4章 第27話N めでたいのじゃ
ヒデオ用の義体調整が済んだエリー達と合流し、キューちゃんから完成した義体を受け取り空間庫に入れておく。
エリーから渡せば良いじゃないかと言ったのだが、これは私が渡すべきだと固辞されてしまった。
見た目は今のヒデオそっくりだけど、竜の素材がこれでもかと使われていて、スペックだけ見れば私のヴァルキリーとほぼ同等だ。
キューちゃんの魔石を義体の中に戻そうと手に持っていたら、ちょうどヒデオ達も訓練を終えて戻ってきたけど、ダグに稽古をつけてもらっていたヒデオはボロボロだった。
「かかっ、ずいぶんとしごかれたようじゃのう?」
「ダグの体、剣が当たっても斬れないんだけど何だあれ……」
ダグの体も火の上位竜と適合し、肉体を入れ替えてある。おかげでぶぞー・とーごーと並ぶ程の戦力値まで上がってるから、ヒデオでは相手にならないよね。
それを教えたら、呆れたような顔で深くため息を吐いていた。
「また無茶苦茶なことを。俺も……って、流石にレイアスの体を勝手にいじるのは良くねえよな」
「今でも十分に無茶させておるではないか、のう?」
何のことだと首を傾げるヒデオだが、ニヤニヤした私の顔と、私の視線の先にいるエリー達に気付いて全てを悟ったらしい。
「え、ちょ、マジで? どこまで聞いたんだ??」
「秘密なーのじゃー。かっかっか、脱童貞おめでとうなのじゃー。くすくすくす」
わー、顔真っ赤だー。くすくす。
「もうナナ、あんまりヒデオをいじめないでよね!」
「ん。いじめたいなら今すぐこっち側に来るべき」
「いつでも歓迎かもー!」
両腕をエリーとサラに掴まれ、後ろからシンディに抱きつかれたヒデオの目が潤み、悲しそうな顔になってきた。
「あ、あれ……何か、思ってた反応と違うような……」
「なんじゃヒデオ、このわしが嫉妬するとでも思うたか? 今のヒデオはわしにとって未来の夫である以前に、親友の夫なのじゃ。じゃが将来は独り占めさせて貰うからのう、覚悟しておくんじゃな、かっかっか」
ヒデオの嫁三人のブーイングを聞き流し、食事前に風呂を勧めておこう。
特にヒデオはドロドロだからね。
ついでなので私達も風呂に入ろうとエリー達を誘って風呂に行こうと思ったら、アネモイがチラチラとヒデオを見たあと、じーっと私の手を見ているのに気がついた。というか、キューちゃんの魔石を見てる。
魔石を持つ手をそーっと横に動かしたら、アネモイの視線もじわーっと横に流れた。
「何か気になることでもあるのかのう?」
「ひっ! な、な、何でもないわ!」
何でアネモイは顔を赤くしてるんだろう。意味がわからないのはいつものことだけど、またキューちゃんから何か聞いておかしな妄想でもしてるのだろうか。
まあいいや、とりあえずおっふろーおっふろー。
更衣室でばばっと服を脱ぎ、かけ湯をして浴槽に体を沈める。
ごっくらくー。
アネモイとエリー達三人に続いてリオ達も入ってきたので、今日は総勢七人でのお風呂だ。
最近は四人で入る事が多く、相変わらずセレスは私の胸やお尻を触ろうとするし、リオとアネモイは私にひっつきたがるけど、せっかく広いお風呂なんだからみんなで入る方が楽しいよね!
そしてセレスに胸を触られたので揉み返したら逃げられ、リオが自分の胸も揉めと抱きついてきたところで、話題はエリー達の夜の生活になった。
私に言っても良いかどうか悩んでたようだが、そりゃあ、ね。
ホントはちょっとだけ、嫉妬してるかもしれない。
羨ましいなー、とも思った。
でも、エリーとサラとシンディの幸せそうに緩んだ顔を見てたら、私って心狭いなーって思っちゃった。
だから私は、全力で喜ぶことにした。
友達の幸せだもの、嬉しくないわけがない。
それに今はまだ、ヒデオは私の恋人じゃないからね。
将来を誓った、その事実を思い出すだけで我慢できるもん。するもん。
それにしても三人共、会うのは結婚式の時以来だけど、綺麗になったような……ん?
「のう、サラ。おぬしちょっとおっぱいが大きくなっておらぬか?」
「ふふん。ヒデオに揉んでもらったおかげ」
「はいはい、それはよかったのう。わしの義体とたいして変わらんサイズだったのにのう、見てわかるほどとは……む?」
おかしいな、目の錯覚かな。
エリーとシンディも、おっぱい大きくなってる気がするよ?
サラは私と同じつるぺただから、全体を覆うスポーツブラまたはノーブラだ。サイズが多少変わってもどうってことはない。
でもエリーとシンディはカップ式のブラだから、きつくなってるかも?
「エリー、シンディ。二人共ブラのサイズは合っておるか?」
「そうそう、それもブランシェに来た理由なのよ。ちょっときつくなってきちゃったから、新しい下着を買おうかと思ってね。私達の下着って、全部ナナが作ってくれたものじゃない? でもまた作って欲しいって言うのも何だし、今はジュリアのところでたくさん作ってるんでしょ?」
「ナナちゃん忙しいだろうから、一応相談だけはしようって話してたかもー」
そこまで気を使わなくてもとは思うけれど、無遠慮にあれも欲しいこれも欲しいとか言わないからこそ、私も何かしてあげたいと思うし、だから好きなんだよ、エリー、サラ、シンディ。
「ふふふ。大丈夫じゃよ、それほど忙しいわけではないからのう。どれ、サイズを測ってやろうかの」
スライムを出してエリー達三人の全身を包み、胸のサイズを測る。羨ましそうにニ人ほど私の義体に纏わり付いてきたので、リオとセレスとついでにアネモイもスライムで包み、スライム浴させておく。
アネモイが何やらスライムに包まれて顔を赤くし、胸と股間を手で隠しているが、なにか変なものでも拾い食いしたんだろうか。
そんな事よりエリー達は三人共胸のサイズが少し大きくなっていて……あれ。
揉まれたら大きくなるなんて、いくらなんでも現実的じゃないよね。
……あれ!?
「の、のう、エリー、サラ、シンディ! おぬしら最近、体調に何か変わったことは無いかのう!?」
「きゃっ、どうしたのよナナ、そんなに慌てて。そうねえ、ちょっと風邪気味かしら、体がだるいわね」
「ん。吹き出物できた。あと鼻が良くなった」
「アタシはたまに戻しそうになるのと、匂いにも敏感になったかもー?」
え。まさか。まさか!?
魔力視、全力発動!
三人の体の輪郭が、魔素でかたどられて視える。
まだだ、もっと出力上げるんだ!
通常の視力を完全に上書きし魔素だけが視界に溢れ、体表を透過し、筋肉や血流に乗った魔素が視え始める。
骨の輪郭も視えてきた。
意識を、エリーの下腹部に集中させる。
…………いた。
サラとシンディも視る。三人共、いた。
「ちょ、ちょっとナナ、いくらなんでも見過ぎよ?」
「ん。私はナナになら見られても構わない」
「アタシもナナちゃんにならいいけど、ちょっと恥ずかしいかもー」
魔力視の出力を落とす。
何だろう。
嬉しくて、とても嬉しくて。
エリーが股間を隠すその手の上から抱きつき、下腹部におでこを触れさせる。
よく来てくれたね。ありがとう。
「ナナ、突然どうしたのよ? ……って、泣いてるの!? え、何? どうしたのよ!?」
「……エリー、サラ、シンディ。落ち着いて聞くのじゃ」
一度大きく息を吸う。まずは私が落ち着かないと。
ゆっくりと顔を上げ、きょとんとしているエリー達三人の顔を交互に見ながら、笑顔を向ける。
「……おめでとう、三人共、お腹に……新しい命が、宿っておるぞ……」
「「「え?」」」
揃って抜けた声を上げる三人。
胸が大きくなったりだるくなったり、吐き気がしたり匂いに敏感になったり。
全部、妊娠の初期症状だ。
魔力視で視た三人の体内に、小さな小さな心臓が、間違いなく鼓動を刻んでいた。
「おめでとうなのじゃ、エリー、サラ、シンディ。良かったのう、良かったのう……」
「ちょ、ちょっとナナ……もう、顔ぐちゃぐちゃじゃない……あたし達より先にそんなに喜ばれたら、あたしどうして良いか……ぐす……そっか、ヒデオの子が……ありがとうナナ、教えてくれて……」
「私も、妊娠……エリーとシンディと、一緒に……」
「確かに生理遅いなーとは、思ってたかもー……」
サラとシンディの下腹部にも軽くおでこをくっつけ、新しい命を歓迎する。
それから確か安定期まで3ヶ月だったかな?
こんなことならちゃんと覚えておくんだったって、キューちゃんの記憶なら!
―――つわりが治まったら安定期に入ります。個人差はありますが妊娠から4~6ヶ月前後です。
ナイスだキューちゃん!
それからつわりの症状を説明し、治まるまでは安静にしているように三人に言い聞かせ、リオ・セレス・アネモイも一緒になって抱き合って喜び合う。
って、湯冷めしたら大変だからもう風呂から出るよ!
「ヒデオ。大事な話があるのじゃ。こっちへ来るのじゃ」
私達より先に風呂から出て、食堂で待っていたヒデオに声を掛ける。
食堂に入った私の後ろには、神妙な顔でエリー・サラ・シンディの三人が並んでいる。
私はニヤニヤしないよう眉間に力を入れているため、怒っているように見えるだろうな。
案の定、ヒデオは少しオロオロしながらこっちに駆け寄ってきた。
ダグとアルトも、何事かとこっちの様子を伺っている。
「ヒデオ。おぬし、やってくれたのう……」
「え、ちょっとナナ、何のことだ? エリー、サラ、シンディ、何かあったのか?」
「エリー、サラ、シンディ。これはとても大事なことじゃ。自分の口から、直接言うがよかろう」
ここで私は三歩横にずれ、ヒデオとエリー達を正面から向かい合わせる。
リオとセレスは笑いをこらえて若干下を向いているが、アネモイはニヤニヤしすぎだバレたらどうする。
「ヒデオ……あたしね……いえ、あたし達ね……三人共出来てた、みたい……」
「え? 出来てたって、何が?」
「ヒデオ、鈍感。やれば出来る。当然のこと」
「ここに、新しい命が、宿ってるかもー……じゃない、宿ってるの!」
揃ってお腹に優しく手を置き、ヒデオに笑いかけている。
エリーのはにかんだような、嬉しさを噛みしめる笑顔、綺麗だなあ。
サラはいつも無表情だけど、今日のドヤ顔は一段と輝いてるなあ。
シンディは嬉しさを隠そうともせず、全力でニヤニヤしてて可愛いなあ。
そしてヒデオ、こっち見んな。
「本当じゃよ、じゃが妊娠初期じゃからの、当分は絶対安静を厳命するのじゃ。ヒデオ、よくやったのじゃ! おめでとう!!」
「え、待って頭が追いついてない。やってくれたって……え、そっち!? ……お、俺が……父親に……?」
眉間の力を抜き、私もニヤニヤとヒデオを見る。
リオとセレスも顔を上げ、アネモイと一緒になって祝福の言葉と拍手を送る。
ゆっくりとエリー達に顔を向けたヒデオの目から、大粒の涙が落ちた。
そして慎重にエリー達に近付き、一人ずつ抱きしめてキスして行った。
「やったぁ……俺……俺が、父親に……」
そうだよ、おめでとう、ヒデオ。
おめでとう、エリー、サラ、シンディ
それにしても全員妊娠二ヶ月くらいだから、逆算すると結婚から一ヶ月もしないうちに仕込んだのかこの男は。
……ちっ。サルめ。




