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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
175/231

4章 第28話G 僕はただ、世界を見たいだけなんだ

「ゴシュジンサマ、オジカンニゴザイマス」


 んー……はぁ。起きなきゃ駄目か。

 仕方なく目を開けたけど、視えるのは僕の体を抱き上げて顔を覗き込むゾフィーの、魔素でかたどられた全身鎧姿の輪郭だけ。


 相変わらずの白黒の世界。


 色があるのは魔素だけ。


 今回は見えるようになるかな。

 世界の技術がどれだけ発展しているか、楽しみだな。


 ……あー……嫌な事思い出した。


 前回起きた時は、ゲオルギウスの馬鹿のせいで魔術も技術も衰退してて、馬鹿らしくなってすぐに寝ちゃったんだっけ。

 思い出したら腹立ってきた。


 まだゲオルギウスは生きてるのかな、もし生きてたら見限ってもいいかな。

 僕の作った魔術を改造して勝手に使って、光人族と魔人族を滅ぼした馬鹿なんてもう知らないよ。

 それにあの馬鹿のせいで、この施設の動力に余裕無くなっちゃったし。

 でもここ以外に最適な場所って無いからなぁ。


 とりあえず……まずは体の確認をしよう。

 ゾフィーに床に降ろしてもらって自分の体を視ると、あちこちに腐りかけてる感じの魔素が視えるなあ。


「おはようゾフィー。五百年お疲れ様、どこか悪くなっているところは無いかい?」

「モンダイアリマセン」

「そうか、僕の体の方は……少し問題ありそうだな」


 ゾフィーは全身が魔鋼製のゴーレムだから良いけど、僕の体はあちこちに生体部品を使ったゴーレムだからね。

 眠っている間は時間停止空間に居るから良いけど、外に出たらマメに治療魔術でメンテナンスしないと、すぐに傷んじゃうんだよね。

 五百年前、メンテしてから寝るんだったな。



「……これでよし、っと。さあゾフィー、戦闘態勢だ」


 僕の眠る空間が解除されると、帝国の上層部と賢人会に報せが届くようになっている。

 その報せを受けて来たんだろうな、扉の向こうに居る連中。


 赤黒い魔素に包まれた三人の不死者――アンデットだ。


 分厚い魔鋼の扉と壁だけど、僕にはその向こう側の魔素がはっきり視えるんだよね。


 でもこの三体のアンデット、明らかに意思があるみたいだ。

 僕が以前作った不死化の魔術でも使ったのかな?

 でもあれは術を伝えた魔人族がゲオルギウスのせいで全滅したらしいし、魔力もとんでもない量を使うし、別の術でも開発したのかな?


 それとこいつらの後ろにある濃い闇の魔素の塊は何だろう?

 瘴気化はしてないし、地下のあいつほど濃い魔素じゃないし、一体なんだろう。

 中に何があるのかまでは視えないや。


 何にせよアンデット化の魔術は禁呪と伝えてあるし、こいつらも倒さなきゃ。

 前々回目覚めた時に活動していたアンデットは、全て僕が滅ぼした。

 あれ最初は良いけど百年もしない内に自我が薄れて、食欲と破壊衝動が抑えられなくなるんだよね。


 何者かは知らないけど、アンデットの分際でよくもまあ帝都のど真ん中を堂々と歩けるもんだよ。

 ……まだ帝都だよね? まさか寝てる間に滅んだりとかしてないよね?

 とりあえず部屋から出ないことには、状況も掴めないか。


 世界樹の枝で作った杖を構え、片手に剣を持ったゾフィーが扉に近付くのを見守る。

 嫌な目覚めだなあ、もう。



 不意打ちを警戒して攻撃用の魔素を集めたまま、ゾフィーに扉を開けさせる。

 すると三体のアンデットが、片膝を地面につけて頭を下げた。


 んん?


「グレゴリー様、ご無沙汰しております。ゲオルギウスにごさいます」

「あれ? お前ゲオルギウスなの? じゃあもしかして後ろのはベルクマンとアデルかな?」

「さようにございます」


 魔素でかたどられた三人の輪郭は、確かに千年前に視た顔そっくりだ。

 うわぁ、こいつら僕と同じ不老不死を求めてたけど、最悪の形で望みを叶えちゃったかー。


「ねえ、僕がアンデット化は禁呪だって言ったの覚えてるよね? 覚えているなら、このあと自分達がどうなるかも理解してるでしょ?」

「……はっ。止むに止まれぬ事情があったとはいえ、禁を破ったこと、お詫びのしようもございません。せめて最後は、これまでお世話になったグレゴリー様の手で我らを消滅させて頂きたく、お願いに参りました」

「へえ、殊勝な心がけだね。まだ自我は残ってるようだけど、いったい何があったんだい?」


 滅ぼすのは簡単だけど、僕が眠っていた五百年の間に何があったのかも聞きたいからね。

 抵抗する気はないみたいだし、少し様子を見ようかな。


「はっ。ですが話の前に、まずはこの五百年の成果として、こちらの高性能ゴーレムボディを献上致したく」

「ん? ゴーレムボディ? もしかしてこの魔素の塊がそうかい?」


 高性能っていっても、戦闘能力ならいらないって前に言ってあるんだよなぁ。

 もしかして今度こそ僕の希望を叶える性能があるのかな?

 一応ゾフィーにゲオルギウスたちを見張らせて、その後ろにある魔素の塊に近付いてみる。

 うーん、やっぱり魔素が濃すぎて中が視えないや。

 魔素を動かして散らそうとしても、どんどん集まってくる。

 何だこれ。

 体ごと半回転して、地に膝をついたままこっちに背中を向けるゲオルギウスを見る。


「ねえゲオルギウス、そのゴーレムってここに『ザクッ』……がはっ……」


 え? 僕の胸から生えた、このごつい手は、なに?

 あれ、まさか、この手が握ってるのは、僕の本体……。


「ふはは! 魔素()()見えないというのは、本当だったんですねえ。始めまして、伝説の魔術師グレゴリー・ノーマン。私の名はヴァン、これから貴方の知識全てを引き継ぐ者です!」


 やばい、ゴーレムボディとの接続が、切れていく……。


「ぐ……ゾフィー!」


 魔素の塊から伸びたヴァンという奴の腕に、こっちに駆け寄ってきたゾフィーが剣を振り下ろした。


 ギィンッ!


「ほう? ガラクタの分際で、良い剣を持っているじゃあないか!」


 魔鋼製の剣で斬れない!?

 僕を握るこの手……まさか魔鋼!

 くそっ、それなら魔素を集めて!


「おや、無駄な抵抗ですね、今私が強く握ったら、どうなるかわかるでしょう?」


 ピキッ!

「ぎゃああああああああああああああ!!」


 痛い、痛い痛い痛い! この野郎、僕の魔石にヒビを!!

 それにこいつ、僕と同じ魔力視を持ってる!?

 ヴァンの腕だけが出ていた魔素の塊が、どんどん薄くなって……ヴァンが、魔素を操作している?

 くそ、やっぱり魔力視だ!


「これで視えるでしょう?」

「ヴァン様はずっとそこにおられたというのに、全く気付かないとは……驚きを通り越して、滑稽でしたなあ」


 くそ、ゲオルギウスめええ!


 それよりやっと見えてきたヴァンも、その体に視える魔素は赤黒が多い。

 でもアンデットじゃない? まさか僕と同じ、ゴーレムボディに入ってる!?

 全身鎧のシルエットがドラゴンみたいだけど、アンデットの部品をつなぎ合わせて作ったフレッシュゴーレムか?


 何者か知らないがこいつは危険だ、野放しにしちゃいけない。ゾフィー、ゾフィー! ……あれ、ゾフィー、何で、バラバラに……ゲオルギウス達に、やられた?

 そんな、まさか……。


 しかもヴァンの腕が僕のゴーレムボディから引き抜かれ、ぶちぶちぶちっという魔力神経線が切れる感触がし、何も聞こえなくなった。

 体が無いと、僕には魔力視しか使えないじゃないか……。

 何とか隙を突いて本体を転移させないと。

――そうはさせませんよ?


 え、何この声? 思念?

 あれ、いつの間にか僕の本体に魔力線が繋がってる……その先は……ヴァン!?


――正解です。ゴーレムにされた時に繋がれていた魔石からは情報を得られていたのですが、繋ぎ方を知っていそうな者を皆殺しにしてしまって困っていたんです。幸いにも皇国で出会った古竜のおかげで、魔石に魔力線を繋いで情報を得る手段を得られましてね。


 魔石から直接って、まさか!


――ええ、そのまさかです。くくく、魔石と魂関連の魔術とは、ずいぶんと面白い魔術を知っているようですねえ。ほほう、ゾンビなどはこんな理由で動いていたのですか、これは興味ありますねえ!


 しまった、こいつ勝手に僕の記憶を!


――ほほう、飛行魔術も貴方が開発したものでしたか。魔石のまま移動するためとはねえ、貴方もスライムになれば良かったんじゃあないかな? くくく、しかしスライムだったらお会いした瞬間に破壊していたでしょうから、ただの魔石で良かったかもしれませんねえ。


 スライム? 貴方()? 何を言っているかわからないけど、とにかく逃げないと!


 ピキキッ!

 ぎゃああああああああああああああ!!


――今、転移しようとしましたね? いけませんねえ、少しでも魔素を動かしたら貴方の魔石を砕きますよ?


 うああ……痛い、痛い痛い痛いぃ……。


――私も貴方と同じ、魔石に魂を宿した生命体だと思っていたのですが……ほほう、人から魔石、魔石から魔石へ……ということは私も貴方も、既に……おや、情報が途切れましたね? グレゴリー?


(痛い、痛い……全身が砕かれるような痛みがあるけど、我慢しなきゃ。気付かれたら終わりだ、思考領域及び記憶領域をブロック。これ以上記憶を見られてたまるか!)


――反応がありませんね、もしかして死にましたか? いや、この場合は壊れた、と言うのが正しいのでしょうか。


(こうなったら死んだふりしてやり過ごすしか無い、こんな終わりなんて嫌だ!)


――おや、魔石の魔力がどんどん減少して……ああ、これが魂破壊時の、魔力の流出ですか。死体から抜き取った直後の魔石に高い魔力が宿っているというのは、こういった仕組みがあったんですね。興味深いところですが……グレゴリー?


――やはり反応がありませんか。残念ですが面白い魔術も知れたので、まあいいでしょう。この魔石は……そうですねえ、中々のサイズですし他の魔石同様、私の予備の魔力入れとして使って差し上げようじゃあないか。フハハハ!


(ぐう……このまま、終わってたまるか……)


――さて、私はこのまま地下へ行って、新しい体でも作るとしましょう。ふはははは!


(く、そう……ヴァンめ、まさかあれを! くっ、何とか……しなきゃ……)

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