4章 第22話An 何か足りない気がするの
島に降りたら、水古竜に戦闘空間を作られちゃった。
わたしの存在に気付いてるはずだけど、ナナに気付いて怯えてるのかしら。
水古竜には悪いけどダグ達四人だけならともかく、ナナを敵にしたら負けちゃうわよ。
五人とも水古竜の居場所がつかめずにキョロキョロしてるけど、見つけたら水古竜が危険ね。
今の私の姿を水古竜は知らないし、平気よって竜の姿でアピールしなきゃ。
それにしても闇を体にまとって服を脱ぐこの瞬間が一番嫌ね。見られないとはわかっていても、この身体で外で全裸になるなんて恥ずかしすぎるわ。
――空間庫を使用することで、衣類の着脱を一瞬で行うことが可能です。補助いたしますか?
ほんと!? キューちゃん頼んだわ!
闇の中一瞬で服が消えたのを確認して、元の姿に戻る。でも竜の姿でも全裸だと考えると、ちょっと落ち着かないわね。
「ミズノコリュウヨ。ワレハ、タタカイニキタノデハナイ。ユウジンヲ、ショウカイシタイダケダ」
いくつか見える洞窟のうち、多分その辺にいるんだろうなーっていう穴に向かって声をかけてみる。
するとその中から、私と同じ存在の声が聞こえてきた。
「ホントウニタタカウキガナイノナラ、チテイノミズウミマデ、オリテミセヨ」
「イイダロウ。……ダソウヨ、ナナ。イキマショウ?」
「そうじゃの……この異界化についても話を聞きたいし、良いじゃろう」
そう言えばこの戦闘空間、前にナナに連れて行ってもらった異界とそっくりね。
話を聞きたいって言ってるけど、知ってるって言ったらナナ怒るかしら……。
「しかしアネモイは水古竜の居場所がわかっておったようじゃが、やはり同種だからじゃろうか。わしは一瞬水古竜の存在を感じたのじゃが、異界化と同時に周囲全体に気配が広がって、位置を感じ取れぬようになったのじゃ」
「ああ、俺もさっぱりだぜ。見られてる感覚はあるんだが、それがどっからなのか全然わからねえ。アネモイと初めて会った時より強烈だぜ」
「それにしてもアネモイは落ち着いておったのう」
ビクッ!
「……のう、アネモイ。どうして目を逸らしておるのじゃ? こっちを見んか」
「ナ、ナニカシラ? ソレヨリハヤク、イキマショウ?」
ナナがジト目でこっちを見てる。まさかバレたの!?
「む? ……ほほう。今のう、キューちゃんが教えてくれたのじゃ。「アネモイは異界化についての知識を持っています」じゃと。のう、アネモイ? この旅でわしが、世界樹や異界についてあれこれ考えておったのを、知らぬわけではなかろう?」
「ア、イヤ、ソノ……ネエナナ、ソノミギテニアツメタマソハ、ナニカシラ?」
ナナの右手に魔素が集まり、大きな岩の拳が出来ているの。
すごく、すっごく嫌な予感がするの。
「それはのう、アネモイ。軽く八つ当たりしたくなっただけなのじゃ。聞かなかったわしも悪かったからのう……じゃがこのやるせない気持ちを、どうしてもアネモイに受け止めて欲しいのじゃ」
「ネエ、ネエナナ、ヤメテ、イヤアアアア!」
『ゴチンッ!』
「ウワアアアアアン!!」
頭のウロコが割れるかと思ったわ、手加減してるのはわかるけど十分に痛いわよ!!
私にゲンコツをしたナナは、とりあえず戻ってからゆっくり話を聞くと言って水古竜のいる洞窟に向かっていったわ。
それにしても久しぶりに元の姿に戻ると体が重いわね。
かといって人の姿だと、水古竜に私だって気付いてもらえないかもしれないし……あ、そっか。ナナのスライムみたいに大きさ変えればいいじゃない。
私って頭良い!
ナナの倍くらいのサイズなら目立つし動きやすいし良い感じね!
でもナナの後を追って洞窟に入るとダグが二度見して驚いてたけど、ナナも他の三人も反応が薄くて哀しいわ。
「ほう、これはこれは……海竜と違って、水の古竜は細長い龍体型なのじゃな……。青いウロコが綺麗じゃのう!」
地底湖から長い首を出している水古竜は、私には目もくれずにじっとナナを見てる。
そのナナと水古竜の間に二本の魔力線が伸びてるけど、ナナは気付いた上で放置してるようね。
私のときは問答無用で切ったのに、扱いが違いすぎるわ。くすん。
あと私の方にも魔力線が伸びてきたけど、私の手前で消えちゃったわ。どうしてかしら?
「ホントウニ、キガイヲクワエルキハナサソウダナ。ソレニワタシニキオクヲノゾカレテイルノヲシリツツ、ギャクニアレモコレモトキオクヲオクッテクルナド、ナントモフシギナソンザイダ」
「褒め言葉として受け取っておくのじゃ。では戦闘にならぬようじゃし、武装を解かせてもらうのじゃ」
ナナがいつもの小さい義体に戻ると、毎度のことだけどリオはいつでもナナと相手の間に割り込めるように気を張ってるけど、他の三人は完全に戦闘態勢を解いたわね。
私も人の姿に戻ろうっと。
キューちゃんのサポートのおかげで、全裸で居る時間が少なくて助かるわ。闇に包まれてすぐブラ・シャツ・スカート・コートと順番に、着た状態で出て来たのがわかるわ。本当に楽ね。
「ねえナナ、水古竜は火竜の肉が好物よ! 出してあげたらきっと喜ぶわよ!!」
「さっき倒して空間庫に入れたままの火竜がおったのう、中位竜でかまわんかの」
ナナが中位竜の死骸から魔石を抜き取って水古竜に差し出した。私はそのまま期待を込めて、ナナを見る。じーっと見る。じーーー。
「アネモイ、涎が垂れておるぞ……おぬしついでに自分が食いたいからって、火竜を貢ぐよう提案しおったな?」
「ち、違うわ! でもそろそろお昼ご飯の時間よ!」
気付いてくれたのね、流石ナナ!
呆れたような顔をこっちに向けてきたけど、そんな視線に負けないわよ!
ナナが水古竜に洞窟内で火を使う許可を取ると、下位火竜を出して肉を薄切りにし、そこからいつもの出鱈目クッキングが始まったわ。
うふふ、水古竜がエサを食べるのも忘れてナナを見てるけど、驚くのも無理はないわね。
ナナは鉄鍋に入れた油を火にかけ、モイスで手に入れた味噌にあれこれ混ぜて薄切り肉に塗って重ねて、割って混ぜた卵とかいろいろつけた。
もちろん全部空中に浮かんでる。
あれはモイスで作ったカツね。葉っぱとパンも出てきたからハンバーガーかしら、ねえキューちゃん!
―――ミルフィーユ味噌カツサンドという料理です。
何それ美味しそう!
「ほれ、熱いから気をつけて食べるんじゃぞ。水古竜も一つどうじゃ?」
「ヒトトハ、ショクジヒトツトッテモ、イチイチタイヘンナノダナ」
「料理のことかのう? より美味しく食べるための知恵なのじゃ」
水古竜が食べないなら、その分も私にくれてもいいのよ。
ナナから受け取ったミルフィーユ味噌カツサンドをかじろうとしたら、リオやセレス達のいただきますの声が聞こえてきた。
いけない忘れてたわ、ちゃんと火竜と味噌やパンを作った人と料理したナナに感謝して、と。
「いただきます! あー……ん?」
空振りした? あれ、持ってたミルフィーユ味噌カツサンドが無い!!
「あふい! あふ、あふいほ!! ……ほー、ほー……ほむ……お、美味しいではないか……これが、人の作る料理というものか……」
後ろから聞こえてきた女の声に振り向くと、私のミルフィーユ味噌カツサンドを食べてる全裸の女がいた。わーたーしーのーミルフィーユ味噌カツサンドーー!
「まあ、そうなる予感はしておったのじゃ。アルトもダグも、前もって背を向けておるとは関心じゃのう」
「流石に俺も学習するぜ、またリオに不意打ちで蹴られるか、ナナにぶっ飛ばされるのは確実だからな」
ナナが用意していたコートを持って、私のミルフィーユ味噌カツサンドを奪って食べてる女に近付いていった。
わーたーしーのーミルフィーユ味噌カツサンドーー!
「泣くでない、アネモイ。ほれ、まだあるからこれでも食べておれ」
流石ナナ! セレスもまた涙を拭いてくれてるし、みんな大好きよ!
「しかし人化した水古竜……ヒルダにそっくりではないか……」
「何だって!? ……あ『ドゴンッ!』ぐえっ!!」
振り返ったダグがリオに蹴られて飛んでったけど、どうでもいいわ。ミルフィーユ味噌カツサンド美味しい!!
「ふむ。美味であった。ナナ、でよいな。ヌシの記憶から、ワシに用があるわけではなく、単に興味本位で来たことは知っておる。それと今は、この異空間生成についても聞きたいのであろう」
あら、水古竜がやっと戦闘空間を解除したようね。
そんな事よりミルフィーユ味噌カツサンドもっと食べたいわ。
「教えて貰えるのかのう?」
「火竜とこの……もぐ……もぐ……ミルフィーユ味噌カツサンドという料理に免じて……もぐ。……ごくん。教えてやろう」
「その前に少し待って欲しいのじゃ、手と口周りを拭いて、服を着てもらって良いかの?」
ぷーくすくす。手と口周りは味噌ソースでベトベト、全裸でおっぱいにまでソース垂らして偉そうな態度取ってるとか、かっこわるーい。
「アネモイ、何をニヤニヤしておるか想像付くがのう……おぬしも最初似たようなもんじゃったろうが……」
あら? そうだっけ?




