がして、さっきまでペラペラと話していた男の頭が吹き飛んだ。

 振り返るとアネモイとリオとセレスの向こうに、スライムのトンネルを抜けて来る人が見えた。

 ガッソーに肩を貸すアルトと、手をプラプラさせているダグだ。


「余計なことしてんじゃねえよ。お前の敵は俺達で始末してやるっつってんだろ、てめえはこれ以上殺すんじゃねえ」

「ねえナナ、キューちゃんがね、通してくれたの。ナナを……ナナを、止めてって……うわああああん!」


 アネモイ、わざわざ正面に回って、涙と鼻水でべちょべちょの顔を私に押し付けるんじゃない。

 ……そこの年寄りたちの、汚い返り血よりは、マシか。


「キュー……ふう。キューちゃんまで過保護じゃったとはのう」


 別にもう、これくらい何とも思わないんだけどな。

 食って生きるために人を殺す魔物と違って、欲望のために人を殺す存在なら言葉をかわす必要なんて感じないからね。


 でも……やっぱり、嫌な気分だよ。


「……もう大丈夫じゃから、離さぬか」


 そんなに悲しそうな顔しないでよ、リオ。セレス。


 そしてアネモイ、これ以上私のコートに鼻水を付けるんじゃない。


 全く、もう。


 怒りが、憎しみが、薄れていくのが自分でもわかる。


 さっきまであれほど殺したいと思っていたけど、そこの手足が無くなった年寄りのことなんてどうでも良いか。

 どうせ放っといても死ぬだろうし。


 ……キューちゃんにも、心配かけたね。ありがとう。

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