4章 第24話H 初めての
ブランシェでの合同結婚式を終えた俺達は、ティニオン王国首都アイオンの王宮で結婚披露パーティーを行った。
嫁となったエリー・サラ・シンディのドレス姿は、何度見ても綺麗だった。
だが何で俺は、結婚披露パーティー直後に会議室にいるんだろう。
会議室内はイゼルバード陛下等の王族と重鎮が勢揃いし、頭を抱えている。
嫁達は控室へ戻せたけどマジでこの状況、ため息しか出ないよ。
俺達はブランシェから戻って一週間ちょっと、王宮に缶詰状態だった。
改めて王宮で行うティニオン式の結婚披露パーティー準備のためと、ナナの国プディング魔王国との外交・交易についての話を詰めるためだ。
プディングではいろんな物が作られていたが、それとは別に輸入も積極的にしたいと言っていた。自給自足できてるのに何でだろうと思ったけど、理由を聞いて納得した。
各国や地域での特産品や、それぞれの土地に合った作物などが売れれば経済が活性化し、文化が今以上に発達することに期待したいそうだ。
それに気候的にプディングでは栽培が難しい、または栽培しても品質の低い作物なんかも結構あるらしい。
とにかくそんな感じの会議と打ち合わせを繰り返し、昨日はオーウェンとジルの結婚披露パーティーが行われた。
王族と上位貴族に混じり、俺と嫁達も目立たない格好で参加させてもらった。
そして今日、今度は俺達の結婚披露パーティーが行われた。
前日の参加が許されなかった下級貴族が多数参加したせいで、オーウェン達のパーティーより参加者が多かった。
しかもナナの国について根回しされていない貴族が結構参加したせいで、くだらない質問をたくさん受けたっけな。
「プディング魔王国の魔王とはどういった関係だ」
(将来の嫁です)
「魔人族は本当に危険ではないのか」
(野人族にだって危険な人はいますよ)
「魔王は魔物を従えているという噂があるが信用できるのか」
(亀とか狼の事を言ってるなら、それ魔物じゃなくてゴーレムだよ)
といった懐疑的な質問に、心の声を隠して「魔王は私の友人です。また、イゼルバード陛下とも友好的な関係を結んでおります」と言うと全員が口をつぐんだ。
陛下と友好的だって言ってるのにそれでも信用できないなんて口にしたら、大問題に発展するよな。
思い出すだけで呆れてくるが、こいつらはまだいい。
問題はエリー達が巻き込まれたトラブルだ。
とある公爵家の令嬢が取り巻きを引き連れ、エリー達に難癖をつけた上に事故を装い、ナナ達が作ってくれたウェディングドレスに赤ワインをぶっかけたのだ。
しかし騒ぎに気付いた俺が現場に着く前に、決着がついていた。
まずエリー達の放った怒気だけで、令嬢の取り巻きの半数が失神アンド失禁。
戦いの心得があるせいで実力差に気付いたのは、逆に不幸だったね。
令嬢と残った取り巻きも、その場に響いた「魔術って便利よねぇ。会話の最初からこちらで聞いていたわよぉ」というジルの声で、全員が膝から崩れ落ちた。
結構離れた位置にいるジルの後ろには、イゼルバード陛下と王妃、第一・第二王子とそのお妃様にオーウェンと、王族と王配が集まっていた。
問題なのはこの時公爵令嬢の取り巻きに、以前ギルドの改革を行った際に協力関係にあった、侯爵のご息女も含まれていたことだ。
結婚披露パーティー直後に緊急会議となった理由の大半は、これだ。
公爵令嬢達から聞き取りを終えた宰相によると、エリー達のドレスの豪華さ、ブランシェ産の化粧品とジルが手がけた化粧により美しくなった姿、披露パーティーに参加した高位貴族の人数等々と、何もかもが気に入らないことだったらしい。
俺の爵位が低いことや、地人族とのクオーターであるサラ、森人族であるシンディのことを馬鹿にし、野人族の敵である魔人族にしっぽを振った裏切り者等とエリー達を挑発し、手を出させるのが目的だったそうだ。
爵位の低い者から高い者への暴力は、大問題に発展させやすいからね。
しかもこれを聞いた公爵は娘をかばう言動をしたため、国の要職から外し隠居させることがその場で決まり、どっかに連れて行かれた。
以前世話になった侯爵の息女はもっと面倒で、父である侯爵から止められていたものの俺に恋慕し、公爵令嬢をそそのかしてエリー達を排除させようとしていたそうだ。
浅はかすぎて言葉も出ないよ。
しかも俺個人への恋慕ではなく、英雄の嫁という地位への恋慕だそうだ。
「私の娘がすまなかったな、レイアス殿……。だがあれでも私にとっては大事な娘なのだ。陛下、私の爵位を返上致します。どうか、寛大な処分をお願い致します」
「家より娘を取るというのか?」
「娘の罪は親である私の罪にございますゆえ……」
頭を下げ会議室から出ていった侯爵だが、貴族がみんなあんなんだったらだいぶまともになるんだけどな。
なおこの件で何が一番の問題かと言うと、侯爵はティニオン冒険者ギルドの本部長でもあったのだ。
そして後任として有力視されている有能な人材がいたのだが、つい先日爵位を返上してプディング魔王国へと移住していた。
その人の名はカーリー・アレクト。
俺の塾時代の友人である、元アトリオン冒険者ギルドのギルド長だ。
「ヒデオ子爵。この件では君にも責任をとってもらわないといけないな、我が国の有能な人材を他国へ流したのだからね。具体的には……ティニオン冒険者ギルドを解体、その後プディング魔王国の冒険者ギルドを本部として、組織を再編成してもらう。異論はないね?」
次期宰相となる第二王子のラウレンス様が、気障な笑顔で俺に声をかけてきた。
いやむしろ冒険者ギルドの再編には俺も賛成なんだけど、これが罰?
「元々冒険者ギルドからの税収はないし、それ以前に国から出しているお金の使い方に不透明な部分が少なくなくてね。それならいっそプディングとギルドの協力体制ではなく、同一組織としてしまったほうが話は早いと思うんだ」
いくらナナに最大限の便宜を図ろうという意図だと思うが、一つ気付いた事がある。
「お金の流れ……国からの援助金に、使途不明金が出た場合の扱いは?」
「当然ブランシェの本部に責任を問うよ?」
ナナやアルトに国家機密なんて隠すだけ無駄だからな。
それならいっそ開放して、ティニオンに有利な条件を引き出せる可能性を求めるってことだろうか。
政治的な駆け引きとかできれば関わりたくないけど、そうも言ってられないよなぁ……。
渋々了承したあとは公爵令嬢と取り巻きの処罰について簡単に話を終えて、カーリーあてに魔導通信を行う。
当然めちゃくちゃ呆れられたけど、いい機会だからフォルカヌスも巻き込んで書類等を統一させてしまうと意気込んでいた。
ティニオン冒険者ギルド解体とその後について計画を練るので、あとでまた連絡すると言って一方的に通信も切られてしまった。
頼もしいけどまた当分は忙しくなりそうだな。
控室に戻ると着替えを終えたエリー達が出迎えてくれた。
王宮内にいても不自然ではない、肩まで露出されたティニオン製のドレスで、至って普通の格好だ。
俺も着替えを用意して、パーティーから着たままだった白いタキシードを脱ぐ。
「ヒデオ、タキシードこっちに寄越しなさい。洗濯してからしまうわ」
「ああ、頼むよエリー」
着替え中の俺から脱いだ直後のタキシードを奪い、その場で屈んで緑スライムに突っ込んで洗濯を始めた。
そして俺の目は、かがんだせいで大きく隙間を開けてしまったエリーの胸に向かってしまった。
わざとじゃない。
プディング製はナナが主導で、胸元が大きく開いた服の襟には細いワイヤーが入れられている。そのせいで多少かがんでもおっぱいが見えないが、ティニオン製にはそんな対策なんてされていない。
つまりこの位置からなら、おっぱいが見える。
見るんじゃなくて、見えるんだ。ここ重要。
意図的じゃないんだ事故なんだ。
というわけでありがとうエリー。
豊かな膨らみの先端にある桃色の……ってノーブラかよ! やばい、この距離で俺のが大きくなったらモロバレじゃないか。
頭を振ってさっき見た綺麗な乳首を頭から追い出す。何も見ていない。見ていないんだ。
何でも良いから話題を振ろう、えーとそうだ大事なことあるじゃないか。
「ド、ドレスはどうだった?」
「ん。問題ない。ナナのスライムで元通り」
「シワもきれいに伸びてるかも~」
ドヤ顔で真っ白に戻ったドレスを持ち、平らな胸を張るサラと、控えめな胸を張るシンディ。
二人共近寄ってきて、ドレスを広げシミのあったところを指さして見せてくれた。
軽くかがみながら。
二人共、エリー同様に胸元が大きく開いて……って、二人もノーブラかよ!
「はい、きれいになったわ。畳んでおくから自分の空間庫にしまっておきなさい」
「あ、ああ。ありがとうエリー」
大きくなりかけた下半身を見られないよう、慌ててズボンを履いてタキシードを受け取り空間庫へ入れる。
危なかった。
「それにしても、まんまとラウレンス様にはめられたわね」
「ん? どういうことだ?」
「あら、ヒデオ気付いてないの? 今日のパーティーの参加者を決めたの、ラウレンス様よね? あたし達貴族内の不穏分子あぶり出しに使われたのよ」
どういうことかと詳しく聞くと、エリー達を囲んでいた貴族の中で不穏な発言があったりすると、その都度宰相子が何かを羊皮紙に書いているのが見えたそうだ。
俺の方も、チラチラとラウレンス王子が様子をうかがっていたらしい。
そう言えばジルの魔術で、会話をすべて聞いていたと言ってたな。
「貴族ってやっぱこええな……。でもこれでプディングと変な摩擦が出にくくなるなら、仕方ないか」
「そうね、イゼルバード陛下は本当に素晴らしいお方よ。南のジース王国にも、ナナの国と友好関係を結ぶよう打診しているらしいわ。ナナの国については『共に手を取り歩んでいける良き隣人である』とかおっしゃったそうよ」
「そのへんの判断力、ほんと半端じゃないと思うよ」
戦争の理由の多くは土地や資源の奪い合いと聞いたことがある。
少なくとも今は土地も資源も余っている状態だから、争うメリットは無い。
それどころか地球と違ってこの世界には危険な魔物が存在し、人同士が手を取り合わないと生存できない。
せっかく作った集落が魔物に襲われ、いつの間にか跡形も無くなっていたいうのは、この世界ではよくある話だ。
あれ。そう考えると皇国と帝国って土地資源ともに足りないわけじゃないよな。寒い地域の皇国が南下して戦争ふっかけるならわかるけど、その逆だし。
ナナがプロセニアに戦争吹っかけたのは、人という人的資源を奪うためだしな。
もちろん義憤に駆られたのが一番の理由なのは知ってるけどさ。
帝国は何のために戦争してるんだろうな。
まだまだ人よりも魔物の生息域の方がずっと多く、人同士いがみ合う余裕なんて無いはずなんだけどな。
人と戦争するよりも魔物と戦って生活圏を広げる方が、被害は少ないと思うんだけどな。
「ねえヒデオ、何を考えてるのかしら?」
ぼーっとしてた。その俺の顔を、少し前かがみになって下から覗き込むように、エリーがじっと見ていた。
また丸見えになった部分に意識が行かないよう気をつけながら、エリーの目を見る。視界の隅に桃色の突起が見えてるが、意識を向けたらだめだ。
「ああ、なんでもない。それより待たせてすまなかったな、帰ろうぜ」
名残惜しいがエリーに背を向け、控室の扉に向かう。
行き先は王宮内に設置されたゲートゴーレム、そしてゲートの先にあるアトリオンの自宅だ。
ここまでいろいろ便宜を図ってもらっているんだから、不穏分子のあぶり出しに利用されたところで何の不満も無いよ。
途中オーウェンとジルに挨拶し、久々の自宅に戻る。
二人は王宮に部屋を持ち、ブランシェにも家を建てたそうだ。
本当の兄より長く深い付き合いになってしまったので少し寂しいが、お互い新婚だろうがと言われたっけな。
久々の自宅に着くと、まずは番犬のラッシュを撫でに外へ出る。
最近は減ったらしいけど、それでも空き巣は無くならないからね。
うちに入った空き巣はラッシュにボコボコにされて、門の前に捨てられてるそうだ。
おかげでボコられた空き巣を捕まえるため衛兵がこの辺りの見回りを増やし、周辺の治安が良くなったと近所の人に感謝されたこともあったな。
久々にラッシュを撫で終わると一人で風呂に入る。
久々の自宅の風呂だ。さっきから何度も久々という単語が頭の中を回っているが、具体的に言うと結婚してから初めてだ。
俺も新婚なのに、何で一週間も王宮に缶詰されたかなー。
ゲート使えば一瞬なのに、なるべく使用頻度を抑えるように陛下から釘を刺されちゃったもんな。
他の者に示しがつかないとか何とか。仕方ないけどね。
それに……どうせ新婚と言っても、エッチはできないしな。
したいけど。
したいけど!
したいけど!!
俺の体は『レイアスの体』だからな。
もし子供が出来たらそれは、レイアスの遺伝子を持つレイアスの子供だ。
レイアスが目覚めるまであと6年前後か。
そしたら俺もナナの作ってくれる義体に移るから、それまでの辛抱だ!
いろいろ話したいことも多いし、早く起きろよレイアス!!
それにしても俺、さっきエリーのおっぱい見たせいで変に意識しまくってるな。
エリーだけじゃなくサラもシンディも、前は一緒に寝てる時よく見せられてたけど、最近は恥ずかしがってちゃんと三人共パジャマ着てるんだよな。
久々に見たけど、やっぱ綺麗な色してたな……。
……。
「ヒデオー。先に部屋行ってるわねー」
「お、おう!」
突然更衣室の方から聞こえてきたエリーの声で我に返り、俺も風呂から上がる。
……冷水でもかぶって少し頭とか冷やしておくか。
そして真っ暗な部屋に戻ると、エリーが一人ベッドの中にいた。
既に寝ているのかと思い、俺も布団の中へ静かに体を滑り込ませる。
その俺の体に、エリーの柔らかい素肌が触れた。
え。パジャマは!?
「だめ! そんなに、見ないで……」
何かの間違いかと布団を剥ぎ中を覗こうとした俺の手を、エリーが両手で掴んでくい止めた。
だが一瞬見えた布団の中のエリーは、パンツ一枚というほぼ全裸状態だった。
……。
やばい。
完全に、理性が飛びそうなる。
落ち着かせるためベッドから出ようとした俺の腕に、エリーが強くしがみついてきた。
エリーの体から伝わる、かすかな震え。
ああ、そうか。
エリーは勇気を出して、ここにいるのに。
俺はレイアスを理由にして、何も言わずに逃げようとしている。
……俺って、最低だな。
「ごめんエリー、俺……」
「ヒデオ……ごめんなさい、あたし……結婚して初めての、ヒデオと二人っきりの夜だから、舞い上がっちゃって……。でももう少しだけ、こうしていたいの……少ししたら……服、着るから……」
「いや、いいんだ。その、俺……レイアスのことを考えると、どうしても一歩が踏み出せないんだ。許して欲しい」
最後までは出来なくても、せめてキスだけは……そう思い、エリーの顔を上げさせて唇を奪う。
卑怯かもしれないけれど、今の俺にはこれくらいしかできない。
長く深い口づけを終えて顔を離すと、恥ずかしそうにうつむいたエリーの目が、かすかに潤んでいるのが見えた。
「ねえ、ヒデオ……プロセニアの英雄と戦ったときのこと、覚えてる?」
「……忘れるものか。あの時は流石に、死ぬかと思ったよ」
死ぬかと思ったと言ったと同時に、エリーの腕に力が入る。
「あの時、本当に怖かったわ。人はいつ死んだっておかしくないってことを、改めて実感したわ。ヒデオになにかあったら、あたしはもう生きていけない。だから……」
うつむいていたエリーが、ゆっくりと顔を上げて俺の目を見た。
いつものエリーの、強い意志を感じる目だ。
「あたしに、生きる力をちょうだい。絶対に負けない、生きることを諦めない力が欲しいの」
何のことだろう、どうすればいい。そう考えていたら、エリーが僅かに目を逸らし、小さな声で呟いた。
「あなたとの……子供が、欲しいの」
その声を聞いた俺は無意識に、エリーの体を強く抱きしめ返していた。
でも、俺の子ということは――
「レイアスの子であると同時に、あたし達の子供よ?」
……ああ、朝日が眩しいなあ。
清々しい朝だ。
何か男として、一つ山を超えた気分だ。
まだ多少は葛藤があるものの、これでいいんだ。
それに、エリーだけじゃない。
きっと俺にとっても、絶対に諦めない、生きる力になる。
ナナとの約束も俺の生きる力の一つだけど、今しばらく俺の生きる原動力はエリーでありサラでありシンディだ。
そして、いつか生まれてくる、俺の子だ。
レイアスすまんな、目覚めたらお前きっと子持ちだぜ。




